053H型(Jianghu/江湖/江滬型)フリゲイトは1970年代中頃から建造が開始され、シリーズ最終艦は1996年に就役した中国海軍最大の建造数を誇るフリゲイトである。中国側の区分では、053H(Hは海haiの頭文字)、053H1型、053HE型 、053H1Q型、053H1G型の5つのタイプに分類されている。NATOコードネームでは、053H型と053H1型をあわせて「JianghuI型」、ヘリコプター施設を付加した053H1Q型を「JianghuII型」053H1G型を「JianghuⅤ型」と区分する。「JianghuIII/IV型」の名称は、中央船首楼を採用し艦形が大幅に変更された053H2型に与えられた。なおJianghuを漢字表記する際は「江滬」もしくは同音の「江湖」の表記が使用されることが多い。江滬型フリゲイトは各型合計32隻が建造され、事故で1隻が喪失し、2隻が海岸警衛隊に移籍して現在26隻が中国海軍で就役しているほか、エジプトに2隻(053HE型)、バングラデシュ(053H1型)に1隻が輸出された。
1970年代初めに中国海軍が保有していた対艦ミサイル搭載フリゲイトは、ソ連のリガ級フリゲイトを国産化した01型護衛艦(成都級フリゲイト)4隻のみであった(1971~75年にかけて魚雷発射管を撤去してSY-1艦対艦ミサイル(上游1/FL-1/CSS-N-1スクラブブルッシュ/P-15テルミット)連装発射機に換装する改装を実施)。中国海軍では、01型は船体が過小で火力にも乏しいと評価しており、新たに建造される053H型は、01型フリゲイトよりも大型化され、近海での護衛、対艦・対戦任務、海上警備、機雷敷設等の任務に当たり、一定程度の対空能力を有することが想定された。053H型の設計と建造を担当したのは上海にある上海滬東造船廠であった。設計に当たっては、1970年代初めに同造船廠が設計した053K型フリゲイト(ジャンドン型/江東型)がタイプシップとされた。053K型は中国海軍初の艦対空ミサイル搭載フリゲイトとして建造された艦であった。当初の計画では、対艦攻撃用の053H型と防空用の053K型を組み合わせて運用する予定であったが、搭載ミサイルであるHQ-61艦対空ミサイルの開発が難航したことから建造は2隻に留まり実際にHQ-61を搭載したのはネームシップの鷹潭(531号艦)のみであった。
053H型の設計では、兵装は全て既存の装備を流用することとされた。これは新規装備開発の時間を節約し、速やかに実戦配備を行うためであった。
053H型の艦形はタイプシップである053K型フリゲイト(ジャンドン型/江東型)と同じ平甲板形で艦首には053K型にはなかった小型のブルワークが設置されている。艦の中央部にSY-1発射機を2基搭載しているため、外見は同時期に建造された旅大型駆逐艦を小型化したような形状になっている。艦橋は露天式。近海での行動を前提に設計されたため、艦内施設は充実しておらず乗員の居住性には問題があったとされる。053H型のスペックは、全長103.2m、全幅10.8m、吃水3.19m、満載排水量1661.5トン。主機は12E390Vディーゼル2基2軸で、053K型よりも出力が落ちたため、最高速力は053K型の28ノットから26ノットに低下した。航続距離は7,200海里。
武装はB-34 56口径100mm単装砲(M1940)2基、61型37mm連装機関砲6基、SY-1艦対艦ミサイル連装発射機(7226型)基2、62式250mm5連装対潜ロケット発射機(RBU1200)2~4基、64式爆雷投射機(BMB-2)4基、爆雷落射機2基。
