2015年1月6日火曜日

054型フリゲイト(ジャンカイI型/江凱I型)



2005年に2隻が就役した中国海軍の新鋭フリゲイト。054型は053H3型フリゲイト(ジャンウェイII型/江衛II型)に続いて建造されたが、艦様は大きく変貌している。053H3型と比較すると、排水量ベースで1,500トン以上大型化しており、船体には本格的なステルス対策が施されている。このデザインは輸出向けに開発されたF-16U型フリゲイトの設計を発展させたものである。

【船体構造・機関】
対レーダー・ステルスのために舷側はV字型に8.5度傾斜しており、上部構造物は逆方向に傾斜させるため、艦首から艦尾まで全通するナックル・ラインを設けている。主船体、上部構造、マストなどのステルス対策のための形状処理は、052B型駆逐艦(ルヤンI型/旅洋I型)052C型駆逐艦(ルヤンII型/旅洋II型)より洗練されており、あらゆる面においてフランス海軍のラファイエット級フリゲイトの構造処理によく似ている。

注目すべきは、それまでの中国フリゲイトの建造の流れを外れて排水量が大幅に増加した事である。満載排水量は3,900tで、これは051型駆逐艦(ルダ型/旅大型)(満載排水量 3,670t)よりも大きな数値である。船型も変化しており、L/B値はこれまでのフリゲイトの9.5~9.2から約8.8とかなり幅広になった。船体が大型化したことで、兵装もより余裕を持って搭載することが可能になり、乗員の生活環境も改善された物と推測される。

主機はディーゼル4基でフランス製のピールスティック16PAC STCが選ばれた。ラファイエット級と同一機種を選定し、主機の防振、防音に関する技術も導入したと言われている。054型には、中国でライセンス生産された機関が搭載されたが、フランスと中国の技術格差からか、フランス製に比べて信頼性に問題があり、054型の公試においてたびたび機関故障が発生することになった。一番艦「馬鞍山」は2005年のある公試で、機関故障が多発したために、やむなくタグボートに曳航されて帰港している[1]。

【兵装】
054型では、中国のフリゲイトとしては初めて87式55口径100mm単装砲(H/PJ-87)が採用された。87式は、053H3型フリゲイト(ジャンウェイII型/江衛II型)79A式56口径100mm連装砲(PJ33A)に比べて発射速度や射程の面で大きく性能が向上している反面、マウント重量は軽量化されている。砲塔はステルス・シールドが採用されている。もう1つ、中国のフリゲイトとしては初めてCIWS(Close-In-Weapon System:近接防御システム)にロシア製のAK-6304基を採用したのも特徴である。AK-630は、既存の中国製CIWS 76A式37mm連装機関砲の五倍の発射速度を誇り、対艦ミサイルに対する防御能力・即応性においてより優れていた。さらに、砲塔重量が軽量・コンパクトであること、システムのコストがCIWSとしては比較的安価であるなどの利点があった。AK-630は煙突両側面とヘリ格納庫両側面に設置されており、2基の347G型レーダーによって管制される。ただし、配置の関係から艦の前方と後方に死角が発生している。

対艦兵装としては、艦中央にYJ-83艦対艦ミサイル4連装発射機を2基装備している。YJ-83は150~200kmの射程をもち、ヘリコプターや航空機に搭載されたレーダーから得た情報をデータリンクで飛行中に受け取って中間軌道を修正するアップデート機能を有するのが特徴である。また飛行速度は高速になり、最終段階ではマッハ1.5まで加速する(YJ-8はマッハ0.9)。054型に搭載されたZ-9C対潜ヘリコプターを利用することで、艦のレーダーでは探知困難な水平線外の目標へミサイルを誘導することが出来、YJ-83の長射程を有効に活用することが可能となる。

054型は建造中の推測では、艦橋直前の第2甲板にHQ-16艦対空ミサイル対空ミサイル用垂直発射システム(VLS:Vartical Lunch System)を搭載すると見られていた。しかし実際には、その位置には053H3型フリゲイト(ジャンウェイII型/江衛II型)の対空ミサイルと同じHQ-7艦対空ミサイル(紅旗7/FM-80/CSA-N-4)用8連装発射機が搭載された。これは、HQ-16の開発の遅れによるものと推測される。

