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2015年1月6日火曜日

HJ-9対戦車ミサイル(紅箭9)

▼HJ-9 ミサイル本体とランチャー


▼WZ-550 HJ-9(紅箭9)対戦車ミサイル搭載型(4輪タイプ)



▼イヴェコ40 WM四輪駆動車(南京 NJ2046)に搭載されたHJ-9A


HJ-9性能緒元
全長 
直径152mm
重量37kg
最大速度 
射程100m~5000m
誘導方法セミアクティブ・レーザー誘導式
装甲貫通能力1200m(均質鋼板)、400㎜(68度の傾斜鋼板)
発射速度2発/分

HJ-9は中国の第三世代の対戦車ミサイルである。

複合装甲や爆発反応装甲など戦車の防御能力の向上に伴い、次世代の対戦車ミサイルは更なる貫通能力の強化と新型装甲への対応が求められるようになった。次世代の対戦車ミサイルに関する研究は1980年代中期から始まり、1988年から本格的な開発が開始された。HJ-9の開発では、装甲貫通能力の更なる向上、複合装甲や爆発反応装甲への対応、射程の延長、全天候性能などが求められた。特に難航したのは新型のセミアクティブ・レーザー誘導装置の開発であった。HJ-9は1990年代後半に実用化され、1999年の天安門広場における軍事パレードで一般に公開された。

HJ-9は四輪駆動車やWZ-550 対戦車ミサイル搭載車(90式/92式装輪装甲車の派生型)などの車載運用を基本としており、歩兵による携行は考慮されなかった。それは貫通能力を強化するためミサイル本体が大型化したことによるものである。HJ-8と比較すると、直径120mm→152mm、重量11.2kg→37kgと大型化されていることが分かる。

HJ-9は、光学・レーザー照準器と赤外線暗視装置を装備した発射機にチューブ式ミサイルコンテナを装着する。そのほか照準装置と一体化した昇降式の四連装発射機も開発されている。

誘導方式はセミアクティブ・レーザー誘導方式を採用。ミサイルの命中精度の向上と速度向上に大きな効果があった。照準装置は全てデジタル化されている。 ミサイルの照準手は攻撃目標上に照準装置をあわせるだけで良く、誘導装置は目標への命中まで自動的にミサイルを誘導する。HJ-9の最大射程は5500mを超える。全天候性能が強化されたのもHJ-9の特徴であり、その赤外線暗視装置は探知距離4000m、最大目標識別距離2500mの性能を有する。

HJ-9の開発で特に重視されたのが装甲貫通能力の向上である。当初の目標は1100㎜の均質鋼板の貫通であったが、開発中に均質鋼板1200~1300㎜、68度の傾斜鋼板に対して400㎜の貫通能力を持つことが求められるようになった。そのためミサイルの直径を152㎜に拡大して炸薬を増やし、弾頭をタンデム化することで爆発反応装甲や複合装甲に対する貫通能力を強化した。弾頭は対戦車攻撃用の成型炸薬弾と、陣地攻撃用のHE弾の2種類がある。

HJ-9のバリエーションには基本型のHJ-9のほか、ミリ波誘導方式のHJ-9A(輸出型)、セミアクティブ・レーザー誘導方式のHJ-9Bがある。このほか空中発射型などの開発も行われている。HJ-9Aはイヴェコ40 WM四輪駆動車(南京 NJ2046としてライセンス生産)に搭載されている。
HJ-9基本型。セミアクティブ・レーザー誘導方式。
HJ-9A2002年に制式化された輸出型。ミリ波誘導方式を採用。暗視装置の目標識別距離が3000mに延長
HJ-9BHJ-9の改良型。セミアクティブ・レーザー誘導方式。

【参考資料】
兵工科技 2005年1月号「中国反坦克導弾的四次飛躍」
世界航空航天博覧 2005年6月下半月号「中国紅箭-9重型反坦克導弾総設計師訪談」
中国武器大全
Chinese Defence Today

GP-2砲発射式対戦車ミサイル

▼ミサイル本体(上)、装填時の状態(下)。


性能緒元
全長 
直径100mm/105mm
重量17.8kg(ミサイル本体)、19.8kg(薬莢込み)
射程5,000m
誘導方法セミアクティブ・レーザー誘導式
装甲貫通能力550~600m(均質鋼板)

GP-2砲発射式対戦車ミサイルは、1997年にロシアから技術導入した9K116「Bastion」砲発射式対戦車ミサイル(9K116はシステム全体の名称、ミサイル本体の名称は9M117。NATOコードはAT-10 "STABBER" )を元に開発された対戦車ミサイルで100mm砲と105mm砲用の2種類が存在する。

GP-2は、ミサイルの後部に薬莢を到着した状態で装填されており、ミサイル本体の重量は17.8kg、薬莢込みで19.8kg。RHA値で550mm~600mmの装甲貫通力を有しており、最大射程は5,000m。90%以上の命中率を誇るという。戦車や装甲車両だけでなく、トーチカなどの防御拠点や低空飛行を行うヘリコプターへの攻撃が可能。爆発反応装甲を装着した車輌に対しても有効とされる。誘導方式はレーザー・セミアクティブ誘導で、砲塔上の照準器から発せられるレーザービームに誘導されて目標に向かって飛行する。レーザー・セミアクティブ誘導方式の採用によりミサイルの飛翔速度は比較的早く、射程4,000mの場合12秒で着弾する。GP-2の運用に当たっては、目標照射用のレーザー・デグジネーターを装備する必要がある。59式戦車のアップグレード型である59D式戦車の場合は、砲塔上部左側の砲手用ペリスコープにレーザー・デグジネーターを組み込む改装を行っている。

GP-2は、59D式戦車63A式水陸両用戦車(WZ-213/ZTS-63A)などの105mm砲搭載戦車、04式歩兵戦闘車(ZBD-97/ZBD-04/WZ-502)02式100mm装輪自走対戦車砲(PTL-02)などの車輌で運用されているほか、外国向けに旧式戦車のアップグレード機材の1つとして宣伝が行われている。

【参考資料】
[1]『軍事研究』2007年6月号「IDEX2007レポート(2)中国とパキスタンのAFV」(宇垣大成/㈱ジャパン・ミリタリー・レビュー)
[2]Army Guide「9K116-1 Bastion / AT-10 」
[3]Chinese Defence Today

AKD-10空対地ミサイル(KD-10/HJ-10/SD-2)



▼Z-10攻撃ヘリコプターの初期試作型に搭載されたAKD-10空対地ミサイル


性能緒元[1]
全長1,775mm
直径170mm
重量46kg
弾頭自己鍛造弾頭(タンデム式成型炸薬弾との説もある)
装甲貫通能力(RHA換算)1,400mm
射程2,000~7,000m
誘導方法セミアクティブ・レーザー誘導式

AKD-10(KD-10/HJ-10)空対地ミサイルは、Z-10攻撃ヘリコプターの主兵装として開発が行われた対戦車攻撃を主任務とする空対地ミサイルである。ミサイルの名称はAKD-10、システムの名称はAKD-10空対地ミサイルシステム[2]。ほかにKD-10(空地10)、HJ-10(紅箭10)、SD-2(閃電2)、藍箭7(LJ-7、輸出名称)、BA-7(輸出名称)の名称も伝わっている[1][2]。

AKD-10の開発は1990年代末から開始された。誘導システムにはセミアクティブ・レーザー誘導方式が採用されたが、この装置にはロシアから調達したクラスノポール誘導砲弾の技術が応用されているとのこと[2]。ミサイルの照準はZ-10の機首に搭載されたレーザー照準装置を使用する。AKD-10の照準システムは、すばやく目標を探知して自動追尾を行う能力を有している。目標捕捉距離は40~3,000m、通常の状況では目標から2,000m前後の距離でセンサーが自動追尾に入る[2]。目標の照準後、射程内に入ったらミサイルの発射を行う。

ミサイルの射程は2,000~7,000mとされる[1]。AKD-10の弾頭部は自己鍛造弾を採用しており、着発信管により作動する[2]。AKD-10が通常対戦車ミサイルに使用される成形炸薬弾ではなく自己鍛造弾を採用したのは、中空装甲や爆発反応装甲に対しても効果が高い自己鍛造弾の特性が評価されたのではないかと思われる。(弾頭についてはタンデム式成型炸薬弾であるとする資料もある[3]。)命中精度はCEP(Circular Error Probability:半数命中半径)3mとされている[2]。AKD-10は、従来の対戦車ミサイルよりも射程と威力が向上しており、戦車だけでなく、レーダーサイト・対空ミサイル発射機・砲兵陣地・強化バンカー・固定陣地といった多様な目標に対して使用が想定されている[4]。

AKD-10はZ-10以外にも、Z-9W武装ヘリコプターや翼竜1型UACVなどでの運用が可能とされている[1]。派生型としては、6×6野戦トラックに8連装発射機を搭載した自走対戦車ミサイル・システムが開発されており、「GT-6反坦克導弾武器系統」の名称で各国への輸出が図られている。

また、小型のZ-19攻撃ヘリコプターやZ-9W武装ヘリコプターへの搭載を前提として、AKD-10を基にして小型軽量化を図ったAKD-9空対地ミサイルが開発されている[4]。

【参考資料】
[1]Chinese Military Aviation「KD-10」
[2]中国網「中国公开展示武直十专用AKD10型空地导弹[組図]」(2008年11月6日)
[3]単晶葉「直-10“霹靂火”-専用武装直昇機的新秀」(『兵器』総164期 2013.1)46~52頁
[4]銀河「風+火 中国新一代専用武装直昇機的技術進歩」(『艦載武器』2013.08A/中国船舶重工業集団公司)20~31ページ

73式100mm対戦車砲


▼73式100mm滑腔対戦車砲


▼73式の開発のモデルの1つ、ソ連のT-12 100mm滑腔対戦車砲の側面・正面図 (C)ZW-OBSERVER


73式100mm滑腔対戦車砲性能緒元
口径100mm(54.5口径)
砲身長5,450mm
牽引時重量3,630kg
牽引時全長9,520mm
牽引時全幅2,120mm
牽引時全高1,838mm
後座長1,050mm
砲身高1,088mm
初速1,505m/秒
最大射程1,730m(直接射撃)、13,705m(間接射撃)
発射速度8~10発/分
俯仰角度-4~+38度
方向射界左右26度
砲弾APFSDS(19kg)、HEAT-FS、HE-FS(30kg)
要員8名

性能緒元(73式の原型、ソ連のT-12 100mm滑腔対戦車砲)
口径100mm(61口径)
砲身長6,126mm
牽引時重量2,750kg
牽引時全長9.5m
牽引時全幅1.8m
初速1,575m/秒
最大射程1,000m(直接射撃)、8,200m(間接射撃)
発射速度14発/分
俯仰角度-6~+20度
方向射界左右27度
砲弾UBM1/2 HVAPFSDS、BK3 HEAT-FS、OF15 HE-FS
要員6名

中国は1950年代、ソ連から多数のM43 57mm対戦車砲と対戦車/野砲兼用のD-44 85mmカノン砲の供給を受けて対戦車砲部隊の編成を行った。その後中国は両砲のライセンス生産に踏み切り、M43は1955年に55式57mm対戦車砲として、D-44は1956年に56式85mm加農砲として制式採用された。55式は小口径であり戦後登場した戦車に対しては早々に有効性を失ったが、56式は1950年代後半から1980年代までの間、中国軍の主力対戦車砲の地位にあり続けることになった。56式のスペックは、口径85mm、砲身長4,685mm(55口径)、全備重量1,725kg、初速845m/秒(APHE)、貫通力はAPHE弾で100mmの60度傾斜鋼板を貫徹可能、発射速度15~20発/分、最大直射距離は1,200m。発射可能な弾薬はAPHE、HEAT、APDS、HEの4種類であり、これらの砲弾は62式軽戦車や63式水陸両用戦車の62式85mm戦車砲でも使用することが可能。

