2014年11月15日土曜日

63式107mm12連装ロケット砲


▼射撃状態。発射機を3つの支持架で支えている

▼牽引状態。前2つの支持架を折り畳み、後ろの支持架は牽引に利用される

■発射機性能緒元
総重量 613kg
発射機重量 385kg
全長 2,600mm(牽引時)
全幅 1,400mm
全高 1,100mm
俯仰角度 0~80度
旋回角度 左右18度
要員 5名

■63-II式107㎜ロケット弾性能緒元
重量 18.8kg
全長 840mm
直径 107mm
弾頭重量 8.33kg(TNT火薬 1.8kg)
初速 31.4m/s
最高飛行速度 372m/s
射程 8,000m
63式107mm牽引式12連装ロケットは1961年8月に開発に着手され、1963年に制式化されて大量生産が行われた中国独自開発の多連装ロケットである。63式は当時の中国の軍事ドクトリンである人民戦争論に沿った遊撃戦での運用を前提とした装備である。そのため整備の行き届かない前線でも問題なく運用できるように、構造が簡単で容易に分解組み立てが出来て、山地でのゲリラ戦用に駄載や人力運搬での運搬も可能な設計がなされている。

発射筒は4列3段になっており、発射機の重量は385kg(ロケット搭載時には613kg)とこの種の兵器としては比較的軽量である。射程は8,000m。63-2式107mmロケット弾の重量は18.8kg、弾頭部には1.8kgのTNT火薬が封入されている。長い就役期間の間に、通常弾頭(HE)のほかに最大射程を10kmとした射程延伸型、弾頭に炸薬と小型の鉄球を多数封入した対人攻撃型、発煙弾、燃料気化弾頭、軟目標弾、焼夷弾、ECM弾など多数の種類の弾頭が開発されている。信管は原型では触発信管だったが、最近の生産型では電子式信管に変更され、不発弾の発生率の減少と命中時の殺傷効果を3倍以上に向上させることに成功している。ロケットは、飛翔時に弾体を回転させて弾道を安定させる。連射の場合には0.6秒ごとに発射され、8秒で全12発を発射する。ロケット弾の再装填は3分を要する。射撃の照準には56式75mm無反動砲のWG601照準器を流用している。射撃時には折畳み式の支持架を展開して発射機を支える。射撃の際には発射機から離れての遠隔発射が可能。

63式の運用は5名で行う。63式の移動は小型4輪駆動車での牽引のほか、分解しての駄載や人力運搬、小型車両の荷台に搭載して輸送するなどの方法がある。63式を自走化した車両としては81式107mm12連装自走ロケット砲や2006年に公開された新型107mm12連装自走ロケット砲、ヘリボーン部隊で運用される107mm8連装自走ロケット砲などがあるが、このほかにも各種軽車両への搭載が確認されている。また特殊部隊やゲリラ戦用に、徒歩歩兵による携行運搬が可能な85式107mmロケット砲も開発された。

60年代以降、中国軍の歩兵連隊には63式で編成された6個ロケット中隊が配属された。63式は後に130mmロケット砲で代替されることになるが、軽量簡便な火力支援装備として現在でも空挺部隊などでの運用が続いている。63式は短射程で命中精度も(この種のロケット兵器の常で)あまり良好なものではないが、低コストで人員輸送も可能な軽量簡便なロケット砲として中国軍のほかにも世界各国に輸出・供給され、ヴェトナム戦争やアフガニスタン紛争、そして各地での紛争で広く使用されるに到った。また各国でも国産化や独自の派生型の開発が行われている。例えば北朝鮮では、18連装型と24連装型の発射機が生産されたほか、「63式自走107mm多連装ロケット」(米軍呼称はM1992)の名称で車載型24連装107mm自走ロケット砲が開発されている。そして旧東側諸国だけでなく、南アフリカ共和国などでも63式を搭載した各種車両が開発・運用されている。

63式各種タイプ(これ以外にも数多くの派生型が存在する)
63式 基本型
63-I式 空挺部隊や山地部隊で運用されるコンパクト型。分解時の各部品の重量が30kgに収まるようにされた。1967年から生産
85式107mmロケット砲 特殊部隊用に開発された個人携行が可能な単装発射筒タイプ。発射架は小型の三脚を使用する
81式107mm12連装自走ロケット砲 1980年代初めに開発された自走ロケット砲
新型107mm12連装自走ロケット砲 2006年に公開された空挺部隊の火力支援用自走ロケット砲、空挺投下が可能。60発のロケットを搭載する
107mm8連装自走ロケット砲 民生用のATV(全地形対応車)に8連装107mmロケット砲を搭載。ヘリボーン部隊で運用
【参考資料】
中国兵工企業史(李滔、陸洪洲/兵器工業出版社)
Chinese Defence Today
Military Analysis Network(Federation of American Sientists)
中国武器大全「64式107㎜牽引式火箭砲」
中華網「武器装備庫」

85式107mmロケット砲


■85式ロケット砲性能緒元
総重量 23kg
発射機重量 約4kg
要員 1~2名

■107㎜ロケット弾性能緒元
重量 18.8kg
全長 840mm
直径 107mm
初速 31.4m/s
最高飛行速度 372m/s
射程 8,500m
85式107㎜単装携行式ロケット砲は、ゲリラ戦や特殊部隊での運用を考えて開発された徒歩歩兵が携行可能なコンパクトな単装ロケット砲である。用途としては、敵地に浸透した部隊による宿営地や飛行場、港湾施設、補給地点への奇襲攻撃での使用が想定されている。1984年に開発が開始され翌85年に制式化、1987年から生産が開始された。

85式は107㎜ロケット発射筒と照準装置、折り畳み式の三脚で構成されている。移動時には歩兵が背中に携行して搬送し、発射時には発射筒を三脚に装着して使用する。発射筒、照準装置、三脚込みの重量は23kg。短時間で射撃準備を完了し、発射後には速やかに撤収することが出来る。ロケットの射程は最大8,500m。
【参考資料】
中華網「武器装備庫」

88式122mmロケット砲


■発射機性能緒元
総重量 137.65kg
行軍時 71kg
全長 3,000mm/2,779mm(移動時/射撃時)
全幅 1,400mm
全高 1,100mm
俯仰角度 10-52度
旋回角度 左右7度
要員 7名

■122㎜ロケット弾性能緒元
重量 66.8kg
全長 2,873mm(榴弾)
直径 122mm
弾頭重量  
初速 50.7m/s
最高飛行速度 692m/s
射程 10,200m
88式122㎜単装携行式ロケット砲は、ソ連のBM-21「グラッド」122㎜40連装自走ロケット砲の中国版コピーである81式122mm40連装自走ロケット砲の派生型の1つ。開発コンセプトは85式107mmロケット砲と同じく、特殊部隊などで運用される歩兵が携行可能なコンパクトな単装ロケット砲である。これも81式122㎜40連装自走ロケット砲と同様に、ソ連のBM-21-P「グラッドP」122㎜単装携行式ロケット砲の中国版であるとも言える。

85式は122㎜ロケット入り発射筒と照準装置、支持架つき折り畳み式三脚で構成されている。移動時には分割して各部品を歩兵が背中に携行搬送し、発射時には発射筒を三脚上の支持架に装着して使用する。目標照準に56式76㎜無反動砲のWG601照準器を流用しているのは63式107mm12連装ロケット砲と同じ。全備重量は137.65kgと、ソ連のBM-21-P「グラッドP」の95.54kgと比べるとかなり重くなっている。短時間で射撃準備を完了し、発射後には速やかに撤収することが出来る。ロケットの射程は最大10,200m。
【参考資料】
Chinese Defence Today
中華網「武器装備庫」

107mm8連装自走ロケット砲(中国)







■63-2式107mmロケット弾性能緒元
重量 18.8kg
全長 840mm
直径 107mm
弾頭重量 8.33kg(TNT火薬 1.8kg)
初速 31.4m/s
最高飛行速度 372m/s
射程 8,000m
近年、ヘリボーン部隊で運用されているのが確認された中国軍の小型自走ロケット砲。制式名称は不明。重慶市に本社を置く嘉陵工業グループ製の6×6 ATV(All Terrain Vehicle:全地形対応車)の荷台に8連装107mmロケット砲を搭載している。このロケットは63式107mm12連装ロケット砲の8連装型である。

自走ロケット砲への改造にあたっては、ロケットの爆風から後輪を保護するために後部荷台から足回りにかけてカバーが取り付けられたことと、カバー側面に発射時に車体を安定させるためスペード付きの支持架4本を装備している。発射時にはこの支持架を車体に取り付け地面に打ち込むことで、ロケット発射の衝撃を吸収させる。

本車が搭載する63-2式107㎜ロケット弾の性能諸元は、射程8,000m、全備重量18.8kg。弾頭部には1.8kgのTNT火薬が封入されている。弾頭の種類は榴弾、最大射程を10kmとした射程延伸弾、弾頭に炸薬と小型の鉄球を多数封入した対人攻撃弾、発煙弾、燃料気化弾頭、軟目標弾、焼夷弾、ECM弾など多数の種類の弾頭が開発されている。信管は本来は触発信管だったが、最近の生産型では電子式信管に換装され、不発弾の減少と命中時の殺傷効果の向上を実現している。ロケットは飛翔時に弾体を回転させて弾道を安定させる。ロケットの発射方法は単射、連射の選択が可能。連射の場合には0.6秒ごとに発射される。射撃の際には発射機から離れて照準/発射操作を行う。

コンパクトな本車は、Mi-17等の汎用ヘリコプターの内部に搭載しての空輸が可能。軽装備のヘリボーン部隊にとっては貴重な火力支援車両である。これまでヘリボーン部隊が配備していた63式107mm12連装ロケット砲が歩兵による人力搬送か軽車両による牽引を必要としたのに対して、不整地能力の高いATVを流用して自走化したことで運用の幅を広げることに成功したといえるだろう。
【参考資料】
Militaryphotos


