中国海軍のソブレメンヌイ級駆逐艦は建造が休止していたロシア海軍向けの2隻(956E型)を1996年9月に購入したもので、そのままサンクト・ペテルスブルグのズダノフ建造所で建造を進め、1999年12月に1番艦、2001年1月に2番艦が引き渡された。両艦の購入価格は8億ドルとされている。さらに中国海軍は兵装を改良した956EM型と呼ばれる改ソブレメンヌイ級を2隻発注しており、3番艦は2004年4月に進水、2005年12月28日に中国海軍に引き渡された。4番艦は2004年7月の進水後に火災にあって完成が遅れたが、2006年に中国海軍に就役した。956EM型2隻の購入価格は、新規建造であり改良が行われた事もあって合計14億ドルと956E型よりかなり高くなっている。
ソブレメンヌイ級はウダロイ級駆逐艦(1155.1型)とともに1980年代に出現した駆逐艦で、対空・対水上攻撃力を重視されて建造された。3M80E対艦ミサイル「モスキート」(NATOコード:SS-N-22 Sunburn/サンバーン)は発射前に自艦のレーダー、もしくは前方展開している艦艇、ヘリコプター、航空機、海洋監視衛星などから目標データを入手し、そのデータを元に緒元の算定・入力を行って発射する。中間段階の誘導システムは慣性航法誘導を採用しているが、飛行中も母艦のMR-331 Mineral-ME射撃統制レーダーのデータリンク機能(Mineral-ME3)による指令アップデートが可能[12]。最終段階では多チャンネルのレーダー・シーカーでホーミングする。突入時は補足されないように、S字の回避運動をとるといわれる。発射時はロケット・ブースターを使用し、それが燃え尽きた跡の空洞をラム・ジェットの燃焼室に用いる統合式ロケット/ラム・ジェットを動力としており、4枚の折畳み式主翼の付け根にエアインテイクがある。最大射程120km、巡航速度はマッハ2.5以上。巡航高度は20mで、艦艇のレーダーで発見しても着弾まで30秒程しかなく迎撃は容易ではない。弾頭は300kgの高性能爆薬を積んでおり(ハープーンは200kg)、命中すれば目標に致命的なダメージを与えるだろう。後期型の956EM型では、対艦ミサイルを3M80E「モスキート」の射程延長型である3M-80ERB(最大射程は資料[10]では240km、資料[11]では200km)に変更している。
9M38中距離対空ミサイル「ウーラガン」(NATOコード:SA-N-7 Gadfly/ガドフライ)は旧ソ連が開発した対空ミサイルで、陸軍用の9K37M1対空ミサイル「ブークM1」(NATOコード:SA-17 Grizzly/グリズリー)の艦載版である。外観はアメリカのスタンダードMR対空ミサイルに似ており、誘導方式も同じセミアクティブ・レーダー誘導。管制レーダーはMR-90(NATOコード:Front Dome/フロントドーム)で、ソブレメンヌイ級には6基装備されているため6目標まで同時に処理できる。後期型の956EM型では対空ミサイルも改良型の9M38M2中距離対空ミサイル「シュチーリ1」(NATOコード:SA-N-12 Grizzly/グリズリー)に変更されている。9M38M2「シュチーリ1」はミサイルの誘導方式にセミアクティブ・レーダー誘導に加えて慣性誘導方式を採用した事で最大射程を50kmに延長しており、マッハ4クラスの高速目標に対する迎撃能力も向上しているのが特徴である。ソブレメンヌイは艦の前後に2基の単装発射機を装備しており、ミサイルの装弾数は合計48発となっている。
AK-130 54口径130mm連装砲は全自動の水冷式艦載砲で、自動装填装置により2門合計で毎分86~92発という高い発射速度を持つ(輸出型はその半分程度の発射速度に抑えられているとの話も)。射程は23,000m以上。最初に引き渡された956E型2隻には、近接防空兵器システム(Close-In Weapon System:CIWS)としてAK-630 30mmCIWS4基が装備されていた。AK-630はソ連海軍の代表的なCIWSで、コンパクトなドーム型砲塔に6本の銃身が円筒状に束ねられ回転するガトリング砲である。射程は2,500mで発射速度は毎分3,000発。後期型の956EM型にはAK-630に換えてヘリ格納庫の直後に複合CIWS「カシュタン」(NATOコード:CADS-N-1)2基が装備された。