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2021年12月22日水曜日

072型戦車揚陸艦(ユカン型/玉坎型)

 072型戦車揚陸艦は1978年に一番艦が就役した中国国産のLST型揚陸艦で、072-II型は072型に所定の設計変更を施した改良型。中国ではそれぞれ「072型」、「072-II型」と異なる型式名が付与されているが、西側では変更箇所が少ないため同型艦と判断され両級ともに「Yukan class」の識別名が付与されている[5][8]。本稿では、これを踏まえた上で、同じ頁で両級の紹介を行う。なお、072型は、072-II型の就役後は「072-I型」と表記される場合もある。


【開発経緯】
中国海軍は1975年「072型大型坦克登陸艦」と命名した大型戦車揚陸艦の設計要求を策定した。この要求では、新型揚陸艦はビーチング時の搭載能力450トン、最高速度20ktsという性能が求められた。中国海軍は中華民国海軍から捕獲、移籍した二次大戦型のLSTを多数保有していたが、これらのLSTは海岸に直接ビーチングしてバウ・ドアを開きランプ(道板)を下ろして車輌を上陸させる揚陸方式である事から、抵抗の大きい肥えた艦首形状にならざるを得ず、最高速度は10~12ktsに留まっていた。新型揚陸艦の要求では特に速度性能の改善が強く求められていた[7]。当時の中国ではこの種の大型揚陸艦の設計経験は無く、設計に際してはアメリカ製の二次大戦型LSTを参考にしつつ、試行錯誤しながら作業を進めざるを得なかった。設計期間は4年間に及び、さまざまな方向からの検討が行われた。最終的に速度発揮に有利なように船体長/幅比の大きな船体として、波切り性の良い鋭く傾斜した艦首部を採用することで20ktsの速力を発揮する目処が立った[7]。

一番艦「雲台山」は1976年11月に上海の中華造船廠で起工し、1977年10月19日に進水、1978年1月19日に竣工、11月に就役した。公試では設計速度を上回る最高速度20.8Ktsを記録している。就役後の評価としては良好な速力性能、操縦性、耐波性を有し、揚陸機能も効率の良い艦であるとの好評を得ている[7]。072型は海軍から高い評価を得ることに成功し、その後の中国海軍のLSTは本級をベースにして発展していくことになった。当初072/072-II型は合計14隻を建造する予定であったが、程なくして072型の改良型(後の072-III型戦車揚陸艦)の建造を行う方針が採用されたため、072/072-II型の調達は7隻で終了する事になった[8]。

【性能】
072型のスペックは以下の通り。基準排水量3,172t、満載排水量4,170t。全長120m、全幅15.3m。主機は12E390ディーゼル(9,600馬力)2基、推進軸は2軸、最高速力20kts、航続距離は14ktsで3,000nm。乗員は133名。
艦の前後にランプが設置されており、艦内の車両甲板は全通式[4]。バウ・ドア、艦首と艦尾の揚陸用ランプの操作には油気圧式を採用しており、良好な操作性を発揮している。上陸に際しては海岸にビーチングしバウ・ドアを開いて17mの折畳み式ランプ(最大荷重50t)を展開、車輌を上陸させる。また海上でバウ・ドアを開き水陸両用戦車や装甲兵員輸送車を発進させることも可能。艦後部のランプは耐荷重制限は前部ランプの半分以下の20tであり、水陸両用戦車などの展開に使用する[3]。機関出力も従来の艦よりも強化されているため、ビーチングや海岸からの離脱に際しても有利である[7]。揚陸作戦での搭載量は500t。1個戦車中隊(59式戦車11両、指揮車+装甲回収車各1両、乗員60名)、もしくは小型揚陸艇2隻と完全武装の歩兵1個中隊(150名)、あるいは歩兵1個大隊(800名)と105mm無反動砲搭四輪駆動車11~12両の搭載が可能。072型の貨物面積は750平方メートルあり、ビーチングの際の積載量は500トンに制限されているが、物資輸送任務に使用する際には最大2,000tの積載能力がある[7]。