81式107mm12連装自走ロケット砲


■性能緒元
重量
全長 4.510m
全幅 1.964m
全高 2.196m
エンジン  
最高速度 100km/h
航続距離 500km
武装 107㎜12連装ロケット発射機
乗員 4名
81式107mm12連装自走ロケット砲は63式107mm12連装ロケット砲の車載型。1980年に制式化され、1982年から生産・配備が開始された。

81式は南京NJ221クロスカントリー車の車体後部に63式107mm12連装ロケット砲の発射機を搭載した車両である。車載状態での発射のほか、発射機を地面に置いて発射することも可能。連射の際は0.9秒間隔での発射を行う。発射機は左45度、右60度旋回可能で、俯仰角は0~60度。車体後部には予備のロケット弾を搭載するスペースが置かれている。
【参考資料】
Chinese Defence Today
中華網「武器装備庫」

新型107mm12連装自走ロケット砲(中国)




▼投下直後の状態。

2006年に公開された新型自走ロケット砲。空挺部隊では従来から63式107mm12連装ロケット砲を火力支援用装備として運用してきたが、発射機、予備のロケット弾、操作要員がそれぞれ別個に降下されるために、発射までに時間を要したり装備が別地点に投下されて回収・射撃が不可能になることがしばしば発生した。この問題を解決するために開発されたのが空中投下型107㎜自走ロケット砲である。設計主任は空挺部隊の各種装備の研究を行ってきた索和明技師である。開発のコンセプトは、発射機、予備ロケット弾、操作要員、牽引車両をひとまとめにしてしまおうというものであった。

本車はロケット弾60発を搭載した状態での空挺降下が可能。車体はクロスカントリー用大型4輪駆動車のシャーシを流用したものだが、現状ではベースとなった車体や詳細なスペックは不明。オープントップ式の前部乗車部分に操作要員全員が搭乗、車体中部にロケット弾60発を搭載して移動することが可能。車内には電子式発射装置が搭載され、単射、一斉射撃、3点発射など様々なパターンでの発射を可能とした。また自己診断装置も搭載され、ロケットの不発などの不具合を自動的に検知し自己診断する。

本車の開発によって、空中投下後に迅速に降下部隊に火力支援を与えることが可能となった。今後、空挺部隊や特殊部隊などへの配備が進むものと思われる。
【参考資料】
兵器知識 2006年5月号「柳絮因風起-専訪空降型107毫米火箭炮項目組長索和明」


84式122mm24連装地雷散布ロケット



■性能緒元
重量 7,590kg
全長 6.340m
全幅 2.400m
全高 2.996m
エンジン EQ1600水冷ディーゼル 135hp
最高速度 60km/h
航続距離  
武装 122mm24連装ロケット発射機×1
射程 3,400~14,000m
俯仰角 0~55度
左右旋回 左90度、右75度
乗員  
84式122mm自走24連装地雷散布ロケットは81式122mm40連装自走ロケット砲をベースに開発された地雷散布車両である。

84式は東風EQ240(現EQ2081) 2.5t軍用トラックに122mm24連装ロケット発射機を搭載している。ロケット全弾を13.8秒で発射、144~192発の対戦車地雷を散布することが可能。ロケットの射程は3,500~14,000m。ロケットには84式対戦車地雷やGLD112対歩兵用地雷など様々な種類の地雷を搭載可能。

84式は迅速かつ広範囲に地雷を散布することが可能で、機動性が高く信頼性や運用性に優れた車両とされている。
【参考資料】
Chinese Defence Today
中国武器大全
環球展望「紅色戦神-中国炮兵火箭炮大検閲」

81式122mm40連装自走ロケット砲


▼ロケット発射時。爆風避けシールドを展開しているのが分かる

■性能緒元
重量 15.532t
全長 7.120m
全幅 2.500m
全高 3.082m
エンジン WD615.71水冷ディーゼル 256hp
最高速度 70km/h
航続距離 600km
武装 122mm40連装ロケット発射機×1
俯仰角 0~55度
左右旋回 左102度、右70度
乗員 6~7名

■81式122㎜ロケット弾性能緒元
重量 46.3kg
全長 2.873mm(榴弾)
  2.870mm(対人用破片榴弾)
直径 122mm
弾頭重量 約20kg(榴弾)
初速 50.7m/s
最高飛行速度 692m/s
射程 20~30km
81式122mm自走40連装ロケット砲は、1979年の中越紛争で捕獲したソ連のBM-21グラッド(雹)自走多連装ロケット砲を元に開発された自走ロケット砲で、1982年に制式化された。

81式は陝西汽車製 延安SX250(SX2150) 6×6トラックに122mmロケット発射機を搭載している。車体前部のキャビンは4ドア・5人乗り。キャビン直後にも乗車用シート2基が設置されている。キャビンの窓はロケット発射時には爆風避けシールドで保護される。ロケット発射機は車体後部の荷台に搭載される。

81式122㎜ロケット弾は厚さ2.2mmの発射管に搭載され、発射機は10列4段になっている。使用可能なロケット弾は、81式122㎜ロケット弾と射程延伸型の81-I式122㎜ロケット弾が用意されている。最大射程は81式が20km、81-I式が30kmとされている。ロケット尾部には折り畳み式の安定翼4枚を装備している。安定翼はロケットの軸線に対して1度傾いており、発射後は旋転して弾道を安定させる。弾頭には榴弾と対人用破片榴弾等の種類がある。発射方式は単発、バースト連射、一斉発射の3種類があり、一斉発射に要する時間は20秒。発射後の再装填時間は8分。照準装置は発射機左部に装備されている。発射時、操作要員は発射機から離れて遠隔発射を行うことも可能。

81式122mmロケットは、従来の中国軍の130mmロケットよりも直径は小さいものの、弾頭重量は130mmロケットと同等であり、射程では上回っている。そのため130mmロケット砲に換わって中国軍歩兵師団の主力自走ロケット砲になっている。また、81式の技術を基にして火力支援用の艦載兵器とした122mm40連装艦載ロケット砲も開発されている。
【参考資料】
Chinese Defence Today
中国武器大全「81式122㎜輪式自行火箭炮」

90式122mm40連装自走ロケット砲

▼90A式122mm自走40連装ロケット砲。ベース車体は鉄馬XC-2030(XC-220)6×6トラック

▼90B式122mm自走40連装ロケット砲。ベース車体は北方ベンツ社製 2629 6×6トラックに変更

▼90A式122mm自走40連装ロケット大隊の編制図

▼90B式122mm自走40連装ロケット大隊の編制図

▼90B式122mm自走40連装ロケット大隊で運用されるBRV偵察/観測車

■90A式性能緒元
重量 20トン
全長 9.840m
全幅 2.500m
全高 3.245m
搭載エンジン 空冷ディーゼル 300hp
最高速度 85km/h
航続距離 600km
渉水深度 0.9m
武装 122mm40連装ロケット発射機(弾薬40+予備40)
俯仰角 0~55度
左右旋回 左102度、右70度
90式122mm自走40連装ロケット砲は、1990年代半ばに登場した中国第2世代の122mm多連装ロケットシステムである。開発元はNORINCO。

90式は、鉄馬XC-2030 6×6トラックをシャーシとし、車体中央部に次発装填用ロケットを、車体後部に40連装122mmロケット発射機を搭載している。車体には油圧式ジャッキが装備されており、射撃時にはそれを接地させて車体を安定させる。81式122mm40連装自走ロケット砲のシャーシである延安SX250(SX2150) 6×6トラックよりも大型の車両なので、40連装ロケット発射機だけでなく次発装填用の予備ロケットと機械式装填装置をキャビンの後部に搭載している。エンジン出力も強化されているため機動性も向上している。

90式の特徴の1つは、次発装填用の予備ロケットと機械式装填装置を搭載した所である。ソ連のBM-21グラッド(雹)自走多連装ロケット砲を元に開発された81式122mm40連装自走ロケット砲は、従来の中国軍の主力多連装ロケットであった130mmロケットよりも直径は小さいものの、弾頭重量は130mmロケットと同等であり、射程では上回っていた。そのため130mmロケット砲に換わって中国軍歩兵師団の主力自走ロケット砲となった。ただし、81式は原型となったBM-21と同じく、ロケット斉射後の再装填は人力で時間を要するため1つの目標に対するロケットの発射回数は実質1回に限定される欠点を有していた。

90式は、次発装填用ロケットと機械式装填装置を搭載する事で上記の欠点を解消することに成功した。90式は車内から再装填装置を操作して、約3分で次弾装填を完了する事が可能となった。90式と同様の再装填装置はチェコスロバキア(当時)のRM-70 122mm自走40連装ロケットが導入しており、90式の開発でも参考にされたのではないかと思われる。予備ロケット搭載部には、ロケットを風雨から保護するため伸縮式のカバーが装備されている。このカバーは車体後部全てを覆う事が可能であり、これにより通常の輸送用トラックに偽装することが出来る。カバーを折り畳んで射撃体勢に入るまでに要する時間は約1分半。

81式の81式122㎜ロケット弾は最大射程20kmであったが、1990年にはロケットモーターの改良によって最大射程を40kmに延伸している。90式の運用するロケットには、射程10~12kmの短射程型と射程20~40kmの長射程型が用意されている。弾頭重量には、18.3~22kgと26~28kgの2種類がある。90式のロケットは、81式122mm40連装自走ロケット砲でも運用する事が可能。発射方式には単発、バースト連射、一斉発射の各モードがあり、全弾発射に要する時間は18~20秒。発射機の作動は電気式で、発射時には操作要員はキャビン内からコントロール、もしくは発射機から離れて遠隔操作で発射させる。

NORINCOは1990年代中期に、90式の改良型である90A式122mm自走40連装ロケット砲を開発した。90A式の開発では射撃精度の向上とシステムの自動化が主な目標となった。射撃精度を向上させるため、新型の射撃統制コンピュータへの換装が実施されるとともに、GPS位置測定装置の導入が行われた。システムの自動化を推進する事で、各車両の展開から射撃までの一連の動作を自動化することに成功。大隊司令部による部隊の一斉統制を可能とするために、各車両間のデータリンク化も行われた。また、射撃統制装置のバックアップ用に、光学照準装置がロケット発射機左部に取り付けられた。

