053H型フリゲイト(ジャンフーI型/江滬I型)は1975年から1980年までの5年間に14隻が建造され、中国海軍の沿岸警備艦艇不足を解消することに成功した。しかし053H型の対空、対潜能力は脆弱なものであり、CICが欠如している等兵装のシステム化にも遅れをとっていた。対空兵装は二次大戦型の対空砲のみであり、自動化も充分ではなく全天候性能も有していなかった。また、艦にはNBC防護能力は付与されておらず、ダメージコントロールの点でも不備があった。 これらの問題は、当時の中国の国際的孤立と艦船設計建造ノウハウの不備に起因する所が大きかった。
053H型の建造と運用が開始された1970年代後期、中国海軍は西沙/南沙諸島などの領有権をめぐって南シナ海の緊張が高まったことを受けて、南海艦隊にフリゲイト部隊を配備する事を決定した。1977年7月には「053H護衛艦の建造に関わる改修要求」が提出され34項目の改修点が提示された。これを受けて、滬東造船廠は南海艦隊に職員を派遣し、南シナ海での艦艇運用に必要な項目の調査を行った。設計案は1979年に完成し、この改修型は053H1型と命名された。053H1型は053H型と比べると兵装や船体にかなりの変更が施されたが、NATOコードでは053H型と同じ「Jianghu1」型に分類されている。
053H1型の設計に当たっては、関係が改善された西側諸国から入手した技術が大いに生かされている。また装備の自動化に当たってフランスの支援を受けたとの情報もある。053H1型は当初12隻建造の予定であったが、実際に建造されたのは1980年から1985年にかけて竣工した#533「寧波」(のち「台州」(Taizhou)と改称。[8])、#534「金華」、#543「丹東」、#553「紹関」、#554「安順」、#555「昭通」、#545「臨汾」、#556「湘潭」、#557「吉首」の9隻であった。#544「四平」は当初053H1型として建造されたが、西側兵器の試験艦に転用(053H1Q型)され、11、12番艦は設計を抜本的に改めた053H2型フリゲイト(ジャンフーIII/IV型)として竣工することとなった。
053H1型は、053H型に設けられていた艦首部のブルワークを廃止している。船体側面にはビルジキールが設けられ荒天時の船体の安定化が図られている。機関部の構成は053H型と変更は無い。ただしレーダーなどの電子装備が充実したために、それらに対する電力需要を満たすために発電装置を2基追加装備して、発電能力を20%向上させている。煙突形状は円形で053H型の一部にあった煙突頂部のマストは撤去、艦橋直後のラティスマストの頂部が053H型に比べて僅かに後方に傾斜している。また、外部から確認することは出来ないが、亜熱帯地域である南シナ海で運用されるため、艦内の空調能力が強化されていると推測される。
053H型と大きく変わった点の1つが兵装である。053H型では、既存の装備を搭載する設計方針であったため、B-34 56口径100mm単装砲(M1940)や61式37mm連装機関砲といった二次大戦時のソ連に由来する旧式兵装を搭載せざるを得なかった。これらの装備は、操作に多くの人員を必要とし、その一方で全天候性能は無く、ジェット機や対艦ミサイルなどの戦後登場した経空脅威には限定的な対処しか出来ない物であった。
053H1型は上記の兵装に換えて、1970年代に実用化した79式56口径100mm連装砲(H/PJ-33)と 76A型37mm連装機関砲(715型)を搭載した。この2つの装備は、053K型フリゲイト(ジャンドン型/江東型)で最初に搭載されて実用化に漕ぎ着けた物であったが、053H型建造の時点では搭載を見送られた装備であった。
「79式56口径100mm連装砲(H/PJ-33)は、砲システムの自動化を進め、また中国の艦載砲としては初めてレーダー照準射撃を可能とした。100mm砲の管制は、艦橋頂部に設置されたYakor 2M (Sun Visor)簡易火器管制システム(のち343型(Wasp Head)射撃管制レーダー/ Sun Visor B火器管制システムに変更)と弾道コンピュータのデータに基づいてコントロールされ、半自動モードの場合は砲手が光学照準器を用いて遠隔操作する。砲口初速は920m/秒、最大射程は海上目標に対して22km、対空目標には15km。発射速度は1門当り毎分25発。給弾機構の自動化が進んだため、手動装填のB-34 56口径100mm単装砲のように発射速度が人員の練度や疲労度に左右されることも無くなった。中国海軍では、2基の79式56口径100mm連装砲の能力は6基のB-34 56口径100mm単装砲に匹敵すると判断されている。
