2015年1月8日木曜日

032型弾道ミサイル潜水艦(チン型/清型)



032型弾道ミサイル潜水艦(032型試験潜艇/NATOコード名はQING CLASS)は潜水艦で使用するための各種兵器の試験を行うために建造された通常動力潜水艦であり、2010年9月にその存在が明らかになった[1][2][8]。建造は中国船舶重工業集団公司の武漢造船廠で行われた[1]。武漢造船所では039A型通常動力潜水艦の量産を行っているが、新型潜水艦はこれと並行して建造が進められた[2]。2005年1月に研究開発作業に着手、2008年1月に建造開始、2010年9月18日に進水、2012年9月から洋上公試を開始、2012年10月16日に海軍に編入されている[2][9]。

【船体】
新型潜水艦の外観からはロシアの877/636型(キロ型)や677型(ラーダ型)潜水艦の影響が窺える[1][3]。船体長に比べて広い艦幅を有する艦形、浮上時の乾舷の高さ、艦中央に配置された大型セイル、格納式の水平舵はキロ型に、太い船殻や艦尾に向って傾斜した部分、船尾の十字舵はラーダ型に似ている[1]。ただし、セイル基部には流体力学を考慮したとおぼしきフィレットが付けられているのはキロ/ラーダ型とは異なる[1]。キロ型やラーダ型を設計したロシアのルビン海洋工学中央設計局が設計に協力した可能性もあるが、同設計局は中国との関係について明言を避けており、技術協力の有無は現時点では不明[1]。

衛星写真などから新型潜水艦の全長は039A型よりも20m程度長いと判断され、通常動力潜水艦としてはかなり大型の艦であることが窺えた[4]。その後明らかになった情報によると、032型潜水艦は水上排水量3,797t、水中排水量6,628tと現役の通常動力潜水艦としては世界最大の潜水艦である事が判明した[2]。その他のサイズは、全長92.6m、艦幅10m(セイルの幅を加えると13m)、喫水6.85m,艦の最大高度17.2m[2]。

船型は涙滴型だが、比較的太目の船体にフラットな上構がかなり広く取られていることから艦内スペースの確保を重視していると見られる[5]。写真からは艦首部に数門の魚雷発射管があることが確認できるが、その配置は前型039A型とは異なっており具体的な魚雷発射管の門数については不明。近年建造された中国海軍の潜水艦はセイル・プレーンを有するのが一般的であったが、新型潜水艦はセイル・プレーンを装備しておらず上構に引き込み式水平舵を設けている[5]。引き込み舵はセイル・プレーンに比べて艦の重心に近いため、より少ない力で艦の姿勢を変更可能。艦首部に近い位置に配置されているので、急速潜行などの際にはセイル・プレーンより早く姿勢制御を開始できる利点がある[5]。ただし、潜行中の高速航行時には水流の影響により操作が難しくなるため艦内に収納される[4]。引き込み舵は、艦首付近の水流を乱して騒音発生源になって、バウ・ソナーに悪影響を与えてしまうデメリットも有している[4]。新型潜水艦ではこの問題を解決するため、引き込み舵の位置を艦首からできるだけ遠ざけており、セイル直前の上構部に設置することでバウ・ソナーへの影響を少なくする措置を取っている[3][5]。これはキロ型の手法を取り入れたものと見られる[4]。

船体には静粛性向上のため吸音タイルが装着されているものと推測されている[5]。海水注入用の舷側部フラッド・ホールは従来の中国潜水艦が固定式だったのに対して開閉式に変更されており、使用時以外は蓋を閉めることで凹凸を減らして騒音発生を抑制する構造を採用している[2][5]。船尾には十字舵を装備しているが、上部垂直舵はかなり大型で上構よりも背が高くなっているのが特徴[5]。

艦内の構造や搭載機関などに関する情報は得られていないが、ディーゼル電気機関に加えて非大気依存推進(Air-Independent Propulsion:AIP)システムを採用している可能性が指摘されている[1][3]。最高速力は水中14kts、水上10kts、潜水深度は通常160m、最大200m[2]。艦固有の乗員は88人だが、試験の内容に応じて130名、もしくは200名に増員する事も可能。連続航行能力は30日だが、乗員130名の場合は5日間、300名の場合は3日間となる[2][9]。

【大型セイルについて】
新型潜水艦の大きな特徴が艦中央部のサイズの大きなセイルである。セイルのサイズは、長さ26m以上、幅3~4m、高さ5~6mと推測されている[4][6]。これは中国海軍が保有するゴルフ級の弾道ミサイルを収納した大型セイル(長さ:21.75m、幅:3.52m)を超える規模になる可能性がある[4]。セイル前方には中国海軍の潜水艦としては初となる乗員脱出用カプセルが搭載され、潜望鏡やレーダーマストなどはスペースの節約のためカプセルの後ろに横向きに置かれているとされる[6]。セイル後部の区画を広く取るための設計が施されていることから、この区画に何らかの兵器が搭載されているのではないかと推測された。セイルに搭載している兵装については諸説あるが、最も有力視されているのはJL-2潜水艦発射型弾道ミサイル(巨浪2/CSS-N-5)を搭載して艦齢50年に近いゴルフ級を代替するSLBM試験艦として運用されるというものであった[4][6][7]。ほかには、巡航ミサイル搭載艦という説や、米海軍の空母攻撃用のDF-21D対艦弾道ミサイル(東風21D)を搭載するとの説が存在した[4][6]。

最終的に、このセイルには弾道ミサイルが2発搭載されているのが、2013年7月にインターネット上で紹介されたパンフレットの図から明らかになった。これ以外に、セイルの直前の艦内にも巡航ミサイイル用の垂直発射装置が搭載されている事、水中工作員を展開するための小型潜航艇を艦の後部に搭載できる事もこの図から判明した[9]。この情報は、上記の乗員脱出用ポッドも合わせて、032型が潜水艦で運用される各種装備の試験を行うテストベッドとしての役割を果たす事を表しているといえる。