90A式が運用可能な弾頭は、榴弾、破片効果榴弾(HE-FRAG)、焼夷榴弾(HEI)、対戦車/対人用/地雷散布用クラスター弾(42.2mm子弾もしくは114mm地雷×6を搭載)等が有る。90A式では新たに、破片効果榴弾(HE-FRAG)と焼夷榴弾(HEI)が使
用可能となった。このほかに、原型となったソ連/ロシアのBM-21が運用する各種122mmロケットを使用することも出来る。

90A式の運用するロケットの諸元(主要な物)
形式名 弾種 口径 全長 全備重量 弾頭重量 最大射程 最小射程 子弾直径 子弾個数 最大飛行速度 最大射程での着弾までの時間
HE-30 榴弾 122mm 2757mm 61kg 18.3kg 32.7km 12.7km 無し 無し 1050m/s 110秒
SHEI-30 焼夷榴弾(HEI) 122mm 2757mm 61kg 18.3kg 32.7km 12.7km 無し 無し 1050m/s 110秒
SHE-30 破片効果榴弾(HE-FRAG) 122mm 2757mm 61kg 18.3kg 32.7km 12.7km 無し 無し 1050m/s 110秒
C-30 クラスター弾 122mm 2927mm 60.5kg 19kg 32km 14km 42.2mm 39個 1050m/s 110秒

このほか、部隊編制に弾薬補給車が加えられた。90A式の弾薬補給車は、ロケット発射機のシャーシである鉄馬XC-20306×6トラックをベースとした専用の弾薬補給車である。各弾薬補給車は80発のロケットを搭載している。ロケット発射車両と同じく車体中央部に弾薬保護用のカバーがあり、それを展開することで通常のトラックに偽装することが出来る。

標準的な90A式で編制される多連装ロケット大隊の構成は以下の通り。
3個多連装ロケット発射機中隊 各6両の90A式自走ロケット発射機が配備
3個弾薬補給中隊 1個中隊につき弾薬補給車を6両配備
大隊司令部 大隊指揮/射撃統制車1両を配備
中隊司令部 各中隊に1両の指揮/射撃統制車を配備
観測/偵察部隊 北京BJ2020をベースにした偵察/観測車を3両配備
整備部隊 整備用機材を搭載した車両1両配備

NORINCOでは90式シリーズを有力な輸出兵器の1つと位置づけており、90A式の登場後も商品価値を高めるための改良を継続していた。そして、2003年には更なる改良型である90B式122mm自走40連装ロケット砲の存在が公表された。

90B式は、ロケット発射機と弾薬補給車のベース車体を、これまでのXC-2030に替えて、メルセデス・ベンツNG-80 6×6トラックをベースに開発された北方ベンツ社製 2629 6×6トラックに変更している。キャビンの発射機操作用機器も改良され、データ入力/諸元管理用の液晶パネルが設置された。車体後部には射撃時に射程を安定させる油圧式ジャッキが装備されている。各発射機に高度な射撃等静養機材を搭載したのも90B式の特徴であり、ロケット発射機搭載車には、車体の縦横の傾斜度探知機、ロケット発射機の位置検知装置が装備されている。各センサーで得られたデータは、諸元の1つとして射撃統制用コンピュータに入力され、GPS位置探知装置と共に射撃精度を高めるのに資している。90B式が運用するロケットの弾頭は計12種類となった。中国以外の国々で開発された各種122mmロケット砲を運用可能であるのは90式、90A式と同様。

90B式では、ロケット発射機と弾薬補給車以外の多連装ロケット部隊を構成する各種車両も一新された。多連装ロケット大隊の編制と各車両の情報については以下の通り。

3個多連装ロケット発射機中隊 各6両の90B式自走ロケット発射機が配備
3個弾薬補給中隊 1個中隊につき弾薬補給車を6両配備
大隊司令部 BCPV大隊指揮/射撃統制車1両を配備。BCPV大隊指揮/射撃統制車は北方ベンツ製1929 4×4トラック の後部に指揮通信設備を備えたコンテナを搭載している
中隊司令部 各中隊に1両の指揮/射撃統制車を配備。指揮車両はBCPV大隊指揮/射撃統制車の装備変更版
観測/偵察部隊 90式/92式装輪装甲車(WZ-551/WZ-551A)をベースにしたBRV偵察/観測車を3両配備
気象観測部隊 702-D気象観測レーダー搭載車1両を配備
対砲レーダー部隊 704-1対砲レーダー搭載車1両を配備。彼我の発射したミサイルや砲弾の探知、発射位置/着弾位置を評定
整備部隊 整備用機材を搭載した車両2両配備(機械整備車/電子装備整備車)

大隊司令部のBCPV大隊指揮/射撃統制車は、北方ベンツ製1929 4×4トラックの後部に指揮通信設備を備えたコンテナを搭載している。観測/偵察部隊では、90A式ではソフトスキン車両を使用していたが、90式/92式装輪装甲車(WZ-551/WZ-551A)をベースにしたBRV偵察/観測車に変更されたことで、前線での偵察時の防護能力や機動性が格段に強化された。また、余裕の有る搭載能力を生かして充実した観測機器を搭載できるようになったのも重要な点である。

標準的な90B式自走多連装ロケット大隊は3個中隊(90B式自走多連装ロケット砲とPRV弾薬補給車を各6両、BRV前進観測/捜索車3両、中隊指揮車各1両)と本部中隊(02-D気象観測レーダー搭載車1両、704-1対砲レーダー搭載車1両、整備車2両、BCPV大隊指揮/射撃統制車1両など)から編制される。90B式の一個大隊は、1回の一斉射撃で最大960発のロケットを発射し、携行する2880発のロケットを3分20秒以内に発射することが可能。90B式は、射撃統制システムの高度化と装備の自動化により、部隊火力を集中して短時間に投射するという多連装ロケットの持つ優位性をさらに高めることに成功したといえる。

90式は中国軍で運用されているほか、外国への積極的な売り込みも行われており、パキスタンに輸出されたとの報道も有る(確実な情報ではない)。ただし、海外市場向けの高度な各種装備を備えた90A式、90B式が中国軍自体にどの程度配備されているのかは、判断材料に乏しい。また、90A/B式部隊のみが高度なデータリンクを備えていても、他の部隊のデータリンクの近代化が伴わなければその能力を十分に運用することも出来ないのも事実ではあり、90A/B式の配備数は現状では限定的なものであると推測される。
【参考資料】
Chinese Defence Today
中国武器大全
新浪網「武器縦横:国産90B式122毫米多管火箭炮(組図)」

96式300mm10連装自走ロケット砲(PHL-96/A-100)


▼自走ロケット砲と指揮車輌(左端)。

▼再装填車輌。


■性能緒元(自走ロケット発射機)
重量 21.0t(シャーシのみの重量)
全長  
全幅  
全高  
エンジン  
最高速度 60km/h
航続距離 650km
渡渉深度 1.1m
武装 300mm10連装ロケット発射機
乗員 5名

■性能緒元(ロケット弾)
直径 301mm
全長(A100-111/A100-311) 7,276mm/7,100mm
重量(A100-111/A100-311) 845kg/835kg
弾頭重量 200~250kg
弾頭種類 クラスター弾、榴弾、対戦車/対人子弾など
射程(A100-111/A100-311) 40~80km/60~120km
96式自走ロケット砲(PHL-96/A-100)は露スパルフ研究生産共同体製の9K58スメルチに非常によく似た多連装ロケット・システムで、中国国家航天局(China National Space Administration:CNSA)の下部機関である中国航天科工集団公司(China Aerspace Science & Industry Corp.:CASIC)の傘下にある北京の中国航天科技集団第一研究院(別名:中国遠載火箭技術研究院:China Academy of Launch Vehicle Technology:CALT。以下では航天科技一院と略す)によって開発された[2]。

【開発経緯~新型大口径多連装ロケット砲の競争開発】
96式の開発は1980年代末にまでさかのぼる。1980年代中期、中国では西側諸国との関係改善により得られた各種技術をベースとして、西暦2000年前後の時期に必要とされる装備を開発する一連の計画が策定された[8]。陸上部隊の砲兵部門では、射程20km台の122mm榴弾砲、射程40km台の155mmカノン/榴弾砲、敵後方の打撃が可能な短距離弾道ミサイルの開発が重点目標として定められた[8]。これらの計画は、後に86式/96式122mm榴弾砲(W-86/PL-96/D-30)、PLL-01 155mm榴弾砲(WA-021)、DF-15短距離弾道ミサイル(東風15/M-9/CSS-6)、DF-11短距離弾道ミサイル(東風11/M-11/CSS-7)として結実することになる。この計画に対して、155mmカノン/榴弾砲と短距離弾道ミサイルの間が空白になっているとの指摘がなされた結果、新たに射程60km超の大口径多連装ロケット砲を開発することが計画に盛り込まれることになった[8]。

従来であれば、軍が提示した要求に基づき装備調達関連機関が開発を担当する機関・部署を指名して研究開発を実施させるトップダウン的開発手順を経るはずであったが、鄧小平による改革開放政策に伴い、兵器開発部門にも競争原理が導入され開発のスタイルは一新された[8]。具体的には、軍と装備調達部門は要求項目を提示、これに対して各研究開発部門が開発案を提案して有望と思われるものを試作させ評価試験を行った上で優秀な成果を収めたものを採用するという手法である。競争試作に敗れた装備についても、輸出向け装備として開発を継続させて国外での採用を目指すことが奨励された[8]。

数年間の準備期間を経て、1980年代末には新型大口径多連装ロケット砲の開発計画が正式に始動することになった。この開発計画に応じたのは、長年火砲開発に携わってきた東北127廠、四川航天科工七院(後の四川航天工業総公司)、通常兵器開発部門の弾箭武器研究所、そして航天科技一院の計四設計局であった[8]。

東北127廠では83式273mm4連装自走ロケット砲(WM-40)の開発経験を生かして、泰安8×8重野戦トラックに8連装発射機を搭載、合計8発の273mmロケット弾を搭載するという案を纏めた[8]。ロケット弾は装薬の改良によって最大射程80km超と、WM-40の倍以上の射程を確保することが目指されていた。