072型と072-II型の最大の相違点は、その兵装である[5][9]。072型は66式57mm連装機関砲4基、61式25mm連装機関砲4~6基という比較的強力な近接火器を搭載している。これに対して、072-II型では、66式57mm連装機関砲を艦首部の1基に減らし25mm機関砲は全廃、新たに61式37mm連装機関砲3基(艦橋直前に2基、煙突後方に1基を配置)を搭載している。対空戦闘においてはこれらの艦載火器のほかに、乗員が携行式SAMを使用することも想定されている。

【比較】
▼57mm機関砲4基(艦首部に1基、艦橋直前に2基、煙突直後に1基)と25mm機関砲4基(車輌甲板両舷に各1基、艦橋直後のマストを挟んで各1基)を装備した072型2番艦の#928「五峰山」


▼57mm機関砲1基(艦首)、37mm機関砲3基(艦橋前後に3基)を装備した072-II型4番艦の#933「六盤山」


072/072-II型は、その物資搭載能力やビーチング可能な特性を生かして、南シナ海の島嶼部、環礁への補給活動や、環礁を埋め立てて基地を造成する工事の支援任務に当たっている[10]。1988年3月14日にヴェトナム海軍との間で行われた戦闘の際には、その充実した火砲を生かして「火力支援艦」として運用された[10]。

2010年代に入ると、南シナ海での領海をめぐる緊張の高まりを受けて領海警備活動に当たる海警の増強策として、072-II型2隻が海軍から海警に移管され、「拖25」、「警医01」と改称して運用が行われている[10]。平時は、島嶼部基地への補給や人員輸送、環礁の埋め立て造成工事の支援、医療任務などに従事するが、両船とも兵装は維持されており、領海警備任務に当たることも可能[10]。海軍では就役から30年以上が経って旧式化が進んでいた072型の退役を検討していたが、艦内のスペースが豊富で、遠浅の海域への輸送任務に適している特性を見込んで、運用継続を決定。2014年3月には、南沙/スプラトリー諸島で進行中の環礁埋め立て工事の支援を行うため、南海艦隊所属の072型3隻が25日間で改修を受けた上で支援任務に投入されている[11]。

072型の1番艦 #927「雲台山」と3番艦 #929「紫金山」は、専用輸送艦に類別変更され、25mm連装機関砲以外の兵装を撤去、艦橋直前に大型クレーン2基を搭載するなどの改修を受けて、主に南シナ海での基地造成の支援任務に当たっている。大型クレーンを搭載したことから、重量のある鉄骨やコンクリートブロックなど建設資材の輸送に用いられていると推測されている[10]。

性能緒元
基準排水量3,172t
満載排水量4,170t
全長120.0m
全幅15.3m
主機12E390ディーゼル(9,600馬力)2基、2軸
速力20kts
航続距離3,000nm/14kts
乗員133名

【搭載部隊】
揚陸艇724型エアクッション揚陸艇2隻
 小型揚陸艇2隻
搭載量500t(揚陸作戦)、2,000t(物資輸送)
戦車59式戦車63A式水陸両用戦車など10輌
揚陸兵員1個中隊150名(揚陸艇2隻)
 1個大隊800名+105mm無反動砲搭四輪駆動車11~12両

【兵装】
近接防御66式57mm連装機関砲4基(#927~929)
近接防御66式57mm連装機関砲1基(#930~933)
近接防御61式37mm連装機関砲3基(#930~933)
近接防御61式25mm連装機関砲4~6基(#927~929)

【電子装備】
航海レーダー753型2基

同型艦
【072型】
1番艦927雲台山Wufengshan上海中華造船廠で建造。1978年就役。専用輸送艦に任務変更。2020年7月7日退役[12]。東海艦隊所属
2番艦928五峰山Wufengshan上海中華造船廠で建造。1980年就役東海艦隊所属
3番艦929紫金山Zijinshan上海中華造船廠で建造。1982年就役。専用輸送艦に任務変更。2020年7月7日退役[12]。東海艦隊所属
【072-II型】
1番艦930霊岩山Lingyanshan上海中華造船廠で建造。東海艦隊所属
2番艦931洞庭山Dongtingshan上海中華造船廠で建造。東海艦隊所属
3番艦932賀蘭山Helanshan上海中華造船廠で建造。東海艦隊所属
4番艦933六盤山Liupanshan上海中華造船廠で建造。1995年就役東海艦隊所属
注1 072-II型の内、2隻は海警に移管され「拖25」、「警医01」と改称している。
注2 072/072-II型の複数艦が南海艦隊に移籍した可能性あり