【今後の展望】
032型潜水艦は、前述の通り弾道ミサイルのテストベッドとして用いられているゴルフ級の後継艦として建造された。当面は、主にJL-2 SLBMの試験に使用されるものと考えられるが、それ以外にも各種の兵装・装備品の試験が行われる事が想定されている[2][9]。

032型性能緒元
水上排水量3,797t
水中排水量6,628t
全長92.6m
全幅10m(セイルを含めると13m)
主機
水上速力10kts
水中速力14kts
最大潜行深度160m
航続距離
最大作戦日数30日(88名の場合)
乗員標準88名(試験に応じて180名、もしくは200名の乗員が可能)

【兵装】
弾道ミサイルJL-2潜水艦発射型弾道ミサイル(巨浪2/CSS-N-5) / 垂直発射筒2基
巡航ミサイル垂直発射装置 
魚雷533mm魚雷発射管
このほか、各種の潜水艦用装備品の搭載・試験が可能とされる

1番艦 201武漢造船廠で建造、2008年1月起工、2010年9月18日進水、2012年10月16日就役[2][9]。東海艦隊所属[7]。

【参考資料】
[1]ミリタリー・ニュース 中国—新しいSSKを進水(『軍事研究』2011年3月号/ジャパン・ミリタリー・レビュー)168~169頁
[2]軍武狂人夢「039A元級柴電攻擊潛艦」
[3]「新元」潜水艦技術分析(平可夫/『漢和防務評論』2011年1月号/No.75)26~27頁
[4]平可夫「「新元」潜水艦的用途」(『漢和防務評論』2011年6月号/No.)27頁
[5]于無声処射惊雷—浅析中国新型常規潜艇(陳光文/『艦載武器』2010年11月号/中国船舶重工業集団公司)16~21頁
[6]ミリタリー・ニュース 中国の潜水艦画像—任務の手がかりを提供(『軍事研究』2011年10月号/ジャパン・ミリタリー・レビュー)178~179頁
[7]「やはり弾道ミサイル実験艦だった! 中国の最新ディーゼル潜「清」型」(『世界の艦船』2011年10月号/海人社)53頁
[8]IHS Jane's 360「Details emerge on Chinese 'Type 032' submarine」(Richard D Fisher Jr/2013年7月23日)
[9]Юрий Лямин「Тип 32 - крупнейшая неатомная подводная лодка в мире.」(2013年7月24日)

091型原子力潜水艦(ハン型/漢型)



091型原子力攻撃潜水艦(NATOコード名:Han Class/漢級)は中国海軍最初の原子力潜水艦。遼寧省の葫蘆造船所で1968~1990年の間に5隻が建造された。実験艦の性格が強かった1番艦(401)は既に退役したといわれており、2~5番艦(402~405)は現在も青島の北海艦隊に配備されている(2番艦も退役説あり)。

中国の原子力潜水艦建造計画は古く、文化大革命以前の1958年から外国の援助無しに始まった。しかしすぐに技術的・予算的問題に遭遇し、計画は1963年に一時中止されてしまった。1969年に入って中国は原子力科学者と高級官僚からなる開発チームを組織し四川省に実験用原子炉を、また遼寧省に原潜用造船所と特別試験エリアを建設した。1970年に原子炉は完成し、同年12月に進水した最初の原子力潜水艦(401)に搭載され、1971年7月から試験運用が開始された。試験運用が終了した1番艦は1974年8月に中国海軍軍艦として正式に就役したが、原子炉と戦闘システムの実用性に大きな問題があり、1980年代半ばまで実質的に任務に投入できる状態ではなかったといわれている。これらの問題はフランスが潜水艦用原子炉、魚雷管制システム、ソナーなどの技術支援を行うまで解決されなかった。1番艦(401)と2番艦(402)は1980年代半ばと1990年代半ばに近代化改修が行われ、3番艦(403)と4番艦(404)は1998年に改修作業が行われた。091型の性能は同時代のアメリカ・ロシア(旧ソ連)の原潜と比べ、特に静粛性とソナー性能及び戦闘システムの点で著しく劣るといわれていたが、上記の近代化改修工事でフランスの技術を取り入れた事で大幅に改善されたと推測される。

091型はアメリカ海軍のスキップジャック級攻撃原潜を範にとったような艦形で、涙滴型の船体に加圧水型原子炉1基を搭載したターボ・エレクトリック方式の1軸推進艦である。船体は複殻式で7つの防水区画に分かれており、第2区画上にあるセイルには潜舵が装備されている(耐氷能力は無い)。またセイル上には潜望鏡、レーダー・アンテナ(MRK-50)、ECMアンテナ(921A型)、UHF/VHF通信アンテナ、衛星通信アンテナなどが収められている。艦首の第1区画には533mm魚雷発射管6門が設けられており、20発のYU-3魚雷を搭載している。YU-3は旧ソ連製のSET-65E対潜魚雷をコピーしたもので、雷速40ノット、最大航走距離は15,000m。最大射出深度は200mで、アクティブ・ソナーによって誘導される。

3番艦(403)以降の艦は艦対地ミサイルを搭載するためにセイルより後の船体が約8m延長されたと伝えられた[4][7]。しかし、この件について現在も確認が出来ていない[4]。一方、近代化改修によって091型は魚雷発射管からYJ-82対艦ミサイルの射出が可能になった。YJ-82はコンテナに収納された状態で魚雷発射管から射出される。YJ-82の射程距離は約40kmで、慣性誘導で目標に向かって飛翔し、終末期は自身のJバンド・レーダーによって目標を捕捉して突入する。戦闘システムは上記のようにフランスの技術支援によって近代化され、これにより対艦ミサイルの運用が可能になった。ソナーは測距用のDUUX-5低周波パッシブ・ソナーと、攻撃用の中周波アクティブ・ソナーを備えている。