56式が大規模に実戦に投入されたのは、1969年に勃発した珍宝島(ダマンスキー島)を巡る中ソ国境紛争であった。中国軍は紛争の拡大を恐れて戦車の投入を行わず、歩兵、砲兵のみを投入し、彼らは56式85mm加農砲、56式対戦車ロケットランチャー、75mm/85mm無反動砲、対戦車地雷/手榴弾といった対戦車兵器でソ連軍のT-62、BTR-60装輪装甲車等との交戦を行った。中国軍が投入した対戦車兵器は何れもT-62の正面装甲を貫通することが出来ず、中国軍は苦戦を強いられることになった。この戦訓を受けて中国は対戦車戦闘に関する研究を行い、当面の対策として部隊における対戦車攻撃訓練の強化や122mm/130mm加農砲の対戦車兵器への転用を行いつつ、ソ連戦車を正面から撃破可能な次世代対戦車兵器の開発を行うことを決定した。この決定によって登場したのが、69式対戦車ロケットランチャー、75式105mm無反動砲、そして本稿で紹介する73式100mm滑腔対戦車砲である。

73式100mm滑腔対戦車砲の開発のモデルの1つとなったのが、1955年から生産が開始されたソ連のT-12(2A19/M1955)100mm滑腔対戦車砲である。T-12はD-54 100mmカノン砲をベースに、D-48 85mm対戦車砲とほぼ同型の開脚式砲架を持つ対戦車砲として製作された。100mm滑腔砲の砲身長は6,126mm(61口径)で、砲口にはM46 130mmカノン砲に類似した「солонкой」=「saltshaker」式多孔式マズルブレーキを有する。閉鎖器は垂直式鎖栓式を採用している。砲弾発射速度はスペック上は14発/分とされているが、実戦では最大10発/分、通常は6発/分に留まる。最大射程は直射で1,000m、間接射撃で8,300mになる。使用される砲弾はUBM1/2(HVAPFSDS、初速1,575m/秒、射程1000mで215mmの垂直鋼板を貫徹)、BK3(HEAT-FS、全射程で380mmの垂直鋼板を貫徹)、OF15(HE-FS、最大射程8,200m)。砲架には防弾とブラストデフレクターを兼ねた防盾が装備されている。砲左部には光学照準器(直射用)と光学パノラマ照準器(間接射撃用)が設置されており、赤外線暗視装置を装着して夜間戦闘も可能。砲の上下左右の方向調整用ハンドルも左部に設置されている。これは砲手が照準作業を行いつつ砲の操作を実施するための配置である。T-12の操作要員は6名で、一個中隊は砲6門と指揮車両、補給トラックで構成される。一個大隊は二個中隊と 9M14M 対戦車ミサイル搭載 BRDM 装甲車一個中隊もしくはT-12対戦車砲中隊のみ三個から構成される。T-12はMT-LBまたはZIL-131またはZIL-157で牽引される。

中国では1960年代後半から、次世代戦車/対戦車砲として120mm砲と100mm砲の二種類の滑腔砲の開発が開始された。このうち120mm滑腔砲は、122型中戦車の主砲として開発され、122型中戦車自体は開発中止になるが、120mm滑腔砲の研究は継続され最終的に89式120mm対戦車自走砲の主砲として実用化されることになる。100mm滑腔砲は戦車砲と対戦車砲の二つが開発されることになった。100mm砲の開発ではソ連のT-62戦車のU-5TS 115mm滑腔砲とT-12 100mm滑腔対戦車砲を参考にして作業が進められた。中ソ国境紛争により既存の対戦車砲の旧式化が明白になったことから開発が急がれ、1973年には73式100mm滑腔対戦車砲(73式100毫米滑腔反坦克炮)として制式採用された。ただし、73式が部隊に配備されたのは、制式採用から実に10年後の1983年になってからである。ここで問題になったのは73式の貫通力不足である。対戦車砲部隊からは現状の73式の貫通力では、T-62を撃破することは出来ても、ソ連の次世代戦車T-72には対抗できない状況に陥る危険性が指摘された。貫通力不足の問題は、同時に開発された69式100mm滑腔戦車砲(69式中戦車の主砲として採用)も、工作精度の低さに起因するAPFSDS弾の短射程や低貫通力の問題に悩まされていた。73式の開発スタッフは、貫通力向上という課題に取り組むことになった。彼らは装薬の量を増すことにより発射時のエネルギーを増加させることにした。改良によって73式の装薬量は西側のL7105mmライフル砲のそれよりも多いものとなった。しかし、装薬量を増加すれば砲身に掛かる圧力はより高い物になるため、砲身強度を増す必要に迫られた。これは、当時の中国の冶金技術ではかなり困難な課題であった。そのため73式の改良には長期の時間を要したが、1980年12月の試験において所定の成績を収めることに成功し、1983年から部隊配備を開始した。1981年には73式を原型とした100mm滑腔対戦車砲と特殊合金製APFSDS弾の開発が国家重点目標に指定された。これが後の86式100mm対戦車砲と86式APFSDS弾になる。

73式100mm滑腔対戦車砲は、T-12 100mm滑腔対戦車砲を参照しつつ開発されたが、T-12のコピーとは言うことは出来ない。T-12の砲身長が6,126mm(61口径)であるのに対して、73式は5,450mm(54.5口径)であり、砲口初速もT-12の1,575m/秒に対して僅かに遅い1,505m/秒となっている。その後、西側から導入した冶金技術を基盤として73式の初速向上が行われ、86式100mm滑腔対戦車砲として採用されることになる。73式は砲身長や初速ではT-12に劣るが、最大射程は、直射(1,000m→1,730m)においても間接射撃(8,200m→13,705m)でもT-12に比べて向上している。特に間接射撃については、最大仰角を20度から38度にまで上げたことが影響している。ただし、上でふれた69式100mm滑腔戦車砲のAPFSDSは、射程1,000mを超えると命中精度が急落する問題が発生していた。73式用の砲弾「73式APFSDS弾」が最大射程1,730mを達成するには、工作精度の向上という課題をクリアする必要があり、それが73式の実戦配備を遅らせた原因の1つではないかと思われる。外見上は73式はT-12とほぼ同じ構成をとっている。ただしマズルブレーキはT-12の「солонкой」とは異なる形態のものに変更されている。73式の全備重量は各所の変更により、T-12よりも880kg重い3,630kgになった。砲一門当りの操作要員はT-12の6名から8名に増員されている。

73式は1983年から部隊配備を開始したが、その3年後には西側より入手した各種技術を元に73式に改良を加えた86式100mm滑腔対戦車砲が制式採用されており、73式の生産はこの前後に終了したものと推測される。両者の差異は、貫通力を強化するために砲弾重量・炸薬量を増加したこと、特殊合金製APFSDS弾(86式APFSDS弾)の採用、それに対応した砲身強度の向上や各部の改修を実施した程度であり、両者の外見上の区別は困難である。

牽引式対戦車砲は、第二次大戦後西側諸国からは急速に姿を消すことになった。牽引式であるため戦術機動性に劣る点、戦車の防御力の向上に対抗するには重量増加が不可避でありそれは更なる機動力の低下を招く点、軽量で威力の高い無反動砲や対戦車ミサイルの発達等がその要因として挙げられる。それに対して、東側では牽引式対戦車砲は対戦車兵器としての地位を失うことなく開発が継続されて現代に至っている。中国で牽引式対戦車砲の運用が継続している理由としては、以下の様な点が挙げられている。

第一に挙げられるのが、軍の予算面の問題である。中国軍は各国の技術革新に遅れを取らない様に新しい軍事技術の開発を推進するが、その新技術に基づく新型装備を導入するだけでなく、従来の装備にも新技術をフィードバックして威力を向上させる方針を採っている。牽引式対戦車砲が維持されているのは、中国軍が大量に保有する牽引式対戦車砲を高価な自走式対戦車砲で代替するのは財政的負担が大きすぎることによる。また大量の旧式装備を近代化することが出来れば、それは有事において大きな戦力に転化できるという目論見もある。この方針に沿って、中国軍では多数保有している牽引式対戦車砲の改良と新型APFSDS弾導入による威力向上を行うことで戦力としての有効性の維持に努めている。

第二点は、牽引式対戦車砲が有する戦術的優位点である。牽引式対戦車砲の正面投影面積は自走式対戦車砲に比べると極めて小さい。地形などを利用することでこの優位性はさらに高まる。そして対戦車砲は対戦車ミサイルと異なり多種多様な砲弾を使用出来るため、砲弾の改良による能力向上が容易であり、対戦車任務以外にも榴弾による火力支援、直射による陣地攻撃等の多様な任務に使用することが可能である。砲弾の値段が対戦車ミサイルに比べて安価なのも無視できない点である。

第三点は、複数の対戦車攻撃能力を保持することの利点である。中国軍の対戦車兵器は、対戦車ミサイル、120mm/100mm対戦車砲、歩兵携行式対戦車ロケット、無反動砲など多岐に渡る装備が存在する。これらの装備を状況にあわせて組み合わせることで、相互の欠点を補完し合う重層式対戦車防御網を構築することが可能になる。大量に保有されている牽引式対戦車砲は、この対戦車コンプレックスを支える重要な構成要素であるというのがこの見解の要点である。

このほかに見逃せないのが、対戦車砲部隊が所属している砲兵科の意向である。砲兵科にとっては牽引式対戦車砲部隊が何の代替もされずに削減されることは首肯し得ない事態である。牽引式対戦車砲部隊の存続には、砲兵科の組織防衛的な意図があるのではないかという推測もされている。

ただし、ロシアでは現在も牽引式125mm対戦車砲の開発配備が継続しているが、中国では牽引式対戦車砲の開発は86式が最後であり、以後は89式120mm対戦車自走砲87式100mm装輪自走対戦車砲(PTL-87)とその改良型02式100mm装輪自走対戦車砲(PTL-02)といずれも自走式対戦車砲の開発が行われている。中長期的に中国軍において牽引式対戦車砲というジャンルが存続するのかについては、今後の推移を見る必要があると思われる。

【参考資料】
月刊グランド・パワー2004年6月号(ガリレオ出版)
中国兵工企業史(李滔、陸洪洲/兵器工業出版社)
Chinese Defence Today
Global Security
ZW-OBSERVER
中華網「中国坦克炮和弾薬的発展(上)」
中華網「武器装備庫」
新浪網「中国陸軍列装新型100毫米輪式突撃炮(組図)」
東声網「我軍為何仍列装大量的牽引式反坦克炮(図)」
中国武器大全「中国高(月+堂)圧火炮的発展」

86式100mm対戦車砲

▼86式100mm滑腔対戦車砲



▼86式100mmAPFSDS弾


性能緒元
口径100mm(54.5口径)
砲身長5,450mm
牽引時重量3,630kg
牽引時全長9,520mm
牽引時全幅2,120mm
牽引時全高1,838mm
後座長1,050mm
砲身高1,088mm
初速1,610m/秒
最大射程13,705m(間接射撃)、1,800m(直射)
発射速度8~10発/分
俯仰角度-4~+38度
方向射界左右26度
砲弾APFSDS、HEAT-FS(翼安定成型炸薬弾)、HE-FS(翼安定榴弾)
要員8名

86式100mm滑腔対戦車砲は、73式100mm滑腔対戦車砲の改良型で中国軍最後の牽引式対戦車砲である。86式の開発は、1981年に73式を原型とした100mm滑腔対戦車砲と特殊合金製APFSDS弾の開発が国家重点目標に指定されたことによる。これが後の86式と86式APFSDS弾になる。73式との差異は、貫通力を強化するために砲弾重量・炸薬量を増加したこと、特殊合金製APFSDS弾(86式APFSDS弾)の採用、それに対応した砲身強度の向上や各部の改修を実施した程度であり、両者の外見上の区別は困難である。

86式は、高初速を得るために73式よりも装薬量を増加し、それに耐えうる様に砲身強度を向上させている。砲身の製造工程では砲身強度を増すため自緊処理が施された。これらの製造過程では、西側から導入した冶金技術が大幅に導入されている。砲口には砲の反動を抑制するための多孔式マズルブレーキが装着されている。閉鎖器は発射速度向上に有利な垂直式鎖栓式を採用。砲架の車輪は手動と自動(気圧式)の固定装置があり、緊急時には駐鋤を地面に打ち込まず車輪をロックするだけで射撃を行うことが可能。砲架には防弾とブラストデフレクターを兼ねた防盾が装備されている。砲の俯仰ハンドル、水平方向ハンドルは照準器と共に砲の左側に設置されている。これは砲手が照準作業を行いつつ砲の操作を実施するための配置である。

