#544「四平」は、053H型フリゲイト(ジャンフーI型/江滬I型)の5番艦として建造されたが、中国海軍は同艦を新型装備の運用試験艦として使用することを決定し、形式番号も「053H1Q型」に変更される事になった。
1983年11月、船舶総公司軍工部と海軍装備艦艇部は053H1型の一隻(「四平」)にフランスから購入したクルーゾ・ロワールT100C 100mm55口径コンパクト砲とNAJA光電子火器管制システムを搭載する計画を承認した。これを受けて、1984年2月には海軍装備艦艇部は「四平」を対象として、同艦を クルーゾ・ロワールT100C 100mm55口径コンパクト砲とNAJA光電子火器管制システムだけでなく、艦載ヘリコプターの運用試験艦とする事を決定した。同じ月には改装工事の研究作業が開始され、最終的に以下のような内容とされた。
1)後部100mm砲と対艦ミサイル連装発射機×1を撤去
2)艦後部にヘリコプター搭載用のヘリ格納庫と飛行甲板を設置
3)艦首部の一番砲塔にはクルーゾ・ロワールT100C 100mm55口径コンパクト砲を搭載
4)100mm砲の火器管制システムとしてフランス製NAJA光電子火器管制システムを搭載する
5)飛行甲板の下部に、イタリア製B515 3連装324mm短魚雷発射管2基を装備。搭載魚雷はA244/S 324mm短魚雷(搭載数24発)
6)7826型対潜爆雷デジタル式指揮装置1基と7826B型対潜魚雷デジタル式指揮装置1基を搭載
これらの改修によって、満載排水量は053H1型の1,700tから1,860tに増加した。#544「四平」は1985年12月24日に就役し、上記の新型装備の運用試験に供される事となった。その後、1987年には第二次改装が行われ、76式37mm連装機関砲×4の装備、電子戦装置の改良、348S対空捜索レーダーと348C情報処理システム、SJD-7対潜ソナー、348型火器管制レーダーの搭載、対艦ミサイルとしてSY-1/SY-1A/SY-2 の3種類のSSMの運用を可能とする等の改修が施された。
「四平」が搭載したクルーゾ・ロワールT-100C 55口径100mm単装砲はフランスのクルーゾ・ロワール社が開発した輸出向けのコンパクト自動速射砲である。砲重量の軽減と自動化が行われており、砲塔は無人化され2人の砲員は甲板下で給弾を担当する。砲架や砲楯は軽量化のため軽合金が多用されている。T-100Cは1980年代初めにフランスから2門購入され、そのうち1門が「四平」に搭載された。
T-100Cは、中国海軍の既存の79式56口径100mm連装砲(PJ-33)と比べると、半分程度の重量(79式35t:T-100C17t)でありながら、発射速度は79式が50発/分(2門)なのに対してT-100Cは90発/分(1門)と大幅に上回っており、システムの自動化や命中精度でもかなりの差をつけていた。中国海軍では、「四平」において各種の条件下での発射実験を多数実施し、いずれも良好な成果を収めた。クルーゾ・ロワールでは、中国海軍が艦砲の近代化のためT-100Cを追加発注することを期待したが、注文は上記の2門のみに終わった。中国海軍がT-100Cを購入したのは西側の進んだ艦砲の設計と技術を入手することが目的であり、その目的であればサンプル以上の数を購入する必要性は無かった。これは改革解放直後の中国の兵器輸入でまま見られた手法であった。
「四平」での運用試験を受けて、中国はT-100Cの技術をベースとして1990年代中頃から新型100mm艦載砲の開発を開始し、21世紀初めに実用化に成功し87式55口径100mm単装砲(H/PJ-87)として制式化された。新型100mm砲は、既存の79式56口径100mm連装砲(PJ-33)に比べてシステムの反応速度、発射速度、対空・対水上目標に対する威力などで大きな性能向上を達成し、安定性能や信頼性などでは原型のT-100Cよりさらに向上している。砲塔はレーダー反射率低減を目的とした複合材製ステルス・シールドが採用された。新型100mm砲は21世紀に入って就役した051C型駆逐艦(ルージョウ型/旅洲型)、052C型駆逐艦(ルヤンII型/旅洋II型)、052B型駆逐艦(ルヤンI型/旅洋I型)、054型フリゲイト(ジャンカイI型/江凱I型)といった中国海軍の新鋭艦艇に搭載されている。
1970年代後半、西欧各国やソ連の海軍ではヘリコプターを水上戦闘艦に搭載することが広く普及するようになってきた。艦載ヘリコプターは、対潜哨戒、水平線外の目標探知、偵察警戒など幅広い任務をこなすことが可能であり、水上戦闘艦の作戦遂行能力を格段に向上させ得る画期的な存在であった。
中国では1970年代後半、西側との関係が改善すると立ち遅れた軍の近代化を推進するために、西側各国からの軍事技術導入を積極的に行うようになった。そのなかには艦載ヘリコプターとそれに必要な各種装備も含まれていた。1980年代初期、中国はフランスからAS-365N1ドーファンを輸入、その一部は対潜用機材を搭載した対潜哨戒型であった。AS-565は小型の機体であり、搭載できる対潜機材や兵装には限界があった。しかしAS-565は中国海軍にとって、対潜ヘリコプター運用のノウハウを確立するために大きな役割を果たした重要な機体であった。