なお本級の1隻は2004年1月に我が国の領海を侵犯して海上自衛隊から補足・追跡を受け、その運用能力の低さと機械的信頼性の無さを露呈した。中国は故障によりやむを得ず領海に侵入したと説明している。 

091型の内3~5番艦は、就役後に何度かの近代化改修を行っており091G型(Gは「改Gai」の頭文字)と呼ばれることもある。091G型は、バウ・ソナーをH/SQG-262Bに換装し、新たに船体側面にフランク・アレイ・ソナーが装着されたとの情報もある[5]。航行中の写真からは、フリーフラッド・ホールの形状が変更された事が判明している。これは、091型で問題になった静粛性改善のための改修と見られ、その他にスクリューの形状変更や、船体に無反響タイルが貼られた可能性も指摘されている[5]。

性能緒元
水中排水量5,550t
全長98.0m(3番艦以降は106.0m)
全幅11.0m
主機原子力ターボ・エレクトリック 1軸
水上速力12kts
水中速力25kts
乗員75名

【兵装】
魚雷533mm魚雷発射管6門
 YU-3 533mm魚雷(魚3/SET-65E)20発
対艦ミサイルYJ-82
機雷(魚雷を搭載しない場合)36発

【電子兵装】
対水上レーダーMRK-50(Snoop Tray)1基
ソナーDUUX-5 

同型艦
1番艦長征1号4011970年12月26日進水、1974年8月1日就役、2000年に退役-
2番艦長征2号4021977年12月20日進水、1980年12月30日就役(2001年に退役か?)-
3番艦長征3号4031983年12月31日進水、1984年12月25日就役北海艦隊所属
4番艦長征4号4041985年12月26日進水、1987年12月27日就役北海艦隊所属
5番艦長征5号4051990年4月進水、1990年12月就役北海艦隊所属

▼1番艦「長征1号」(401)


▼2番艦「長征2号」(402)

▼3番艦「長征3号」(403)

▼4番艦「長征4号」(404)

▼5番艦「長征5号」(405)

▼2009年4月に山東省青島で開催された国際観艦式に登場した「長征3号」(403)。フリーフラッド・ホールの形状が変化している事が分かる。


【参考資料】
[1]世界の艦船2006年9月号(海人社)
[2]世界の艦船2005年9月号(海人社)
[3]世界の艦船2003年3月号(海人社)
[4]Chinese Defence Today「Type 091 (09-I) Han Class Nuclear-Powered Attack Submarine」
[5]Chinese Military Aviation「Han 403 Long March 3」
[6]中国武器大全「中国091型(漢型)核動力攻撃潜艇」
[7]Jan's Fighting Ships 2006-2007「HAN CLASS(TYPE091)(SSN)」121頁

093型原子力潜水艦(シャン型/商型)



中国国産の新型原子力攻撃潜水艦。漢級(091型)に続く第2世代となる。計画は1980年代初めから始まり、2003年にアメリカ国防総省により初めてその存在が明らかになった。商級(093型)の設計にはロシアのルービン設計局が深く関わっているといわれている。1番艦は2001~2002年に進水し、2003年から葫蘆島で公試が行われている。2番艦も建造が進んでおり、ほかに3隻が計画されている。

漢級より近代的で西側諸国やロシアの攻撃原潜に匹敵する性能を目指した商級の計画は、1980年代初期から始まり1983年に公式に開発計画が承認されたが、大きな技術的困難(特に原子炉と兵器システム)に阻まれた。そのため1990年代中頃にロシアのルービン潜水艦設計局が支援を始めるまで、商級の開発はほとんど進展しなかった。ルービン設計局の支援が具体的にどのようなものだったのかは不明だが、全面的な船体の設計、原子炉と機関、兵器システム、静粛性の向上など多岐に渡って重要な助言を与えたと思われる。その支援を受けて開発は順調に進み、性能はロシアの671RTM型攻撃原潜(ヴィクターIII型)に匹敵するものを得たと言われている。これが事実ならば商級はアメリカのロサンゼルス級攻撃原潜と同等の静粛性を持ち、最大潜行深度は700~800mで側面フランク・アレイ・ソナーと曳航式アレイ・ソナーを装備し、魚雷発射管から巡航ミサイルを発射可能という事になる。想像図を見る限り、全体的なデザインはロシア海軍のヴィクターIII型を踏襲しているがセイルの形状は漢級に似ており、内殻はシェーカー型で艦首部に魚雷発射管と新型ソナー(H/SQG-207)を設けている。

商級が就役すれば信頼性の低い漢級に替わり、太平洋に進出してアメリカの空母打撃群などの艦隊を狩りたて、また自国の戦略原潜を守る任務に就くことになるだろう。

【2010年1月8日追記】
米海軍情報局(ONI)が編纂した中国海軍に関するレポート「The People’s Liberation Army Navy: A Modern Navy With Chinese Characteristics」によると、 093型の静粛性についてはソ連海軍の671RTM型攻撃原潜(ヴィクターIII型)や667BDR型戦略原潜(デルタIII型)よりも劣っているとのこと[1][2]。これが事実であるとするなら、093型の静粛性はなお改善の余地が大きいということになる。

性能緒元
水中排水量6,000t
全長107.0m
全幅11.0m
主機原子力蒸気タービン 1軸
水中速力30kts

【兵装】
対艦ミサイル  
巡航ミサイル  
魚雷533mm(650mm?)長魚雷6門

同型艦
1番艦093型長征7号4072006年12月就役東海艦隊所属
2番艦093型長征8号4082007年6月就役南海艦隊所属
3番艦093型?    
4番艦093型?    
5番艦093G型?    
6番艦093G型?    