使用可能な砲弾は86式APFSDS(砲弾重量19kg)、HEAT-FS(翼安定成型炸薬弾)、HE-FS(翼安定榴弾。砲弾重量30kg)である。砲弾は一体装薬型であり半燃焼式薬莢式を採用している。砲弾の発射速度毎分8~10発に達する。製作メーカーのNORINCOによると、86式APFSDS弾は西側の105mmライフル砲用APFSDS弾よりも貫通力に優れており、T-72の正面装甲を貫通可能としている。ただし、正面装甲が強化されたT-72M1以降では105mmAPFSDS弾での貫通も困難になっているので、ここで挙げられているT-72は初期型、輸出型であると思われる。命中精度の向上も86式の特徴であり、射程1,000mでの射撃では0.3m×0.3mの範囲の目標に命中させることが可能。直射の場合は高度2mの目標に対して、1,800mから命中させる性能を有する。間接射撃の場合は、仰角38度で最大射程13,705mを得る。後に、86式の砲身を改良した砲が87式100mm装輪自走対戦車砲(PTL-87)02式100mm装輪自走対戦車砲(PTL-02)の主砲として採用されている。

86式は機械化歩兵師団の対戦車営(大隊相当。1個師団につき1~2個が配置)に配備され、対戦車営は三個連(中隊)から構成され86式を合計18門保有する。砲一門当りの操作要員は8名。1980年代以降、86式は機械化歩兵師団の主要な対戦車火器として運用されてきたが、緊急展開部隊等では02式100mm自走対戦車砲(PTL-02)への更新が進んでいる。86式とPTL-02は共通の砲弾を使用しており相互運用性の確保に有利、操作要員は8名から5名に減少するため部隊の人員削減が可能、牽引式から自走化になることで陣地転換の迅速化が可能となり戦術的機動性が向上・牽引車両が不要になる等の点が評価されているとのこと。

【参考資料】
Chinese Defence Today
中国武器大全論壇「中国高(月+堂)圧火炮的発展」
中華網「中国坦克炮和弾薬的発展(上)」
中華網「武器装備庫」
新浪網「中国陸軍列装新型100毫米輪式突撃砲(組図)」
中国武器大全

02式100mm装輪自走対戦車砲(PTL-02)






▼PLT-02の照準サイト



■PLT-02性能緒元
重量 19トン
全長 8.30m
全幅 2.86m
全高  
エンジン BF8L413Fターボ・チャージド空冷ディーゼル 343hp
最高速度 85km/h
航続距離 600km
武装 100mm滑腔砲×1(24発)
  GP-2砲発射式対戦車ミサイル(6発)
  12.7mm重機関銃×1(400発)
  7.62mm機関銃×1(800発)
  84式76.2mm発煙弾発射機×8
装甲
乗員 4名


中国軍は、1980年代後半から87式100mm装輪自走対戦車砲(PTL-87)、87式105mm装輪自走対戦車砲の2種類の装輪式対戦車自走砲を開発したが、いずれも十分な性能を得ることは出来ず、本格的な実用化は見送られた。

1990年代後半にはいると、中国軍は軍の近代化と即応性の向上を目的として軽機械化歩兵師/旅団(緊急展開部隊)の編成を行った。軽機械化歩兵師団は通常の部隊よりも練度が高く優先的に新型装備の配備を受けており、装輪装甲車を優先的に配備される等、特に機動性を重視しているのが特徴である。通常の歩兵師団では対戦車兵器として86式100mm対戦車砲等の牽引式対戦車砲が配備されているが、機動力を重視した軽機械化歩兵師団では牽引式対戦車砲は即応性・機動性に欠けると見なされ、より機動性の高い自走対戦車砲の配備が求められた。

NORINCOがこの要求に応じて開発したのが、PTL-87の改良型である02式100mm自走対戦車砲(PTL-02)である(開発時の名称は「100毫米輪式自走突撃炮」)。砲兵科と第247廠から提出された要求仕様に基づいて、最初の試製車輌が1996年12月に射撃試験を実施し、6×6装輪装甲車に100mm滑腔砲を搭載した自走対戦車砲の実用性に関する実証試験が行われた[4]。1997年3月、開発計画は総参謀部の承認を受けて、4月からは野外走行時の安定性やスタビライザーに関する試験が実施され、いずれも良好な成果を得た。1997年11月には、開発計画が設計審査会の審査を通過、実用化を前提とした本格的な実地試験が開始。砲や射撃システムについては2000年6月に、シャーシは1999年7月に試験に合格し、システム全体としては翌年6月に試験を完了した[4]。

PTL-02の基本構造はPTL-87を踏襲しているが、最も大きな変化は、ベース車体を90式装輪装甲車(WZ-551)の改良型である92式装輪装甲車(WZ-551A/ZSL-92)に変更したことである。これによりエンジン出力は、PTL-87の253hpから343hpと40%の向上を達成し、機動力不足に一定の解決を得ることが出来た。なお、重量増加と車体後部に砲塔を搭載したことによる車体重心の変化により水上浮行能力は無くなり、92式装輪装甲車(WZ-551A/ZSL-92)が装備していた車体後部のスクリューは撤去されている。PTL-02の全備重量は19トンで、Y-8輸送機(運輸8/An-12)で一両、IL-76MD輸送機で3両のPTL-02を空輸することが可能。

PTL-02の主砲はPTL-87と同じく86式100mm対戦車砲をベースに開発されている。NORINCOでは105mm砲搭載の87式105mm装輪自走対戦車砲も製作していたが、PTL-02では僅かに威力の劣る100mm滑腔砲を採用した。この選択は、大量生産された86式100mm対戦車砲と弾薬を共有できるのが1つの要因であるとされている。しかし、より大きい要因は、対戦車砲を保有する砲兵科と戦車砲を保有する装甲兵科のセクショナリズム的対立が背景にあると言われている。従来、100mm対戦車砲は砲兵科の所有で、105mmライフル砲は装甲兵科の所有となっており、砲兵科の対戦車自走砲が105mmライフル砲を使用するには装甲兵科の了承を得た上で、新たに105mm砲の運用整備体制を構築する必要があった。これが、PTL-02が100mm滑腔砲を採用した真の要因ではないかと推測されている。両兵科の対立は、PTL-02の名称にも窺うことが出来る。PTL-02は「自走反坦克炮」もしくは「突撃炮」と呼ばれているが、これは砲兵科の所属を表す名称であり、装甲兵科であれば「坦克殲撃車」=駆逐戦車と呼ばれることになる。

PTL-87で指摘された100mm滑腔砲の威力不足を解消するために導入されたのが、砲発射式対戦車ミサイルの導入である。中国は1990年代、ロシアから導入した9K116バスチオン(AT-10 Stabber)砲発射式対戦車ミサイルの技術を元に100mm滑腔砲や105mmライフル砲から発射するGP-2砲発射式対戦車ミサイルを開発した。このミサイルは5,000mの射程を持ち、静止目標に対して90%以上の命中率を得る事が出来るという。また戦車以外にも低空を飛ぶヘリコプターも攻撃する事が可能。原型の9K116の貫通力がRHA値で550~600mmであることから第三世代戦車の正面装甲に対する貫通力は充分とはいえないが、このミサイルの採用によりPTL-02は第三世代戦車を射程外からアウトレンジ攻撃する能力が付与された。PTL-02はこの対戦車ミサイルを6発搭載している。補助武装は100mm滑腔砲と同軸に7.62mm機関銃が備えられ、また車長ハッチには85式12.7mm(W-85)重機関銃が装備されている。

PTL-87で問題となった防御面については、ベース車体の重量制限から充分な装甲を施すことは出来ず、PTL-87と同じ全周からの7.62mm徹甲弾に耐えられる程度の装甲に留まっている。車内は対NBC防護装置と自動消火装置が完備されている。また、タイヤは損害を被った後でも、30km/hの速度で100km走行を行うことが可能。

PTL-02は、100mm砲のプラットホームとしてはやや過小であり防御能力の不足や射撃の反動を十分に吸収しきれない等の問題点は有るが、機械化歩兵師団にとっては貴重な直射火力/対戦車用車両として運用されている。PTL-02がベース車体に軽機械化歩兵師団の標準装備である90式/92式装輪装甲車を選択したことは、ファミリー化によるコスト低減・整備性向上、部隊全体を装輪化する等のメリットを生んでいる。従来の牽引式対戦車砲と比べると、正面投影面積ではかなり不利であり1ユニット当たりのコストは上昇するが、牽引式から自走化になることで陣地展開の迅速化が図られ戦術的機動性が向上・牽引車両が不要になり、操作要員は8名から5名に減少するため部隊の人員削減が可能である。そして86式100mm対戦車砲とPTL-02は共通の砲弾を使用しており相互運用性の確保に有利という利点もある。

PTL-02は2003年ごろから機械化歩兵師/旅団と軽機械化歩兵師団(緊急展開部隊)用の火力支援車/対戦車火力として配備が開始された。PTL-02は機械化歩兵師団の対戦車営(大隊相当。1個師団につき1~2個が配置)に配備され、対戦車営は三個連(中隊)から構成されPTL-02を合計18両保有する。現在、PTL-02は少なくとも済南軍区第54軍集団の第127師団を含む3個軽機械化師団に配備されているようだ。


【参考資料】
[1]新浪網「中国陸軍列装新型100毫米輪式突撃砲(組図)」
[2]Chinese Defence Today
[3]中国武器大全
[4]三門新聞網「PTL02式100毫米輪式突撃炮」(原『坦克装甲車両』2009年第12期(総第298期)22頁掲載)

87式100mm装輪自走対戦車砲(PTL-87)






87式100mm自走対戦車砲(PTL-87)は、中国が始めて開発した装輪式自走対戦車砲(中国語では装輪式突撃砲)である。開発元は中国北方工業公司(NORINCO)。

中国の自走対戦車砲の研究開発は1980年代中ごろに開始され、1987年には最初の対戦車自走砲であるPTL-87が公開された。PTL-87は、当時開発されたばかりの90式装輪装甲車(WZ-551)の車体後部に溶接砲塔を搭載して開発された。車体の構成はほとんど変わっていないが、後部兵員室は100mm滑腔砲用の弾薬庫と戦闘室になっている。車体後部にある砲塔は88式戦車(ZTZ-88)の砲塔を元に設計されており、砲塔内には車長、砲手、装填手が配置される。レーザー照準装置や暗視装置、射撃統制システムも88式戦車のものを流用しているが、車体が軽量で砲発射時の衝撃を十分吸収できず車体が振動するため命中精度では88式戦車に劣る。行進間射撃も可能だが、射撃の反動で横転の危険があるため砲塔の旋回角度は制限される(停車時であれば全周射撃が可能)。この砲塔に装備されている100mm滑腔砲は86式100mm対戦車砲をベースに開発された低反動タイプで、APFSDS弾、HEAT弾、HE弾を発射することが出来る。補助武装としては、車長用キューポラに対地・対空用の12.7mm機関砲が、主砲同軸機銃として7.62mm機関銃が搭載されている。そのほか砲塔側面に84式76.2mm発煙弾発射機が8基搭載されている。

PTL-87に対する軍の評価はあまり高いものではなかった。90式装輪装甲車(WZ-551)にほぼ無改造に大重量の砲塔を搭載した事で、原型に比べて機動力が低下、防御能力の不足(全周からの7.62mm機関砲に抗堪)も問題となった。最も大きな問題となったのは、100mm滑腔砲の貫通力不足である。PTL-87の100mm滑腔砲ではAPFSDS弾を使用しても、第三世代戦車の複合装甲や爆発反応装甲に対して充分な貫通力を持たない可能性が指摘された。これは、車載化に伴う低反動化等の改修が貫通力の低下を招いたものと推測される。このほか、車高の高い装輪装甲車を原型にしたことで、車高が必要以上に高くなり被発見率が上昇したことも問題視された。これらの技術的問題を受けて、PTL-87の本格生産は見送られ少数が生産され試験的に配備されるに留まった。ただし100mm対戦車自走砲の開発が中断されたわけではなく、NORINCOには引き続き研究を続行し各種問題点の解消と技術的熟成に務めることが指示された。


【参考資料】
新浪網「中国陸軍列装新型100毫米輪式突撃砲(組図)」
Chinese Defence Today
中国武器大全

89式120mm自走対戦車砲(PTZ-89)






■性能緒元
重量 31.0トン
全長
全幅 3.14m
全高
エンジン WR4B-12V150LB液冷ディーゼル(520hp)
最高速度 55km/h
航続距離 450km
旋回範囲 360度
俯仰角度 -8~+18度
武装 52口径120mm滑腔砲×1(APFSDS弾22発+榴弾8発)
  88式12.7mm重機関銃(QJC-88)×1(500発)
装甲 圧延鋼板装甲(最大装甲厚20mm、もしくは50mm以下)
乗員 4名(車長、砲手、装填手、操縦手)


