2021年12月22日水曜日

072型戦車揚陸艦(ユカン型/玉坎型)

 072型戦車揚陸艦は1978年に一番艦が就役した中国国産のLST型揚陸艦で、072-II型は072型に所定の設計変更を施した改良型。中国ではそれぞれ「072型」、「072-II型」と異なる型式名が付与されているが、西側では変更箇所が少ないため同型艦と判断され両級ともに「Yukan class」の識別名が付与されている[5][8]。本稿では、これを踏まえた上で、同じ頁で両級の紹介を行う。なお、072型は、072-II型の就役後は「072-I型」と表記される場合もある。


【開発経緯】
中国海軍は1975年「072型大型坦克登陸艦」と命名した大型戦車揚陸艦の設計要求を策定した。この要求では、新型揚陸艦はビーチング時の搭載能力450トン、最高速度20ktsという性能が求められた。中国海軍は中華民国海軍から捕獲、移籍した二次大戦型のLSTを多数保有していたが、これらのLSTは海岸に直接ビーチングしてバウ・ドアを開きランプ(道板)を下ろして車輌を上陸させる揚陸方式である事から、抵抗の大きい肥えた艦首形状にならざるを得ず、最高速度は10~12ktsに留まっていた。新型揚陸艦の要求では特に速度性能の改善が強く求められていた[7]。当時の中国ではこの種の大型揚陸艦の設計経験は無く、設計に際してはアメリカ製の二次大戦型LSTを参考にしつつ、試行錯誤しながら作業を進めざるを得なかった。設計期間は4年間に及び、さまざまな方向からの検討が行われた。最終的に速度発揮に有利なように船体長/幅比の大きな船体として、波切り性の良い鋭く傾斜した艦首部を採用することで20ktsの速力を発揮する目処が立った[7]。

一番艦「雲台山」は1976年11月に上海の中華造船廠で起工し、1977年10月19日に進水、1978年1月19日に竣工、11月に就役した。公試では設計速度を上回る最高速度20.8Ktsを記録している。就役後の評価としては良好な速力性能、操縦性、耐波性を有し、揚陸機能も効率の良い艦であるとの好評を得ている[7]。072型は海軍から高い評価を得ることに成功し、その後の中国海軍のLSTは本級をベースにして発展していくことになった。当初072/072-II型は合計14隻を建造する予定であったが、程なくして072型の改良型(後の072-III型戦車揚陸艦)の建造を行う方針が採用されたため、072/072-II型の調達は7隻で終了する事になった[8]。

【性能】
072型のスペックは以下の通り。基準排水量3,172t、満載排水量4,170t。全長120m、全幅15.3m。主機は12E390ディーゼル(9,600馬力)2基、推進軸は2軸、最高速力20kts、航続距離は14ktsで3,000nm。乗員は133名。
艦の前後にランプが設置されており、艦内の車両甲板は全通式[4]。バウ・ドア、艦首と艦尾の揚陸用ランプの操作には油気圧式を採用しており、良好な操作性を発揮している。上陸に際しては海岸にビーチングしバウ・ドアを開いて17mの折畳み式ランプ(最大荷重50t)を展開、車輌を上陸させる。また海上でバウ・ドアを開き水陸両用戦車や装甲兵員輸送車を発進させることも可能。艦後部のランプは耐荷重制限は前部ランプの半分以下の20tであり、水陸両用戦車などの展開に使用する[3]。機関出力も従来の艦よりも強化されているため、ビーチングや海岸からの離脱に際しても有利である[7]。揚陸作戦での搭載量は500t。1個戦車中隊(59式戦車11両、指揮車+装甲回収車各1両、乗員60名)、もしくは小型揚陸艇2隻と完全武装の歩兵1個中隊(150名)、あるいは歩兵1個大隊(800名)と105mm無反動砲搭四輪駆動車11~12両の搭載が可能。072型の貨物面積は750平方メートルあり、ビーチングの際の積載量は500トンに制限されているが、物資輸送任務に使用する際には最大2,000tの積載能力がある[7]。

072型と072-II型の最大の相違点は、その兵装である[5][9]。072型は66式57mm連装機関砲4基、61式25mm連装機関砲4~6基という比較的強力な近接火器を搭載している。これに対して、072-II型では、66式57mm連装機関砲を艦首部の1基に減らし25mm機関砲は全廃、新たに61式37mm連装機関砲3基(艦橋直前に2基、煙突後方に1基を配置)を搭載している。対空戦闘においてはこれらの艦載火器のほかに、乗員が携行式SAMを使用することも想定されている。

【比較】
▼57mm機関砲4基(艦首部に1基、艦橋直前に2基、煙突直後に1基)と25mm機関砲4基(車輌甲板両舷に各1基、艦橋直後のマストを挟んで各1基)を装備した072型2番艦の#928「五峰山」


▼57mm機関砲1基(艦首)、37mm機関砲3基(艦橋前後に3基)を装備した072-II型4番艦の#933「六盤山」


072/072-II型は、その物資搭載能力やビーチング可能な特性を生かして、南シナ海の島嶼部、環礁への補給活動や、環礁を埋め立てて基地を造成する工事の支援任務に当たっている[10]。1988年3月14日にヴェトナム海軍との間で行われた戦闘の際には、その充実した火砲を生かして「火力支援艦」として運用された[10]。