HQ-7艦対空ミサイル・システムは、中国海軍の標準的なポインド・ディフェンス防空用SAM。ミサイルの誘導は無線指令誘導方式を採用しているが、電子妨害などによりレーダーが使用できない状況に備えて赤外線/光学追跡モードも用意されている。有効射程は速度400m/sの目標に対し8,600m、速度300m/sの目標に対して1,0000m、ヘリコプターに対して12,000m、有効高度は30~5,000m。最大30目標を探知し、そのうち12目標を追尾して、同時に4目標にミサイルの誘導を行うことが可能。目標の探知から6秒以内にミサイルを発射することが可能であり、低空から飛来する亜音速対艦ミサイルに対する迎撃成功率は85%とされている。ただし、対艦ミサイルの迎撃可能範囲は、4~8kmと航空機に対する迎撃範囲よりもかなり狭いものに留まっており、複数の対艦ミサイルによる攻撃に対しては十分な防御能力を有していないことが指摘されている。HQ-7の発射機の直後の甲板下には再装填装置があり予備ミサイル8発が収納される。

対潜兵器としては、87式250mm6連装対潜ロケット発射機(FQF-3200)2基、中央船楼部にB515 324mm3連装魚雷発射管2基を装備している。87式対潜ロケットは、それぞれ24発のロケットが用意されており、最大射程4,000m、水深300mまでの目標への攻撃が可能。短魚雷発射機は普段は艦内に収納されており外部から確認する事はできない。使用時には、舷側部の開口部を開いて投射する。使用する魚雷はYU-7 324mm短魚雷

艦後部には、艦載ヘリの格納庫と発着スペースが設けられており、Ka-28対潜ヘリコプター(ヘリックス) もしくはZ-9C対潜ヘリコプター1機を搭載する。艦載ヘリは、対潜哨戒、連絡、対艦ミサイルの中間誘導などの任務に充てられる。

【電子装備】
前部マストには、上から対空捜索用の363S型対空・対水上用二次元捜索レーダー、100mm砲/SSMの管制用の344型(MR-34)火器管制レーダー、HQ-7短SAMの管制用の345型射撃管制装置(MR-35)が配置されている。

363S型対空・対水上用二次元捜索レーダーは、フランス製のTSR 3004シー・タイガー対空警戒レーダーを国産化した対空・対水上用二次元捜索レーダーで、目標の捜索・探知、諸元の提供を担当する。E/Fバンドのレーダーで、最大探知距離は100km。344型(MR-34)火器管制レーダーは、100mm砲の管制と対艦ミサイルの中間誘導を担当する。345型射撃管制装置(MR-35)は、HQ-7短SAMの管制用装置で、レーダー、赤外線/光学探知機などで構成される。これもフランス製DCNS CTMシステムをベースに開発された。

他には、煙突と一体化した後部マスト頂部には対空/水上用レーダーSR-64二次元捜索レーダーが、ヘリコプター格納庫上部に30mmCIWS管制用の347G型(EFR-1/Rice Lamp)が装備されている。

054型の戦闘システムは、フランス製TAVITACに中国で改良を加えたZKJ-4B/6。作戦指揮系統は分散配置されており、システムの一部が破損しても問題ないようになっている。電算機には民用のPentium CPUが使用されており、各装置は二重化されたEthernetで接続されている。情報関連では、他の艦艇や航空機などと情報を共有するため、国産のHN-900デジタルデータリンク装置を装備している。電子妨害装置としては、HZ-100艦載ECCMシステム、ELINTシステム、726-4型18連装デゴイ発射機などが用意されている。

対潜用ソナーとしては、バウ・ソナーに307型アクティブ/パッシブ・ソナーを、艦尾にはH/SJG-206型曳航式ソナーを装備する[2]。このほかに、064型通信ソナーと723型音響環境観測設備を備えている[2]。