▼艦後部のランプから突撃ボートを発進させた#930「霊岩山」

▼072型の車輌搭載甲板。左は77式水陸両用装甲兵員輸送車(WZ-511)を搭載、右は突撃ボートを搭載

▼専用輸送艦に改装された #927「雲台山」


【参考資料】
[1]世界の艦船1月号増刊 アメリカ揚陸艦史(2007.NO.669)(2007年1月/海人社)
[2]世界の艦船別冊 中国/台湾海軍ハンドブック 改定第2版(2003年4月/海人社)
[3]世界の艦船1月号増刊 世界の揚陸艦(2009.1/NO.701)(2009年1月/海人社)94頁
[4]Chinese Defence Today「Type 072 (Yukan Class) Large Landing Ship」
[5]中国武器大全「玉康級(072)坦克登陸艦」
[6]中国武器大全「攻撃地平線:中国海軍的大型両栖戦艦(一)」
[7]中国武器大全「詳解中国海軍072型両棲登陸艦」
[8]軍武狂人夢「玉坎級大型戰車登陸艦」
[9]東方網-軍事「072基本型“玉康”級登陸艦」
[10]何勁松「”老当新用”試析拖25船・警医01船・929号運輸艦的改装意義」(『現代艦船』2014-11A号/《現代艦船》雑誌社)46~52ページ
[11]观察者「中国海警装备新拖船“拖25号” 由坦克登陆舰改装」(2014年5月27日)
[12]澎湃新闻「海军鄱阳湖舰、云台山舰、紫金山舰退役」(2020年7月8日)https://www.thepaper.cn/newsDetail_forward_8177363(2020年7月10日閲覧)

2015年1月8日木曜日

032型弾道ミサイル潜水艦(チン型/清型)



032型弾道ミサイル潜水艦(032型試験潜艇/NATOコード名はQING CLASS)は潜水艦で使用するための各種兵器の試験を行うために建造された通常動力潜水艦であり、2010年9月にその存在が明らかになった[1][2][8]。建造は中国船舶重工業集団公司の武漢造船廠で行われた[1]。武漢造船所では039A型通常動力潜水艦の量産を行っているが、新型潜水艦はこれと並行して建造が進められた[2]。2005年1月に研究開発作業に着手、2008年1月に建造開始、2010年9月18日に進水、2012年9月から洋上公試を開始、2012年10月16日に海軍に編入されている[2][9]。

【船体】
新型潜水艦の外観からはロシアの877/636型(キロ型)や677型(ラーダ型)潜水艦の影響が窺える[1][3]。船体長に比べて広い艦幅を有する艦形、浮上時の乾舷の高さ、艦中央に配置された大型セイル、格納式の水平舵はキロ型に、太い船殻や艦尾に向って傾斜した部分、船尾の十字舵はラーダ型に似ている[1]。ただし、セイル基部には流体力学を考慮したとおぼしきフィレットが付けられているのはキロ/ラーダ型とは異なる[1]。キロ型やラーダ型を設計したロシアのルビン海洋工学中央設計局が設計に協力した可能性もあるが、同設計局は中国との関係について明言を避けており、技術協力の有無は現時点では不明[1]。

衛星写真などから新型潜水艦の全長は039A型よりも20m程度長いと判断され、通常動力潜水艦としてはかなり大型の艦であることが窺えた[4]。その後明らかになった情報によると、032型潜水艦は水上排水量3,797t、水中排水量6,628tと現役の通常動力潜水艦としては世界最大の潜水艦である事が判明した[2]。その他のサイズは、全長92.6m、艦幅10m(セイルの幅を加えると13m)、喫水6.85m,艦の最大高度17.2m[2]。