2010年代に入ると、南シナ海での領海をめぐる緊張の高まりを受けて領海警備活動に当たる海警の増強策として、072-II型2隻が海軍から海警に移管され、「拖25」、「警医01」と改称して運用が行われている[10]。平時は、島嶼部基地への補給や人員輸送、環礁の埋め立て造成工事の支援、医療任務などに従事するが、両船とも兵装は維持されており、領海警備任務に当たることも可能[10]。海軍では就役から30年以上が経って旧式化が進んでいた072型の退役を検討していたが、艦内のスペースが豊富で、遠浅の海域への輸送任務に適している特性を見込んで、運用継続を決定。2014年3月には、南沙/スプラトリー諸島で進行中の環礁埋め立て工事の支援を行うため、南海艦隊所属の072型3隻が25日間で改修を受けた上で支援任務に投入されている[11]。

072型の1番艦 #927「雲台山」と3番艦 #929「紫金山」は、専用輸送艦に類別変更され、25mm連装機関砲以外の兵装を撤去、艦橋直前に大型クレーン2基を搭載するなどの改修を受けて、主に南シナ海での基地造成の支援任務に当たっている。大型クレーンを搭載したことから、重量のある鉄骨やコンクリートブロックなど建設資材の輸送に用いられていると推測されている[10]。

性能緒元
基準排水量3,172t
満載排水量4,170t
全長120.0m
全幅15.3m
主機12E390ディーゼル(9,600馬力)2基、2軸
速力20kts
航続距離3,000nm/14kts
乗員133名

【搭載部隊】
揚陸艇724型エアクッション揚陸艇2隻
 小型揚陸艇2隻
搭載量500t(揚陸作戦)、2,000t(物資輸送)
戦車59式戦車63A式水陸両用戦車など10輌
揚陸兵員1個中隊150名(揚陸艇2隻)
 1個大隊800名+105mm無反動砲搭四輪駆動車11~12両

【兵装】
近接防御66式57mm連装機関砲4基(#927~929)
近接防御66式57mm連装機関砲1基(#930~933)
近接防御61式37mm連装機関砲3基(#930~933)
近接防御61式25mm連装機関砲4~6基(#927~929)

【電子装備】
航海レーダー753型2基

同型艦
【072型】
1番艦927雲台山Wufengshan上海中華造船廠で建造。1978年就役。専用輸送艦に任務変更。2020年7月7日退役[12]。東海艦隊所属
2番艦928五峰山Wufengshan上海中華造船廠で建造。1980年就役東海艦隊所属
3番艦929紫金山Zijinshan上海中華造船廠で建造。1982年就役。専用輸送艦に任務変更。2020年7月7日退役[12]。東海艦隊所属
【072-II型】
1番艦930霊岩山Lingyanshan上海中華造船廠で建造。東海艦隊所属
2番艦931洞庭山Dongtingshan上海中華造船廠で建造。東海艦隊所属
3番艦932賀蘭山Helanshan上海中華造船廠で建造。東海艦隊所属
4番艦933六盤山Liupanshan上海中華造船廠で建造。1995年就役東海艦隊所属
注1 072-II型の内、2隻は海警に移管され「拖25」、「警医01」と改称している。
注2 072/072-II型の複数艦が南海艦隊に移籍した可能性あり

▼艦後部のランプから突撃ボートを発進させた#930「霊岩山」

▼072型の車輌搭載甲板。左は77式水陸両用装甲兵員輸送車(WZ-511)を搭載、右は突撃ボートを搭載

▼専用輸送艦に改装された #927「雲台山」


【参考資料】
[1]世界の艦船1月号増刊 アメリカ揚陸艦史(2007.NO.669)(2007年1月/海人社)
[2]世界の艦船別冊 中国/台湾海軍ハンドブック 改定第2版(2003年4月/海人社)
[3]世界の艦船1月号増刊 世界の揚陸艦(2009.1/NO.701)(2009年1月/海人社)94頁
[4]Chinese Defence Today「Type 072 (Yukan Class) Large Landing Ship」
[5]中国武器大全「玉康級(072)坦克登陸艦」
[6]中国武器大全「攻撃地平線:中国海軍的大型両栖戦艦(一)」
[7]中国武器大全「詳解中国海軍072型両棲登陸艦」
[8]軍武狂人夢「玉坎級大型戰車登陸艦」
[9]東方網-軍事「072基本型“玉康”級登陸艦」
[10]何勁松「”老当新用”試析拖25船・警医01船・929号運輸艦的改装意義」(『現代艦船』2014-11A号/《現代艦船》雑誌社)46~52ページ
[11]观察者「中国海警装备新拖船“拖25号” 由坦克登陆舰改装」(2014年5月27日)
[12]澎湃新闻「海军鄱阳湖舰、云台山舰、紫金山舰退役」(2020年7月8日)https://www.thepaper.cn/newsDetail_forward_8177363(2020年7月10日閲覧)

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