比較的装甲の薄い装軌式装甲車に高初速・大口径の火砲を搭載した対戦車自走砲は、第二次世界大戦時には各国で開発・配備が進められたが、戦後は対戦車ミサイルの発達等の要因によりその数を減らしていった。中国が1980年代に開発した、89式120mm対戦車自走砲(PTZ-89)は、現在では珍しくなった装軌式対戦車自走砲である。

【開発経緯】
PTZ-89の開発の契機となったのは1970年代に配備が進展したT-64中戦車やT-72主力戦車といったソ連新型戦車の存在であった[1][2]。これらの新世代戦車は新設計の125mm滑腔砲、世界に先駆けた複合装甲の採用といった新機軸が取り入れられており、その存在は文化大革命による混乱と技術的停滞に見舞われていた中国の火砲設計者たちに大きな衝撃を与えた[1]。彼らが開発していた100mm滑腔砲は一世代前のT-62中戦車の正面装甲を貫通する事を目的としていたため、T-62を上回る防御力を有するソ連新世代戦車に対しては効果が見込めないのは明らかであった[1]。

ソ連地上部隊の戦車戦力は、当時の中国軍にとって重大な脅威であり、一刻も早い対応が求められていた。1976年、この状況を受けてソ連のT-72戦車の正面装甲を貫通可能な新型戦車砲/対戦車砲の研究開発を行う事が決定された[1]。検討の結果、1978年には1,500mの距離からT-72の車体正面装甲の貫通が可能な能力を有する120mm滑腔砲を開発、「第二世代戦車」(中国第二世代の戦車という意味で、西側の第二世代戦車とは異なる。中国語では「二代坦克」)の戦車砲と「師団級対戦車自走砲」の主兵装として使用する開発目標が設定された[1]。

これに関連して、中国は1970年代末に西ドイツ(当時)からラインメタル社製120mm滑腔砲の技術導入を図ったが、ドイツ政府の許諾を得る事が出来ずに頓挫している[3]。

新型戦車砲/対戦車砲については口径120mmと130mmの二種類が検討された[1]。後者は威力こそ高いものの、砲弾サイズが大型化して自動装填装置の開発が不可欠になる事や、強烈な反動が発生するためその対策が必要となる等技術的な課題が多い事から廃案となり、新型戦車砲は砲身長47口径の120mm滑腔砲として開発する方針が定められた[1]。47口径120mm滑腔砲の開発は1984年まで続けられ、目標とされたT-72の正面装甲を貫通する能力を獲得する目処はついたものの、戦車砲としては制式化されるには至らなかった。当時の中国の技術水準では高初速を得るために長砲身や多量の装薬を必要としたため、必然的に砲のサイズが大型化し発射時の反動も強烈なものとなった。これにより120mm滑腔砲は開発が進められていた「第二代戦車」の砲塔に搭載するには困難が生じた[1]。そして、1970年代末に関係を改善していた西側諸国から、105mmライフル砲L7と貫通力の高いAPFSDS弾の技術がもたらされ、既存の59式戦車や69式戦車の火力強化が可能となったため、120mm滑腔砲の開発を急ぐ必要性が薄れた事が大きく影響している[1]。

1984年、今後の戦車開発に関する再検討作業が行われ、実用化にはなお一層の時間を要する「第二代戦車」の開発を打ち切る事が決定された。そして、1990年代の実用化を目標として改めて次世代戦車(「第三代戦車」)の開発を行うと共に、その戦車砲については友好国から入手したソ連の125mm滑腔砲2A46の技術を基にした新型125mm滑腔砲を開発・搭載するという方針が定められた[1]。これにより開発されたのが、後の98式戦車である。

1984年の決定では、次期主力戦車の火砲としては選に漏れた国産120mm滑腔砲については、師団級対戦車自走砲の火砲としての研究開発を継続する事が認められた[1][2]。この方針に基づいて開発されたのが後のPTZ-89である。

120mm滑腔砲の開発を担当していた第447廠を中心とする開発チームでは、新方針が決まる1年前の1983年には自主資金により師団級対戦車自走砲の120mm滑腔砲と新型APFSDS弾の研究作業に着手していた[2]。初期の段階では、62式軽戦車(WZ-131)のシャーシに120mm滑腔砲を搭載する事が検討されたが、20トン以下の62式軽戦車の車体では、120mm滑腔砲の強烈な反動に耐えられない事は明白であり、この案は早々に放棄された[2]。開発陣が最終的に選定したのは83式152mm自走榴弾砲等のシャーシに用いられていた60-I式共通シャーシ(生産代号はWZ-321)であった[2]。WZ-321についても120mm砲の射撃に耐えられるのかという懸念があったが1983年末には、初速を高めるため口径を伸ばした試製52口径120mm滑腔砲をWZ-321に搭載した技術実証車が完成。射撃試験では、開発陣による反動対策の効果によりWZ-321のシャーシは52口径120mm滑腔砲の発射にも十分耐え得ることが証明され、困難であるとの見通しを打ち消すことに成功した[2]。

この試験結果を受けて、前述の通り1984年9月に兵器工業部(当時)は、120mm滑腔砲の開発作業の継続と、兵器工業部自体が447廠と協力して新型対戦車自走砲の開発を推進する決定を下した[2]。

1985年5月の試験では、試製車輌の120mm滑腔砲から発射されたAPFSDS弾は400mmの均質圧延装甲を打ち抜いた上で、その背後の鋼板10枚を貫通する性能を見せ、試験を観閲した共産党と軍の高官に対してその能力をアピールしている[2]。1986年2月、兵器工業部は447廠を新型対戦車自走砲の主開発者として認定し、同時に120mm対戦車自走砲を合成集団軍の重点部隊の対戦車装備とする事、1989年に予定されていた建国40周年記念軍事パレードに新型対戦車自走砲を参加させる事が決められた[2]。120mm対戦車自走砲の開発作業は、1987年には基本的に完了し、制式化に向けた性能証明試験の段階に入った。1989年1月まで行われた一連の性能証明試験において、120mm対戦車自走砲は要求性能を達成した事が認められた[2]。これに先立つ1988年には、先行量産型20輌の発注が行われた[2]。120mm対戦車自走砲も参加予定だった建国40周年軍事パレードは、1989年6月4日に発生した第二次天安門事件により中止となったが、120mm対戦車自走砲の開発には影響は無かった[2]。1990年、中央軍事委員会は120mm対戦車自走砲の設計案を最終的に承認し、「89式120mm自行反坦克砲(PTZ-89)」として制式化。同年には、量産型の部隊配備が開始された[2]。

【設計】
89式自走対戦車砲はWZ-321型共通シャーシの車体後部に120mm滑腔砲を搭載した大型砲塔を配置するレイアウトを採用している[2]。乗員は、車長、砲手、装填手、操縦手の計4名で、車体前部左側に操縦手、残り三名は砲塔内に搭乗する。砲手と車長は砲塔左部にタンデム配置、120mm滑腔砲を挟んで砲塔右部が装填手の配置位置となっているが[3]、これは59式戦車=T-54以来の砲塔内配置を踏襲するもの。この配置には操縦手、砲手、車長が戦車の左側に一列に並んでいるため、正面からの貫通弾1発で乗員3名が戦死する危険性が存在する[4]。

WZ-321のサイズは、車体長7.05m、車幅3.14m、車高3.49m[2]。エンジン・ルームは車体前部にあり、その左側に操縦席、車体後部は各種兵装搭載スペースとされている。動力系統は、59式戦車と共通のものを採用しており、出力520hpのWR4B-12V150LB型水冷ディーゼルエンジンは全備重量31トンのPTZ-89を最高55km/hの速度で走行させる能力を有している[3][5]。PTZ-89は、砲兵科に所属する兵器であるが、シャーシとなるWZ-321は砲兵科の83式152mm自走榴弾砲や89式122mm40連装自走ロケット砲(PHZ-89)のシャーシにも採用されていたため、シャーシの共通性を確保できるとして砲兵科からは高い評価を受けた[2]。

ただし、WZ-321は基本的に第一線で活動するAFVではなく、自走砲等後方支援用AFV向けに開発されたシャーシのため防御力については限定的であり、最大装甲厚は10mmと弾片防御程度の水準に留まっていた[2]。装甲を強化しようにも、許容可能な重量の限度から大幅な装甲厚増加は無理であった。走行性能についても後方支援車輌としては十分な性能であったが、脆弱な装甲を高い機動力で補うといった運用を行うのは困難であった[5]。WZ-321の車体正面右側にはエンジン冷却用ラジエーターの開口部があり、この部分は防御を施せないためPTZ-89の弱点の1つとなっている[2]。

PTZ-89では、対戦車戦において脆弱な防御力を補うために戦車壕を構築する場合に備えて、車体前面下部にドーザーブレードを収納しており、約30分で自車が入るための戦車壕を開削する能力を備えている[2][8]。間接的な防御力向上策としては、砲塔側面に合計8基装着された発煙弾発射機と、排気マフラーにオイルを吹き付けて白煙を発生させる煙幕展開装置を装備しており、必要な際に自らの姿を隠すのに使用する[3]。車内には、NBC防護システムと自動火災消火装置を標準装備している[3][5]。

【武装】
PTZ-89は、車体後部に搭載した溶接砲塔に52口径120mm滑腔砲を搭載している。初期の試作車では砲塔前面は楔形をしていたが、前方投影面積が大きくなる事や重量軽減が求められたので、設計変更が行われ、楔形形状を廃止[2]。さらに砲尾部以外の天井の位置を僅かに低くする事で、砲塔重量と砲塔正面の面積を減らす対策が採られた[2]。PTZ-89の砲塔は圧延鋼板装甲の溶接構造。装甲の厚みは試作車両では正面18mm、側面15mm、上面20mm[2]。薄い装甲板では砲撃時の衝撃に耐えるのが困難なため、砲塔内側には金属製の筋交を設置して構造を強化している[2]。量産型では装甲が増厚されたとの情報もあるが、それでも最大装甲厚は50mm以下と薄いものに留まっているとされる[3]。砲塔周囲には装具ラックが配置されているが、これはHEAT弾攻撃に対するスラットアーマーとしての役割も期待されている[3]。

PTZ-89が搭載している52口径120mm滑腔砲は砲塔後部バスルに搭載された装填補助装置と連動しており、12秒以内に最初の砲弾を発射、20秒で3発、30秒で5発の砲弾を発射する能力を有している[2]。持続射撃の場合は、毎分6~8発[2]。重量23~30kg の120mm砲弾で高い発射速度を発揮するには、自動装填装置の採用が求められたが、1980年代の中国の技術水準では高い発射速度を実現でき信頼性のある自動装填装置の実用化は望み薄であった[2]。そのため447廠では装填補助装置により装填手の負担を軽減して、発射速度の向上を目指す方針を採用[2]。PTZ-89は砲塔後部に給弾機構を内蔵している[2]。砲弾ラックは緩やかなV字型になっており、V字の一番下に装填補助装置が組み込んである[2]。射撃時には装填補助装置のトレーの上にある120mm砲弾をトレーごと前方にスライド。押し出されたトレーは、砲尾右側に位置するようにされており、装填手はトレーの上の砲弾を抱えて横に少し移動させるだけで装填を行うことが出来るため、装填手の負担が大幅に減少している[2]。給弾機構は通常は電気モーターで駆動するが、電源切れの場合も装填手が手動で操作する事が可能[2]。120mm滑腔砲は全周射撃が可能であり、砲の俯仰角度は-8~+18度[5][6]。

自動装填装置の場合は、装填時に砲尾を一定の角度にするタイプのものが多く、この場合前に照準した射撃諸元に基づいて砲撃を継続する事が難しくなるが、PTZ-89の場合、装填自体は手動のため砲尾がいかなる角度にあろうと装填が可能で上記の問題は発生しない[2]。