船型は涙滴型だが、比較的太目の船体にフラットな上構がかなり広く取られていることから艦内スペースの確保を重視していると見られる[5]。写真からは艦首部に数門の魚雷発射管があることが確認できるが、その配置は前型039A型とは異なっており具体的な魚雷発射管の門数については不明。近年建造された中国海軍の潜水艦はセイル・プレーンを有するのが一般的であったが、新型潜水艦はセイル・プレーンを装備しておらず上構に引き込み式水平舵を設けている[5]。引き込み舵はセイル・プレーンに比べて艦の重心に近いため、より少ない力で艦の姿勢を変更可能。艦首部に近い位置に配置されているので、急速潜行などの際にはセイル・プレーンより早く姿勢制御を開始できる利点がある[5]。ただし、潜行中の高速航行時には水流の影響により操作が難しくなるため艦内に収納される[4]。引き込み舵は、艦首付近の水流を乱して騒音発生源になって、バウ・ソナーに悪影響を与えてしまうデメリットも有している[4]。新型潜水艦ではこの問題を解決するため、引き込み舵の位置を艦首からできるだけ遠ざけており、セイル直前の上構部に設置することでバウ・ソナーへの影響を少なくする措置を取っている[3][5]。これはキロ型の手法を取り入れたものと見られる[4]。

船体には静粛性向上のため吸音タイルが装着されているものと推測されている[5]。海水注入用の舷側部フラッド・ホールは従来の中国潜水艦が固定式だったのに対して開閉式に変更されており、使用時以外は蓋を閉めることで凹凸を減らして騒音発生を抑制する構造を採用している[2][5]。船尾には十字舵を装備しているが、上部垂直舵はかなり大型で上構よりも背が高くなっているのが特徴[5]。

艦内の構造や搭載機関などに関する情報は得られていないが、ディーゼル電気機関に加えて非大気依存推進(Air-Independent Propulsion:AIP)システムを採用している可能性が指摘されている[1][3]。最高速力は水中14kts、水上10kts、潜水深度は通常160m、最大200m[2]。艦固有の乗員は88人だが、試験の内容に応じて130名、もしくは200名に増員する事も可能。連続航行能力は30日だが、乗員130名の場合は5日間、300名の場合は3日間となる[2][9]。

【大型セイルについて】
新型潜水艦の大きな特徴が艦中央部のサイズの大きなセイルである。セイルのサイズは、長さ26m以上、幅3~4m、高さ5~6mと推測されている[4][6]。これは中国海軍が保有するゴルフ級の弾道ミサイルを収納した大型セイル(長さ:21.75m、幅:3.52m)を超える規模になる可能性がある[4]。セイル前方には中国海軍の潜水艦としては初となる乗員脱出用カプセルが搭載され、潜望鏡やレーダーマストなどはスペースの節約のためカプセルの後ろに横向きに置かれているとされる[6]。セイル後部の区画を広く取るための設計が施されていることから、この区画に何らかの兵器が搭載されているのではないかと推測された。セイルに搭載している兵装については諸説あるが、最も有力視されているのはJL-2潜水艦発射型弾道ミサイル(巨浪2/CSS-N-5)を搭載して艦齢50年に近いゴルフ級を代替するSLBM試験艦として運用されるというものであった[4][6][7]。ほかには、巡航ミサイル搭載艦という説や、米海軍の空母攻撃用のDF-21D対艦弾道ミサイル(東風21D)を搭載するとの説が存在した[4][6]。

最終的に、このセイルには弾道ミサイルが2発搭載されているのが、2013年7月にインターネット上で紹介されたパンフレットの図から明らかになった。これ以外に、セイルの直前の艦内にも巡航ミサイイル用の垂直発射装置が搭載されている事、水中工作員を展開するための小型潜航艇を艦の後部に搭載できる事もこの図から判明した[9]。この情報は、上記の乗員脱出用ポッドも合わせて、032型が潜水艦で運用される各種装備の試験を行うテストベッドとしての役割を果たす事を表しているといえる。