四川航天科工七院の案は、完全新規設計の口径302mm、射程100kmのロケットを開発するというものであった[8]。これを四連装ロケット発射機に搭載して鉄馬6×6野戦トラックに搭載するとされた。

弾箭武器研究所と航天科技一院では、各国の大口径多連装ロケットの動向を調査、特に注目されたのが、アメリカのM-270 227mm多連装ロケット・システム(MLRS)とソ連の9K58スメルチ多連装ロケット・システムであった。両者とも、今後の大口径多連装ロケット砲はロケット弾自体の誘導システムの高度化による命中精度の向上が不可欠になるとの分析結果に達した。そして、弾箭武器研究所と航天科技二院ではそれぞれ別個にソ連の9K58スメルチ多連装ロケット・システムに関する調査・分析を進め、スメルチを手本として誘導システムの高度化に重点を置いた大口径多連装ロケット・システムの設計案を提示するに至った[1]。

これら4つの開発案について各関係機関による検討が行われた。その結果、システムの発展性において、弾箭武器研究所と航天科技一院の案が高く評価され、両者に対して競争試作段階への移行が認められた。不採用となった東北127廠と四川航天科工七院の開発案は輸出向け装備として開発が継続されることになり、東北127廠案はWM-80 273mm8連装自走ロケット砲、四川航天工業総公司案はWS-1 302mm4連装自走ロケット砲(衛士1)として実用化されることになる。

【冷戦終結後の状況変化】
弾箭武器研究所と航天科技一院の両案が競争試作に移行したが、これに大きな影響を与えることになったのは冷戦の終結と、それに伴うソ連/ロシアと中国との関係改善であった。中国はロシアの進んだ兵器技術を導入して中国軍の装備近代化を一挙に進める方針を採用し、ロシアから積極的に兵器の輸入や技術導入を進めるようになった[8]。1993年4月に締結されたロシアからの包括的な兵器輸入契約において、9K58スメルチ多連装ロケット・システムについても輸入許可を得ることに成功。1997年には、中国国営機器輸出入公司(CPMIEC)を通じて少数のスメルチとロケット弾をロシアから極秘裏に受け取っている[2]。

弾箭武器研究所と航天科技一院の開発案では、スメルチを参考にそれに相当する多連装ロケット・システムを開発する算段であったが、今やロシアから直接現物を調達し、技術支援を受ける形でスメルチを国産化することが可能となった。この状況を受けて、弾箭武器研究所では開発計画を大きく変更し、当初案をベースとしつつ、ロシアから得られた各種技術を盛り込んだ「中国版スメルチ」を開発するという方針を採用、これが後の03式300mm12連装自走ロケット砲(PHL-03/AR-2)として結実する[8]。

これに対して航天科技一院は、進展中の多連装ロケット・システムの開発をそのまま継続する方針を採った[8]。これは、開発中のロケットの飛翔制御システムやロケット技術においてスメルチと遜色の無い性能を確保できるとの見通しがあったことが背景にあった[8][9]。

弾箭武器研究所のロシアからの技術導入やそれを設計に反映させる作業はかなりの手間を要したことは間違いなく、同研究所の自走ロケット砲の制式化は2003年までずれ込むことになった。それに対して、当初案通りの開発を進めた航天科技一院では開発は比較的順調に進展し、2000年には中国精密機械進出口公司(CPMICE)によりA-100 300mm10連装ロケット・システムとして国際市場向けにその存在を公表[2]。さらに、2002年には評価試験と実地運用を兼ねて、広東省広州の第1砲兵師団への配備が開始された[2]。

しかし配備の翌年、弾箭武器研究所が開発した自走ロケット砲システムが、03式300mm12連装ロケット砲として中国軍に制式採用され、こちらが中国軍の主力大口径多連装ロケット砲として配備されることになったため、航天科技一院の96式300mm10連装自走ロケット砲の生産は少数で終了した[8]。

96式300mm10連装自走ロケット砲が、03式300mm12連装自走ロケット砲に敗れた原因の1つとしては、独自開発のロケットの飛翔制御システムの実用化に手間取ったことが挙げられる[8]。2004年までには問題の解消に漕ぎ着けたが、既に03式が制式化されたこともあり軍の決定を覆すには至らなかった[8]。

【性能】
96式自走ロケット砲は直径300mmの大型ロケット弾を10発搭載しており、その射程距離は標準型のA100-111型ロケット弾で40~80km、射程を延伸したA100-311型ロケット弾で60~120kmに達する[11]。ロケットの全長は7.267m、直径30cm、発射重量840kg(弾頭重量235kgの場合)。ロケット弾には200~250kgまでの各種弾頭を搭載可能で、集束子弾破片弾頭、対戦車/対人子弾収納弾頭等が用意されている。搭載弾頭は目標に対してそれぞれ最適のタイミングでばら撒かれるように設定されている。集束子弾破片弾頭は広域目標の打撃に使用され、約500個の子弾を内蔵している[2][9]。対戦車/対人子弾収納弾頭に搭載された約子弾は約50mmの装甲を貫通する能力を有しており、兵員殺傷半径は7m。ロケット1発で60~140平方メートルの区域を制圧可能[9]。200~250kgという弾頭重量はアメリカのMLRSに使われているロケット弾の弾頭重量のほぼ2倍にあたる。

ロケット弾は発射後回転して飛翔し、弾体後部に折り畳まれて収納されていたフィンを展開する事によって軌道を安定させる。ロケット弾には飛翔制御システムが内蔵されており、発射後3秒間に事前にプログラミングされた軌道と実際の軌道の偏差を検知し、ガスを噴射する事で軌道修正を行う。これにより命中精度は在来型無誘導ロケット弾の3倍に高まったとされる。これは96式の開発の手本となったスメルチにも採用されている技術であった。ただし、ロケット弾の飛翔制御装置は技術的に難度が高く、96式の初期量産型では無誘導型のロケットが使用されていた。飛翔制御システムの実用化に成功するのは2004年以降であり、これによって96式は設計通りの命中精度を確保できるようになった[8]。96式は搭載している全弾(10発)を60秒で撃ち尽くす事が出来る。再装填にかかる時間は約20分。

ロケット弾を搭載する8×8車輌は泰安特種車輌公司が開発したTAS-5380八輪大形トラックで、車体重量は21トン、最大積載量22トン。TAS-5380は八輪駆動により極めて良好なクロスカントリー性能を有しており、水深1.1mまでの渡渉能力を持つ。ロケット弾発射時に車体を安定させるため、両側面に4つの油圧ジャッキを装備している。車輪はパワーステアリングと、地形に合うように調整できる中央タイヤ圧制御システムを持っている。また射撃精度を増すためにGPS等の精密位置測定システムと環境センサーなどから成る射撃管制システムを装備している。航続距離は約650km。

96式自走ロケット砲の部隊編制は、ロケット弾10発を搭載した発射車輌6~9輌、再装填車輌6~9輌、指揮車、気象観測車から構成されるロケット砲連(中隊に相当)を最小単位としている[10][11]。指揮車は衛星航法支援システムと気象観測システム、統合射撃指揮・管制システムを搭載している。指揮統制は、まずロケット連隊の司令部が偵察部隊や上級司令部から敵情報を受けてコンピューターによって発射諸元を算出し、傘下のロケット大隊の即応状態、残弾量を見て目標破壊方法と投射弾量を決定する。この決定は通信回線を通じて大隊に送られ、大隊では自動気象測定システムからのデータを使って気象情報が準備される。大隊司令部は各中隊に攻撃目標の指定と各種データを伝達し、射撃開始の指示を行う。これらのやり取りは高度に自動化されており、衛星通信、デジタル通信で行われる。各中隊の自走ロケット砲は各種諸元を元にして90秒以内に射撃体勢を整える[9]。96式は、陣地展開から6分後には射撃が可能となり、ロケット発射後は敵砲兵の対砲兵射撃を避けるため3分以内に陣地から移動する[9]。一個ロケット砲中隊は、中隊射撃によって80発から120発のロケット弾を発射し、4万から6万発に上る子弾を敵陣に投射する事が可能[10]。

【不採用後の展開】
96式の中国軍への配備は限定的なもので終了したが、CPMIECは96式に「A-100(もしくはA100)」の輸出名称を付与して各国への売り込みを行っており、2007年にはパキスタンからの発注を得ることに成功した[5]。これは一個大隊規模の購入であり、評価試験を行った上で追加購入の可能性もあるとの事。パキスタンがA-100を購入したのは、隣国インドがロシアから9K58スメルチ多連装ロケットを調達することへの対抗措置である。その後、パキスタンでは中国との間でA-100のライセンス生産に向けた交渉を実施している事が報じられた[6]。「漢和防務評論」の取材によると、タンザニアも少数のA-100の調達を行ったとされる [7]。また、CASICでは、96式/A-100の技術をベースとして射程延長型のA-200 300mm8連装自走ロケット砲を開発している。

2010年3月には中国国内の防衛関連企業の再編に伴い、CASICと同じくCNSAの下部機関である中国航天科技集団公司(CASC)の傘下企業として、兵器の輸出を主な業務とする中国航天長征国際貿易有限公司(ALIT)が設立。CASICやCASCなどの各種兵器の輸出業務に携わることとなり、A-100についてもALITが各国への売込みを担当する様になった[12][13]。ただし、既に契約済みのユーザーについては引き続きCPMIECが担当することになっている[13]。
【参考資料】
[1]江畑謙介「中国にコピーされたロシア製多連装ロケット弾発射システム―最強の砲兵武器スメルシュ」(『軍事研究』2000年8月号/株ジャパン・ミリタリー・レビュー)110~122頁。
[2]Chinese Defense Today「A-100 300mm Multiple Launch Rocket System 」
[3]Kojii.net
[4]Jane's Defence Weekly
[5]UPI Asia.com「Pakistan imports Chinese rocket launchers 」(Andrei Chang/2008年9月25日)
[6]「巴基斯坦準備生産A100」(『漢和防務評論』2009年6月号/No.56)26頁
[7]「中国向坦桑尼亜出口A100多功能火箭炮」(『漢和防務評論』2009年6月号/No.56)46頁
[8]「遠火呼嘯、万鈞雷霆-我国遠程火箭炮発展全掲秘」(『全球防務叢書』第四巻 輔国号/内蒙古人民出版社)6~17頁
[9]MDC軍武狂人夢「A-100 300mm卡車底盤多管火箭系統」
[10]坦克與装甲車両「中国A-100式300mm自走火箭炮」
[11]腾讯网「A100远程多管火箭弹系列可有效覆盖地面目标」(2010年11月22日)
[12]平可夫「中国向泰国転移WS1B技術」(『漢和防務評論』2010年9月号/No.71)26頁
[13]平可夫「中国航天長征国際貿易有限公司正式亮相」(『漢和防務評論』2010年9月号/No.71)27頁