76式37mm連装機関砲4基が搭載されたが、本砲を搭載したのも053K型が初である。76式は、61式37mm連装機関砲(70K)の代替として陸軍の74/79式37mm連装機関砲をベースに開発された艦載機関砲である。76式は、弾薬装填を自動化し操作要員を削減、341型レーダーと射撃統制装置による遠隔操作を可能とするなど一定の進歩を見せている。ただし、053H1型は竣工時には341型レーダーは未搭載で、後日追加装備の形で搭載された。なお、従来の砲側照準による手動操作方式も併用している。76式のスペックは以下の通り。砲口初速800~1000m/秒、最大射程9,500m、対空有効射程3,500m、発射速度320発/分(1門あたり)、俯仰範囲-10度~+85度。各砲架の直下には弾薬庫があり、1,650発の機関砲弾が搭載されている。搭載機関砲は053H型の6基から4基に減らされたが、砲の性能向上や全天候性能を得たことにより、同等以上の能力を発揮できるとされている。
053H1型の対空兵装は依然として100mm砲と37mm機関砲のみであったが、#555「昭通」は艦橋直前の対空機関砲を37mm機関砲の側面に2発のPL-9H赤外線誘導艦対空ミサイルを搭載した715II型ガン/ミサイルコンプレックスに変更した。ただし、この兵装は#555「昭通」以外での運用は確認されておらず、試験的運用に留まった。
対艦ミサイルも053H型のSY-1艦対艦ミサイル(上游1/FL-1/CSS-N-1スクラブブルッシュ/P-15テルミット)から、その改良型のSY-1A艦対艦ミサイル(上游1/甲)に変更された。SY-1は中国第一世代の対艦ミサイルで、巡航高度が比較的高く(300m)、迎撃が比較的に容易で、電子妨害に対する抵抗力も十分ではなかった。SY-1Aは、1980年代前半に開発が開始された。開発の主眼は防空圏突破能力と命中精度の向上に置かれた。誘導用のレーダーは新型のモノパルスアクティブレーダーに換装され、電子装備も旧式の真空管主体の構造から軽量な集積回路に置き換えられた。被発見率を低下させるため、より低高度を巡航する事が求められ、航路計算装置と機械/電子式自動制御装置と無線高度計算装置が装備され、ミサイルの全行程において正確な飛行高度のコントロールが可能となった。これにより飛行高度は巡航時150m、終末15~20mと、SY-1に比べてかなり改善された。SY-1Aは1983年に制式化され、053H1型への搭載が実施されることになる。
対潜装備は053H型の後期型と同じく、艦首部に65式250mm5連装対潜ロケット発射機(RBU-1200)2基、艦尾部に64式爆雷投射機(BMB-24)4基、爆雷落射機2基を装備。このうち65式対潜ロケットは、建造後の改装で87式250mm6連装対潜ロケット発射機2基に換装されることになる。
053HI型は、建造時期や就役後の改装によって装備にかなりの変化が見られる。初期の建造艦は、電子装備は053H型と余り差の無いものであったが、Yakor 2M (Sun Visor)簡易火器管制システムを343型(Wasp Head)火器管制レーダーに換装、後部構造物上に517型(Knife Rest)対空捜索レーダーと37mm機関砲管制用の341型火器管制レーダーを搭載するなど、次第に充実した物になっていった。本格的なECM装備は搭載していなかったが、中国のフリゲイトとしては始めて前部マスト両側面に2基のチャフ/フレア発射装置を搭載し、一定程度生存性を向上させた。これらの改装は、1989年にバングラデシュに売却された#556「湘潭」を除く8隻に順次施されていった。このほか、一部の艦には後付で、イギリス製CTC-1629簡易CICが設置された。1990年代に入るとECM機器を追加装備したり、情報化に対応するため衛星通信アンテナやデジタルデータリンクシステムを新たに搭載する近代化が継続的に行われている。
053H1型はタイプシップである053H型と比べて一定の性能向上を果たし、053H型の運用実績を反映して実用面でも改良が加えられた。ただし、その兵装や電子装備、火器管制システムは建造時点で旧式化しており、対空・対潜装備が十分ではなく、現代戦におけるそれらの脅威に十分対抗し得ないという状況は053H型と同様であった。特に対艦ミサイルによる攻撃に対しては有効な迎撃能力はほとんど無いと見なされていた。そのため、053H1型は海軍航空隊の行動範囲内での活動を前提とすることになる。