【今後の展望】
032型潜水艦は、前述の通り弾道ミサイルのテストベッドとして用いられているゴルフ級の後継艦として建造された。当面は、主にJL-2 SLBMの試験に使用されるものと考えられるが、それ以外にも各種の兵装・装備品の試験が行われる事が想定されている[2][9]。

032型性能緒元
水上排水量3,797t
水中排水量6,628t
全長92.6m
全幅10m(セイルを含めると13m)
主機
水上速力10kts
水中速力14kts
最大潜行深度160m
航続距離
最大作戦日数30日(88名の場合)
乗員標準88名(試験に応じて180名、もしくは200名の乗員が可能)

【兵装】
弾道ミサイルJL-2潜水艦発射型弾道ミサイル(巨浪2/CSS-N-5) / 垂直発射筒2基
巡航ミサイル垂直発射装置 
魚雷533mm魚雷発射管
このほか、各種の潜水艦用装備品の搭載・試験が可能とされる

1番艦 201武漢造船廠で建造、2008年1月起工、2010年9月18日進水、2012年10月16日就役[2][9]。東海艦隊所属[7]。

【参考資料】
[1]ミリタリー・ニュース 中国—新しいSSKを進水(『軍事研究』2011年3月号/ジャパン・ミリタリー・レビュー)168~169頁
[2]軍武狂人夢「039A元級柴電攻擊潛艦」
[3]「新元」潜水艦技術分析(平可夫/『漢和防務評論』2011年1月号/No.75)26~27頁
[4]平可夫「「新元」潜水艦的用途」(『漢和防務評論』2011年6月号/No.)27頁
[5]于無声処射惊雷—浅析中国新型常規潜艇(陳光文/『艦載武器』2010年11月号/中国船舶重工業集団公司)16~21頁
[6]ミリタリー・ニュース 中国の潜水艦画像—任務の手がかりを提供(『軍事研究』2011年10月号/ジャパン・ミリタリー・レビュー)178~179頁
[7]「やはり弾道ミサイル実験艦だった! 中国の最新ディーゼル潜「清」型」(『世界の艦船』2011年10月号/海人社)53頁
[8]IHS Jane's 360「Details emerge on Chinese 'Type 032' submarine」(Richard D Fisher Jr/2013年7月23日)
[9]Юрий Лямин「Тип 32 - крупнейшая неатомная подводная лодка в мире.」(2013年7月24日)

091型原子力潜水艦(ハン型/漢型)



091型原子力攻撃潜水艦(NATOコード名:Han Class/漢級)は中国海軍最初の原子力潜水艦。遼寧省の葫蘆造船所で1968~1990年の間に5隻が建造された。実験艦の性格が強かった1番艦(401)は既に退役したといわれており、2~5番艦(402~405)は現在も青島の北海艦隊に配備されている(2番艦も退役説あり)。

中国の原子力潜水艦建造計画は古く、文化大革命以前の1958年から外国の援助無しに始まった。しかしすぐに技術的・予算的問題に遭遇し、計画は1963年に一時中止されてしまった。1969年に入って中国は原子力科学者と高級官僚からなる開発チームを組織し四川省に実験用原子炉を、また遼寧省に原潜用造船所と特別試験エリアを建設した。1970年に原子炉は完成し、同年12月に進水した最初の原子力潜水艦(401)に搭載され、1971年7月から試験運用が開始された。試験運用が終了した1番艦は1974年8月に中国海軍軍艦として正式に就役したが、原子炉と戦闘システムの実用性に大きな問題があり、1980年代半ばまで実質的に任務に投入できる状態ではなかったといわれている。これらの問題はフランスが潜水艦用原子炉、魚雷管制システム、ソナーなどの技術支援を行うまで解決されなかった。1番艦(401)と2番艦(402)は1980年代半ばと1990年代半ばに近代化改修が行われ、3番艦(403)と4番艦(404)は1998年に改修作業が行われた。091型の性能は同時代のアメリカ・ロシア(旧ソ連)の原潜と比べ、特に静粛性とソナー性能及び戦闘システムの点で著しく劣るといわれていたが、上記の近代化改修工事でフランスの技術を取り入れた事で大幅に改善されたと推測される。