03式300mm12連装自走ロケット砲(PHL-03/AR-2)

▼自走ロケット発射機。


▼再装填車輌。

▼再装填作業中の写真。



■性能緒元
重量 43トン(自走ロケット発射機の全備重量)/19トン(シャーシのみの重量)
全長 11.43m
全幅 3.05m
全高 3.05m
エンジン V-3D12型ディーゼルエンジン 500馬力超
最高速度 65km/h
航続距離 650km
渡渉深度 1m
武装 300mm12連装ロケット発射機
ロケット全備重量 800kg
弾頭重量 280kg
射程 20~150km
乗員 4名
03式300mm12連装自走ロケット砲(PHL-03/AR-2)は、中国北方工業公司(NORINCO)と弾箭武器研究所により開発された大口径多連装ロケット・システム[1]。同システムは、ロシアのスパルフ研究生産共同体製の9K58スメルチの強い影響を受けて開発されている。

【開発経緯~新型大口径多連装ロケット砲の競争開発】
03式の開発は1980年代末にまでさかのぼる。1980年代中期、中国では西側諸国との関係改善により得られた各種技術をベースとして、西暦2000年前後の時期に必要とされる装備を開発する一連の計画が策定された[3]。陸上部隊の砲兵部門では、射程20km台の122mm榴弾砲、射程40km台の155mmカノン/榴弾砲、敵後方の打撃が可能な短距離弾道ミサイルの開発が重点目標として定められた[3]。これらの計画は、後に86式/96式122mm榴弾砲(W-86/PL-96/D-30)、PLL-01 155mm榴弾砲(WA-021)、DF-15短距離弾道ミサイル(東風15/M-9/CSS-6)、DF-11短距離弾道ミサイル(東風11/M-11/CSS-7)として結実することになる。この計画に対して、155mmカノン/榴弾砲と短距離弾道ミサイルの間が空白になっているとの指摘がなされた結果、新たに射程60km超の大口径多連装ロケット砲を開発することが計画に盛り込まれることになった[3]。

従来であれば、軍が提示した要求に基づき装備調達関連機関が開発を担当する機関・部署を指名して研究開発を実施させるトップダウン的開発手順を経るはずであったが、鄧小平による改革開放政策に伴い、兵器開発部門にも競争原理が導入され開発のスタイルは一新された[3]。具体的には、軍と装備調達部門は要求項目を提示、これに対して各研究開発部門が開発案を提案して有望と思われるものを試作させ評価試験を行った上で優秀な成果を収めたものを採用するという手法である。競争試作に敗れた装備についても、輸出向け装備として開発を継続させて国外での採用を目指すことが奨励された[3]。

数年間の準備期間を経て、1980年代末には新型大口径多連装ロケット砲の開発計画が正式に始動することになった。この開発計画に応じたのは、長年火砲開発に携わってきた東北127廠、四川航天科工七院(後の四川航天工業総公司)、通常兵器開発部門の弾箭武器研究所、中国航天科技集団第一研究院(別名中国遠載火箭技術研究院。以下では航天科技一院と略す)の四設計局であった[3]。

東北127廠ではは83式273mm4連装自走ロケット砲(WM-40)の開発経験を生かして、泰安8×8重野戦トラックに8連装発射機を搭載、合計8発の273mmロケット弾を搭載するという案を纏めた[3]。ロケット弾は装薬の改良によって最大射程80km超と、WM-40の倍以上の射程を確保することが目指されていた。

四川航天科工七院の案は、完全新規設計の口径302mm、射程100kmのロケットを開発するというものであった[3]。これを四連装ロケット発射機に搭載して鉄馬6×6野戦トラックに搭載するとされた。

弾箭武器研究所と航天科技一院では、各国の大口径多連装ロケットの動向を調査、特に注目されたのが、アメリカのM-270 227mm多連装ロケット・システム(MLRS)とソ連の9K58スメルチ多連装ロケット・システムであった。両者とも、今後の大口径多連装ロケット砲はロケット弾自体の誘導システムの高度化による命中精度の向上が不可欠になるとの分析結果に達した。そして、弾箭武器研究所と航天科技一院ではそれぞれ別個にソ連の9K58スメルチ多連装ロケット・システムに関する調査・分析を進め、スメルチを手本として誘導システムの高度化に重点を置いた大口径多連装ロケット・システムの設計案を提示するに至った[1]。

これら4つの開発案について各関係機関による検討が行われた。その結果、システムの将来性という点で、弾箭武器研究所と航天科技一院の案が高く評価され、両者に対して競争試作段階への移行が認められた[3]。不採用となった東北127廠と四川航天科工七院の開発案は輸出向け装備として開発が継続されることになり、東北127廠案はWM-80 273mm8連装自走ロケット砲、四川航天工業総公司案はWS-1 302mm4連装自走ロケット砲(衛士1)として実用化されることになる。

【冷戦終結後の状況変化】
弾箭武器研究所と航天科技一院の両案が競争試作に移行したが、これに大きな影響を与えることになったのは冷戦の終結と、それに伴うソ連/ロシアと中国との関係改善であった。中国はロシアの進んだ兵器技術を導入して中国軍の装備近代化を一挙に進める方針を採用し、ロシアから積極的に兵器の輸入や技術導入を進めるようになった[8]。1993年4月に締結されたロシアからの包括的な兵器輸入契約において、9K58スメルチ多連装ロケット・システムについても輸入許可を得ることに成功。1997年には、中国国営機器輸出入公司(CPMIEC)を通じて少数のスメルチとロケット弾をロシアから極秘裏に受け取っている[12]。

弾箭武器研究所と航天科技一院の開発案では、スメルチを参考にそれに相当する多連装ロケット・システムを開発する算段であったが、今やロシアから直接現物を調達し、技術支援を受ける形でスメルチを国産化することが可能となった。この状況を受けて、弾箭武器研究所では開発計画を大きく変更し、当初案をベースとしつつ、ロシアから得られた各種技術を盛り込んだ「中国版スメルチ」を開発するという方針を採用、これが後の03式300mm12連装ロケット砲として結実する[3]。

開発に先駆けて数年をかけてロシアから得られた各種技術の評価分析が進められ、1996年にはそれを踏まえた上での全規模開発に移行した。ロケット弾や射撃統制システムの開発は弾箭武器研究所が中心となり、シャーシの開発は湖北省の万山特種車輌製造廠が担当するとされた[3]。1999年にはシャーシとなるWS-2400八輪重機動トラックの試作車輌が完成。2001年には射撃統制システムの国産化作業が完了し、シャーシとロケット発射筒の組み合わせと射撃試験、指揮管制車輌など運用に必要とされる各種装備の開発が行われた。試作されたロケット砲システム一式は軍需工業監督機関と軍による評価試験を受けた後、2003年後半に「03式300毫米遠程火箭炮(PHL-03)」として制式化された[2]。なお、ロケットの簡易誘導システムを有している事から、「遠程弾道修正火箭炮」という名称も使用されている[9]。

弾箭武器研究所のロシアからの技術導入やそれを設計に反映させる作業はかなりの手間を要したことは間違いなく、03式300mm12連装ロケット砲の制式化には全規模開発開始時から数えても7年の歳月を要している。

これに対して航天科技一院は、進展中の多連装ロケット・システムの開発をそのまま継続することを主張した[8]。これは、開発中のロケットの慣性航法システムやロケット技術においてスメルチと遜色の無い性能を確保できるとの見通しがあったことが背景にあり、最終的に軍の了承を得ることに成功した[3]。開発に時間を要した弾箭武器研究所に対して、当初案通りに計画を進めた航天科技一院では開発は比較的順調に進展し、2000年には中国精密機械進出口公司(CPMICE)によりA-100 300mm10連装ロケット・システムとして国際市場向けにその存在を公表[12]。さらに、2002年には評価試験と実地運用を兼ねて、広東省広州の第1砲兵師団への配備が開始された[12]。

開発ペースでは先行していた96式300mm10連装自走ロケット砲(PHL-96/A-100)であったが、自主開発のロケット飛翔制御システムの実用化に手間取ったこともあり、最終的に中国軍の本格採用を勝ち取ったのは後発の03式自走ロケット砲であった[3]。

03式の中国軍への配備は、2004年から2005年にかけて開始された[2]。

【性能】
03式自走ロケット砲システムは、ロケット弾、自走ロケット発射機、再装填車輌、指揮車輌、気象観測レーダー車輌、観測車輌、通信車輌などから構成される[3]。

ロケット弾を搭載する自走ロケット発射機と再装填車輌は、万山特殊車輌製造廠製WS-2400八輪重機動トラックが使用される。WS-2400八輪重機動トラックは、万山特殊車輌製造廠がソ連のMAZ-543Mをリバースエンジニアリングして開発した大形野戦トラックで、シャーシのサイズは、全長11.43m、全幅3.05m、全高3.05m、車体重量19トン、最大積載量22トン。全備重量は、自走ロケット発射機の場合43トンに達するが、大出力のドイツ製ディーゼルエンジンを搭載し地形に合わせて空気圧を調整できる中央タイヤ圧制御システムなど装備することにより良好な野外機動性を有している。路上最高速度は65km/h。最大航続距離は650kmで、水深1mまでの徒渉水深能力が与えられている。