【参考資料】
世界の艦船(海人社)
Chinese Defence Today
Chinese Military Aviation
「The People’s Liberation Army Navy: A Modern Navy With Chinese Characteristics」22頁。[1]
FAS Strategic Security Blog「China’s Noisy Nuclear Submarines 」(Hans Kristensen/2009年11月21日)[2]

092型弾道ミサイル原子力潜水艦(シア型/夏型)



中国海軍が初めて建造した戦略原潜で、1981年4月に進水、1987年に就役したが、搭載ミサイルのJL-1の実用化に手間取り、本艦からの発射テストに成功したのは、就役後1年経った1988年9月のことだった。092型は2隻建造され、そのうちの1隻が1985年に実施されたJL-1発射実験の際に事故で沈没し失われた、という話もあるが事実関係は不明である。

1995年から射程が2,500~3,000kmに延伸されたJL-1Aに換装するために大規模な改装に着手され、1998年末に完了したとされる。「漢和防務評論」2008年3月号の記事によると、中国海軍では1990年代中頃に実用性に問題のあった092型に大幅な近代化を施しており、改装後を受けた同艦は制式名称を092M型と改称。中国海軍は、092M型の改装後の運用実績に一定の評価を与えているとしている[4]。

092型の主兵装であるJL-1 SLBM は1982年にゴルフ級潜水艦から水中発射の実験に成功した。だが夏級からの発射はミサイル発射管制装置の不具合でなかなか実施できず、発射に成功したのは1988年だった。

開発当初の構想では、JL-1を搭載する092型戦略原潜は、ソ連を仮想敵として内海の渤海湾で運用することが想定されていた[5]。また、中国周辺国に駐留する米軍基地の打撃も考えられていたものと推測される。

最小限核抑止戦略を執っている中国軍にとって生存性に優れた戦略原潜は不可欠の戦力であり、本級は091型攻撃原潜とともに「虎の子」というべき存在だが、092型は1隻しか在籍しておらず、戦略原潜による継続的に核パトロール体制を構築することは不可能なのが現状。JL-1の射程の短さを考え合わせると、実質的な核抑止力というよりは核戦力の象徴的な性格が強い存在であると評価されている[6]。むしろ、原潜とSLBM技術の実用化を達成したという技術的意義の方が大きいともいえるだろう。

092型の建造は1隻(前述の通り2隻が建造されたとの情報もあるが)に留まり、JL-1Aの配備数も092型の搭載数と同じ12発に留まっている[9]。これは、JL-1/JL-1A自体が中国第一世代のSLBMであり、射程の短さもあって十分な抑止力を備えていないことが背景にある[7]。そのため、ハワイやアラスカを射程に収める次世代SLBMであるJL-2の開発が進められている。Chinese Military Aviationの情報では、SLBMを現在開発中のJL-2に換装する可能性が指摘されているが[3]、2013年時点では実現していない。

092型は就役後は渤海湾に面した葫芦島を母港にしていたが、現在では山東半島南部の膠州湾に位置する潜艇第一基地(青島沙子口基地)を母港としている[8][9]。

性能緒元
水中排水量8,000t
全長120.0m
全幅10.0m
主機原子力ターボ・エレクトリック 1軸(12,000馬力)
水中速力22kt
最大潜行深度300m
乗員84名

【兵装】
弾道ミサイルJL-1A(巨浪1/CSS-N-3) / 垂直発射筒12基
魚雷533mm魚雷発射管6門
YU-3 533mm長魚雷(魚3/SET-65E)18発

【電子兵装】
対水上レーダーMRK-50(Snoop Tray)1基
ソナーDUUX-5 

同型艦
1番艦長征6号4061979年起工、1981年4月30日進水、1987年就役北海艦隊所属
2番艦(?)  1985年沈没? 

▼#406から水中発射されるJL-1


【参考資料】
[1]世界の艦船別冊 中国/台湾海軍ハンドブック 改定第2版(2003年4月/海人社)
[2]Chinese Defence Today「Type 092 (09-II) Xia Class Nuclear-Powered Missile Submarine」
[3]Chinese Military Aviation「Xia 406 Long March 6」
[4]漢和防務評論2008年3月号「094戦略核潜與中国的会場核拡充」(平可夫/漢和情報センター)
[5]竹田純一『人民解放軍-党と国家戦略を支える230万人の実力』(ビジネス社/2008年)321ページ
[6]「【写真特集】世界の原子力潜水艦 全タイプ」『世界の艦船』2010年2月号(海人社)21~36ページ
[7]Chinese Defence Today「JuLang 1 (CSS-N-3) Submarine-Launched Ballistic Missile」
[8]陸易「特集・中国海軍-組織と編成」『世界の艦船』2013年3月号(海人社)96~99ページ
[9]陸易「特集・中国海軍-基地と造船所」『世界の艦船』2013年3月号(海人社)100~103ページ

094型弾道ミサイル原子力潜水艦(ジン型/晋型)



現在開発中の弾道ミサイルJL-2(巨浪2/CSS-N-5)を搭載する新型戦略原潜で、同型4隻の建造を計画しているといわれている。1番艦は2001年葫蘆島の渤海造船所で起工、2004年に進水、現在洋上での公試を実施中で2008年に就役すると言われている。2番艦も進水済みで2010年ごろ就役すると見られている。

【建造に至る経緯】
094型の開発は1996年に正式決定されたとされる。計画名称は37751A計画、通称「震惊」。中国では、次世代原子力潜水艦開発のためのノウハウを得るために、ロシアに13回に渡って技術者チームを派遣しており、1997年から1998年の一年間だけでロシアに14回に渡り軍の人員を派遣し、新型潜水艦の操作方法の学習を行わせている[1]。