091型はアメリカ海軍のスキップジャック級攻撃原潜を範にとったような艦形で、涙滴型の船体に加圧水型原子炉1基を搭載したターボ・エレクトリック方式の1軸推進艦である。船体は複殻式で7つの防水区画に分かれており、第2区画上にあるセイルには潜舵が装備されている(耐氷能力は無い)。またセイル上には潜望鏡、レーダー・アンテナ(MRK-50)、ECMアンテナ(921A型)、UHF/VHF通信アンテナ、衛星通信アンテナなどが収められている。艦首の第1区画には533mm魚雷発射管6門が設けられており、20発のYU-3魚雷を搭載している。YU-3は旧ソ連製のSET-65E対潜魚雷をコピーしたもので、雷速40ノット、最大航走距離は15,000m。最大射出深度は200mで、アクティブ・ソナーによって誘導される。

3番艦(403)以降の艦は艦対地ミサイルを搭載するためにセイルより後の船体が約8m延長されたと伝えられた[4][7]。しかし、この件について現在も確認が出来ていない[4]。一方、近代化改修によって091型は魚雷発射管からYJ-82対艦ミサイルの射出が可能になった。YJ-82はコンテナに収納された状態で魚雷発射管から射出される。YJ-82の射程距離は約40kmで、慣性誘導で目標に向かって飛翔し、終末期は自身のJバンド・レーダーによって目標を捕捉して突入する。戦闘システムは上記のようにフランスの技術支援によって近代化され、これにより対艦ミサイルの運用が可能になった。ソナーは測距用のDUUX-5低周波パッシブ・ソナーと、攻撃用の中周波アクティブ・ソナーを備えている。

なお本級の1隻は2004年1月に我が国の領海を侵犯して海上自衛隊から補足・追跡を受け、その運用能力の低さと機械的信頼性の無さを露呈した。中国は故障によりやむを得ず領海に侵入したと説明している。 

091型の内3~5番艦は、就役後に何度かの近代化改修を行っており091G型(Gは「改Gai」の頭文字)と呼ばれることもある。091G型は、バウ・ソナーをH/SQG-262Bに換装し、新たに船体側面にフランク・アレイ・ソナーが装着されたとの情報もある[5]。航行中の写真からは、フリーフラッド・ホールの形状が変更された事が判明している。これは、091型で問題になった静粛性改善のための改修と見られ、その他にスクリューの形状変更や、船体に無反響タイルが貼られた可能性も指摘されている[5]。

性能緒元
水中排水量5,550t
全長98.0m(3番艦以降は106.0m)
全幅11.0m
主機原子力ターボ・エレクトリック 1軸
水上速力12kts
水中速力25kts
乗員75名

【兵装】
魚雷533mm魚雷発射管6門
 YU-3 533mm魚雷(魚3/SET-65E)20発
対艦ミサイルYJ-82
機雷(魚雷を搭載しない場合)36発

【電子兵装】
対水上レーダーMRK-50(Snoop Tray)1基
ソナーDUUX-5 

同型艦
1番艦長征1号4011970年12月26日進水、1974年8月1日就役、2000年に退役-
2番艦長征2号4021977年12月20日進水、1980年12月30日就役(2001年に退役か?)-
3番艦長征3号4031983年12月31日進水、1984年12月25日就役北海艦隊所属
4番艦長征4号4041985年12月26日進水、1987年12月27日就役北海艦隊所属
5番艦長征5号4051990年4月進水、1990年12月就役北海艦隊所属

▼1番艦「長征1号」(401)


▼2番艦「長征2号」(402)

▼3番艦「長征3号」(403)

▼4番艦「長征4号」(404)

▼5番艦「長征5号」(405)

▼2009年4月に山東省青島で開催された国際観艦式に登場した「長征3号」(403)。フリーフラッド・ホールの形状が変化している事が分かる。


【参考資料】
[1]世界の艦船2006年9月号(海人社)
[2]世界の艦船2005年9月号(海人社)
[3]世界の艦船2003年3月号(海人社)
[4]Chinese Defence Today「Type 091 (09-I) Han Class Nuclear-Powered Attack Submarine」
[5]Chinese Military Aviation「Han 403 Long March 3」
[6]中国武器大全「中国091型(漢型)核動力攻撃潜艇」
[7]Jan's Fighting Ships 2006-2007「HAN CLASS(TYPE091)(SSN)」121頁