砲塔後部バスルのV字型砲弾ラックにはAPFSDS弾7発と榴弾3発が収納。さらにV字型ラックと後部バスルの隙間にも合計12発の砲弾が搭載されるので、後部バスルの搭載弾数は合計22発となる[2]。図面をみると砲塔後部バスルにはまだかなりの空間が残っておりさらに砲弾を搭載できるように思えるが、あえて後部バスルへの搭載数を減らしたのは、砲弾重量で砲塔後部が重くなりすぎて砲塔の重量バランスを崩すことを懸念したための措置だとされる[2]。バスルの砲弾を撃ちつくした場合は砲塔基部の予備弾薬庫から砲弾を補充する。弾薬庫の分を合わせたPTZ-89の120mm砲弾の合計搭載数は36発(APFSDS弾22発+榴弾8発)以上になる[2]。量産型では、砲塔後部バスルには自動消火装置が設置されており、被弾時の二次爆発に備えているが、西側第3世代戦車のような砲塔と後部バスルを分かつ隔壁や爆発の圧力を逃がすブロー・オフ・パネルは設けられていない[2]ため、自動消火装置で火災を消火できなかった場合のリスクは大きい。

52口径120mm滑腔砲の射撃時には450kNの反動衝力が発生する[2]。最初の試製砲では駐退復座装置の後座距離450mm、反動衝力490kNだったが、後座距離を600mmに延ばす事で反動衝力を減少させている[2]。砲身寿命は初期量産型では520発+であったが、後に447廠では砲身寿命を800~1,000発にまで延ばした新型砲身を開発し1990年代中に段階的に換装を行っている[2]。砲身中央部には、砲軸排煙器が付いている。これは発射後に、砲身内に残留した有害な発射ガスが、乗員のいる戦闘室に逆流するのを防止する装置。砲身には、熱分布を均等にする事で砲身の熱歪み率を軽減させるサーマルスリーブが装着されている。

補充武装としては、装填手用ハッチに対空・対地攻撃用の12.7mm重機関銃(射程2,000m)を装備する[3]。乗車要員の携行火器として56-I式7.62mm自動小銃1挺(弾薬300発)と69-I式40mm対戦車ロケットランチャー1基(弾頭8発)を車内に装備しており、下車戦闘等で使用する[8]。

【砲弾】
52口径120mm滑腔砲の砲弾は、APFSDS弾と榴弾の二種類が存在する[2]。砲弾は弾頭部と装薬部が1つになった一体型を採用している。

APFSDS弾は、1980年代末に実用化された「120-I型」と、90年代初めに配備を開始した「120-II型」の二種類が存在する[2]。「120-I型」は鋼製の鞘の中にタングステン合金製の侵徹体を入れている。これは初期の侵徹体材質は、強度は高いものの延性には乏しく、装甲との衝突時に衝撃に耐えられずに破砕する危険性があったため、靭性の高い鋼性の鞘を被せて侵徹体の破砕を防ぐための構造であった[10]。弾芯の長さは比較的短いものが採用されている。貫通力は距離2,000mにおいてRHA換算で460mm。これは、要求目標であったT-72の車体正面装甲を2,000mの距離から貫通するという性能を満たすものであった[2](T-72「ウラル」の車体/砲塔正面装甲の対運動エネルギー弾防御能力はRHA換算で410mm[9]。)

しかし、ソ連では防御力を強化したT-72の改良型や新型戦車T-80の配備が開始され、西側でも高い防御能力を有する第3世代戦車の配備・改良が進められている事から、中国軍では「120-I型」の性能では各国戦車の防御力向上には早晩対応できなくなるとの判断を下した[2]。これに基づいて、「120-I型」APFSDS弾は制式化されたものの、量産化と部隊配備は行わず、直ちに威力を向上させた改良型の開発を行う事になった[2]。

改良型APFSDS弾は1990年代初頭に「120-II型」として制式化され、部隊配備が開始された[2]。「120-II型」では、侵徹体がタングステン合金のモノブロック型に変更[2]。これは製造技術の進歩により鋼製の鞘で侵徹体を保護する必要がなくなったためであり、砲弾構造を簡略化する事が可能となり、以前の侵徹体と比べると貫通性能が向上するというメリットが存在した[10]。「120-II型」の侵徹体の重量は7.56kgで直径/長さ比率(D/L比)はおおよそ20:1となっている[2]。侵徹体長は、「120-I型」よりも長いものが採用されたが、これは装甲貫徹力の向上を狙った措置。外形も飛翔時の安定性に寄与するような設計変更が行われ、有効射程は2,500mとなっている[2][3]。

「120-II型」では砲口初速を増すため装薬量を増やす事も考えられたが、検討の結果これ以上装薬量を増やすと52口径120mm滑腔砲の駐退復座装置では反動を抑え切れない事が判明した[2]。52口径120mm滑腔砲の薬室には最大12kgの装薬を入れる事ができるが、駐退復座装置の限界から装薬量は「120-I型」と同じ9.5kgに抑えられた。装薬量が以前と変わらないものになったため、砲口初速は当初の予定より数10m/s低下した1,700m/sとなり、距離2,000mでの貫通力は目標数値よりも約10%低いRHA換算550mmに留まった[2]。榴弾についてはAPFSDS弾ほど高い初速を必要としないので装薬量は減らされており、砲口初速は900m/sとAPFSDSの半分程度に抑えられている[2][3]。この榴弾の最大射程は9,000m[3]。

1990年代中期には、砲身を58口径に延伸、駐退復座装置等の設計変更により最大装薬での「120-II型」発射を可能とする改良型120mm滑腔砲が試作され1997年に射撃試験が実施された[2]。改良型120mm滑腔砲から発射された「120-II型」の砲口初速は平均で1,850m/sを越え、砲口エネルギーは13MJ、発射時の反動衝力は490kN。距離2,000mでの貫通力は平均でRHA換算700mmと大幅な向上を達成した[2]。しかし、冷戦終結後、ソ連地上軍の圧力が消滅したため、中国軍の装備調達の中心は海・空軍向けにシフトしており、PTZ-89のアップグレードは承認されず、58口径120mm滑腔砲と新型の「120-III型」APFSDS弾の開発は中断された[2]。

【射撃統制システム】
PTZ-89は、敵よりも遠距離から射撃を行い命中確認後は反撃を避けるために迅速な陣地移動を行う事により脆弱な防御力を補うという運用を行う。遠距離においても高い命中精度を実現するには、砲自体の性能に加えて高性能な射撃統制システムの存在が不可欠。

PTZ-89の射撃統制システムは79式戦車(69-III式戦車/WZ-121D)のTSFCS-C簡易式射撃統制システムを基にして開発された[2][3]。システムは、砲手用サイトに内蔵されたレーザー測距器、弾道計算機、昼夜兼用照準器、砲安定装置、弾種表示器/弾種選択機、方位・角度検知器、砲耳傾斜計、横風センサー等で構成される[2]。

射撃時には、まず発射弾種を選択した後、砲手が目標を照準すると、レーザー測距器により数秒で目標までの距離が算出される[2]。これは、弾道計算機において、各種諸元(距離、弾種、気温、炸薬温度、横風、砲身磨耗率、高低/方位/傾斜角等)を基にして弾道計算を行う。弾道計算の結果に基づいて自動的に砲身に射角が与えられ、同時に照準器の照準レチクルが修正量に応じて移動して発射可能な状態になるので、射撃スイッチを押して発射する[2]。連続射撃を行う場合には、射撃間隔を短くするため前回砲撃した諸元に基づいて射撃を実施する事も行われる[2]。レーザー測距器の探知距離は300~5,000m、弾道計算機の想定照準距離は最大3,000m[2]。通常状態であれば、毎分6~8回の照準を行う能力があるが、緊急時には3秒間隔で連続5回の照準を実施する事が可能[2]。システムの連続操作可能時間は8~10分[2]。車長は車長用ハッチに搭載されたペリスコープにより、砲手が目標の照準を行っている最中も周辺の捜索を継続、新たな脅威を発見した場合には砲手に優先して目標の照準が出来るオーバーライド機能が与えられている[2]。車長は、砲の制御と砲手への目標指示はできるが、発射については砲手にゆだねる必要がある[2]。

PTZ-89の射撃統制システムは、52口径120mm滑腔砲の性能を十分に生かす能力を備えたものである。西側第3世代戦車に比べると、システムの自動化に遜色があるが、これは開発当時の中国の技術水準からみるとやむを得ないものであり、1990年代初期の中国AFVの中では最も高度なシステムを実現していた[2]。PTZ-89の砲安定装置は照準時間の短縮と射撃精度向上に効果を挙げている。ただし当時の中国の技術水準から完全な行進間射撃を実施するのは困難で、停止状態での射撃もしくは停車-射撃-機動の方法をとるのが一般的な運用方法となる[2]。停車状態で停止目標に対して射撃を行う場合、照準開始から射撃までに要する時間は平均8秒、目標が移動中の場合は、10~12秒を要する。距離2,000mで2.3平方メートルの目標に対する命中率は、停止目標で90%、移動目標だと75%[2]。

PTZ-89の試作型では夜間運用は想定されておらず暗視装置は未搭載であったが、夜間や悪天候時の運用の便を考慮して、量産型では砲手用サイトに微光増幅式暗視装置が内蔵された[2]。PTZ-89の微光増幅式暗視装置は、夜間、晴れの状態での視認距離40~1,000mの性能を備えている[2]。この暗視装置の性能は部隊の要求を満足させるものではなかったが、将来的な能力向上を行うものとして量産が開始された。配備後、第二世代微光増幅式暗視装置への換装が実施され、夜間・悪天候時における目標探知能力を改善している[2]。

【配備状況】
PTZ-89は、陸軍集団軍の重装備機械化歩兵師(師団に相当)の自走火砲団(連隊に相当)対戦車連(大隊に相当)に18輌が配属され、重装備機械化歩兵師の対戦車戦力の切り札として防御作戦において敵戦車の脅威度の高い地点に派遣される「火消し役」としての任務が与えられている[2][5]。

装甲が薄く、行進間射撃能力を備えていない事から、運用においては事前に構築しておいた陣地に展開するか、地形や植生を利用してその姿を隠して待ち伏せ攻撃を行うのが主な運用方法になる[5]。ただし、PTZ-89の背の高い大柄な砲塔は、待ち伏せ攻撃を行う際に隠匿を難しくする事が指摘されている[5]。対戦車戦闘においては、PTZ-89単独ではなく対戦車ミサイル等他の対戦車兵器と連携してそれぞれの特性や射程を生かして総合的な対戦車戦闘能力を向上させる[7]

PTZ-89は、ソ連地上軍戦車部隊の脅威を前提として開発されたが、制式採用された1990年には中ソ関係は大幅な改善を見せており、翌年のソ連崩壊とその後の経済危機と軍備縮小により北方からの脅威は実質的に消滅してしまった[3]。中国軍の兵器調達方針が海・空軍向けにシフトした事による陸軍装備調達費の削減、中国軍における125mm滑腔砲を搭載する新世代主力戦車の登場により、強力な火力を備えるも防御力は極めて限定されたPTZ-89の立ち居地が中途半端なものになった事等の要因から、PTZ-89の調達数は100輌を上回る程度に終わり[3]、中国北部の北京軍区、済南軍区、瀋陽軍区、蘭州軍区の一部の部隊だけが装備するに留まった[3][7][11][12]。

改良についても、前述の通り、暗視装置や砲身の換装は実現したものの攻撃力を大幅に増大させる58口径120mm滑腔砲の開発は打ち切られ、配備開始から20年以上を経た現在に至るまで、基本的な性能は就役時と変化の無いものとなっている[2]。外国への輸出も試みられたが、装軌式対戦車自走砲と言うジャンルのAFVを切望している国は存在せず、配備が実現したのは中国軍のみに終わった[2]。

PTZ-89の派生型としては、砲塔を59式戦車に搭載した試作車両、砲身を延長して砲口に多孔式マズルブレーキを装着した車輌(58口径120mm滑腔砲を搭載した試作車か?)の存在が確認されているが、どちらも試験的に製造されたものであり量産化は行われていない。

中国陸軍の武器体系から見ても120mm滑腔砲の存在は異質で、現代戦において装軌式対戦車自走砲が果たし得る役割についても疑問がある事から、PTZ-89はこれ以上の発展を見せる事無く、運用寿命まで使用された後退役するものと思われる。

ただし、PTZ-89の開発により得られた自己緊縮砲身等の戦車砲製造ノウハウや開発経験は、立ち遅れていた中国火砲技術を大きく向上させる事に成功しており、(配備にいたる紆余曲折や開発目標の度重なる変更で、結果的に開発投資額に見合った配備が行えなかった等の兵器開発方針における負の教訓を含めて)技術的ステップアップや兵器開発に関する貴重な教訓として中国にとって得るものが多かった存在といえる[2]。