CADS-N-1「カシュタン」はレーダーと光学センサーを中心とする旋回俯仰架台を挟み、左右両側に30mm6銃身機関砲と9M311近距離対空ミサイル(NATOコード:SA-N-11 Grison/グリソン)各4発を装備するという、西側の同級品には見られない強力な武装を持つ。30mm機関砲は上記のAK-630と同じもの。9M311対空ミサイルとそのシステムは2S6自走対空砲「ツングースカ」と同じもので、射程は2,500~8,000m。光学センサーとレーダーで自動的に目標を追尾し、同時に6目標まで対処できるという。カシュタン(Kashtan)は輸出名で、本国版はコールチク(Kortik)と呼ばれている。
ソブレメンヌイはKa-28対潜ヘリコプター(NATOコード:Helix/ヘリックス)対潜ヘリコプターを1機搭載している。ヘリコプター用格納庫は大型煙突後部に一体化して設けられているが、スペースの関係から伸縮式となっている。伸縮式格納庫は航空装備の搭載には使用できず、整備に必要な各種機材を搭載できないため、ヘリコプターの整備補給機能はかなり制限される。艦上での支援能力が限定されるため、ソブレメンヌイ級では通常ヘリは搭載されず、必要に応じて臨時に搭載される方式がとられているとの事[2]。後期型の956EM型では後部130mm連装砲を撤去してヘリコプター甲板を後方に延長し、格納庫も伸縮式から固定式に変更されている。これによって格納庫の容積が拡大され、より多くの整備機材や航空兵装を搭載可能となり、ヘリコプターの整備補給能力が向上した。
本級は近年の水上艦としては珍しく、主機に蒸気タービンを採用している。冷戦終了後のロシア海軍の深刻な財政難は、ガスタービンに比べて運用人数や維持コストのかかる蒸気タービンを搭載したソブレメンヌイ級に不利に作用し、多くの艦の活動が不活発になった。しかし中国海軍では現在も多数の蒸気タービン艦が就役しており運用に習熟していたので、ソブレメンヌイの主機が蒸気タービンであることは問題にならなかったという。
中国はソブレメンヌイ級の調達によって、長年の懸案であったエリア防空能力の欠如という問題を解決することに成功した。この問題の解決は中国海軍にとって喫緊の課題であり、ソブレメンヌイ級購入の大きな目的であるとされる。また高性能な3M80E対艦ミサイル「モスキート」、戦闘システムやデータリンク・システムなどもこの種の装備で遅れをとっていた中国海軍にとっては魅力であった。ソブレメンヌイ級4隻はいずれも東海艦隊に所属している。
中国海軍のソブレメンヌイ級のうち早期に就役した956E型(前期型)2隻については就役から10年近くが経過し、オーバーホールの時期が迫った。2009年2月3日付のイタル・タス通信の報道によると、艦船修理センター「ズヴェズドーチカ」株式会社は2008年に中国海軍との間で956E型に関する総合的な整備・修理に関する権利を獲得したと発表した。契約の詳細は発表されなかったが、3月には全ての技術的問題を解決するため、セヴェドロヴィンスクの企業から成る専門家グループが中国に派遣されるとの事[1]。
【日本近海での行動】
■2008年10月19日夕方、ソブレメンヌイ級駆逐艦1隻と054A型フリゲイト1隻及び054型フリゲイト1隻、903型補給艦1隻が青森県竜飛岬の西南西約37kmを北東進しているのを、海上自衛隊のP-3C(八戸基地所属)が発見した。その後この艦隊は津軽海峡を太平洋方面に通峡した。
■性能緒元(956E型)
満載排水量 | 7,940t |
全長 | 156.0m |
全幅 | 17.3m |
主機 | 蒸気タービン 2基 2軸(99,500馬力) |
KVNボイラー 4基 | |
GTZA-674蒸気タービン 2基 | |
速力 | 32.7kt |
航続距離 | 2,400nm/32kts、4,000nm/14ts |
乗員 | 296名 |
【兵装】956E型
対空ミサイル | 9M38中距離対空ミサイル「ウーラガン」) / 3S90単装発射機 | 2基 |
対艦ミサイル | 3M80E対艦ミサイル「モスキート」 / 4連装発射筒 | 2基 |
対潜ロケット | RBU-1000 300mm6連装対潜ロケット発射機 | 2基(48発) |
魚雷 | 533mm長魚雷 / DTA-53-956型連装発射管 | 2基(4本) |
砲 | AK-130 54口径130mm連装砲 | 2基 |
