2015年1月8日木曜日

032型弾道ミサイル潜水艦(チン型/清型)



032型弾道ミサイル潜水艦(032型試験潜艇/NATOコード名はQING CLASS)は潜水艦で使用するための各種兵器の試験を行うために建造された通常動力潜水艦であり、2010年9月にその存在が明らかになった[1][2][8]。建造は中国船舶重工業集団公司の武漢造船廠で行われた[1]。武漢造船所では039A型通常動力潜水艦の量産を行っているが、新型潜水艦はこれと並行して建造が進められた[2]。2005年1月に研究開発作業に着手、2008年1月に建造開始、2010年9月18日に進水、2012年9月から洋上公試を開始、2012年10月16日に海軍に編入されている[2][9]。

【船体】
新型潜水艦の外観からはロシアの877/636型(キロ型)や677型(ラーダ型)潜水艦の影響が窺える[1][3]。船体長に比べて広い艦幅を有する艦形、浮上時の乾舷の高さ、艦中央に配置された大型セイル、格納式の水平舵はキロ型に、太い船殻や艦尾に向って傾斜した部分、船尾の十字舵はラーダ型に似ている[1]。ただし、セイル基部には流体力学を考慮したとおぼしきフィレットが付けられているのはキロ/ラーダ型とは異なる[1]。キロ型やラーダ型を設計したロシアのルビン海洋工学中央設計局が設計に協力した可能性もあるが、同設計局は中国との関係について明言を避けており、技術協力の有無は現時点では不明[1]。

衛星写真などから新型潜水艦の全長は039A型よりも20m程度長いと判断され、通常動力潜水艦としてはかなり大型の艦であることが窺えた[4]。その後明らかになった情報によると、032型潜水艦は水上排水量3,797t、水中排水量6,628tと現役の通常動力潜水艦としては世界最大の潜水艦である事が判明した[2]。その他のサイズは、全長92.6m、艦幅10m(セイルの幅を加えると13m)、喫水6.85m,艦の最大高度17.2m[2]。

船型は涙滴型だが、比較的太目の船体にフラットな上構がかなり広く取られていることから艦内スペースの確保を重視していると見られる[5]。写真からは艦首部に数門の魚雷発射管があることが確認できるが、その配置は前型039A型とは異なっており具体的な魚雷発射管の門数については不明。近年建造された中国海軍の潜水艦はセイル・プレーンを有するのが一般的であったが、新型潜水艦はセイル・プレーンを装備しておらず上構に引き込み式水平舵を設けている[5]。引き込み舵はセイル・プレーンに比べて艦の重心に近いため、より少ない力で艦の姿勢を変更可能。艦首部に近い位置に配置されているので、急速潜行などの際にはセイル・プレーンより早く姿勢制御を開始できる利点がある[5]。ただし、潜行中の高速航行時には水流の影響により操作が難しくなるため艦内に収納される[4]。引き込み舵は、艦首付近の水流を乱して騒音発生源になって、バウ・ソナーに悪影響を与えてしまうデメリットも有している[4]。新型潜水艦ではこの問題を解決するため、引き込み舵の位置を艦首からできるだけ遠ざけており、セイル直前の上構部に設置することでバウ・ソナーへの影響を少なくする措置を取っている[3][5]。これはキロ型の手法を取り入れたものと見られる[4]。

船体には静粛性向上のため吸音タイルが装着されているものと推測されている[5]。海水注入用の舷側部フラッド・ホールは従来の中国潜水艦が固定式だったのに対して開閉式に変更されており、使用時以外は蓋を閉めることで凹凸を減らして騒音発生を抑制する構造を採用している[2][5]。船尾には十字舵を装備しているが、上部垂直舵はかなり大型で上構よりも背が高くなっているのが特徴[5]。

艦内の構造や搭載機関などに関する情報は得られていないが、ディーゼル電気機関に加えて非大気依存推進(Air-Independent Propulsion:AIP)システムを採用している可能性が指摘されている[1][3]。最高速力は水中14kts、水上10kts、潜水深度は通常160m、最大200m[2]。艦固有の乗員は88人だが、試験の内容に応じて130名、もしくは200名に増員する事も可能。連続航行能力は30日だが、乗員130名の場合は5日間、300名の場合は3日間となる[2][9]。