▼1999年10月1日に開催された軍事パレードに参加したPTZ-89

▼120mm滑腔砲を発射した直後の写真

▼トランスポーターで輸送中のPTZ-89。車体上部の様子が確認できる

▼植生を利用して待ち伏せ体勢のPTZ-89

▼PTZ-89の初期試作車。量産型とは砲塔の形状が異なる事に注意。砲身基部にはレーザー測距器が配置されているが、これは初期試作型のみの装備。



【参考資料】
[1]bigblu「大漠狼煙散 挽弓終有事-中国120毫米高膛圧坦克炮/反坦克炮歴程回顧(上)」(『現代兵器』2008年6月 総第334期/中国兵器工業集団公司)20~27ページ
[2]bigblu「大漠狼煙散 挽弓終有事-中国120毫米高膛圧坦克炮/反坦克炮歴程回顧(下)」(『現代兵器』2008年7月 総第335期/中国兵器工業集団公司)14~24ページ
[3]Chinese Defence Today「PTZ89 Tank Destroyer」
[4]デービット・C・イズビー著、林憲三訳『ソ連地上軍 兵器と戦術のすべて』(原書房/1987年)120ページ
[5]軍武狂人夢「89式反戦車自走砲」
[6]Military-Today「Type 89 120-mm tank destroyer」
[7]Army Guide「Type 89/PTZ-89」
[8]《坦克装甲車輌》網絡版「中国89式120毫米自行反坦克炮揭秘(组図)」
[9]古是三春『ソビエト・ロシア戦車王国の系譜』(醐燈社/2009年)116ページ
[10]古是三春・一戸崇雄『戦後の日本戦車 61式、74式、90式からTK-Xへ 開発経緯とメカニズムまで』(株式会社カマド/2009年)101~103ページ
[11]中華網「沈陽軍区89式120毫米自行反坦克炮」
[12]中華網「蘭州軍区炮兵旅89式120毫米自行反坦克炮打靶」

09式装輪105mm突撃車(装輪坦克/ZTL-09)






■性能緒元
重量 20トン台後半?
車体長
全幅
車体高
エンジン
最高速度
航続距離
武装 105mmライフル砲×1
  12.7mm重機関銃×1
  7.62mm機関銃×1
  砲発射型対戦車ミサイル
  84式76.2mm発煙弾発射機×12
装甲 圧延溶接鋼板+付加装甲
乗員 4名(車長、操縦手、砲手、装填手)


ZTL-09は、09式装輪歩兵戦闘車「雪豹」(ZBL-09)の派生型として開発が行われた装甲戦闘車輌の1つ。配備が開始されたばかりのZTL-09に関する情報は(ZTL-09という制式名自体の真偽も含めて)まだ十分ではなく、本稿の記述も推測が多くなっている。

インターネット上では、ZTL-09の車輌名称として「09式8X8輪式105mm突撃車」[1]、「某新型輪式坦克」[2]、「輪式突撃車」[3]などが伝わっているが、ZTL-09の制式名称が正しければ「Z=装甲、T=(車輌のジャンルの頭文字を表す)、L=輪式」となり、上記名称の突撃車(tūjīchē)/坦克(tǎnkè)はいずれも頭文字がTで、どちらの名称にも妥当性が存在する。

似た様な性格のAFVとしては02式100mm装輪突撃砲(PTL-02)が存在するが、同車の制式名称PTL-02のPとは「炮pào=砲」を意味しており、砲兵科の車輌である事を表している。これに対してZTL-09はPではなく装甲(zhuāngjiǎ)を表すZが付いている事から、PTL-02とは異なり装甲兵科に配備される車輌である事が分かる。

【性能】
ZTL-09は09式装輪歩兵戦闘車(ZBL-09)の派生型だが、シャーシには大幅な設計変更が加えられている。最も大きい変化はフロントエンジンからリアエンジンへの変更で、車体前方右部に配置されていたパワーパックを、車体後部に配置変更している。それに伴って車体後部ドアを廃止、代わりに車体中央右側に前開き式ドアを設けている[3]。エンジン配置の変更は、砲塔を車体中央部に配置する事で射撃プラットフォームとしての安定性改善を図ったものと考えられる。

操舵は第一、第二軸の車輪で行われる[4]。車体後部両側にはスクリューが装備されており、ZTL-09が水上航行性能を有する事を示している。装輪装甲車としては比較的大型の車体を採用しているのは、水上浮航性能を得るための措置と考えられる。鉄道輸送中の写真では、ZTL-09は同じ貨車に載せられていた96式戦車よりも車体長・車高サイズが大きい事が確認されている[1]。

車体は圧延鋼板装甲を溶接して製造されており、車体や砲塔には防御力を向上させるためセラミック付加装甲がボルト止めされているが、これはベースとなった09式装輪歩兵戦闘車と共通した手法。ZTL-09の具体的な防御性能については不明であるが、水上航行能力を有しているのでそれほど重量を重くする事は出来ないと考えられ、装甲防御能力については比較的軽いものに留められていると推測される。

ZTL-09の砲塔形状は05式水陸両用戦車(05式両棲突撃車/ZTD-05)と似ており、同車の砲塔を基にして設計された事が想定される。砲塔の前・側面にはセラミック付加装甲が装着されており、砲塔後部にはHEAT弾対策を兼ねた籠型ラックが取り付けられている。砲塔正面には合計12基の発煙弾発射機が装着されており、必要に応じて煙幕を展開して車体を隠す様になっている。

乗員は車長、砲手、装填手、操縦手の4名で構成され、操縦手が車体前方左側の操縦手席、残り三名は砲塔内に搭乗する。操縦系統は通常の自動車と同じハンドル式で、変速機は自動変速方式が採用されている[4]。砲塔配置は、砲塔左部に砲手と車長、左部が装填手という配置になっている[4]。これは88式戦車(80-I式戦車/WZ-122A/ZTZ-88)までの中国軍戦車に共通した乗員配置であり、02式100mm装輪突撃砲や05式水陸両用戦車(05式両棲突撃車/ZTD-05)でも同じ配置を採用している。浮力確保のために車内容積を広く取っている事から車内は余裕があり、エアコンを装備するなど乗員の戦闘力保持のための措置が講じられている[3]。

【武装】
主兵装である105mmライフル砲は、反動低減のため砲身先端に多孔式マズルブレーキを装着しており、駐退複座機の改良と合わせて後座長を延ばす事で砲の反動を抑えているものと思われる。105mmライフル砲の使用弾種には、APFSDS(装弾筒付徹甲弾)、HE(高性能榴弾)、HEAT(対戦車榴弾)、GP-2砲発射式対戦車ミサイルなどが存在しており[7]、ZTL-09もこれらの砲弾を搭載すると考えられる(APFSDS、HEAT、榴弾については搭載を確認[4])。砲弾は、砲塔後部バスルと操縦手席右側にある砲弾ラックに搭載される[4]。砲弾の搬入には車体側面ハッチが使用される[4]。副武装としては、主砲同軸に7.62mm機関銃1挺、砲塔上部の装填手用ハッチに12.7mm重機関銃1挺が搭載されている。

ZTL-09の射撃統制装置についてはまだ詳細な情報は無いが、主力戦車並みの高度なものが採用されていると考えられる。同車の射撃統制装置は、大半の入力がボタン式になっており、必要な諸元を入力すれば直ちに射撃準備が整うとされ、高い命中精度を実現しつつ操作性が容易で習熟しやすいシステムとなっている[2]。

ZTL-09は近年の中国軍AFVと同様にネットワーク化を重視した設計が施されており、戦場情報システム、データリンク機能、衛星位置測定システムなどを標準装備している[2]。砲塔上部には、衛星通信用のアンテナが搭載されており、「北斗衛星位置測定システム」を利用して車輌の現在位置を確認する事が可能。各車輌の目標諸元は、データリンク機能を利用して車内各員、車輌と車輌の間、車輌とコマンドポスト、上級部隊の間で共有される[2]。ただし、戦術データリンク、情報共有システム、液晶デジタル情報表示パネルの操作、「北斗」衛星位置測定システムといった多用な情報機器を使いこなすには、情報化に対応した乗員の訓練が必要になる事が報じられている[2]。

【配備状況】
ZTL-09は、北京軍区の第38集団軍所属の第112重機械化歩兵師(師団に相当)と済南軍区の第54集団軍所属の第162軽機械化歩兵師への配備が行われている[1][5]。

第162軽機械化歩兵師は、近年中国軍で編制が進んでいる軽機械化歩兵部隊の1つ。軽機械化歩兵部隊は、装輪車輌を主装備とする部隊で、高い展開能力を生かして迅速に戦場に投入する事が想定されている[6]。09式装輪歩兵戦闘車(ZBL-09)は軽機械化歩兵部隊の新しい主力装甲戦闘車輌として位置づけられており、軽機械化歩兵部隊向けにZBL-09をベースとした各種派生型が開発されており、ZTL-09もその1つ。同系列の車輌で部隊を編制する事は、乗員や整備員の訓練や習熟を容易にし、各車輌が多くのコンポーネントを共有している事から整備面で有利に働く[6]。

ZTL-09は、装輪車輌としての高い戦略機動性を生かして緊急展開を行い、ファミリー車輌であるZBL-09歩兵戦闘車、122mm自走榴弾砲PLL-09などと共同作戦を取る事で、部隊としての総合的な打撃力を向上させる事が目されていると思われる。ZTL-09は、105mm砲により、敵陣地の破壊、戦車を含む装甲戦闘車輌との交戦、直接射撃と間接射撃による火力支援、機動力を生かした輸送車輌部隊の護衛任務などに従事するものと考えられる。ただし、装輪車輌であり装甲も限られている事から、戦車のような運用は行われず、基本的に火力支援兵器として使われる車輌であるといえる。


▼トランスポーターで輸送中のZTL-09試作車


▼済南軍区の部隊に配備されたZTL-09

▼同一縮尺のZTL-09と96A式戦車



【参考資料】
[1]ych2000「網上談兵:国産新式8X8輪式105突撃車組図」(文学城博客-胡写龍談/2013年4月19日)
[2]軍事記者「用新头脑驾驭新装备 济南军区某装甲团新装备列装带来的冲击波」(王衛東・武今鹏/2013年4月12日)
[3]CNTV「誰是終極英雄」(2013年10月13日放送)
[4]CNTV「誰是終極英雄」(2013年10月20日放送)
[5]China Defense Blog「The first ZBL-09 Assault gun equipped unit unveiled」(2013年4月13日)
[6]竹田純一『人民解放軍 党と国家戦略を支える230万人の実力』(ビジネス社/2008年)273~277ページ

2014年11月15日土曜日

63式107mm12連装ロケット砲


▼射撃状態。発射機を3つの支持架で支えている

▼牽引状態。前2つの支持架を折り畳み、後ろの支持架は牽引に利用される

■発射機性能緒元
総重量 613kg
発射機重量 385kg
全長 2,600mm(牽引時)
全幅 1,400mm
全高 1,100mm
俯仰角度 0~80度
旋回角度 左右18度
要員 5名

■63-II式107㎜ロケット弾性能緒元
重量 18.8kg
全長 840mm
直径 107mm
弾頭重量 8.33kg(TNT火薬 1.8kg)
初速 31.4m/s
最高飛行速度 372m/s
射程 8,000m
63式107mm牽引式12連装ロケットは1961年8月に開発に着手され、1963年に制式化されて大量生産が行われた中国独自開発の多連装ロケットである。63式は当時の中国の軍事ドクトリンである人民戦争論に沿った遊撃戦での運用を前提とした装備である。そのため整備の行き届かない前線でも問題なく運用できるように、構造が簡単で容易に分解組み立てが出来て、山地でのゲリラ戦用に駄載や人力運搬での運搬も可能な設計がなされている。

発射筒は4列3段になっており、発射機の重量は385kg(ロケット搭載時には613kg)とこの種の兵器としては比較的軽量である。射程は8,000m。63-2式107mmロケット弾の重量は18.8kg、弾頭部には1.8kgのTNT火薬が封入されている。長い就役期間の間に、通常弾頭(HE)のほかに最大射程を10kmとした射程延伸型、弾頭に炸薬と小型の鉄球を多数封入した対人攻撃型、発煙弾、燃料気化弾頭、軟目標弾、焼夷弾、ECM弾など多数の種類の弾頭が開発されている。信管は原型では触発信管だったが、最近の生産型では電子式信管に変更され、不発弾の発生率の減少と命中時の殺傷効果を3倍以上に向上させることに成功している。ロケットは、飛翔時に弾体を回転させて弾道を安定させる。連射の場合には0.6秒ごとに発射され、8秒で全12発を発射する。ロケット弾の再装填は3分を要する。射撃の照準には56式75mm無反動砲のWG601照準器を流用している。射撃時には折畳み式の支持架を展開して発射機を支える。射撃の際には発射機から離れての遠隔発射が可能。

