091型原子力攻撃潜水艦(NATOコード名:Han Class/漢級)は中国海軍最初の原子力潜水艦。遼寧省の葫蘆造船所で1968~1990年の間に5隻が建造された。実験艦の性格が強かった1番艦(401)は既に退役したといわれており、2~5番艦(402~405)は現在も青島の北海艦隊に配備されている(2番艦も退役説あり)。
中国の原子力潜水艦建造計画は古く、文化大革命以前の1958年から外国の援助無しに始まった。しかしすぐに技術的・予算的問題に遭遇し、計画は1963年に一時中止されてしまった。1969年に入って中国は原子力科学者と高級官僚からなる開発チームを組織し四川省に実験用原子炉を、また遼寧省に原潜用造船所と特別試験エリアを建設した。1970年に原子炉は完成し、同年12月に進水した最初の原子力潜水艦(401)に搭載され、1971年7月から試験運用が開始された。試験運用が終了した1番艦は1974年8月に中国海軍軍艦として正式に就役したが、原子炉と戦闘システムの実用性に大きな問題があり、1980年代半ばまで実質的に任務に投入できる状態ではなかったといわれている。これらの問題はフランスが潜水艦用原子炉、魚雷管制システム、ソナーなどの技術支援を行うまで解決されなかった。1番艦(401)と2番艦(402)は1980年代半ばと1990年代半ばに近代化改修が行われ、3番艦(403)と4番艦(404)は1998年に改修作業が行われた。091型の性能は同時代のアメリカ・ロシア(旧ソ連)の原潜と比べ、特に静粛性とソナー性能及び戦闘システムの点で著しく劣るといわれていたが、上記の近代化改修工事でフランスの技術を取り入れた事で大幅に改善されたと推測される。
091型はアメリカ海軍のスキップジャック級攻撃原潜を範にとったような艦形で、涙滴型の船体に加圧水型原子炉1基を搭載したターボ・エレクトリック方式の1軸推進艦である。船体は複殻式で7つの防水区画に分かれており、第2区画上にあるセイルには潜舵が装備されている(耐氷能力は無い)。またセイル上には潜望鏡、レーダー・アンテナ(MRK-50)、ECMアンテナ(921A型)、UHF/VHF通信アンテナ、衛星通信アンテナなどが収められている。艦首の第1区画には533mm魚雷発射管6門が設けられており、20発のYU-3魚雷を搭載している。YU-3は旧ソ連製のSET-65E対潜魚雷をコピーしたもので、雷速40ノット、最大航走距離は15,000m。最大射出深度は200mで、アクティブ・ソナーによって誘導される。
3番艦(403)以降の艦は艦対地ミサイルを搭載するためにセイルより後の船体が約8m延長されたと伝えられた[4][7]。しかし、この件について現在も確認が出来ていない[4]。一方、近代化改修によって091型は魚雷発射管からYJ-82対艦ミサイルの射出が可能になった。YJ-82はコンテナに収納された状態で魚雷発射管から射出される。YJ-82の射程距離は約40kmで、慣性誘導で目標に向かって飛翔し、終末期は自身のJバンド・レーダーによって目標を捕捉して突入する。戦闘システムは上記のようにフランスの技術支援によって近代化され、これにより対艦ミサイルの運用が可能になった。ソナーは測距用のDUUX-5低周波パッシブ・ソナーと、攻撃用の中周波アクティブ・ソナーを備えている。
なお本級の1隻は2004年1月に我が国の領海を侵犯して海上自衛隊から補足・追跡を受け、その運用能力の低さと機械的信頼性の無さを露呈した。中国は故障によりやむを得ず領海に侵入したと説明している。
091型の内3~5番艦は、就役後に何度かの近代化改修を行っており091G型(Gは「改Gai」の頭文字)と呼ばれることもある。091G型は、バウ・ソナーをH/SQG-262Bに換装し、新たに船体側面にフランク・アレイ・ソナーが装着されたとの情報もある[5]。航行中の写真からは、フリーフラッド・ホールの形状が変更された事が判明している。これは、091型で問題になった静粛性改善のための改修と見られ、その他にスクリューの形状変更や、船体に無反響タイルが貼られた可能性も指摘されている[5]。
■性能緒元
水中排水量 | 5,550t |
全長 | 98.0m(3番艦以降は106.0m) |
全幅 | 11.0m |
主機 | 原子力ターボ・エレクトリック 1軸 |
水上速力 | 12kts |
水中速力 | 25kts |
乗員 | 75名 |
【兵装】
魚雷 | 533mm魚雷発射管 | 6門 |
YU-3 533mm魚雷(魚3/SET-65E) | 20発 | |
対艦ミサイル | YJ-82 | |
機雷 | (魚雷を搭載しない場合) | 36発 |
【電子兵装】
対水上レーダー | MRK-50(Snoop Tray) | 1基 |
ソナー | DUUX-5 |
■同型艦
1番艦 | 長征1号 | 401 | 1970年12月26日進水、1974年8月1日就役、2000年に退役 | - |
2番艦 | 長征2号 | 402 | 1977年12月20日進水、1980年12月30日就役(2001年に退役か?) | - |
3番艦 | 長征3号 | 403 | 1983年12月31日進水、1984年12月25日就役 | 北海艦隊所属 |
4番艦 | 長征4号 | 404 | 1985年12月26日進水、1987年12月27日就役 | 北海艦隊所属 |
5番艦 | 長征5号 | 405 | 1990年4月進水、1990年12月就役 | 北海艦隊所属 |
▼1番艦「長征1号」(401)
▼2番艦「長征2号」(402)
▼3番艦「長征3号」(403)
▼4番艦「長征4号」(404)
▼5番艦「長征5号」(405)
▼2009年4月に山東省青島で開催された国際観艦式に登場した「長征3号」(403)。フリーフラッド・ホールの形状が変化している事が分かる。
【参考資料】
[1]世界の艦船2006年9月号(海人社)
[2]世界の艦船2005年9月号(海人社)
[3]世界の艦船2003年3月号(海人社)
[4]Chinese Defence Today「Type 091 (09-I) Han Class Nuclear-Powered Attack Submarine」
[5]Chinese Military Aviation「Han 403 Long March 3」
[6]中国武器大全「中国091型(漢型)核動力攻撃潜艇」
[7]Jan's Fighting Ships 2006-2007「HAN CLASS(TYPE091)(SSN)」121頁
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