【大型セイルについて】
新型潜水艦の大きな特徴が艦中央部のサイズの大きなセイルである。セイルのサイズは、長さ26m以上、幅3~4m、高さ5~6mと推測されている[4][6]。これは中国海軍が保有するゴルフ級の弾道ミサイルを収納した大型セイル(長さ:21.75m、幅:3.52m)を超える規模になる可能性がある[4]。セイル前方には中国海軍の潜水艦としては初となる乗員脱出用カプセルが搭載され、潜望鏡やレーダーマストなどはスペースの節約のためカプセルの後ろに横向きに置かれているとされる[6]。セイル後部の区画を広く取るための設計が施されていることから、この区画に何らかの兵器が搭載されているのではないかと推測された。セイルに搭載している兵装については諸説あるが、最も有力視されているのはJL-2潜水艦発射型弾道ミサイル(巨浪2/CSS-N-5)を搭載して艦齢50年に近いゴルフ級を代替するSLBM試験艦として運用されるというものであった[4][6][7]。ほかには、巡航ミサイル搭載艦という説や、米海軍の空母攻撃用のDF-21D対艦弾道ミサイル(東風21D)を搭載するとの説が存在した[4][6]。

最終的に、このセイルには弾道ミサイルが2発搭載されているのが、2013年7月にインターネット上で紹介されたパンフレットの図から明らかになった。これ以外に、セイルの直前の艦内にも巡航ミサイイル用の垂直発射装置が搭載されている事、水中工作員を展開するための小型潜航艇を艦の後部に搭載できる事もこの図から判明した[9]。この情報は、上記の乗員脱出用ポッドも合わせて、032型が潜水艦で運用される各種装備の試験を行うテストベッドとしての役割を果たす事を表しているといえる。

【今後の展望】
032型潜水艦は、前述の通り弾道ミサイルのテストベッドとして用いられているゴルフ級の後継艦として建造された。当面は、主にJL-2 SLBMの試験に使用されるものと考えられるが、それ以外にも各種の兵装・装備品の試験が行われる事が想定されている[2][9]。

032型性能緒元
水上排水量3,797t
水中排水量6,628t
全長92.6m
全幅10m(セイルを含めると13m)
主機
水上速力10kts
水中速力14kts
最大潜行深度160m
航続距離
最大作戦日数30日(88名の場合)
乗員標準88名(試験に応じて180名、もしくは200名の乗員が可能)

【兵装】
弾道ミサイルJL-2潜水艦発射型弾道ミサイル(巨浪2/CSS-N-5) / 垂直発射筒2基
巡航ミサイル垂直発射装置 
魚雷533mm魚雷発射管
このほか、各種の潜水艦用装備品の搭載・試験が可能とされる

1番艦 201武漢造船廠で建造、2008年1月起工、2010年9月18日進水、2012年10月16日就役[2][9]。東海艦隊所属[7]。

【参考資料】
[1]ミリタリー・ニュース 中国—新しいSSKを進水(『軍事研究』2011年3月号/ジャパン・ミリタリー・レビュー)168~169頁
[2]軍武狂人夢「039A元級柴電攻擊潛艦」
[3]「新元」潜水艦技術分析(平可夫/『漢和防務評論』2011年1月号/No.75)26~27頁
[4]平可夫「「新元」潜水艦的用途」(『漢和防務評論』2011年6月号/No.)27頁
[5]于無声処射惊雷—浅析中国新型常規潜艇(陳光文/『艦載武器』2010年11月号/中国船舶重工業集団公司)16~21頁
[6]ミリタリー・ニュース 中国の潜水艦画像—任務の手がかりを提供(『軍事研究』2011年10月号/ジャパン・ミリタリー・レビュー)178~179頁
[7]「やはり弾道ミサイル実験艦だった! 中国の最新ディーゼル潜「清」型」(『世界の艦船』2011年10月号/海人社)53頁
[8]IHS Jane's 360「Details emerge on Chinese 'Type 032' submarine」(Richard D Fisher Jr/2013年7月23日)
[9]Юрий Лямин「Тип 32 - крупнейшая неатомная подводная лодка в мире.」(2013年7月24日)

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