2014年11月15日土曜日

90式122mm40連装自走ロケット砲

▼90A式122mm自走40連装ロケット砲。ベース車体は鉄馬XC-2030(XC-220)6×6トラック

▼90B式122mm自走40連装ロケット砲。ベース車体は北方ベンツ社製 2629 6×6トラックに変更

▼90A式122mm自走40連装ロケット大隊の編制図

▼90B式122mm自走40連装ロケット大隊の編制図

▼90B式122mm自走40連装ロケット大隊で運用されるBRV偵察/観測車

■90A式性能緒元
重量 20トン
全長 9.840m
全幅 2.500m
全高 3.245m
搭載エンジン 空冷ディーゼル 300hp
最高速度 85km/h
航続距離 600km
渉水深度 0.9m
武装 122mm40連装ロケット発射機(弾薬40+予備40)
俯仰角 0~55度
左右旋回 左102度、右70度
90式122mm自走40連装ロケット砲は、1990年代半ばに登場した中国第2世代の122mm多連装ロケットシステムである。開発元はNORINCO。

90式は、鉄馬XC-2030 6×6トラックをシャーシとし、車体中央部に次発装填用ロケットを、車体後部に40連装122mmロケット発射機を搭載している。車体には油圧式ジャッキが装備されており、射撃時にはそれを接地させて車体を安定させる。81式122mm40連装自走ロケット砲のシャーシである延安SX250(SX2150) 6×6トラックよりも大型の車両なので、40連装ロケット発射機だけでなく次発装填用の予備ロケットと機械式装填装置をキャビンの後部に搭載している。エンジン出力も強化されているため機動性も向上している。

90式の特徴の1つは、次発装填用の予備ロケットと機械式装填装置を搭載した所である。ソ連のBM-21グラッド(雹)自走多連装ロケット砲を元に開発された81式122mm40連装自走ロケット砲は、従来の中国軍の主力多連装ロケットであった130mmロケットよりも直径は小さいものの、弾頭重量は130mmロケットと同等であり、射程では上回っていた。そのため130mmロケット砲に換わって中国軍歩兵師団の主力自走ロケット砲となった。ただし、81式は原型となったBM-21と同じく、ロケット斉射後の再装填は人力で時間を要するため1つの目標に対するロケットの発射回数は実質1回に限定される欠点を有していた。

90式は、次発装填用ロケットと機械式装填装置を搭載する事で上記の欠点を解消することに成功した。90式は車内から再装填装置を操作して、約3分で次弾装填を完了する事が可能となった。90式と同様の再装填装置はチェコスロバキア(当時)のRM-70 122mm自走40連装ロケットが導入しており、90式の開発でも参考にされたのではないかと思われる。予備ロケット搭載部には、ロケットを風雨から保護するため伸縮式のカバーが装備されている。このカバーは車体後部全てを覆う事が可能であり、これにより通常の輸送用トラックに偽装することが出来る。カバーを折り畳んで射撃体勢に入るまでに要する時間は約1分半。

81式の81式122㎜ロケット弾は最大射程20kmであったが、1990年にはロケットモーターの改良によって最大射程を40kmに延伸している。90式の運用するロケットには、射程10~12kmの短射程型と射程20~40kmの長射程型が用意されている。弾頭重量には、18.3~22kgと26~28kgの2種類がある。90式のロケットは、81式122mm40連装自走ロケット砲でも運用する事が可能。発射方式には単発、バースト連射、一斉発射の各モードがあり、全弾発射に要する時間は18~20秒。発射機の作動は電気式で、発射時には操作要員はキャビン内からコントロール、もしくは発射機から離れて遠隔操作で発射させる。

NORINCOは1990年代中期に、90式の改良型である90A式122mm自走40連装ロケット砲を開発した。90A式の開発では射撃精度の向上とシステムの自動化が主な目標となった。射撃精度を向上させるため、新型の射撃統制コンピュータへの換装が実施されるとともに、GPS位置測定装置の導入が行われた。システムの自動化を推進する事で、各車両の展開から射撃までの一連の動作を自動化することに成功。大隊司令部による部隊の一斉統制を可能とするために、各車両間のデータリンク化も行われた。また、射撃統制装置のバックアップ用に、光学照準装置がロケット発射機左部に取り付けられた。

90A式が運用可能な弾頭は、榴弾、破片効果榴弾(HE-FRAG)、焼夷榴弾(HEI)、対戦車/対人用/地雷散布用クラスター弾(42.2mm子弾もしくは114mm地雷×6を搭載)等が有る。90A式では新たに、破片効果榴弾(HE-FRAG)と焼夷榴弾(HEI)が使
用可能となった。このほかに、原型となったソ連/ロシアのBM-21が運用する各種122mmロケットを使用することも出来る。

90A式の運用するロケットの諸元(主要な物)
形式名 弾種 口径 全長 全備重量 弾頭重量 最大射程 最小射程 子弾直径 子弾個数 最大飛行速度 最大射程での着弾までの時間
HE-30 榴弾 122mm 2757mm 61kg 18.3kg 32.7km 12.7km 無し 無し 1050m/s 110秒
SHEI-30 焼夷榴弾(HEI) 122mm 2757mm 61kg 18.3kg 32.7km 12.7km 無し 無し 1050m/s 110秒
SHE-30 破片効果榴弾(HE-FRAG) 122mm 2757mm 61kg 18.3kg 32.7km 12.7km 無し 無し 1050m/s 110秒
C-30 クラスター弾 122mm 2927mm 60.5kg 19kg 32km 14km 42.2mm 39個 1050m/s 110秒