西側では上記のような中露の技術協力関係から、094型の設計にはロシアから得られたプロジェクト671RTM型攻撃型原潜(ヴィクターIII型)やプロジェクト667BDR戦略原潜(デルタIII型)の技術が反映された艦になると予測していた。しかし、実際には、094型は排水量13,250t(水中状態)のプロジェクト667BDR戦略原潜よりもかなり小型の8,000tに留まり、船体設計においてもプロジェクト667BDRよりも、以前中国が建造した092型弾道ミサイル原子力潜水艦(シア型/夏型)に近いデザインであることが判明した。弾道ミサイルの搭載数も、予想の16発よりも少ない12発に落ち着いたが、こちらも092型と同じ搭載数であった。

これらの事例から推測されるのは、094型は、ロシアからの技術導入は部分的なものに留まり、基本としては中国側が中心となって開発した092型の発展型としての性格が強い原潜であるということである。なお、ロシア側の技術利用の事例としては、「漢和防務評論」2008年3月号の記事で、ロシアのルービン潜水艦設計局への取材により、同設計局は潜水艦の建造に必要な自動溶接装置の技術は提供したが、それがどのように使用されるか中国側は明らかにしなかったとしている。記事では、実際に094型の建造で自動溶接装置の技術指導を行ったのは、ウクライナのBadon研究所のエンジニアであったとしている。装置の供給国と技術者の派遣国を別にしたのは、情報統制と特定の国に計画のイニシアチブを握られないようにするための中国側の対策であると思われる[2]。

094型の設計が092型をベースとしたもので、ロシア由来の技術導入が限定的なものに留まった要因しては、設計を抜本的に変えることで開発に要するリスクが増大し、実用化が遅れる事を懸念したことが考えられる。優先されたのは、実質的に核抑止力として機能していない092型に代わり、継続的な戦略パトロール体制を構築するため速やかな戦力化を実現することであったといえる。

再び「漢和防務評論」2008年3月号の記事によると、中国海軍では、1990年代中頃に実用性に問題のあった092型戦略原潜に大幅な近代化を施しており、改装後を受けた同艦は制式名称を092M型と改めている。中国海軍は、092M型の改装後の運用実績に一定の評価を与えており、094型の戦闘情報システムも092M型と同じ物を採用しており、ソナーについても艦の形状から判断して、同様の装置を搭載していることが窺えるとしている。092Mと094型の相違点としては、092型のJL-1よりも大型のJL-2弾道ミサイルを搭載するため、セイル部が拡大されていること、フリーフラッド・ホールの位置が異なる、船尾の形状が一部変化、などが有る。094型と同時期に建造された093型原子力潜水艦(シャン型/商型)では、H/SQ G-207舷側ソナーを採用しているが、094型が同ソナーを搭載しているかについては現状では不明[2]。

【性能】
094型の艦形は、092型のものを引き継いで艦橋後部のセイル部を上方に拡大してミサイル区画としている。船体形状は保守的で、多数のフリーフラッド・ホールが設けられており、船体への消音タイルの装着も確認されていないことから、設計に際して静粛性がどこまで優先されたのか気になる点である。

船体長は137m、船幅11m、排水量は水中状態で8,000t。主機は加圧水型原子炉×2 蒸気タービン×2、1軸。熱出力は150MW。動力部は093型攻撃原潜のものと同一であると見られている。乗員は140名。

主兵装であるJL-2弾道ミサイルの搭載数は092型と同じ12発。JL-2弾道ミサイルは現在開発中の潜水艦発射式弾道ミサイルで、2002年にゴルフ級潜水艦から発射試験が行われた。JL-2の射程は7,200~8,000kmの間でいくつかの説がある。3~4個の多弾頭(各90キロトン)または250~1,000キロトン単弾頭が装着可能。JL-2が実用段階に達した場合、094型戦略原潜の母港になると見られる海南省三亜からインド全域やモスクワ、米軍基地の有るグァムなどを射程に収めることが可能となる。また、北方の渤海に展開した場合は、アラスカを攻撃圏内に入れることが出来る。射程2,500kmのJL-1に比べると、はるかに広い地域を射程圏内に治めることが可能となった事が見て取れる。ただし、JL-2の射程では中国の沿岸からではアラスカより南のアメリカ本土やハワイなどを攻撃する事は困難[5]。アメリカ本土の攻撃が可能な外洋に進出するのは094型の低い静粛性から現実的ではない[5]。この点から、JL-2のアメリカに対する核抑止効果は限定的なものに留まらざるを得ないのが否めない所。

弾道ミサイルのほかに、艦首部に533mm魚雷発射管6門を装備している。

戦闘情報システムやソナーについては前述の通り。

【総括】
094型の建造は前述の通り2001年から開始されていたが、設計変更や搭載する原子炉の問題で本級の建造は滞っていたと言われている。現在、1番艦が就役間近で、2番艦も艤装が進んでいるが、主兵装であるJL-2弾道ミサイルの実用化が遅れているため、094型が戦略原潜としての価値を発揮するのは、もうしばらくの時間を要すると見られている。

いずれにせよ092型(NATOコード:夏型/シア型)一隻では実質的な核抑止効果を期待できない中国にとって、本級と潜水艦発射型弾道ミサイル・システムの早期配備は緊急の課題となっている。

094型は4隻の建造が決まっているが、その後はミサイルの搭載数を増加させた改良型へと建造が移行されるものと推測されている。中国の刊行物に掲載された想像図によると、新型原潜は094型にあったセイルの盛り上がりが無くなりアメリカのオハイオ級戦略原潜のような船体形状になっており、搭載ミサイル数は24発に増加している。