このような問題はあったものの、すぐに053H1型に替わる汎用フリゲイトを開発することは、当時の中国の限られた技術水準では困難であり、改革開放政策の経済開発優先の状況下で軍事支出が抑制されたこともあって、1980年代を通じて053H1型の建造を継続せざるを得ない状況が続くことになる。
【2008年4月29日追記】
バングラデシュは1989年に輸入した053HI型フリゲイト「オスマン」に、中国から輸入したC-802A艦対艦ミサイルを搭載する近代化改修を行うことを決定した。
【2008年5月16日追記】
Defense Newsの5月14日付けの報道によると、中国の支援を受けて近代化改装を行っていたバングラデシュのフリゲイト「オスマン」が、5月12日にベンガル湾でC-802A艦対艦ミサイルの試射に成功したとのこと[11]。
【2012年3月16日追記】
2011年、053H1型の5番艦「安順」と9番艦「吉首」が中国海軍から除籍後にミャンマー海軍に売却され、それぞれUMS「Mahar Bandoola」(F21) 、UMS「Mahar Thiha Thura」(F23)と命名された[14][15]。両艦はミャンマー海軍への引渡し後、2012年3月12日にはヴェトナムのダナン市ティエンサ港に寄港したが、これはミャンマー海軍艦艇がヴェトナムを訪問した初の事例となった[15]。
【2012年6月21日追記】
ミャンマー海軍に引き渡された053H1型「Mahar Thiha Thura」(F23)が近代化改装を実施していることが判明[16]。対艦ミサイルをC-802A4連装発射機2基に換装、電子妨害装置や一部のレーダーも近代化が施されたとの事。
■性能緒元
基準排水量 | 1,420t |
満載排水量 | 1,700t |
全長 | 103.2m |
全幅 | 10.8m |
主機 | ディーゼル 2軸 |
12PA68TC/12E390VAディーゼル(8,000馬力)×2基 | |
速力 | 26kts |
航続距離 | 2,700海里/18kts |
乗員 | 175名 |
【兵装】※改装後の状態。
対艦ミサイル | SY-1A艦対艦ミサイル(上游1A/甲 / 連装発射筒(7226型) | 2基 |
対潜ロケット | 250mm対潜ロケット/65式250mm5連装対潜ロケット発射機(RBU-1200) | 2基(弾薬40発搭載) |
砲 | 79式56口径100mm連装砲(H/PJ-33、712型) | 2基 |
近接防御 | 76式37mm連装機関砲(715型) | 4基 |
爆雷 | 64式爆雷投射機(BMB-24) | 4基 |
爆雷落射機 | 2基 | |
機雷 | 機雷用軌条 | 2基(24発搭載可能) |
※#555「昭通」は艦橋直前の対空機関砲×2を 715II型ガン/ミサイルコンプレックス2基に換装
【電子兵装】※改装後の状態。
対空対水上レーダー | 354型(Eye Shield) | 1基 |
長距離対空レーダー | 517型(Knife Rest) | 1基 |
火器管制レーダー | 352型(Square Tie) | SSM用 1基 |
343型(Wasp Head) | SSM&砲用 1基 | |
1341型 | 機関砲用 1基 | |
航海レーダー | RM-1226もしくはRM-1290(Racal Decca) | 1基 |
ECMシステム | 931-1もしくは米製Mk-36RBOC | |
中深度捜索ソナー | SJD-5 | |
偵察用ソナー | SJC-1B | |
通信用ソナー | SJX-4 | |
衛星通信用アンテナ | ||
CIC | CTC-1629簡易CIC | (一部の艦が竣工後の改装で装備) |
■同型艦
1番艦 | 寧波→台州 | Ningpo→Taizhou | 533 | 1981年7月12日起工、1981年12月13日進水、1982年6月30日就役、2003年3月6日「台州」と改名 | 東海艦隊所属 |
2番艦 | 金華 | Jinhua | 534 | 1982年5月21日起工、1983年5月27日進水、1983年12月13日就役 | 東海艦隊所属 |