車体前方には乗員4名の乗員室が配置されており、後部にロケット発射機を搭載する荷台が配置。自走ロケット発射機は、車体後部に12連装のロケット発射筒を搭載しているが、発射筒の形状と配置は開発のベースとなったロシアのスメルチのそれを踏襲している。発射に際しては、第3、第4車輪の間に装備されたジャッキを接地させて車体を安定化させる方式を採用しているが、これもスメルチと同じ手法である[4]。

次弾装填用に自走ロケット発射機一輌につき再装填車輌一輌が用意される。前述の通り再装填車輌もWS-2400を使用しており、車体中央部にロケットの搭載・装填の際に使用する油気圧クレーンを装備、後部荷台に12発のロケット弾を搭載している[2]。12発のロケット弾の再装填に必要な時間は20分[5]。

03式自走ロケット砲のロケット弾は、重量800kg、直径300mmの固体燃料ロケット推進式の大型ロケット弾を採用している[3]。このロケット弾はベースとなったロシアのスメルチで採用されている内蔵式飛翔制御システムが搭載されており、在来型の無誘導ロケット弾よりも命中精度を高めている。ロケット弾は発射後回転しながら飛翔し、弾体後部に折り畳まれて収納されていたフィンを展開する事によって軌道を安定させる。飛翔制御システムは、発射後に事前にプログラミングされた軌道と実際の軌道の偏差を検知し、ガスを噴射する事で軌道修正を行う。開発元のNORINCOでは、ロケットの命中率向上のため、誘導システムにGPS/INSシステムを併用することで命中精度を大きく向上させる計画がある事を明らかにしている[6]。ただし、誘導システムの能力向上は必然的にロケット1発当たりの単価を上昇させる事に繋がるデメリットもあり、現時点では全てのロケット弾にGPS/INSシステムを組み込むことは行われていない[6]。唯一、最も射程の長いBRE3ロケット弾(最大射程150km)のみ、遠距離射撃の際の命中精度確保のためにGPS誘導システムが採用されている[10]。

03式自走ロケット砲には最大射程70km、130km、150kmと射程の異なるロケットが用意されている。この内、最も射程の長い150kmのBRE3ロケット弾は中国軍向けだけに製造されており、輸出向けで提供されるのは射程130kmのロケットまで[6]。弾頭についてはまだ情報が少ないが、BRE2高性能榴弾(射程130km)、BRE3対人子弾収納型(射程150km、GPS制御)、BRC3(射程70km)、BRE4対戦車子弾収納型の4種類の弾頭が公表されている[7][10]。このほかロシアのスメルチと同じく、遠距離目標の偵察を行うため、ロケット弾の弾頭に収納され、発射後にロケットから分離されて目標の偵察を行うUAV(unmanned aerial vehicle:無人機)も開発されている[11]。BRE3は623発、BRE4は414発の子弾を内蔵しているとされる[6]。ロケットの発射は単射、一斉発射の何れも可能。一斉発射の場合、03式は搭載している12発のロケットを38秒で撃ち尽くす事が出来る[7]。

03式自走ロケット砲の部隊編制は、ロケット弾12発を搭載した自走ロケット発射機4~6輌、再装填車輌4~6輌、指揮車から構成されるロケット砲連(中隊に相当)を最小単位としている[7]。運用では、事前に構築しておいた陣地に展開して射撃を行う方法と、臨時に展開して射撃を行う方法の二種類が存在する[7]。陣地展開時の射撃手法は、各自走ロケット発射機が指揮車輌や上級部隊からの指令を受けて陣地に展開。指揮車輌は、各自走ロケット発射機の展開位置と目標までの距離を元に各発射機に射撃諸元を伝達する。自走ロケット発射機はこの諸元を入力して、ロケットを発射。敵の対砲兵射撃がない状況では、陣地に展開したまま再装填車輌により予備ロケット弾を装填してもう一度斉射を行う。臨時に展開して射撃を行う場合は、指揮車輌や上級部隊から提供された目標の座標と上空の気象データを基にして、弾道計算機に自走ロケット発射機の位置、気象条件、ロケット推進剤の温度などの諸元を入力して照準をつけてロケットを発射する。一個ロケット砲中隊は、中隊一斉射撃によって96発から144発のロケット弾を発射し、最大2万平方キロメートルに及ぶ範囲を火制する事が可能[7]。

【配備の現状】
03式自走ロケット砲は、2004年から中国軍への配備が開始された。03式は集団軍の砲兵旅(師)、もしくは重師団の砲兵連隊に配備され、集団軍や重師団の直轄支援火力部隊として任務を執行することを想定しており、その長射程を生かして敵機甲部隊や砲兵の集結地、後方の司令部や補給地点への攻撃を主任務とする。これまでに広東軍区と南京軍区において03式を装備する二個ロケット砲団(連隊に相当)が編制されている[8]。

03式自走ロケット砲の配備は2007年になると一端中断されたという情報がある[3]。配備が進んでいない状況については、自走ロケット発射機が40トンという大重量で車体サイズも大形のため、輸送機による空中輸送は不可能であり、鉄道輸送も限界に近い大きさのため無蓋貨車での輸送には細心の注意を必要とし列車の速度も落とさざるを得ないなど戦略的機動性の面において問題があった。さらに、そのサイズは道路の走行時に取り回しに制限を生じ、野外走行可能な地形が限られてしまう事態を生じていた[3]。このほか、ロケット弾の再装填に20分と比較的時間を要するなど、運用面で表れた各種不具合の改善が要求された事が背景にあると指摘されている[3]。

2008年にはロケット発射機をモジュール化することで再装填に要する時間を短縮したAR-1A 300mm10連装自走ロケット砲や、より小型のシャーシにロケット発射機を搭載したAR-1 300mm8連装自走ロケット砲の存在が明らかにされており、03式自走ロケット砲の不具合を解消する新型自走ロケット砲の開発作業が行われていると見られる。ただし、AR-1/AR-1Aの中国軍での運用は2011年時点では確認されていない。

NORINCOは、03式自走ロケット砲を「AR-2」の名称で輸出向けに宣伝を行っており、2010年にはモロッコに対して一個営(連隊に相当)分のAR-2を輸出することに成功している、モロッコに輸出されたAR-2では、中国軍が使用している射程150Km、GPS制御のBRE3ロケット弾は提供されておらず、BRE2(射程130km)が最も射程が長いロケット弾となっている[10]。
【参考資料】
[1]Military-Today.com「PHL03 Multiple Launch Rocket System」
[2]Chinese Defense Today「PHL03 300mm Multiple Launch Rocket System」
[3]「遠火呼嘯、万鈞雷霆-我国遠程火箭炮発展全掲秘」(『全球防務叢書』第四巻 輔国号/内蒙古人民出版社)6~17頁
[4]江畑謙介「中国にコピーされたロシア製多連装ロケット弾発射システム―最強の砲兵武器スメルシュ」『軍事研究』2000年8月号(株ジャパン・ミリタリー・レビュー)110~122頁。
[5]中華網「外境尷尬:中国300毫米火箭炮被指存在厳重欠陥」(2009年7月21日)
[6]「SMERCH的強烈競争対手A100和AR1/2多管火箭炮」(『漢和防務評論』2009年10月号)52~58頁。
[7]西陸網「中国竜巻風—300MM口径PHL03火箭炮」(2009年2月4日)
[8]China Defense Blog「Confirm, PHL03 300MM MRL is in active service.」(2008年9月1日)
[9]新浪網-陸軍論壇「国産300mm遠程弾道修正火箭炮高調曝光」(2009年6月9日)
[10]「中国向摩洛哥提供AR2遠程火箭砲」(『漢和防務評論』2011年1月号)34頁
[11]中華網「中国300毫米远程火箭炮配备巡飞弹曝光」(2008年1月13日)
[12]Chinese Defense Today「A-100 300mm Multiple Launch Rocket System 」

89式122mm40連装自走ロケット砲

▼初期生産型

▼後期生産型



▼自動装填装置による弾薬装填


性能緒元
重量29.9トン
全長7.18m
全幅3.145m
全高3.18m
エンジンWR4B-12V150LB液冷ディーゼル 520hp
最高速度55km/h
航続距離450km
渡渉深度1.3m
武装122mm40連装ロケット砲×(80発)
 12.7mm重機関銃×1
俯仰角0~55度
左102度、右66度
乗員4名

性能緒元(81式122㎜ロケット弾)
重量46.3kg
全長2.873mm(榴弾)
 2.870mm(対人用破片榴弾)
直径122mm
弾頭重量約20kg(榴弾)
初速50.7m/s
最高飛行速度692m/s
射程20~30km

89式122mm40連装自走ロケット砲(PHZ-89)は装軌式の自走ロケット砲で1990年から中国軍に就役した。販売は北方工業集団公司(NORINCO)が担当し、生産はハルピンの第一機械廠(674工廠)と湖北江山機械廠(5137工廠)で行われた。89式の開発は、1980年代初めから開始された。開発は、674工廠と5137工廠、207研究所による共同開発が行われた。当初は輸出向けの装備として開発され、設計は1985年に完了したが、顧客を得ることが出来ずに生産には移らなかった。幸い、翌年中国軍が次世代の装甲多連装自走ロケットとして採用を決定したことで開発作業を再開することが出来た。中国軍は、開発陣に対して、ロケットの次発装填装置の開発、自衛用の12.7mm機関銃の装備、エンジン音低減などの改良要求を行った。これらの要求を盛り込んだ試作車両は1987年2月に完成。3万キロに及ぶ走行試験やロケット弾707発を発射した射撃試験を経て、1988年2月にPHZ-89として制式採用され同時に量産が許可された。