SY-1対艦ミサイルは、053H型の主兵装である。このミサイルは7226型連装発射機に2発が搭載され、艦の中央部に煙突を挟む形で装備された。SY-1は、ソ連のP-15 テルミットSSM(SS-N-2 スティックス)を元に開発された対艦ミサイルで、1960年に研究が開始され、1967年から生産が開始された。7226型発射機は、駆逐艦やフリゲイトの長魚雷発射機と換装するため1962年から開発が開始され1969年に実用化された装備であった。053H型は7226型発射機を2基装備しており、合計4発のミサイルを搭載している。船体が小型のため予備弾は搭載されていない。SY-1の主なスペックは以下の通り。全長6.2m、直径60cm、全幅2.3m、重量2090kg、弾頭380kg高性能HE弾、射程8~42km、最高速度マッハ0.6、巡航高度300m。ミサイルの誘導方式は中間段階が慣性航法式で、終末段階がアクティブ・レーダー誘導。電子妨害を受けない前提での命中率は70%以上。1発で排水量3,000t級の艦艇の戦闘力を喪失させることが可能。ただし初期の対艦ミサイルであるため、電子妨害に対する抵抗力は十分なものではなかった。
比較的強力な対艦兵装と比較すると、対空兵装は建造時点でも不十分なものであることは明らかであった。B-34 56口径100mm単装砲(M1940)は、ソ連から供与された2次大戦型の艦砲であり、操砲は全て人力で行われる。最大射程は20km。発射速度は毎分22発(これは理論値であり、実際には要員の訓練度や疲労度に大きく左右される)。操砲要員は6名。100mm砲の照準は艦橋上の対空/水上用測距儀を使いレーダーなどは使用しないため、悪天候や夜間には使用が大きく制限された。また、同じくソ連に由来する61型37mm連装機関砲も、射撃統制システムはなく各砲座が個々に対空目標を定めて照準・射撃を行う方式をとっており、いずれの装備も全天候性能を有しておらず、またジェット攻撃機や対艦ミサイルなど戦後登場した新たな経空脅威に対抗することは困難であった。しかし、053H型は既存の兵装を流用することが決定しており不十分な能力の装備であると分かっていても搭載せざるを得なかった。また当時の中国ですぐに実用化できる対空装備はこのぐらいしか無かったのも事実であった。
対潜装備は艦首部に62式250mm5連装対潜ロケット発射機(RBU1200)2~4基、艦尾部に64式爆雷投射機(BMB-2)4基、爆雷落射機2基を装備した。これは、当時の中国海軍の標準的な対潜兵装であった。
053H型のレーダー装備は、対空捜索用の354型(Eye Shield)、SY-1 SSM誘導用の352型(Square Tie)等を搭載しているが、これは計画当時でも、各国の同クラスの艦艇と比較すると比較的簡素な装備であった。また、CICや射撃統制システムは搭載されておらず、対空/水上用測距儀やレーダーで得られた各種諸元を各兵装の要員に伝えることしか出来なかった。
053H型は、1975年の建造開始からわずか5年間で14隻が建造された。これは、当時、海軍艦艇の旧式化から沿岸防衛の需要が逼迫していたこと、既存の装備を使用したため、無理なく建造することが可能だったことなどが背景にある。
これらの艦は、兵装や各部形状などの違いから3つのグループに分類されている。第一グループは#515「厦門」、#516「九江」、#517「南平」の3隻で、識別点は、艦橋正面が垂直、煙突は円形で僅かに後部に傾斜しており、後部37mm機関砲の直前に小型のマストが設置、RBU1200対潜ロケットを4基搭載等である。#516「九江」は他の艦に先駆けて1980年代中期に近代化改装を行っており053型の改良型である053HI型に順ずる艦となった。改装点を列挙すると、艦橋頂部に343型(Wasp Head)火器管制レーダーを設置したが、053H型でこのレーダーを搭載したのは「九江」のみである、これに合わせて、艦橋形状も変化している。100mm砲は79式56口径100mm連装砲(H/PJ-33もしくは712型)に換装され、RBU1200対潜ロケットは2基に減少された。後部マストは撤去され、遠距離捜索用の517A型(警-17H/Knife Rest)対空捜索レーダーが追加装備された。「九江」は艦齢30年に達した2004年に2度目の改装を行い、対艦ミサイル発射機を全て撤去、50連装122㎜ロケット発射機×5を搭載した火力支援艦に改装された。この改装で対艦ミサイル発射機、37mm機関砲×4、517型対空捜索レーダーが撤去された。79式100mm連装砲はシールドをステルス対応にした 99型56口径100mm連装砲(H/PJ-33B)に改めており、37mm機関砲は艦橋直前の2基のみとなった。ただし、122mm艦載ロケットは最大射程が40kmと比較的短く陸上からの反撃を受ける可能性が拭えないこともあり「九江」以外の艦への搭載は見送られることとなった。「九江」以外の#515「厦門」、#517「南平」は現在も竣工時の形状を留めている。両艦の識別点は煙突側面の黒窓の数であり、#515「厦門」は5、#517「南平」は4となっている。