中国海軍は、山東省南端の膠州湾に建設した潜艇第一基地に原子力潜水艦を配備しており、さらに2006年には海南島三亜に2つ目の潜水艦基地を建設しており、094型は、この2つの基地に配属されることになる。これらの基地は、埠頭やドック、訓練施設のほか、海岸沿いに建設された洞窟基地が存在する。上空からはその状況を確認できない洞窟基地は、偵察衛星によっても基地に潜水艦が何隻停泊しているかを把握することが困難にさせる効果が有る。

性能緒元
水中排水量8,000t
全長137m
全幅11m
主機加圧水型原子炉×2 蒸気タービン×2、1軸
熱出力150MW
水中速力 
乗員140名

【兵装】
弾道ミサイルJL-2潜水艦発射型弾道ミサイル(巨浪2/CSS-N-5) / 垂直発射筒12基
魚雷533mm魚雷発射管6門
YU-3 533mm長魚雷(魚3/SET-65E)12発

同型艦
1番艦長征9号4092001年起工、2004年7月28日進水、2007年就役南海艦隊所属
2番艦  2003年起工、2006年進水、2009年就役 
3番艦  現在建造中 
4番艦  現在建造中? 
5番艦  現在建造中? 
6番艦  現在建造中? 

【参考資料】
[1]博客口碑評論「美震惊:中国863計画尖端武器戦略太恐怖了!」
[2]漢和防務評論2008年3月号「094戦略核潜與中国的会場核拡充」(平可夫/漢和情報センター)[2][3]
[3]世界の艦船2008年2月号(No.686)「注目の中国新型艦艇 1.潜水艦」(編集部/海人社)
[4]Chinese Defence Today「Type 094 (Jin Class) Nuclear-Powered Missile Submarine」
[5]China Defense Mashup「What China’s SSBN Nuclear Missile Submarines Mean for the U.S.」(2012年11月13日)

Strategic Security Blog

2015年1月6日火曜日

056型コルベット(056型軽型護衛艦)

▼洋上公試中の二番艦「恵州」(#596)


056型コルベット(056型軽型護衛艦/NATOコード名 JANAGDAO class[13])は2010年11月に中国軍香港駐留部隊司令員が香港大学を訪問した際に、大学に送った艦艇模型によってその存在が明らかになった新型艦艇[1]。「056型」とは模型の舷側に記載された艦番号に由来する通称であり、海軍での制式名称は確認されていない。
2012年5月時点で上海と広州の造船所で4隻の建造が確認され[5]、さらに内陸の武漢市にある武漢造船廠、遼東半島の大連にある遼南造船廠でも056型の建造が行われていることが明らかになった[10][11]。4箇所の造船所が同時に建造に携わるという例を見ない量産体制が採られている事になり、今後急速に056型の建造が行われるだろう。2013年2月時点で、20隻の建造が確認されており[12]、参考資料[14]ではその建造数は少なくとも30隻になると推測している。

【性能】
056型に関する情報は少なく、詳細は不明な点が多い。船体サイズは満載排水量1,300~1,440t、全長89~95.5mと資料によって数値が異なっている([11][13][14]など)。船体は中央船楼型で、ステルス性を重視して上部構造物や煙突にはいずれも傾斜が付けられており、上甲板の艤装品のカバーもステルス性改善のための設計を採用している[1]。ただし艦尾(ヘリコプター発着甲板下)には大きな開口部があり、ステルス性の面では不利になると見られる。
船体設計では、喫水線下の面積を減少して航行時の水の抵抗を軽減するために、V底型船体を採用している[11]。056型は、シーステート8の状態での洋上航行能力を備えている[11]。
1~3番艦は艦首から艦橋まで繋がったブルワークだったが、進水後に054A型フリゲイト(ジャンカイII型/江凱II型)後期建造艦に似た艦橋直前に切欠を設けたブルワーク形状に変更された[11]。艦橋直後には平面構成の塔型マストが配置されており、マスト頂部には対空/対水上捜索レーダーと航海レーダー、マスト基部には管制用レーダー(艦載砲/対艦ミサイル用)が搭載されているのが見て取れる[1]。2012年末には建造中の056型でマスト基部の形状を垂直だったものを傾斜式に変更したタイプが確認されており、これは電波ステルス性向上のための措置と見られている[11]。船体側面には船体横揺れを軽減するためのフィン・スタビライザーが装備されている。艦尾形状はトランサム・スターンを採用している。
搭載機関は、フランス製のピールスティック16PA6V-280ディーゼル・エンジンを陝西柴油機廠でライセンス生産したものを2基搭載していると見られており、推進軸は2軸[11]。最高速力は25Ktsで、航続距離は巡航速力18Ktsで2,000海里[11]。ディーゼル・エンジンは減振装置を内蔵した架台に設置した上で、機関室壁面に遮音材料を施すことで、騒音や振動発生率が高いというディーゼル・エンジンの問題に対する対策を講じている[11]。機関室は無人化がなされているが、これは省力化の一環[11]。
056型の乗員は60名と、同艦によって更新される053H型フリゲイト(ジャンフーI型/江滬I型)の190名より大幅に減少しており、排水量430tの037型哨戒艇(ハイナン型/海南型)の78名よりも少なくなっている[13]。これは兵装を比較的軽いものに留め、省力化を大幅に進めたことによって可能となった。これにより、乗員1人あたりのスペースは053Hフリゲイト型や037型哨戒艇よりも遥かに余裕のあるものとなり、洋上での活動において乗員の戦闘力を維持する上で見逃せない効果がある。船体の大型化により、056型コルベットの作戦行動範囲は037型哨戒艇の4倍となり、第一列島線の内側の海域での様々な任務に対応する事が可能となった[17]。