このほか、部隊編制に弾薬補給車が加えられた。90A式の弾薬補給車は、ロケット発射機のシャーシである鉄馬XC-20306×6トラックをベースとした専用の弾薬補給車である。各弾薬補給車は80発のロケットを搭載している。ロケット発射車両と同じく車体中央部に弾薬保護用のカバーがあり、それを展開することで通常のトラックに偽装することが出来る。

標準的な90A式で編制される多連装ロケット大隊の構成は以下の通り。
3個多連装ロケット発射機中隊 各6両の90A式自走ロケット発射機が配備
3個弾薬補給中隊 1個中隊につき弾薬補給車を6両配備
大隊司令部 大隊指揮/射撃統制車1両を配備
中隊司令部 各中隊に1両の指揮/射撃統制車を配備
観測/偵察部隊 北京BJ2020をベースにした偵察/観測車を3両配備
整備部隊 整備用機材を搭載した車両1両配備

NORINCOでは90式シリーズを有力な輸出兵器の1つと位置づけており、90A式の登場後も商品価値を高めるための改良を継続していた。そして、2003年には更なる改良型である90B式122mm自走40連装ロケット砲の存在が公表された。

90B式は、ロケット発射機と弾薬補給車のベース車体を、これまでのXC-2030に替えて、メルセデス・ベンツNG-80 6×6トラックをベースに開発された北方ベンツ社製 2629 6×6トラックに変更している。キャビンの発射機操作用機器も改良され、データ入力/諸元管理用の液晶パネルが設置された。車体後部には射撃時に射程を安定させる油圧式ジャッキが装備されている。各発射機に高度な射撃等静養機材を搭載したのも90B式の特徴であり、ロケット発射機搭載車には、車体の縦横の傾斜度探知機、ロケット発射機の位置検知装置が装備されている。各センサーで得られたデータは、諸元の1つとして射撃統制用コンピュータに入力され、GPS位置探知装置と共に射撃精度を高めるのに資している。90B式が運用するロケットの弾頭は計12種類となった。中国以外の国々で開発された各種122mmロケット砲を運用可能であるのは90式、90A式と同様。

90B式では、ロケット発射機と弾薬補給車以外の多連装ロケット部隊を構成する各種車両も一新された。多連装ロケット大隊の編制と各車両の情報については以下の通り。

3個多連装ロケット発射機中隊 各6両の90B式自走ロケット発射機が配備
3個弾薬補給中隊 1個中隊につき弾薬補給車を6両配備
大隊司令部 BCPV大隊指揮/射撃統制車1両を配備。BCPV大隊指揮/射撃統制車は北方ベンツ製1929 4×4トラック の後部に指揮通信設備を備えたコンテナを搭載している
中隊司令部 各中隊に1両の指揮/射撃統制車を配備。指揮車両はBCPV大隊指揮/射撃統制車の装備変更版
観測/偵察部隊 90式/92式装輪装甲車(WZ-551/WZ-551A)をベースにしたBRV偵察/観測車を3両配備
気象観測部隊 702-D気象観測レーダー搭載車1両を配備
対砲レーダー部隊 704-1対砲レーダー搭載車1両を配備。彼我の発射したミサイルや砲弾の探知、発射位置/着弾位置を評定
整備部隊 整備用機材を搭載した車両2両配備(機械整備車/電子装備整備車)

大隊司令部のBCPV大隊指揮/射撃統制車は、北方ベンツ製1929 4×4トラックの後部に指揮通信設備を備えたコンテナを搭載している。観測/偵察部隊では、90A式ではソフトスキン車両を使用していたが、90式/92式装輪装甲車(WZ-551/WZ-551A)をベースにしたBRV偵察/観測車に変更されたことで、前線での偵察時の防護能力や機動性が格段に強化された。また、余裕の有る搭載能力を生かして充実した観測機器を搭載できるようになったのも重要な点である。

標準的な90B式自走多連装ロケット大隊は3個中隊(90B式自走多連装ロケット砲とPRV弾薬補給車を各6両、BRV前進観測/捜索車3両、中隊指揮車各1両)と本部中隊(02-D気象観測レーダー搭載車1両、704-1対砲レーダー搭載車1両、整備車2両、BCPV大隊指揮/射撃統制車1両など)から編制される。90B式の一個大隊は、1回の一斉射撃で最大960発のロケットを発射し、携行する2880発のロケットを3分20秒以内に発射することが可能。90B式は、射撃統制システムの高度化と装備の自動化により、部隊火力を集中して短時間に投射するという多連装ロケットの持つ優位性をさらに高めることに成功したといえる。

90式は中国軍で運用されているほか、外国への積極的な売り込みも行われており、パキスタンに輸出されたとの報道も有る(確実な情報ではない)。ただし、海外市場向けの高度な各種装備を備えた90A式、90B式が中国軍自体にどの程度配備されているのかは、判断材料に乏しい。また、90A/B式部隊のみが高度なデータリンクを備えていても、他の部隊のデータリンクの近代化が伴わなければその能力を十分に運用することも出来ないのも事実ではあり、90A/B式の配備数は現状では限定的なものであると推測される。
【参考資料】
Chinese Defence Today
中国武器大全
新浪網「武器縦横:国産90B式122毫米多管火箭炮(組図)」

0 件のコメント:

コメントを投稿