89式の車体は83式152mm自走榴弾砲89式120mm自走対戦車砲と同じ321型共通車体を使用している。トラックを使用した自走ロケットと異なり装軌式装甲車両を使用していることで、戦車部隊に追随できる機動力と一定の防御力を実現し、ある程度脅威度の高い地域での運用も可能になっている。エンジンは59式中戦車と同じWR4B-12V150LB液冷ディーゼル(520hp)を搭載しており、最高速度は55km/h。乗員は5名で、車体前方右部に操縦手が、残りの4名は車体後部に搭乗している。車内にはNBC防護が施されている。射撃諸元はコンピューター化された火器管制システムでコントロールされる。指揮車両から自動的に目標の諸元を得ることが可能であるが、個別に諸元を算定して入力することも出来る。ロケット発射機の前には予備ロケット弾40発を積んだ自動式再装填装置があり、これを使用して3分で完全に再装填作業を終わらせる事が出来る。ロケット砲のほかに、自衛用としてロケット発射機左側の装甲ボックス上部に12.7mm重機関銃1門を装備している(前期生産型には装備されていない)。

81式122㎜ロケット弾は厚さ2.2mmの発射管に搭載され、発射機は10列4段になっている。使用可能なロケット弾は、81式122㎜ロケット弾と射程延伸型の81-I式122㎜ロケット弾が用意されているが、そのほかにも地雷散布型など多種多様なロケットが開発されている。また、開発のモデルとなったソ連の122mmロケット弾の運用も可能。最大射程は81式が20km、81-I式が30kmとされている。ロケット尾部には折り畳み式の安定翼4枚を装備している。安定翼はロケットの軸線に対して1度傾いており、発射後は旋転して弾道を安定させる。弾頭には榴弾と対人用破片榴弾等の種類がある。発射方式は単発、バースト連射、一斉発射の3種類があり、一斉発射に要する時間は20秒

89式自走ロケット砲は、70式130mm19連装自走ロケット砲の後継として装甲師団の自走ロケット砲大隊に配備された。他に、アルメニア(4両。疑問あり)、スーダン(18両)、バングラデシュ(42両)への輸出が行われている。

派生型としては、四川航天工業総公司(Sichuan Aerospace Industry Corporation:SCAIC)が89式とほぼ同型の自走ロケット砲に衛士-6(WS-6)の名称を与えており、中国精密機械進出口総公司(China Precision Machinery Import-Export Corporation:CPMIEC)が輸出向けに宣伝を行っている。89式とWS-6の関係については不明な点が多いのが現状である。

【参考史料】
Jane's Armour and Artillery 2006-2007 (Jane's Information Group)
Chinese Defence Today
新浪網「解密中国PHZ89式122毫米40管自行火箭炮(図)」
戦車研究室

【関連項目】
83式152mm自走榴弾砲
89式120mm自走対戦車砲(PTZ-89)

新型装軌式122mm40連装自走ロケット砲

▼2009年に撮影された新型装軌式122mm40連装自走ロケット砲の試作車両

▼北京軍区の部隊に配備された新型装軌式122mm40連装自走ロケット砲


新型装軌式122mm40連装自走ロケット砲は、89式122mm40連装自走ロケット砲(PHZ-89)の後継として開発されたと推測される中国最新の装軌式
自走多連装ロケット砲。

2009年頃から路上走行試験の様子が撮影され存在自体は知られていたが[1]、その時点ではこの車輌がどのような意図を持って開発されたのかは不明であった。2013年9月になって軍事・農業番組を取り扱うCCTV7の報道で、北京軍区の部隊での配備が行われているのが判明した[2]。同車に関する情報は乏しく、開発経緯や制式名称の有無などは明らかにされていない。


中国のインターネット上では「新型122毫米模块化自行火箭炮」(新型122mmモジュール化自走ロケット砲)と呼称されており、PHL-10/PHL-12などの制式名も挙がっているが真相は不明(PHLは「炮」「火箭」「履帯式」のそれぞれの中国語発音の頭文字に由来すると思われる)[3]。

【性能】
型式不明の装軌式シャーシの最前方に乗員が乗車する装甲キャブを配置、荷台後方に多連装ロケット砲一基を配置している。シャーシの形状や転輪の配置、履帯の形状などから、07式35mm自走高射機関砲(PGZ-07)のシャーシとの類似性が認められるので、同車のシャーシ設計を基礎にして開発された可能性が考えられる。

キャビンには2分割式前方視認窓が設置されており操縦手は良好な視野を得る事が出来る。操縦手用ハッチを開放するかペリスコープで外部視認しながら操縦していた89式122mm40連装自走ロケット砲に比べて操縦手の負担は少なくなったといえる。これは本車が後方からの火力支援任務が主で、最前線での運用を想定していないことを前提として、防弾性能よりも乗員の負担軽減を意図した設計方針を採っている事をうかがわせる。この種の自走ロケット砲の場合、ロケット弾の火炎避けに窓を覆う装甲カバーをつけている車輌も多いが、本車は、キャビンとロケット砲の距離が離れておりロケット炎の影響が少ないためか、ロケット発射の際にも視認窓はそのままで防炎カバーは装備されない。車体中央部左側にエンジンの排気口が存在するので、動力系統はキャブの後方に搭載されていると思われる。

荷台後方に搭載された122mmロケット砲は、20連装のランチチューブを一組としたコンテナ2基を搭載。再装填の際には、ランチャーにロケット弾を装填するのではなくコンテナ一式を換装する事で、多連装ロケット砲の問題点である装填時間の長さを解消しているものと考えられる。射撃統制システムなどに関する情報は明らかになっていないが、89式122mm40連装自走ロケット砲の制式化から20年を経て開発された車輌である事から、最新のシステムが盛り込まれており、同じ122mm多連装ロケット砲でもその戦闘能力は大きく向上していることが想定されている[4]。

【展望】
中国軍では、新型装軌式122mm40連装自走ロケット砲を89式122mm40連装自走ロケット砲の後継車輌として装甲師/旅(師団と旅団に相当)の自走ロケット砲大隊に配備するものと思われる。本車が採用された事で、中国軍では89式に代わる師/旅級多連装ロケットの口径についても122mmを維持する事が明らかになったと言える。

【参考資料】
[1]新浪網「解放军59小改的122火箭炮新图再流出」(2009年4月11日)
[2]新浪網「北京军区实战大演习最新型履带火箭炮威力强大」
[3]新華網「组图:中国新型模块化自行火箭炮亮相」(2013年10月4日)
[4]114軍事網「中国履带式模块化火箭炮是首次采用模块布局」(2013年10月3日)

70式/85式130mm自走ロケット砲(WZ-303/YW-306)

▼70式130mm19連装自走ロケット砲(WZ-303)



▼85式130mm30連装自走ロケット砲(YW-306)


70式130mm自走ロケット砲は63式装甲兵員輸送車をベースに19連装のロケット発射機を搭載した中国最初の自走ロケット砲で、機械化歩兵連隊砲兵大隊の自走ロケット砲中隊(6輌編制)に配備されている。70式自走ロケット砲は1979年の中国-ベトナム紛争に投入され大きな戦果をあげたが、現在は後継の85式自走ロケット砲に代替されている。

85式130mm自走ロケット砲は85式装甲兵員輸送車をベースに30連装のロケット発射機を搭載した中国第二世代の自走ロケット砲で、70式自走ロケット砲の後継として開発された。

【参考資料】
Chinese Defence Today

83式273mm4連装自走ロケット砲(WM-40)


▼83式の273mmロケット弾


性能緒元(自走発射機)
重量15,134kg(空虚重量)、17,541kg(全備重量)
全長6,190mm
全幅2,600mm
全高3,180mm
エンジン12150L-1 V-12 四サイクル水冷ディーゼル(295hp)
最高速度45km/h(路上)、30~35km/h(野外)
航続距離400km
武装273mm4連装ロケット発射機×1
発射機旋回範囲左右各10度
発射機俯仰角5.5度~56度
乗員5名

性能緒元(273mmロケット弾)
ロケット重量484kg
ロケット全長4,520mm
ロケット直径273mm
弾頭重量134kg
弾頭種類榴弾
推進装置固体燃料ロケットモーター
初速39m/s
最大飛翔速度810.9m/s
射程23~40km

83式273mm4連装自走ロケット砲(輸出名称:WM-40)は、中国最初の大口径多用途戦術ロケットシステムである。開発を担当したのは123廠と東北127廠[1][2]である。なお、東北127廠は後に中国北方工業公司(NORINCO)の傘下に入っている。

【開発の経緯】
83式の開発は1960年にまで溯る。1958年、中国軍と台湾軍との間で大規模な砲撃戦が行われた金門島事件において、中国軍砲兵部隊の主力装備であった130mmカノン砲は射程こそ長かったものの低伸弾道のため、反射面陣地に展開した台湾軍に対して有効な打撃を与えることが出来なかった。また、多くの火砲は威力、発射速度が十分でなく、単位時間当たりの制圧面積には限界があることも明らかになっていた[1][3]。

金門島砲撃の戦訓を受けて、中国軍では長射程、大威力で命中精度の高いロケット砲を実用化することを決定[1]。1960年の年末には長射程ロケット砲の研究開発が各関係機関により正式に承認され、同時に口径273mm、射程40kmといった具体的な目標数値も提示された[1]。これに応じて開発陣では、60式中型装軌式牽引車をシャーシとして、車体後部に6連装発射筒を搭載するという開発案を策定、砲兵科の承認を得ることに成功した。1965年には試製車両4輌が完成、各種試験を経た上で部隊での実地試験に供された。試製車両に搭載されたロケット弾は、尾部に装着された安定翼により飛翔中の弾道を安定させる翼安定式を採用していた[1]。1965年から66年にかけて実施された部隊での運用試験では、ロケット弾の命中精度が十分でなく散布界が大きすぎるとの指摘がなされていたが、同時期に勃発した文化大革命の余波を受けて開発作業は一時停止となってしまう[1]。

1969年には中露両国の間で国境紛争が頻発、ソ連軍への対応が中国軍にとって最も重要な目標として浮かび上がってきた。中国軍の装備開発部門では、ソ連軍に対抗可能な兵器の開発を行うことを決定。陸軍の砲兵科においてもソ連軍の強力な砲兵戦力に対抗するため装備の近代化を進めることとなり、その重点項目の1つとして長射程ロケット砲の開発作業が再開されることになった[1]。開発中止前の試験において問題となっていた低い命中精度を改善することが最優先課題とされた。当時の中国の技術水準では、長射程と高い命中精度を両立させることは困難であるとの分析がなされたことから、開発の重点を命中精度の向上として、最大射程については要求値を30kmに低下させることで開発の負担を軽減する措置が取られた[1]。