【兵装】
056型は艦首部に054A型フリゲイトと同じPJ-26 60口径76.2mm単装砲を1門装備しているほか、艦橋構造物の両側面にH/PJ-17型30mm単装機関砲各1基を搭載している。近年洋上や港湾での非対称脅威に対応するため、各国海軍は機関砲と光学センサーを組み合わせて艦内から遠隔制御するRWS(Remote Weapon Station:遠隔操作式無人銃架)の装備を進めているが、056型もその流れに沿ったものと思われる。このRWSは銃架右側に銃手席があり、銃側で手動射撃する事もできる。
艦対艦ミサイルはマストと煙突の間にYJ-83(鷹撃83/C-803)の連装発射機2基が搭載されている[11]。煙突の後ろにある上部構造物後端には、近接防空用のHQ-10対空ミサイルの8発射機が設置されている。対潜装備としては後部上構内に324mm3連装魚雷発射管3連装魚雷発射管2基を装備しており、発射の際は舷側ドアを開けて魚雷を投射する。056型は、これまで中国海軍で広く用いられてきた対潜前投兵器である対潜ロケットは装備していない。ソナーは艦首のバルバス・バウの部分に搭載される[11]。
船体後部には着艦拘束装置を備えたヘリコプター甲板があるが、ヘリコプター格納庫は無く艦固有の艦載ヘリコプターは搭載しない。2012年5月に撮影された1番艦の進水直前の写真を見ると、上部構造物後端に左右2箇所の大型開口部があるのが確認でき、この場所に艦載UAV(Unmanned Aerial Vehicle:無人機)が搭載される可能性がある。

【056「対潜型」】
056型は4箇所の造船所で建造されているので、極力相違点が出ないように規格の標準化や品質の統一性が追及されている[11]。一方で、建造過程で細かな変更が施されているのも確認されており、マスト基部の形状の変更や煙突頂部に赤外線低減のためカバーを施すなどの事例が確認されている。

▼上から、艤装中の1番艦「恵州」(この後3番艦に準じた改装を実施)、2段目が3番艦「梅州」、3段目が2番艦「恵州」(奥の艦は6番艦「欽州」)、一番下が9番艦「吉安」。赤で囲った所が主な変更箇所。ブルワーク、煙突頂部、艦尾開口部、前部マスト基部など様々な箇所で相違があるのが見て取れる


派生型の中でも特に注目されているのが、滬東中華造船廠で建造され2013年11月20日に進水した056型の17番艦である。同艦は新たに可変深度ソナーを搭載し、艦尾にはソナーを海面に降ろすための開口部が設けられた。ソナーを強化した事から、潜水艦探知能力を高めた「対潜型」という通称が付けられているが、公式の型式名についてはまだ明らかにされていない。

▼進水する056型コルベット「対潜型」


ただし、「対潜型」といっても、可変深度ソナーの装備以外には相違点は確認されておらず、056基本型と同じく艦固有の対潜兵器は短魚雷発射管のみで、ヘリコプター甲板はあるが格納庫を備えていないため長期間にわたる洋上でのヘリコプターの運用・整備は困難である事から[17]、単独での対潜能力強化には限度がある。少なくとも、可変深度ソナーの装備で潜水艦の探知能力が向上したのは間違いなく、他の艦艇や航空機と連携して対潜作戦を実施する事で総体としての対潜警戒能力を向上させ得るといえる。056「対潜型」の建造はまだ一隻のみであるが、このタイプの056型が今後も建造が継続するのか、あるいはヘリコプター格納庫を備えるなど対潜能力を高めた拡大改良型の開発へと進むのかが注目される。

【今後の見通し】
中国海軍は従来の沿岸防衛型の海軍から外洋艦隊化へ変化が進み、駆逐艦やフリゲイトも外洋での活動を想定して大型化していった。その反面、領海警備用の艦艇については1970~80年代に大量建造された053H型053H1型037型哨戒艇(ハイナン型/海南型)が退役の時期を迎えつつあり更新が必要だった。056型はその代替として比較的低コストで調達可能な艦として設計され、急速に整備が進められているものと思われる。
今後、056型は尖閣諸島や南沙諸島(スプラトリー諸島)など中国が領有を主張している紛争・係争海域に、領海警備艦として海監などの海洋監視機関の巡視船と共に積極的に投入されるであろう。航洋性能を重視する半面、武装は比較的軽度な武装に留めているのは、056型が平時の領海警備や対テロ・海賊対策などへの対処を重視した艦である事を示していると考えられる。ただし、重武装ではないものの対空、対艦、対潜の各種武装を備えており、ヘリコプター甲板も有しているのでそれぞれの脅威に対して一定の対処が可能となっている。

中国では、056型の輸出を目指しており解放軍系の企業である保利公司によって各国への売込みが図られている[11]。2013年8月10日には、バングラデシュが056型を導入するとの報道がなされた。報道によると、バングラデシュは056型2隻を輸入、その後さらに2隻をライセンス生産する事で、自国での艦艇製造能力を向上させることを計画しているとの事。

性能緒元
満載排水量1,365t
全長88.9m
全幅11.14m
喫水4m
主機S.E.M.Tピールスティック16PA6V-280ディーゼル 2基2軸
速力25kts
航続距離2,000nm/18kts
乗員60名

【兵装】
対空ミサイルHQ-10艦隊空ミサイル/8連装発射機1基
対艦ミサイルYJ-83(鷹撃83/C-803)/連装発射筒2基
PJ-26 60口径76.2mm単装砲1基
近接火器H/PJ-17型30mm単装機関砲2門
12.7mm重機関銃2門(#596 #597)
魚雷YU-7 324mm短魚雷/B515 324mm3連装魚雷発射管2基

【電子兵装】(推定)[15]
対空対水上レーダーSR641基
火器管制レーダーH/LJP-349型(TR47)砲用1基
航海レーダー760型1基
光学電子/赤外線照準装置 砲用1基
戦闘システム  
電子戦システム  
チャフ/フレア発射装置9連装デコイ発射機2基
ソナーバウ・ソナー1基
可変深度ソナー1基(17番艦のみ)
データリンクシステム  
衛星通信用レドーム1基