中国海軍では艦載ヘリコプターの現物を入手に続いて、実際に艦上で運用するための研究を行うことを決めた。これまで、艦上でヘリコプターを運用した経験に乏しい中国海軍にとっては、艦載ヘリコプター運用のノウハウは空白であり、その蓄積が必要であった。中国海軍は、051型駆逐艦(ルダ型/旅大型)の1番艦#105「済南」と、「四平」にヘリ格納庫と発着甲板を設置して、ヘリコプター運用の試験艦に転用する事とした。「四平」の艦後部にはAS-365N1ドーファン1機の搭載が可能な、全長15.2m、幅8.5m、全高5.6mのヘリ格納庫と全長21.6m、幅10.8mの飛行甲板が設置された。飛行甲板には、ヘリコプターの運用に必要なフランス製のヘリ着艦補助装置と落下防止用のネット、着艦指示灯、可燃性気体検知警報装置と中国製の牽引装置、給油装置が搭載された。
「四平」では、対潜ヘリと連携した対潜攻撃方法の研究のため、中国海軍としては始めて324mm3連装短魚雷発射管とその指揮装置や新型ソナーを搭載し、艦上でのヘリコプターの運用とヘリと連携した対潜攻撃の2つの項目に関する各種試験が遂行されることになった。「四平」は当時の中国海軍で最も充実した対潜装備を有しており、対潜攻撃用ノウハウの構築に大きな役割を果たした。
「四平」で実施されたヘリコプターの運用試験によって、中国海軍は2,000tクラスのフリゲイトでのヘリコプター運用に関するノウハウの構築に成功し、その実績を背景として艦載ヘリを搭載した053H2G型フリゲイト(ジャンウェイI型/江衛I型)が建造されることになった。
本艦は中国海軍のフリゲイトとして初めて対潜ヘリ、フランス製100mm砲とその火器完成システム、324mm短魚雷とその統制システムを搭載し実際に運用することで各種ノウハウの蓄積を行い、中国海軍の近代化において重要な位置を占める艦となった。「四平」はその充実した対潜装備で演習において高い成果を収め、中国領海に潜入した国籍不明潜水艦を65時間に渡って追跡し領海から追い出した事などにより「中華反潜第一艦=中国初の対潜艦艇」の称号が与えられた。その後、「四平」の建造から20年を経た2005年には、第一線を退き訓練艦として大連の海軍訓練学校に配属転換される事が決定し、現在は練習艦任務に就いている。2010年7月28日には正式にフリゲイトとしては除籍され、練習艦「旅順」と改称された[1][2]。
■性能緒元
基準排水量 | 1,550t |
満載排水量 | 1,860t |
全長 | 103.2m |
全幅 | 10.8m |
主機 | ディーゼル 2軸 |
12PA68TC/12E390VAディーゼル(8,000馬力)×2基 | |
速力 | 26kts |
航続距離 | 4,000海里/14kts、2,700海里/18kts |
乗員 | 185名 |
【兵装】
対艦ミサイル | SY-1/SY-1A/SY-2/連装発射筒(7226型) | 1基 |
対潜ロケット | 250mm対潜ロケット/81式250mm5連装対潜ロケット発射機(RBU-1200) | 2基 |
魚雷 | A244/S 324mm短魚雷/B515 3連装324mm短魚雷発射管 | 2基 |
爆雷 | 64式爆雷投射機(BMB-24) | 4基 |
砲 | クルーゾ・ロワールT100C 100mm55口径コンパクト砲 | 1基 |
近接防御 | 76式37mm連装機関砲 | 4基 |
搭載機 | Z-9C対潜ヘリコプター | 1機 |
【電子兵装】
対空対水上レーダー | 354型(Eye Shield) | 1基 | |
火器管制レーダー | 352型(Square Tie) | SSM用 | 1基 |
341型(Rice Lamp) | 機関砲用 | 1基 | |
航海レーダー | RM-1290(Racal Decca) | 1基 | |
火器管制装置 | NAJA光学電子火器管制システム | 砲用 | |
ECMシステム | RWD-8 | ||
デゴイ発射装置 | SRBOC Mk33 6連装発射機、もしくは中国製26連装発射機 | 2基 | |
ソナー | SDJ-7 | ||
衛星通信用アンテナ | 1基 |
■同型艦
1番艦 | 四平→旅順 | Sìpíng→Lǚshùn | 544 | 1984年11月15日起工、1985年9月29日進水、1985年12月24日就役、2005年大連の海軍訓練学校所属、2010年7月28日練習艦「旅順」と改名 |
【参考資料】
Jane's fighting ships 2007-2008 (Jane's Information Group)
「碧海争鋒-中日両国駆護艦艇50年的発展対比與反思」『戦場文集』第2巻 2006年6月専刊 (新民月報社)
「中国053系列護衛艦外形識別」『兵工科技』2006年1月号 (周録陽/兵工科技雑誌社)
「江湖級護衛艦的発展及現代化改装前景分析」『艦載武器』2007年2月号 (銀河/中国船舶重工業集団公司)
「幕後英雄-中国海軍試験艦専題」『艦載武器』2006年2月号 (天一、祁長軍/中国船舶重工業集団公司)
世界の艦船No.647(海人社)
人民網-「"中華反潜第一艦"将改為海軍学員海上訓練艦」
東方網
大旗網-飛揚軍事
ChineseDefence Today
Global Security
The Naval Data Base.近代世界艦船事典
China Defense Blog「Two Jianghu class (Type 053H) class FFG related updates.」(2010年7月31日)[1]
中国広播網「海军“旅顺”舰命名仪式7月28日举行」(2010年7月28日)[2]
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