近接防御 | AK-630 30mmCIWS | 4基 |
搭載機 | Ka-28対潜ヘリコプター | 1機 |
【兵装】956EM型
対空ミサイル | 9M38M2中距離対空ミサイル「シュチーリ1」 / 3S90単装発射機 | 2基 |
対艦ミサイル | 3M80ERB対艦ミサイル「モスキート」 / 4連装発射筒 | 2基 |
対潜ロケット | RBU-1000 300mm6連装対潜ロケット発射機 | 2基(48発) |
魚雷 | 533mm長魚雷 / DTA-53-956型連装発射管 | 2基(4本) |
砲 | AK-130 54口径130mm連装砲 | 1基 |
近接防御 | 「カシュタン」複合CIWS(CADS-N-1) | 2基 |
搭載機 | Ka-28対潜ヘリコプター | 1機 |
【電子兵装】956E型
3次元対空レーダー | MR-750MA「フレガートMAE-3」(Top Plate-B) | 1基 |
対水上レーダー | MR-212/201 | 3基 |
火器管制レーダー | MR-90(Front Dome) | SAM用 6基 |
MR-331 Mineral-ME1/ME2(Band Stand)アクティブ/パッシブレーダー | SSM用 1基 | |
MR-184M(Kite Screach-C) | 砲用 1基 | |
MR-123(Bass Tilt) | CIWS用 2基(956EMは未搭載) | |
戦闘システム | Sapfir-U | |
ECMシステム | MP-405M(Start-2) | |
データリンク | Mineral-ME3 | |
チャフ・フレア発射装置 | PK-10 | 8基 |
PK-2 | 2基 | |
ハル・ソナー | MG-335(Platina-S)・KMG-12 |
■同型艦
1番艦 | 956E型 | 杭州 | Hangzhou | 136 | 1999年12月就役 | 東海艦隊所属 |
2番艦 | 956E型 | 福州 | Fuzhou | 137 | 2001年1月就役 | 東海艦隊所属 |
3番艦 | 956EM型 | 泰州 | Taizhou | 138 | 2005年12月就役 | 東海艦隊所属 |
4番艦 | 956EM型 | 寧波 | Ningpo | 139 | 2006年就役 | 東海艦隊所属 |
▼956E型の#137「福州」。後部にも130mm連装砲が装備されている。
▼956EM型の#138「泰州」。後部の130mm連装砲が無くヘリコプター発着甲板が延長されている。
▼雁行する東海艦隊のソブレメンヌイ級4隻
▼艦首付近から艦尾方向を見た#137「福州」
▼3M80ERB対艦ミサイル「モスキート」を発射する#139「寧波」
▼フレアを展開する#136「杭州」
【参考資料】
[1]Yahoo!ブログ ~ロシア・ソ連海軍~「ロシアの艦船修理センター「ズヴェズドーチカ」は、中国海軍のソブレメンヌイ級駆逐艦の整備契約を結ぶ 」(シア・クァンファ/2009年2月3日)
[2]軍事研究1999年11月号「中国に輸出されるソブレメンヌイ級駆逐艦」(江畑謙介/ジャパン・ミリタリー・レビュー)
[3]現代海軍 2005年12月号「明智的選択-中国海軍選択'現代'級原因探討」
[4]海陸空天慣性世界2005年11月号(総第53期) 「伸向遠海的防空圏-中国海軍艦隊防空観念的演化(二)」
[5]世界の艦船別冊 中国/台湾海軍ハンドブック 改定第2版(2003年4月/海人社)64~65頁。
[6]Chinese Defence Today
[7]軍事板常見問題 FAQ in 2ch. Military BBS
[8]Jane's Fighting Ships 2009-2010(Stephen Saunders (編) /2009年6月23日 /Janes Information Group)135頁。
[9]軍武狂人夢「杭州級飛彈驅逐艦」
[10]平可夫『中国製造航空母艦』(漢和出版社/2010年)183頁
[11] Yahoo!ブログ-旧ロシア・ソ連海軍報道情報管理部機動六課「中国海軍のソブレメンヌイ級(「杭州」級) 」(2006年12月31日)
[12]平可夫『中国製造航空母艦』(漢和出版社/2010年)147頁
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