093型原子力潜水艦(シャン型/商型)



中国国産の新型原子力攻撃潜水艦。漢級(091型)に続く第2世代となる。計画は1980年代初めから始まり、2003年にアメリカ国防総省により初めてその存在が明らかになった。商級(093型)の設計にはロシアのルービン設計局が深く関わっているといわれている。1番艦は2001~2002年に進水し、2003年から葫蘆島で公試が行われている。2番艦も建造が進んでおり、ほかに3隻が計画されている。

漢級より近代的で西側諸国やロシアの攻撃原潜に匹敵する性能を目指した商級の計画は、1980年代初期から始まり1983年に公式に開発計画が承認されたが、大きな技術的困難(特に原子炉と兵器システム)に阻まれた。そのため1990年代中頃にロシアのルービン潜水艦設計局が支援を始めるまで、商級の開発はほとんど進展しなかった。ルービン設計局の支援が具体的にどのようなものだったのかは不明だが、全面的な船体の設計、原子炉と機関、兵器システム、静粛性の向上など多岐に渡って重要な助言を与えたと思われる。その支援を受けて開発は順調に進み、性能はロシアの671RTM型攻撃原潜(ヴィクターIII型)に匹敵するものを得たと言われている。これが事実ならば商級はアメリカのロサンゼルス級攻撃原潜と同等の静粛性を持ち、最大潜行深度は700~800mで側面フランク・アレイ・ソナーと曳航式アレイ・ソナーを装備し、魚雷発射管から巡航ミサイルを発射可能という事になる。想像図を見る限り、全体的なデザインはロシア海軍のヴィクターIII型を踏襲しているがセイルの形状は漢級に似ており、内殻はシェーカー型で艦首部に魚雷発射管と新型ソナー(H/SQG-207)を設けている。

商級が就役すれば信頼性の低い漢級に替わり、太平洋に進出してアメリカの空母打撃群などの艦隊を狩りたて、また自国の戦略原潜を守る任務に就くことになるだろう。

【2010年1月8日追記】
米海軍情報局(ONI)が編纂した中国海軍に関するレポート「The People’s Liberation Army Navy: A Modern Navy With Chinese Characteristics」によると、 093型の静粛性についてはソ連海軍の671RTM型攻撃原潜(ヴィクターIII型)や667BDR型戦略原潜(デルタIII型)よりも劣っているとのこと[1][2]。これが事実であるとするなら、093型の静粛性はなお改善の余地が大きいということになる。

性能緒元
水中排水量6,000t
全長107.0m
全幅11.0m
主機原子力蒸気タービン 1軸
水中速力30kts

【兵装】
対艦ミサイル  
巡航ミサイル  
魚雷533mm(650mm?)長魚雷6門

同型艦
1番艦093型長征7号4072006年12月就役東海艦隊所属
2番艦093型長征8号4082007年6月就役南海艦隊所属
3番艦093型?    
4番艦093型?    
5番艦093G型?    
6番艦093G型?    

【参考資料】
世界の艦船(海人社)
Chinese Defence Today
Chinese Military Aviation
「The People’s Liberation Army Navy: A Modern Navy With Chinese Characteristics」22頁。[1]
FAS Strategic Security Blog「China’s Noisy Nuclear Submarines 」(Hans Kristensen/2009年11月21日)[2]

092型弾道ミサイル原子力潜水艦(シア型/夏型)



中国海軍が初めて建造した戦略原潜で、1981年4月に進水、1987年に就役したが、搭載ミサイルのJL-1の実用化に手間取り、本艦からの発射テストに成功したのは、就役後1年経った1988年9月のことだった。092型は2隻建造され、そのうちの1隻が1985年に実施されたJL-1発射実験の際に事故で沈没し失われた、という話もあるが事実関係は不明である。