開発陣では命中精度不良に関する調査を進めた結果、2つの原因を突き止めた[1]。1つは、安定翼による弾道安定が不十分なため、ロケットの飛翔コースに影響を与えていたことであった。そしてもう1つの原因は、ロケットの推進装置にあった。273mmロケット弾の推進装置は固体燃料ロケットモーターであったが、これは63式130mmロケット弾の推進装置と装薬を流用したものであった。しかし大型化されたロケットモーターの中で搭載された装薬が均一に燃焼しない現象が発生しており、これが飛翔中の安定性に悪影響を与えていたことが明らかになった。この問題に対して、開発陣では2つの対策を講じて問題の解決に成功した。まず、安定翼に加えてロケットモーターに改良を加えて、ロケット弾を旋回させながら飛翔させることで弾道を安定させる措置を取った。装薬の燃焼不良については、燃焼性質が異なる数種類の装薬をロケットモーターに搭載することで燃焼不良の改善には成功した。しかし、装薬を変更したため固体燃料搭載部の強度不足が生じ、さらにロケットの長期保存に問題が発生する等のトラブルが相次いだため、開発作業は再度の中断を余儀なくされた[1]。

1974年、砲兵科の関係部署と軍事工業部門による長射程ロケット砲に関する合同会議が開催され、最終的に開発を継続することが合意された。同時に要求性能の見直しも行われ、下記のような要求変更が行われた[1]。
最大射程を再び40kmとする
ロケットの搭載数を6発から4発に削減
シャーシを60-Ⅰ式中型履帯式牽引車に変更
命中精度の更なる向上

改定された要求項目に基づいて試製車輌が製造され1974年から78年にかけて四回のロケット発射試験を実施、軍の要求項目を満たす成果を得ることに成功した。開発陣では、システムの自動化を進めるなどの改良を行い、1981年6月には、制式化に向けた発射試験に漕ぎ着けた。試験では様々な条件でのロケット発射が行われたが、高温下でのロケット発射の際、ロケットの飛翔コースがばらつく現象が発生。これを受けて制式化試験は中断され、原因究明に向けた検証が進められた。その結果、気温が高い状態では装薬の燃焼が通常よりも激しくなり、ロケット発射機のレールの形状が各発射機で異なることもあって、発射後のロケットの飛翔コースにずれが生じ散布界が広がってしまったことが判明した。これに対処するため、ロケットモーターに改良を加えると共に、レール式発射機を新設計の箱型発射機に変更し、発射後に飛翔コースのばらつきが生じないようにする措置が取られた[1][4]。1982年8月に実施された試験では、合計90発以上のロケット弾の発射試験を行い、飛翔コースの不安定が解消され命中精度は軍の要求値を超える良好な精度を実現していることが証明された[1]。1984年5月、関係機関によって設計案が最終的な承認を受け、「83式273毫米遠程火箭炮」として制式化された[1]。

83式の開発は文化大革命による混乱や各種トラブルの解決に時間がかかったことにより、24年間という歳月を要することになった[1]。その間の国際情勢の変化に伴い、ソ連や台湾向けに長射程ロケット砲を配備する必要性は減少していた[1]。さらに、開発に時間を要したことにより、83式が制式化された時点ではその性能は各国の同クラスの装備と比較して時代遅れなものになっていた[1][3]。

1984年5月から部隊への配備が開始された83式であるが[3]、軍の評価は高いものではなかった。83式の性能や技術的水準はすでに陳腐化しており、弾頭が榴弾しか存在せず、ロケットの搭載数が少ない。各種装置の自動化が十分でなく、再装填作業に手間がかかり、シャーシの走行性能も十分では無いなどの問題点が指摘されていた[3]。結果として83式の配備は限定的なものに留まり、1988年には生産を終了した[3]。

83式は、既に中国軍の第一線部隊からは姿を消しているとされる[3]。なお中国軍の演習において、83式のロケット弾を敵の弾道ミサイルに見立てて、防空部隊の訓練を行っていることが伝えられている[3]。

【性能】
83式は軍区の独立砲兵師団に配備され、その長射程(40km)を活かして敵機甲部隊や砲兵の集結地、後方の司令部や補給地点への攻撃を実施することを主要な任務とする。

83式のシャーシは野砲の牽引用に開発された60-Ⅰ式中型履帯式牽引車を使用している。自走発射機の空虚重量は15.134t、全備重量は17.541t。12150L-1 V-12四サイクル水冷ディーゼルエンジン(295hp)を搭載し、最高速度は路上で45km/h(路上)、不整地では30~35km/h。航続距離は400km[2]。

車体後部には273mmロケットの4連装箱型発射機が搭載されている。発射機の仰角/射界調整動作は電動で行われるが、細かい調整は手動で行なう必要がある。発射機の仰角は5.5~56度、左右射界は各10度。車体後部には油圧式スタビライザー2基が装備されており、射撃時にはスタビライザーを地面に接地させて車体を安定化させる[2]。陣地に展開後、発射までに要する時間は3~4分[3]。4発全てのロケット弾発射に必要な時間は7.5秒[2]。

83式の273mmロケット弾の主なスペックは全長4,520mm、直径273mm、全備重量484kg、弾頭重量134kg。最高速度810.9m/秒。弾頭の種類は榴弾のみ。ロケット弾は弾体を旋回させながら飛翔することで、尾部の安定翼と共に弾道を安定化させる。各自走発射機には、SX-250野戦トラックをベースとした弾薬輸送車が用意されている[3]。弾薬輸送車には4発のロケットが搭載されており、備え付けのクレーンを利用してロケット弾の再装填が行われるが、発射機への装填では人力を使用する[3]。再装填に要する時間は5~8分とされる[3]。

83式の派生型としては、273mmロケットを元にして標的用ロケットが開発されて、防空兵器の試験に使用された[1]。

【参考資料】
[1]「遠火呼嘯、万鈞雷霆-我国遠程火箭炮発展全掲秘」(『全球防務叢書』第四巻 輔国号/内蒙古人民出版社)6~17頁 
[2]「NORINCO 273mm(4-round) Type 83 multiple rocket system」(『Jane's Armour and Artillery 2006-2007』)906頁
[3]軍武狂人夢「83式273mm履帶底盤多管火箭車」
[4]中国武器大全「83式273mm履带式自行火箭炮」

2014年11月8日土曜日

89式60mm迫撃砲(PP-89)

▼89式と、携行時の状態。



性能緒元
口径60.75mm
全長
全幅
全高
全備重量14.3kg(照準器含まず)
砲身重量 
砲架重量 
照準器重量 
砲弾重量1.2kg(榴弾)
有効殺傷範囲15m(榴弾)
砲弾種類高性能榴弾、煙幕弾、照明弾など。
最大発射速度30発/分
砲口初速329m/s
最大射程2,672m
最小射程117m
上下射角45-82度
要員5名程度

89式60mm迫撃砲(PP-89)は、中国第2世代の60mm迫撃砲で、歩兵連(歩兵中隊に相当)の迫撃砲排(小隊)に配備される。開発は1983年に開始され、1987年には試験的にヴェトナム国境での紛争に投入されている。各種の改良を加えた上で、1989年に制式化された。

89式は、砲身部、砲架、砲床、照準器で構成されている。搬送時には砲身部(砲架と結合)、砲床、照準器に分離して歩兵により携行輸送されるが、1名での携行も可能。操作要員は5名程度。砲弾重量は1.2kg(榴弾)で、有効殺傷範囲は15m。最大発射速度は30発/分。

89式は、60mm迫撃砲としては標準的な性能で、軽量で命中精度も良い迫撃砲であると評価されている。ただし、各国の新型60mm迫撃砲と比べると射程や設計の合理性などの面での見劣りも指摘される。

【参考資料】
Chinese Defence Today 
中国武器大全
「PF89式60毫米迫撃砲」

93式60mm迫撃砲(PP-93)


▼搬送時の状態。左から、砲身、砲床、脚部、砲弾ケース。

▼93式の射撃と着弾。(C)CCTV7



性能緒元
口径60.75mm
全長
全幅
全高
全備重量22.4kg
砲身重量9.4kg
砲架重量5.8kg
照準器重量0.48kg
砲弾重量2.18kg(榴弾)
有効殺傷範囲17.8m(榴弾)
砲弾種類高性能榴弾、煙幕弾、照明弾など。
最大発射速度20発/分
砲口初速329m/s
最大射程5,564m
上下射角45-85度
左右射角360度
要員5~7名

93式60mm迫撃砲(PP-93)は、山岳歩兵、空挺部隊、海軍陸戦隊、快速反応部隊など重装備を持てない歩兵部隊の直協火器として開発された。開発に際しては、軽量化と出来る限りの射程延伸と威力向上を両立する事が図られ、軽合金を多用する事で砲身長を伸ばしつつ重量軽減を実現した。最大射程は5,564mと、同時期に開発された89式60mm迫撃砲(PP-89)の2.700mを大きく超える事に成功し、1クラス上の81mm迫撃砲に匹敵する射程を確保した。

93式は、通常は砲身と砲床、脚部を分離して搬送するが、緊急時には歩兵1名での搬送が可能。砲身と砲床の組み立てが間に合わない場合には砲身のみを地面に設置させて射撃を行うこともできる。重量は2.18kg(榴弾)で、有効殺傷範囲は17.8m。榴弾には金属玉が多数組み込まれており、殺傷能力を強化している。信管の信頼性の向上も図られており、山地や水面、瓦礫の上に着弾しても100%の着発率を実現した。

93式は歩兵連(歩兵中隊に相当)の迫撃砲排(小隊)に配備される。軽量で長射程、全周囲射撃が可能であることから、最大射程での制圧射撃や最小射程での随伴射撃など戦況に応じて柔軟な火力支援を行うことが出来る。

【参考資料】
Chinese Defence Today 
中国武器大全