第二グループに分類されるのは#511「南通」、#512「無錫」、#513「淮陽」(2006年「淮安」と改名)、#514「鎮江」、#518「吉安」の5隻である。識別点は艦橋正面上部が前方に突出している点、煙突が角型である、RBU1200対潜ロケットの搭載数は2基等である。
第三グループは、#509「承徳」、#510「紹興」、#519「長治」、#520「開封」、#551「茂名」、#552「宜賓」の6隻である。識別点は煙突の形状が多角形であること、後部マストの存在等である。#520「開封」は1985年8月18日に座礁事故を起こし退役している。このグループの#509「承徳」、#510「紹興」は、2006~07年にかけて、海軍から領海警備を任務とする海岸警衛隊に移籍、艦様を一新する大規模な改装を受けて「海警1002」、「海警1003」巡視船として再就役したことが判明した。
053H型は1975年から1980年までの5年間に14隻が建造され、中国海軍の沿岸警備艦艇不足を解消することに成功した。しかし053H型の対空、対潜能力は脆弱なものであり、CICが欠如している等兵装のシステム化にも遅れをとっていた。対空兵装は二次大戦型の対空砲のみであり、自動化も充分でなく全天候性能も有していなかった。また、NBC防護能力は付与されておらず、ダメージコントロールの点でも多くの不備があった。 これらの問題は、当時の中国の国際的孤立と艦船設計建造ノウハウの不備に起因する所が背景にあるとされる。
053H型は現在に至るまで、中国海軍で最も多くの同型艦を有する中大型水上戦闘艦である。国際的孤立の中で限られた技術水準で開発されたこと、海軍艦艇に関する各種ノウハウの蓄積が充分でなかったことから、その性能は完成当時から十分なものであるとは言えず、艦艇の運用面でも、艦形が小型で充分な航洋性能や長期航行に必要な施設を持たない、対空/対潜装備の脆弱性、旧式な電子装備、脆弱なダメージコントロール等、様々な問題点を有していた。ただし、中国海軍の歴史的変遷から見た場合、053H型が建造された時期は、中国海軍が人民戦争論に基づく沿岸防備艦隊から、領海の維持や海洋権益の確保を目的とした外洋艦隊へと転換する過渡期であり、053H型はこの時期に必要とされた沿岸防衛任務や巡視艦艇として数的要求に答えた艦であったのは間違いないといえる。
053H型は、1990年代に入るとチャフ/フレア発射機や電子戦装備を追加装備したり、情報化に対応するため衛星通信アンテナやデジタルデータリンクシステムを搭載する近代化が行われている。ただし、中国海軍は老朽化が激しく装備的にも陳腐化した053H型を、10年以内に新鋭の054型フリゲイトで置き換えたい考え。退役する053H型のうち4隻を北朝鮮に売却するという噂もある。
■性能緒元
基準排水量 | 1,425t |
満載排水量 | 1661.5t |
全長 | 103.2m |
全幅 | 10.8m |
主機 | ディーゼル 2軸 |
12E390Vディーゼル(7,000馬力)×2基 | |
速力 | 25.5~26kts |
航続距離 | 7,200海里 |
乗員 | 190名(うち士官30名) |
【兵装】
対艦ミサイル | SY-1艦対艦ミサイル(上游1/FL-1/CSS-N-1スクラブブルッシュ/P-15テルミット)/ 連装発射筒(7226型) | 2基 |
対潜ロケット | 250mm対潜ロケット /62式250mm5連装対潜ロケット発射機(RBU1200 | 2~4基 |
砲 | B-34 56口径100mm単装砲(M1940) | 2基 |
近接防御 | 61式37mm連装機関砲 | 6基 |