1995年から射程が2,500~3,000kmに延伸されたJL-1Aに換装するために大規模な改装に着手され、1998年末に完了したとされる。「漢和防務評論」2008年3月号の記事によると、中国海軍では1990年代中頃に実用性に問題のあった092型に大幅な近代化を施しており、改装後を受けた同艦は制式名称を092M型と改称。中国海軍は、092M型の改装後の運用実績に一定の評価を与えているとしている[4]。

092型の主兵装であるJL-1 SLBM は1982年にゴルフ級潜水艦から水中発射の実験に成功した。だが夏級からの発射はミサイル発射管制装置の不具合でなかなか実施できず、発射に成功したのは1988年だった。

開発当初の構想では、JL-1を搭載する092型戦略原潜は、ソ連を仮想敵として内海の渤海湾で運用することが想定されていた[5]。また、中国周辺国に駐留する米軍基地の打撃も考えられていたものと推測される。

最小限核抑止戦略を執っている中国軍にとって生存性に優れた戦略原潜は不可欠の戦力であり、本級は091型攻撃原潜とともに「虎の子」というべき存在だが、092型は1隻しか在籍しておらず、戦略原潜による継続的に核パトロール体制を構築することは不可能なのが現状。JL-1の射程の短さを考え合わせると、実質的な核抑止力というよりは核戦力の象徴的な性格が強い存在であると評価されている[6]。むしろ、原潜とSLBM技術の実用化を達成したという技術的意義の方が大きいともいえるだろう。

092型の建造は1隻(前述の通り2隻が建造されたとの情報もあるが)に留まり、JL-1Aの配備数も092型の搭載数と同じ12発に留まっている[9]。これは、JL-1/JL-1A自体が中国第一世代のSLBMであり、射程の短さもあって十分な抑止力を備えていないことが背景にある[7]。そのため、ハワイやアラスカを射程に収める次世代SLBMであるJL-2の開発が進められている。Chinese Military Aviationの情報では、SLBMを現在開発中のJL-2に換装する可能性が指摘されているが[3]、2013年時点では実現していない。

092型は就役後は渤海湾に面した葫芦島を母港にしていたが、現在では山東半島南部の膠州湾に位置する潜艇第一基地(青島沙子口基地)を母港としている[8][9]。

性能緒元
水中排水量8,000t
全長120.0m
全幅10.0m
主機原子力ターボ・エレクトリック 1軸(12,000馬力)
水中速力22kt
最大潜行深度300m
乗員84名

【兵装】
弾道ミサイルJL-1A(巨浪1/CSS-N-3) / 垂直発射筒12基
魚雷533mm魚雷発射管6門
YU-3 533mm長魚雷(魚3/SET-65E)18発

【電子兵装】
対水上レーダーMRK-50(Snoop Tray)1基
ソナーDUUX-5 

同型艦
1番艦長征6号4061979年起工、1981年4月30日進水、1987年就役北海艦隊所属
2番艦(?)  1985年沈没? 

▼#406から水中発射されるJL-1


【参考資料】
[1]世界の艦船別冊 中国/台湾海軍ハンドブック 改定第2版(2003年4月/海人社)
[2]Chinese Defence Today「Type 092 (09-II) Xia Class Nuclear-Powered Missile Submarine」
[3]Chinese Military Aviation「Xia 406 Long March 6」
[4]漢和防務評論2008年3月号「094戦略核潜與中国的会場核拡充」(平可夫/漢和情報センター)
[5]竹田純一『人民解放軍-党と国家戦略を支える230万人の実力』(ビジネス社/2008年)321ページ
[6]「【写真特集】世界の原子力潜水艦 全タイプ」『世界の艦船』2010年2月号(海人社)21~36ページ
[7]Chinese Defence Today「JuLang 1 (CSS-N-3) Submarine-Launched Ballistic Missile」
[8]陸易「特集・中国海軍-組織と編成」『世界の艦船』2013年3月号(海人社)96~99ページ
[9]陸易「特集・中国海軍-基地と造船所」『世界の艦船』2013年3月号(海人社)100~103ページ