中国海軍が初めて建造した戦略原潜で、1981年4月に進水、1987年に就役したが、搭載ミサイルのJL-1の実用化に手間取り、本艦からの発射テストに成功したのは、就役後1年経った1988年9月のことだった。092型は2隻建造され、そのうちの1隻が1985年に実施されたJL-1発射実験の際に事故で沈没し失われた、という話もあるが事実関係は不明である。
1995年から射程が2,500~3,000kmに延伸されたJL-1Aに換装するために大規模な改装に着手され、1998年末に完了したとされる。「漢和防務評論」2008年3月号の記事によると、中国海軍では1990年代中頃に実用性に問題のあった092型に大幅な近代化を施しており、改装後を受けた同艦は制式名称を092M型と改称。中国海軍は、092M型の改装後の運用実績に一定の評価を与えているとしている[4]。
092型の主兵装であるJL-1 SLBM は1982年にゴルフ級潜水艦から水中発射の実験に成功した。だが夏級からの発射はミサイル発射管制装置の不具合でなかなか実施できず、発射に成功したのは1988年だった。
開発当初の構想では、JL-1を搭載する092型戦略原潜は、ソ連を仮想敵として内海の渤海湾で運用することが想定されていた[5]。また、中国周辺国に駐留する米軍基地の打撃も考えられていたものと推測される。
最小限核抑止戦略を執っている中国軍にとって生存性に優れた戦略原潜は不可欠の戦力であり、本級は091型攻撃原潜とともに「虎の子」というべき存在だが、092型は1隻しか在籍しておらず、戦略原潜による継続的に核パトロール体制を構築することは不可能なのが現状。JL-1の射程の短さを考え合わせると、実質的な核抑止力というよりは核戦力の象徴的な性格が強い存在であると評価されている[6]。むしろ、原潜とSLBM技術の実用化を達成したという技術的意義の方が大きいともいえるだろう。
092型の建造は1隻(前述の通り2隻が建造されたとの情報もあるが)に留まり、JL-1Aの配備数も092型の搭載数と同じ12発に留まっている[9]。これは、JL-1/JL-1A自体が中国第一世代のSLBMであり、射程の短さもあって十分な抑止力を備えていないことが背景にある[7]。そのため、ハワイやアラスカを射程に収める次世代SLBMであるJL-2の開発が進められている。Chinese Military Aviationの情報では、SLBMを現在開発中のJL-2に換装する可能性が指摘されているが[3]、2013年時点では実現していない。
092型は就役後は渤海湾に面した葫芦島を母港にしていたが、現在では山東半島南部の膠州湾に位置する潜艇第一基地(青島沙子口基地)を母港としている[8][9]。
■性能緒元
水中排水量 | 8,000t |
全長 | 120.0m |
全幅 | 10.0m |
主機 | 原子力ターボ・エレクトリック 1軸(12,000馬力) |
水中速力 | 22kt |
最大潜行深度 | 300m |
乗員 | 84名 |
【兵装】
弾道ミサイル | JL-1A(巨浪1/CSS-N-3) / 垂直発射筒 | 12基 |
魚雷 | 533mm魚雷発射管 | 6門 |
YU-3 533mm長魚雷(魚3/SET-65E) | 18発 |
【電子兵装】
対水上レーダー | MRK-50(Snoop Tray) | 1基 |
ソナー | DUUX-5 |
■同型艦
1番艦 | 長征6号 | 406 | 1979年起工、1981年4月30日進水、1987年就役 | 北海艦隊所属 |
2番艦(?) | 1985年沈没? |
▼#406から水中発射されるJL-1
【参考資料】
[1]世界の艦船別冊 中国/台湾海軍ハンドブック 改定第2版(2003年4月/海人社)
[2]Chinese Defence Today「Type 092 (09-II) Xia Class Nuclear-Powered Missile Submarine」
[3]Chinese Military Aviation「Xia 406 Long March 6」
[4]漢和防務評論2008年3月号「094戦略核潜與中国的会場核拡充」(平可夫/漢和情報センター)
[5]竹田純一『人民解放軍-党と国家戦略を支える230万人の実力』(ビジネス社/2008年)321ページ
[6]「【写真特集】世界の原子力潜水艦 全タイプ」『世界の艦船』2010年2月号(海人社)21~36ページ
[7]Chinese Defence Today「JuLang 1 (CSS-N-3) Submarine-Launched Ballistic Missile」
[8]陸易「特集・中国海軍-組織と編成」『世界の艦船』2013年3月号(海人社)96~99ページ
[9]陸易「特集・中国海軍-基地と造船所」『世界の艦船』2013年3月号(海人社)100~103ページ
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