爆雷 | 64式爆雷投射機(BMB-24) | 4基 |
爆雷落射機 | 2基 | |
機雷 | 機雷用軌条 | 2基(24発搭載可能) |
砲塔もステルスシールドの99式56口径100mm連装砲(H/PJ-33B)×2に換装。
【電子兵装】053H型「江滬I型」※典型的なもの。
対空対水上レーダー | 354型(Eye Shield) | 1基 | |
火器管制レーダー | 352型(Square Tie) | SSM用×1基 | |
航海レーダー | RM-1290(Racal Decca) | 1基 | |
ECMシステム | RWD-8 | ||
ソナー | EH-5 |
■同型艦
1番艦 | 承徳 | Changde | 509 | 1975年就役、2007年に海軍を退役、海岸警衛隊に移籍し「海警1002」 | - |
2番艦 | 紹興 | Shaoxing | 510 | 1976年就役、2007年に海軍を退役、海岸警衛隊に移籍し「海警1003」 | - |
3番艦 | 南通 | Nantong | 511 | 1976年就役、2012年8月5日退役[9] | - |
4番艦 | 無錫 | Wuxi | 512 | 1976年就役、2012年8月5日退役[9] | - |
5番艦 | 淮陽→淮安 | Huaiyang→Huaian | 513 | 1977年就役、2006年12月20日「淮安」と改名[8] | 東海艦隊所属 |
6番艦 | 鎮江 | Zhenjiang | 514 | 1977年就役。2013年5月12日退役[11] | - |
7番艦 | 厦門 | Xiamen | 515 | 1977年就役 | 東海艦隊所属 |
8番艦 | 九江 | Jiujiang | 516 | 1978年就役、2004年に火力支援艦に改装 | 東海艦隊所属 |
9番艦 | 南平 | Nanping | 517 | 1979年就役 | 東海艦隊所属 |
10番艦 | 吉安 | Jian | 518 | 1981年就役 | 東海艦隊所属 |
11番艦 | 長治 | Changzhi | 519 | 1982年就役 | 北海艦隊所属 |
12番艦 | 開封 | kaifeng | 520 | 1980年就役、1985年座礁事故により退役 | - |
13番艦 | 茂名 | Maoming | 551 | 1986年就役、2012年?に退役(解体中[10]) | - |
14番艦 | 宜賓 | Yibin | 552 | 1986年就役、2012年?に退役(解体中[10]) | - |
▼対地攻撃用に122mm50連装ロケット発射機5基を搭載した#516「九江」。
▼「九江」の50連装ロケット砲発射機。
▼海岸警衛隊に移籍された053H(江滬Ⅰ型)
▼巡視船として改装後の様子。
【参考資料】
[1]「碧海争鋒-中日両国駆護艦艇50年的発展対比與反思」『戦場文集』第2巻 2006年6月専刊 (新民月報社)
[2]「中国053系列護衛艦外形識別」『兵工科技』2006年1月号 (周録陽/兵工科技雑誌社)
[3]「江湖級護衛艦的発展及現代化改装前景分析」『艦載武器』2007年2月号 (銀河/中国船舶重工業集団公司)
[4]「碧海争鋒-中日両国駆護艦艇50年的発展対比與反思」『戦場文集』第2巻 2006年6月専刊 (新民月報社)世界の艦船No.647(海人社)
[5]Chinese Defence Today
[6]Global Security
[7]The Naval Data Base.近代世界艦船事典
[8]MDC軍武狂人夢「江湖級護衛艦」
[9]China Defense Blog「Bye bye FFG 511 and 512」(2012年8月5日)
[10]China Defense Blog「Two more Jianghu FFGs are done for」(2012年12月16日)
[11]新浪網-軍事「中国海军第1代导弹护卫舰镇江舰退役 服役35年」(2013年5月13日)
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