同型艦
1番艦蚌埠Bàngbù582滬東中華造船廠で建造。2012年5月23日進水、2013年3月12日就役東海艦隊所属
2番艦惠州Huìzhōu596広州黄埔造船廠で建造。2012年6月3日進水。2013年7月1日就役南海艦隊(香港分隊)所属
3番艦梅州Méizhōu584武漢造船廠で建造。2013年7月31日進水。2013年7月29日就役南海艦隊所属
4番艦大同Dàtóng580遼南造船廠で建造。2012年8月10日進水、2013年5月18日就役北海艦隊所属
5番艦上饒Shàngráo583滬東中華造船廠で建造。2012年8月19日進水。2013年6月10日就役南海艦隊所属
6番艦欽州Qīnzhōu597広州黄埔造船廠で建造。2012年8月30日進水。2013年7月1日就役南海艦隊(香港分隊)所属
7番艦百色bǎisè585武漢造船廠で建造。2012年10月25日進水。2013年10月12日就役[16]南海艦隊所属
8番艦営口Yíngkǒu581遼南造船廠で建造。2012年11月18日進水。2013年8月1日就役北海艦隊所属
9番艦吉安Jíān586滬東中華造船廠で建造。2013年2月25日進水。2014年1月8日就役東海艦隊所属
10番艦掲陽Jiēyáng587広州黄埔造船廠で建造。2013年1月26日進水。2014年1月26日就役南海艦隊所属
11番艦広州黄埔造船廠で建造中。2013年5月30日進水。 
12番艦泉州Quánzhōu588滬東中華造船廠で建造中。2013年6月25日進水  
13番艦592武漢造船廠で建造中。2013年7月16日進水  
14番艦威海Wēihǎi590遼南造船廠で建造。2013年8月1日進水、2014年3月15日就役北海艦隊所属
15番艦遼南造船廠で建造中。2013年8月1日進水。 
16番艦594広州黄埔造船廠で建造中。2013年11月30日進水 
17番艦(対潜型)滬東中華造船廠で建造中。2013年11月20日進水 
18番艦武漢造船廠で建造中。2013年11月12日進水 
19番艦   
20番艦   

▼ドックから海面に下ろされる直前の2番艦「恵州」。バルバス・バウの形状がよく分かる。公試中の写真とブルワーク形状が異なるのが確認できる

▼艤装工事中の1番艦と2番艦。ヘリコプター発着甲板下の開口部にはRIB(Rigid-hulled inflatable boat:複合型ゴムボート)が見える

▼後方から見た056型。HQ-10対空ミサイル8連装発射機の下にはUAV用の格納庫(?)が左右にあり、艦内に収納されている3連装短魚雷発射管も確認できる

054A型フリゲイト(奥)と並ぶ056型2番艦「恵州」(手前)。054A型と比較してかなり小型である事が分かる

▼艤装工事中の3番艦。艦橋やマスト基部、ブルワークなどの形状が1番艦と若干異なる。1、2番艦も艤装中に形状をこちらに変更している

▼4番艦「大同」(#580)。赤矢印:普段は艦内に収容されている3連装短魚雷発射管をハッチをあけて展開しているのに注意。黄色矢印は排熱・排気対策で設けられたファンネルキャップ。緑矢印はH/PJ-17型30mm単装機関砲


▼056型コルベット1番艦(#582)の海軍正式引渡し式動画。主砲、チャフ、魚雷発射管、対艦ミサイル、30mmRWS、艦橋、船員室など

▼056型コルベット1番艦(#582)の航海動画。主砲、HQ-10対空ミサイル、30mmRWS、艦橋、CICなど


【参考資料】
[1]广闻「浅析中国海军新型056型护卫舰」『舰载武器』2011年1月号(中国船舶重工業集団公司)26~29頁
[2]世界の艦船編集部「新型コルベットの技術」『世界の艦船』2008年11月号/No.698(海人社)82~87頁
[3]China Defense Blog「056 Class Corvette Project Update」(2012年5月19日)
[4]铁血社区-海军论坛「056型护卫舰22日晚下水过程回放」(2012年5月23日)
[5]China Air and Naval Power「Recent activities around Chinese shipyards」(2012年4月27日)
[6]China Defense Blog「4th 056 hull emerges」(2012年5月29日)
[7]HSH上海发烧友论坛-海洋舰艇科技发烧版「东亚某国596舰下水中…全球首发图!(更新舷号横幅清晰图)」(2012年6月2日)
[8]HSH上海发烧友论坛-海洋舰艇科技发烧版「转秋雨056图细部」(2012年6月1日)
[9]星島環球報「解放军第2艘056型护卫舰下水 正造更多同型舰」(劉浩英/2012年6月5日)
[10]「武漢造船廠将生産056型導弾護衛艦」『漢和防務評論』2012年6月号(加拿大漢和信息中心)24頁
[11]MDC軍武狂人夢「056護衛艦」
[12]China Defense Blog「582, head of the class.」(2013年2月24日)
[13]naval-technology.com「China Navy receives first Type 056 Jiangdao-class corvette」(2013年2月27日)
[14]Janes公式サイト「China inducts first Type 056 corvette」(Jon Rosamond/2013年2月28日)
[15]小飛猪・烽火「056型軽型護衛艦詳解」『現代艦船』2012-07B(《現代艦船》雑誌社)14~17頁
[16]新華網「最新056型护卫舰百色号服役 今年服役第八艘」(2013年10月14日)
[17]銀河「中国海軍的水面反潜艦」『艦載武器』2014年3月号/No.189(中国船舶重工業集団公司)40~52頁