63式の運用は5名で行う。63式の移動は小型4輪駆動車での牽引のほか、分解しての駄載や人力運搬、小型車両の荷台に搭載して輸送するなどの方法がある。63式を自走化した車両としては81式107mm12連装自走ロケット砲や2006年に公開された新型107mm12連装自走ロケット砲、ヘリボーン部隊で運用される107mm8連装自走ロケット砲などがあるが、このほかにも各種軽車両への搭載が確認されている。また特殊部隊やゲリラ戦用に、徒歩歩兵による携行運搬が可能な85式107mmロケット砲も開発された。

60年代以降、中国軍の歩兵連隊には63式で編成された6個ロケット中隊が配属された。63式は後に130mmロケット砲で代替されることになるが、軽量簡便な火力支援装備として現在でも空挺部隊などでの運用が続いている。63式は短射程で命中精度も(この種のロケット兵器の常で)あまり良好なものではないが、低コストで人員輸送も可能な軽量簡便なロケット砲として中国軍のほかにも世界各国に輸出・供給され、ヴェトナム戦争やアフガニスタン紛争、そして各地での紛争で広く使用されるに到った。また各国でも国産化や独自の派生型の開発が行われている。例えば北朝鮮では、18連装型と24連装型の発射機が生産されたほか、「63式自走107mm多連装ロケット」(米軍呼称はM1992)の名称で車載型24連装107mm自走ロケット砲が開発されている。そして旧東側諸国だけでなく、南アフリカ共和国などでも63式を搭載した各種車両が開発・運用されている。

63式各種タイプ(これ以外にも数多くの派生型が存在する)
63式 基本型
63-I式 空挺部隊や山地部隊で運用されるコンパクト型。分解時の各部品の重量が30kgに収まるようにされた。1967年から生産
85式107mmロケット砲 特殊部隊用に開発された個人携行が可能な単装発射筒タイプ。発射架は小型の三脚を使用する
81式107mm12連装自走ロケット砲 1980年代初めに開発された自走ロケット砲
新型107mm12連装自走ロケット砲 2006年に公開された空挺部隊の火力支援用自走ロケット砲、空挺投下が可能。60発のロケットを搭載する
107mm8連装自走ロケット砲 民生用のATV(全地形対応車)に8連装107mmロケット砲を搭載。ヘリボーン部隊で運用
【参考資料】
中国兵工企業史(李滔、陸洪洲/兵器工業出版社)
Chinese Defence Today
Military Analysis Network(Federation of American Sientists)
中国武器大全「64式107㎜牽引式火箭砲」
中華網「武器装備庫」

85式107mmロケット砲


■85式ロケット砲性能緒元
総重量 23kg
発射機重量 約4kg
要員 1~2名

■107㎜ロケット弾性能緒元
重量 18.8kg
全長 840mm
直径 107mm
初速 31.4m/s
最高飛行速度 372m/s
射程 8,500m
85式107㎜単装携行式ロケット砲は、ゲリラ戦や特殊部隊での運用を考えて開発された徒歩歩兵が携行可能なコンパクトな単装ロケット砲である。用途としては、敵地に浸透した部隊による宿営地や飛行場、港湾施設、補給地点への奇襲攻撃での使用が想定されている。1984年に開発が開始され翌85年に制式化、1987年から生産が開始された。

85式は107㎜ロケット発射筒と照準装置、折り畳み式の三脚で構成されている。移動時には歩兵が背中に携行して搬送し、発射時には発射筒を三脚に装着して使用する。発射筒、照準装置、三脚込みの重量は23kg。短時間で射撃準備を完了し、発射後には速やかに撤収することが出来る。ロケットの射程は最大8,500m。
【参考資料】
中華網「武器装備庫」

88式122mmロケット砲


■発射機性能緒元
総重量 137.65kg
行軍時 71kg
全長 3,000mm/2,779mm(移動時/射撃時)
全幅 1,400mm
全高 1,100mm
俯仰角度 10-52度
旋回角度 左右7度
要員 7名

■122㎜ロケット弾性能緒元
重量 66.8kg
全長 2,873mm(榴弾)
直径 122mm
弾頭重量  
初速 50.7m/s
最高飛行速度 692m/s
射程 10,200m
88式122㎜単装携行式ロケット砲は、ソ連のBM-21「グラッド」122㎜40連装自走ロケット砲の中国版コピーである81式122mm40連装自走ロケット砲の派生型の1つ。開発コンセプトは85式107mmロケット砲と同じく、特殊部隊などで運用される歩兵が携行可能なコンパクトな単装ロケット砲である。これも81式122㎜40連装自走ロケット砲と同様に、ソ連のBM-21-P「グラッドP」122㎜単装携行式ロケット砲の中国版であるとも言える。

85式は122㎜ロケット入り発射筒と照準装置、支持架つき折り畳み式三脚で構成されている。移動時には分割して各部品を歩兵が背中に携行搬送し、発射時には発射筒を三脚上の支持架に装着して使用する。目標照準に56式76㎜無反動砲のWG601照準器を流用しているのは63式107mm12連装ロケット砲と同じ。全備重量は137.65kgと、ソ連のBM-21-P「グラッドP」の95.54kgと比べるとかなり重くなっている。短時間で射撃準備を完了し、発射後には速やかに撤収することが出来る。ロケットの射程は最大10,200m。
【参考資料】
Chinese Defence Today
中華網「武器装備庫」

107mm8連装自走ロケット砲(中国)







■63-2式107mmロケット弾性能緒元
重量 18.8kg
全長 840mm
直径 107mm
弾頭重量 8.33kg(TNT火薬 1.8kg)
初速 31.4m/s
最高飛行速度 372m/s
射程 8,000m
近年、ヘリボーン部隊で運用されているのが確認された中国軍の小型自走ロケット砲。制式名称は不明。重慶市に本社を置く嘉陵工業グループ製の6×6 ATV(All Terrain Vehicle:全地形対応車)の荷台に8連装107mmロケット砲を搭載している。このロケットは63式107mm12連装ロケット砲の8連装型である。

自走ロケット砲への改造にあたっては、ロケットの爆風から後輪を保護するために後部荷台から足回りにかけてカバーが取り付けられたことと、カバー側面に発射時に車体を安定させるためスペード付きの支持架4本を装備している。発射時にはこの支持架を車体に取り付け地面に打ち込むことで、ロケット発射の衝撃を吸収させる。

本車が搭載する63-2式107㎜ロケット弾の性能諸元は、射程8,000m、全備重量18.8kg。弾頭部には1.8kgのTNT火薬が封入されている。弾頭の種類は榴弾、最大射程を10kmとした射程延伸弾、弾頭に炸薬と小型の鉄球を多数封入した対人攻撃弾、発煙弾、燃料気化弾頭、軟目標弾、焼夷弾、ECM弾など多数の種類の弾頭が開発されている。信管は本来は触発信管だったが、最近の生産型では電子式信管に換装され、不発弾の減少と命中時の殺傷効果の向上を実現している。ロケットは飛翔時に弾体を回転させて弾道を安定させる。ロケットの発射方法は単射、連射の選択が可能。連射の場合には0.6秒ごとに発射される。射撃の際には発射機から離れて照準/発射操作を行う。

コンパクトな本車は、Mi-17等の汎用ヘリコプターの内部に搭載しての空輸が可能。軽装備のヘリボーン部隊にとっては貴重な火力支援車両である。これまでヘリボーン部隊が配備していた63式107mm12連装ロケット砲が歩兵による人力搬送か軽車両による牽引を必要としたのに対して、不整地能力の高いATVを流用して自走化したことで運用の幅を広げることに成功したといえるだろう。
【参考資料】
Militaryphotos


81式107mm12連装自走ロケット砲


■性能緒元
重量
全長 4.510m
全幅 1.964m
全高 2.196m
エンジン  
最高速度 100km/h
航続距離 500km
武装 107㎜12連装ロケット発射機
乗員 4名
81式107mm12連装自走ロケット砲は63式107mm12連装ロケット砲の車載型。1980年に制式化され、1982年から生産・配備が開始された。

81式は南京NJ221クロスカントリー車の車体後部に63式107mm12連装ロケット砲の発射機を搭載した車両である。車載状態での発射のほか、発射機を地面に置いて発射することも可能。連射の際は0.9秒間隔での発射を行う。発射機は左45度、右60度旋回可能で、俯仰角は0~60度。車体後部には予備のロケット弾を搭載するスペースが置かれている。
【参考資料】
Chinese Defence Today
中華網「武器装備庫」

新型107mm12連装自走ロケット砲(中国)




▼投下直後の状態。

2006年に公開された新型自走ロケット砲。空挺部隊では従来から63式107mm12連装ロケット砲を火力支援用装備として運用してきたが、発射機、予備のロケット弾、操作要員がそれぞれ別個に降下されるために、発射までに時間を要したり装備が別地点に投下されて回収・射撃が不可能になることがしばしば発生した。この問題を解決するために開発されたのが空中投下型107㎜自走ロケット砲である。設計主任は空挺部隊の各種装備の研究を行ってきた索和明技師である。開発のコンセプトは、発射機、予備ロケット弾、操作要員、牽引車両をひとまとめにしてしまおうというものであった。

本車はロケット弾60発を搭載した状態での空挺降下が可能。車体はクロスカントリー用大型4輪駆動車のシャーシを流用したものだが、現状ではベースとなった車体や詳細なスペックは不明。オープントップ式の前部乗車部分に操作要員全員が搭乗、車体中部にロケット弾60発を搭載して移動することが可能。車内には電子式発射装置が搭載され、単射、一斉射撃、3点発射など様々なパターンでの発射を可能とした。また自己診断装置も搭載され、ロケットの不発などの不具合を自動的に検知し自己診断する。

本車の開発によって、空中投下後に迅速に降下部隊に火力支援を与えることが可能となった。今後、空挺部隊や特殊部隊などへの配備が進むものと思われる。
【参考資料】
兵器知識 2006年5月号「柳絮因風起-専訪空降型107毫米火箭炮項目組長索和明」


84式122mm24連装地雷散布ロケット



■性能緒元
重量 7,590kg
全長 6.340m
全幅 2.400m
全高 2.996m
エンジン EQ1600水冷ディーゼル 135hp
最高速度 60km/h
航続距離  
武装 122mm24連装ロケット発射機×1
射程 3,400~14,000m
俯仰角 0~55度
左右旋回 左90度、右75度
乗員  
84式122mm自走24連装地雷散布ロケットは81式122mm40連装自走ロケット砲をベースに開発された地雷散布車両である。

84式は東風EQ240(現EQ2081) 2.5t軍用トラックに122mm24連装ロケット発射機を搭載している。ロケット全弾を13.8秒で発射、144~192発の対戦車地雷を散布することが可能。ロケットの射程は3,500~14,000m。ロケットには84式対戦車地雷やGLD112対歩兵用地雷など様々な種類の地雷を搭載可能。

84式は迅速かつ広範囲に地雷を散布することが可能で、機動性が高く信頼性や運用性に優れた車両とされている。
【参考資料】
Chinese Defence Today
中国武器大全
環球展望「紅色戦神-中国炮兵火箭炮大検閲」

81式122mm40連装自走ロケット砲


▼ロケット発射時。爆風避けシールドを展開しているのが分かる

■性能緒元
重量 15.532t
全長 7.120m
全幅 2.500m
全高 3.082m
エンジン WD615.71水冷ディーゼル 256hp
最高速度 70km/h
航続距離 600km
武装 122mm40連装ロケット発射機×1
俯仰角 0~55度
左右旋回 左102度、右70度
乗員 6~7名

■81式122㎜ロケット弾性能緒元
重量 46.3kg
全長 2.873mm(榴弾)
  2.870mm(対人用破片榴弾)
直径 122mm
弾頭重量 約20kg(榴弾)
初速 50.7m/s
最高飛行速度 692m/s
射程 20~30km
81式122mm自走40連装ロケット砲は、1979年の中越紛争で捕獲したソ連のBM-21グラッド(雹)自走多連装ロケット砲を元に開発された自走ロケット砲で、1982年に制式化された。