【総括】
当初、054型は中国海軍の新世代フリゲイトとして一定数の建造が行われると見られていたが、実際には054型の調達は「馬鞍山」と「温州」の2隻で終わり、改良型の054A型フリゲイト(ジャンカイII型/江凱II型)の建造に移行した。実際には、054型は、次世代フリゲイトに必要なステルス性を強く考慮した船体設計、新しいフランス系ディーゼル機関、兵器システムの統合などの各種技術の開発と実地試験を行うために建造された試験艦としての性格の強い艦であった。ネームシップが試験艦としての役割を果たすことは、中国海軍では長年実施されてきた慣行であり、054型2隻もそれを踏襲したともいえる。

改良型の054A型では、054型の建造には間に合わなかったHQ-16艦対空ミサイル(紅旗16)を搭載し、054型の運用試験で得られた成果を設計に反映している。今後はこの054型が中国海軍の主力フリゲイトとして整備されていくものと思われる。

【2008年10月20日追記】
2008年10月19日夕方、054型フリゲイト1隻とソブレメンヌイ級駆逐艦1隻及び054A型フリゲイト1隻、903型補給艦1隻が青森県竜飛岬の西南西約37kmを北東進しているのを、海上自衛隊のP-3C(八戸基地所属)が発見した。その後この艦隊は津軽海峡を太平洋方面に通峡した。

【2013年02月05日追記】
2013年1月19日に東シナ海において本級が海上自衛隊第2護衛隊群第6護衛隊所属の護衛艦DD-111「おおなみ」(定係港:横須賀)搭載のSH-60Kヘリコプターに対し射撃管制用レーダーの電波を照射した、との防衛大臣記者会見が行われた。本級とSH-60Kとの距離は数kmで、数分間の照射を受けたSH-60Kの機内には警報音が鳴り響いたため回避運動を行ったという。

性能緒元
満載排水量3,900t
全長132.0m
全幅15.0m
主機CODAD 2軸
 SEMT-PIELSTICK 16PAC STCディーゼル 4基(42,000馬力)
速力27kts
航続距離3,800nm/18kts
乗員190名

【兵装】
対空ミサイルHQ-7(紅旗7/CSA-N-4)/ 8連装発射機1基(予備8発)
対艦ミサイルYJ-83(鷹撃83/C-803)/ 4連装発射筒2基
対潜ロケット87式250mm6連装対潜ロケット発射機(FQF-3200)2基
魚雷YU-7 324mm短魚雷/B515 324mm3連装魚雷発射管2基
87式55口径100mm単装砲(H/PJ-87)1基
近接防御AK-630 30mmCIWS4基
搭載機Ka-28対潜ヘリコプター(ヘリックス) もしくはZ-9C対潜ヘリコプター1機

【電子兵装】
対空対水上レーダー363S型(TSR-3004 SEA-TIGER)1基
 SR-641基
火器管制レーダー345型(MR-35)SAM用1基
 344A型(MR-34)SSM&砲用1基
 347G型(EFR-1/Rice Lamp)CIWS用2基
航海レーダーRM-1290(Racal Decca)2基
戦闘システムZKJ-4B/6(TAVITAC) 
電子戦システムHZ-100型ECCMシステム 
チャフ/フレア発射装置726-4型18連装デゴイ発射機2基
ソナーバウ・ソナー307型1基
 曳航ソナーH/SJG-206型1基
データリンクHN-900

■''同型艦"
1番艦馬鞍山Maanshan5251999年12月起工、2003年9月11日進水、2005年2月18日就役東海艦隊所属
2番艦温州Wenzhou5262002年1月起工、2003年11月進水、2005年9月26日就役東海艦隊所属


903型補給艦#866「千島湖」 と艦隊運動中の#525「馬鞍山」及び#526「温州」


【参考資料】
[1]艦載武器 2007年7月号「中国部署新型瀕海戦闘艦」(中国船舶重工業集団公司)
[2]MDC軍武狂人夢「江凱-I級巡防艦」

Jane's Fighting Ships 2006-2007(Jane's Information Group)
世界の艦船(海人社)
艦載武器 2007年12月号「海上防空新盾-“江凱”改型導弾護衛艦」(王浩/中国船舶重工業集団公司)
Chinese Defence Today
中国武器大全

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