3番艦 | 丹東 | Dandong | 543 | 1983年12月23日起工、1985年1月25日進水、1985年5月30日就役 | 北海艦隊所属 |
4番艦 | 韶関 | Shaoguan | 553 | 1984年3月31日起工、1985年5月2日進水、1985年9月24日就役 | 南海艦隊所属 |
5番艦 | 安順 | Anshun | 554 | 1984年12月29日起工、1986年3月10日進水、1986年6月27日就役、2011年除籍。ミャンマーに売却され「Mahar Bandoola」(F21)と命名 | - |
6番艦 | 昭通 | Zhaotong | 555 | 1985年8月3日起工、1986年9月7日進水、1987年3月24日就役 | 南海艦隊所属 |
7番艦 | 臨汾 | Linfen | 545 | 1985年8月30日起工、1986年11月9日進水、1987年9月30日就役 | 北海艦隊所属 |
8番艦 | 湘潭 | Xiangtan | 556 | 1985年11月15日起工、1987年7月14日進水、1987年12月20日就役、1989年にバングラデシュに売却され「Osman」(F18)と命名された | - |
9番艦 | 吉首 | Jishou | 557 | 1985年11月15日起工、1987年11月8日進水、1988年6月15日就役、、2011年除籍、ミャンマーに売却され「Mahar Thiha Thura」(F23)と命名 | - |
▼053H1型2番艦#534「金華」の就役直後の状態。この時点での電子装備はタイプシップである053H型と大差ないものに留まっている。
▼就役後に改装を受けた#533「金華」。艦橋頂部の射撃統制レーダーが343型(Wasp Head)に換装、後部構造物には354型(Eye Shield)対空レーダーと37mm機関砲管制用の341型レーダーが追加装備されているのが分かる。
▼7番艦#545「臨汾」。こちらも改装後の様子。
▼053H型#519「長治」(右)と053H1型#545「臨汾」(左)。艦首のブルワークの有無や兵装の相違など両艦の違いが見て取れる。
▼バングラデシュに輸出された053H1型(元#556「湘潭」)。同国海軍ではBNS「オスマン」(#F18)と命名された。写真では一部の電子装備に変化が見られるが、多くの装備は原型のまま。
▼近代化改装後のBNS「オスマン」(#F18)。対艦ミサイルをC-802A四連装発射機二基に変更しているのが分かる。
▼入渠中の#545「韶関」。053H型にはなかったバルバス・バウの様子が分かる。
▼#555「昭通」。76式37mm機関砲にPL-9J赤外線誘導艦対空ミサイルを搭載した715II型ガン/ミサイルコンプレックスを試験的に搭載。
【参考資料】
[1]「碧海争鋒-中日両国駆護艦艇50年的発展対比與反思」『戦場文集』第2巻 2006年6月専刊 (新民月報社)
[2]「中国053系列護衛艦外形識別」『兵工科技』2006年1月号 (周録陽/兵工科技雑誌社)
[3]「江湖級護衛艦的発展及現代化改装前景分析」『艦載武器』2007年2月号 (銀河/中国船舶重工業集団公司)
[4]「碧海争鋒-中日両国駆護艦艇50年的発展対比與反思」『戦場文集』第2巻 2006年6月専刊 (新民月報社)世界の艦船No.647(海人社)
[5]東方網
[6]大旗網-飛揚軍事
[7]中国武器大全
[8]超級大本営「533改名為台州艦」[1]
[9]China Air and Naval Power
[10]Chinese Defence Today
[11]Defense News「Bangladesh Navy Tests Chinese Anti-Ship Missile」(2008年5月14日)
[12]Global Security
[13]The Naval Data Base.近代世界艦船事典
[14]MDC軍武狂人夢「江湖級護衛艦」
[15]Vietnam news「Myanmar warships dock in central Vietnam」(2012年3月15日)
[16]bmpd「Модернизация в Мьянме купленных китайских фрегатов」(2012年6月5日)
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