81式は陝西汽車製 延安SX250(SX2150) 6×6トラックに122mmロケット発射機を搭載している。車体前部のキャビンは4ドア・5人乗り。キャビン直後にも乗車用シート2基が設置されている。キャビンの窓はロケット発射時には爆風避けシールドで保護される。ロケット発射機は車体後部の荷台に搭載される。

81式122㎜ロケット弾は厚さ2.2mmの発射管に搭載され、発射機は10列4段になっている。使用可能なロケット弾は、81式122㎜ロケット弾と射程延伸型の81-I式122㎜ロケット弾が用意されている。最大射程は81式が20km、81-I式が30kmとされている。ロケット尾部には折り畳み式の安定翼4枚を装備している。安定翼はロケットの軸線に対して1度傾いており、発射後は旋転して弾道を安定させる。弾頭には榴弾と対人用破片榴弾等の種類がある。発射方式は単発、バースト連射、一斉発射の3種類があり、一斉発射に要する時間は20秒。発射後の再装填時間は8分。照準装置は発射機左部に装備されている。発射時、操作要員は発射機から離れて遠隔発射を行うことも可能。

81式122mmロケットは、従来の中国軍の130mmロケットよりも直径は小さいものの、弾頭重量は130mmロケットと同等であり、射程では上回っている。そのため130mmロケット砲に換わって中国軍歩兵師団の主力自走ロケット砲になっている。また、81式の技術を基にして火力支援用の艦載兵器とした122mm40連装艦載ロケット砲も開発されている。
【参考資料】
Chinese Defence Today
中国武器大全「81式122㎜輪式自行火箭炮」

90式122mm40連装自走ロケット砲

▼90A式122mm自走40連装ロケット砲。ベース車体は鉄馬XC-2030(XC-220)6×6トラック

▼90B式122mm自走40連装ロケット砲。ベース車体は北方ベンツ社製 2629 6×6トラックに変更

▼90A式122mm自走40連装ロケット大隊の編制図

▼90B式122mm自走40連装ロケット大隊の編制図

▼90B式122mm自走40連装ロケット大隊で運用されるBRV偵察/観測車

■90A式性能緒元
重量 20トン
全長 9.840m
全幅 2.500m
全高 3.245m
搭載エンジン 空冷ディーゼル 300hp
最高速度 85km/h
航続距離 600km
渉水深度 0.9m
武装 122mm40連装ロケット発射機(弾薬40+予備40)
俯仰角 0~55度
左右旋回 左102度、右70度
90式122mm自走40連装ロケット砲は、1990年代半ばに登場した中国第2世代の122mm多連装ロケットシステムである。開発元はNORINCO。

90式は、鉄馬XC-2030 6×6トラックをシャーシとし、車体中央部に次発装填用ロケットを、車体後部に40連装122mmロケット発射機を搭載している。車体には油圧式ジャッキが装備されており、射撃時にはそれを接地させて車体を安定させる。81式122mm40連装自走ロケット砲のシャーシである延安SX250(SX2150) 6×6トラックよりも大型の車両なので、40連装ロケット発射機だけでなく次発装填用の予備ロケットと機械式装填装置をキャビンの後部に搭載している。エンジン出力も強化されているため機動性も向上している。

90式の特徴の1つは、次発装填用の予備ロケットと機械式装填装置を搭載した所である。ソ連のBM-21グラッド(雹)自走多連装ロケット砲を元に開発された81式122mm40連装自走ロケット砲は、従来の中国軍の主力多連装ロケットであった130mmロケットよりも直径は小さいものの、弾頭重量は130mmロケットと同等であり、射程では上回っていた。そのため130mmロケット砲に換わって中国軍歩兵師団の主力自走ロケット砲となった。ただし、81式は原型となったBM-21と同じく、ロケット斉射後の再装填は人力で時間を要するため1つの目標に対するロケットの発射回数は実質1回に限定される欠点を有していた。

90式は、次発装填用ロケットと機械式装填装置を搭載する事で上記の欠点を解消することに成功した。90式は車内から再装填装置を操作して、約3分で次弾装填を完了する事が可能となった。90式と同様の再装填装置はチェコスロバキア(当時)のRM-70 122mm自走40連装ロケットが導入しており、90式の開発でも参考にされたのではないかと思われる。予備ロケット搭載部には、ロケットを風雨から保護するため伸縮式のカバーが装備されている。このカバーは車体後部全てを覆う事が可能であり、これにより通常の輸送用トラックに偽装することが出来る。カバーを折り畳んで射撃体勢に入るまでに要する時間は約1分半。

81式の81式122㎜ロケット弾は最大射程20kmであったが、1990年にはロケットモーターの改良によって最大射程を40kmに延伸している。90式の運用するロケットには、射程10~12kmの短射程型と射程20~40kmの長射程型が用意されている。弾頭重量には、18.3~22kgと26~28kgの2種類がある。90式のロケットは、81式122mm40連装自走ロケット砲でも運用する事が可能。発射方式には単発、バースト連射、一斉発射の各モードがあり、全弾発射に要する時間は18~20秒。発射機の作動は電気式で、発射時には操作要員はキャビン内からコントロール、もしくは発射機から離れて遠隔操作で発射させる。

NORINCOは1990年代中期に、90式の改良型である90A式122mm自走40連装ロケット砲を開発した。90A式の開発では射撃精度の向上とシステムの自動化が主な目標となった。射撃精度を向上させるため、新型の射撃統制コンピュータへの換装が実施されるとともに、GPS位置測定装置の導入が行われた。システムの自動化を推進する事で、各車両の展開から射撃までの一連の動作を自動化することに成功。大隊司令部による部隊の一斉統制を可能とするために、各車両間のデータリンク化も行われた。また、射撃統制装置のバックアップ用に、光学照準装置がロケット発射機左部に取り付けられた。

90A式が運用可能な弾頭は、榴弾、破片効果榴弾(HE-FRAG)、焼夷榴弾(HEI)、対戦車/対人用/地雷散布用クラスター弾(42.2mm子弾もしくは114mm地雷×6を搭載)等が有る。90A式では新たに、破片効果榴弾(HE-FRAG)と焼夷榴弾(HEI)が使
用可能となった。このほかに、原型となったソ連/ロシアのBM-21が運用する各種122mmロケットを使用することも出来る。

90A式の運用するロケットの諸元(主要な物)
形式名 弾種 口径 全長 全備重量 弾頭重量 最大射程 最小射程 子弾直径 子弾個数 最大飛行速度 最大射程での着弾までの時間
HE-30 榴弾 122mm 2757mm 61kg 18.3kg 32.7km 12.7km 無し 無し 1050m/s 110秒
SHEI-30 焼夷榴弾(HEI) 122mm 2757mm 61kg 18.3kg 32.7km 12.7km 無し 無し 1050m/s 110秒
SHE-30 破片効果榴弾(HE-FRAG) 122mm 2757mm 61kg 18.3kg 32.7km 12.7km 無し 無し 1050m/s 110秒
C-30 クラスター弾 122mm 2927mm 60.5kg 19kg 32km 14km 42.2mm 39個 1050m/s 110秒

このほか、部隊編制に弾薬補給車が加えられた。90A式の弾薬補給車は、ロケット発射機のシャーシである鉄馬XC-20306×6トラックをベースとした専用の弾薬補給車である。各弾薬補給車は80発のロケットを搭載している。ロケット発射車両と同じく車体中央部に弾薬保護用のカバーがあり、それを展開することで通常のトラックに偽装することが出来る。

標準的な90A式で編制される多連装ロケット大隊の構成は以下の通り。
3個多連装ロケット発射機中隊 各6両の90A式自走ロケット発射機が配備
3個弾薬補給中隊 1個中隊につき弾薬補給車を6両配備
大隊司令部 大隊指揮/射撃統制車1両を配備
中隊司令部 各中隊に1両の指揮/射撃統制車を配備
観測/偵察部隊 北京BJ2020をベースにした偵察/観測車を3両配備
整備部隊 整備用機材を搭載した車両1両配備

NORINCOでは90式シリーズを有力な輸出兵器の1つと位置づけており、90A式の登場後も商品価値を高めるための改良を継続していた。そして、2003年には更なる改良型である90B式122mm自走40連装ロケット砲の存在が公表された。

90B式は、ロケット発射機と弾薬補給車のベース車体を、これまでのXC-2030に替えて、メルセデス・ベンツNG-80 6×6トラックをベースに開発された北方ベンツ社製 2629 6×6トラックに変更している。キャビンの発射機操作用機器も改良され、データ入力/諸元管理用の液晶パネルが設置された。車体後部には射撃時に射程を安定させる油圧式ジャッキが装備されている。各発射機に高度な射撃等静養機材を搭載したのも90B式の特徴であり、ロケット発射機搭載車には、車体の縦横の傾斜度探知機、ロケット発射機の位置検知装置が装備されている。各センサーで得られたデータは、諸元の1つとして射撃統制用コンピュータに入力され、GPS位置探知装置と共に射撃精度を高めるのに資している。90B式が運用するロケットの弾頭は計12種類となった。中国以外の国々で開発された各種122mmロケット砲を運用可能であるのは90式、90A式と同様。

90B式では、ロケット発射機と弾薬補給車以外の多連装ロケット部隊を構成する各種車両も一新された。多連装ロケット大隊の編制と各車両の情報については以下の通り。

3個多連装ロケット発射機中隊 各6両の90B式自走ロケット発射機が配備
3個弾薬補給中隊 1個中隊につき弾薬補給車を6両配備
大隊司令部 BCPV大隊指揮/射撃統制車1両を配備。BCPV大隊指揮/射撃統制車は北方ベンツ製1929 4×4トラック の後部に指揮通信設備を備えたコンテナを搭載している
中隊司令部 各中隊に1両の指揮/射撃統制車を配備。指揮車両はBCPV大隊指揮/射撃統制車の装備変更版
観測/偵察部隊 90式/92式装輪装甲車(WZ-551/WZ-551A)をベースにしたBRV偵察/観測車を3両配備
気象観測部隊 702-D気象観測レーダー搭載車1両を配備
対砲レーダー部隊 704-1対砲レーダー搭載車1両を配備。彼我の発射したミサイルや砲弾の探知、発射位置/着弾位置を評定
整備部隊 整備用機材を搭載した車両2両配備(機械整備車/電子装備整備車)

大隊司令部のBCPV大隊指揮/射撃統制車は、北方ベンツ製1929 4×4トラックの後部に指揮通信設備を備えたコンテナを搭載している。観測/偵察部隊では、90A式ではソフトスキン車両を使用していたが、90式/92式装輪装甲車(WZ-551/WZ-551A)をベースにしたBRV偵察/観測車に変更されたことで、前線での偵察時の防護能力や機動性が格段に強化された。また、余裕の有る搭載能力を生かして充実した観測機器を搭載できるようになったのも重要な点である。

標準的な90B式自走多連装ロケット大隊は3個中隊(90B式自走多連装ロケット砲とPRV弾薬補給車を各6両、BRV前進観測/捜索車3両、中隊指揮車各1両)と本部中隊(02-D気象観測レーダー搭載車1両、704-1対砲レーダー搭載車1両、整備車2両、BCPV大隊指揮/射撃統制車1両など)から編制される。90B式の一個大隊は、1回の一斉射撃で最大960発のロケットを発射し、携行する2880発のロケットを3分20秒以内に発射することが可能。90B式は、射撃統制システムの高度化と装備の自動化により、部隊火力を集中して短時間に投射するという多連装ロケットの持つ優位性をさらに高めることに成功したといえる。

90式は中国軍で運用されているほか、外国への積極的な売り込みも行われており、パキスタンに輸出されたとの報道も有る(確実な情報ではない)。ただし、海外市場向けの高度な各種装備を備えた90A式、90B式が中国軍自体にどの程度配備されているのかは、判断材料に乏しい。また、90A/B式部隊のみが高度なデータリンクを備えていても、他の部隊のデータリンクの近代化が伴わなければその能力を十分に運用することも出来ないのも事実ではあり、90A/B式の配備数は現状では限定的なものであると推測される。
【参考資料】
Chinese Defence Today
中国武器大全
新浪網「武器縦横:国産90B式122毫米多管火箭炮(組図)」