2015年1月6日火曜日

053H1G型フリゲイト(ジャンフーV型/江滬V型)



中国海軍は1980年代末、台湾と対峙する台湾海峡や、南沙諸島を巡る緊張が高まっていた南シナ海における巡視哨戒活動を強化するため、南海艦隊向けに053H1型フリゲイト(ジャンフーI型/江滬I型)の改良型を建造することを決定した[5]。この改良型は053H1G型(Gは中国語「改gai」の発音の頭文字)と命名され、西側では「JianghuⅤ型」のコード名が付与されている。1980年代後半には中央船楼式で新型のYJ-8SSMを搭載した053H2型フリゲイト(ジャンフーIII/IV型)が登場しているにも関わらず053H1型ベースの053H1G型の量産が行われたのは、切迫した南シナ海での哨戒艦艇の需要、053H2型よりも053H1型ベースの方が建造コストが低く抑えられる、そして053H2型の運用実績が必ずしも良好なものではなかったことが要因として挙げられる。

一番艦の#558「自貢」は1989年7月12日に建造が開始され、1993年5月に就役。053H1G型は以後、#559「康定」(「仏山」「北海」との説もある)、#560「東莞」、#561「汕頭」、#562「江門」、#563「仏山」(「肇慶」との説もある)の合計6隻が建造された。

053H1G型は、艦首部分を053H1型より10m延長しており、053H1型で一旦廃止されていた艦首のブルワークが復活しているが、これは航洋性の向上を目的とした改良であった[3]。他の識別点としては、37mm機関砲が新型の76A式に変更、煙突前方に517A-2DA型(Knife Rest)対空捜索レーダーが搭載され煙突形状も赤外線排出抑制を意図したY字型に変更された点などがある[3]。053H1G型は長らく建造されてきた053Hシリーズの最終型だけあって改良点は多い。053H型はこれまでNBC防護能力を保持していなかったが、053H1G型は上部構造物を完全密閉式として加圧式中央空調設備を採用、053H1型には無かったNBC防護能力が付与された[1]。この空調設備は、南シナ海の熱帯気候下での運用において不可欠な装備でもあった。煙突をはじめとして艦の各部には赤外線排出を抑制する設計が施されている[3][5]。

艦中央部に対艦ミサイルの旋回式連装発射機が配置されているのは053H1型と変化は無いが、搭載ミサイルのSY-1Aは電子装備を換装して命中精度を高めており、敵に発見されにくいように低高度を飛行する改良型に変更された[3]。さらに固体燃料ロケットを動力とするSY-2の運用も可能となっている[3]。砲兵装は、79式56口径100mm連装砲(H/PJ-33)が艦の前後に搭載されている。100mm砲の管制は艦橋頂部の343型(Wasp Head)火器管制レーダーにより行われる。近接防空火器としては、053Hシリーズでは始めて全自動式の76A式37mm連装機関砲が搭載され、限定的ながら対艦ミサイルに対する迎撃能力を有する様になった[3]。37mm機関砲の管制用レーダーは旧来の341型から347G型(EFR-1/Rice Lamp)に変更されている。艦砲以外の対空兵装は搭載されていないのは他の053Hシリーズと共通しているが、それを補うために歩兵携行式対空ミサイルを防空任務に使用することも行われている。艦首の対潜ロケットは、81式5連装対潜ロケット発射機(RBU-1200)から87式250mm6連装対潜ロケット発射機(FQF-3200)に換装された[1]。87式は発射機の俯仰旋回が機力式になり、対潜システムに連接されて目標の自動追尾・攻撃を行うため、81式に比べて対潜攻撃能力が向上している。

電子装備としては、艦橋直後のラティスに360型2次元対空対水上レーダーとRM-1290(Racal Decca)航海レーダーを装備している。363型は従来の354型(Eye Shield)水上レーダーに替わって搭載された新型レーダーで、捜索範囲・精度・電子妨害への抵抗力・目標追跡能力のいずれでも354型を上回っており、重量も3分の1に軽量化されている。煙突上部には、前述した様に517A-2DA型(Knife Rest)対空捜索レーダーが搭載されている。レーダーのほかには、火器管制用に光学電子追尾/照準装置も新たに装備された。ほかには敵味方識別装置やRWD-8型ECMシステムを搭載している。053H2型に続いて簡易型ながらCIC(ZKJ-3A簡易作戦情報中心。イギリス製CTC-1629簡易CICのコピーか?) を搭載しており、これまで個別の兵装ごとに行っていた作戦行動を一元的に管理・指揮することが可能となった[1]。対潜捜索用には、バウソナーとして中深度捜索用のSJD-5Aが搭載されている。

053H1G型は、これらの改修によって満載排水量は1,960トンに増加した。本級は長らく建造されてきた053Hシリーズの最後のタイプとなった。各部にかなり改良が施されているが基本的な兵装は053H型と大差は無く、対空ミサイルを搭載していないことから特に経空脅威への対処能力は限定されたものであった。しかし、本艦の想定任務である沿岸警備や巡視任務、低脅威度下における作戦任務に従事するには、053H1G型の性能は十分なものであった。

21世紀に入ると053H1G型に対する近代化改装が実施されるようになり、2010年までに全ての053H1G型が改装作業を完了している[8][9]。主な改装内容は以下の通り[5][8]。

1)対艦ミサイルをSY-2からYJ-83(鷹撃83/C-803)に換装
2)79式100mm連装砲からステルスシールド型の99式56口径100mm連装砲(H/PJ-33B)に換装
3)517A-2DA型レーダーの撤去
4)電子装備の改良
5)ECMジャマーの新規搭載
6)945型26連装チャフ・フレア発射機×2基の新規搭載
7)衛星通信アンテナの新規搭載
8)艦隊データリンク機能の付与

性能緒元
基準排水量1674t
満載排水量1,960t
全長103.2m
全幅10.8m
主機ディーゼル 2軸
 12PA68TC/12E390VAディーゼル(8,000馬力)×2基
速力25.5~26kts
航続距離7,200海里
乗員190~200名(うち士官30名)

【兵装】
対艦ミサイルSY-1A/SY-2対艦ミサイル(上遊1A/上遊2)/ 連装発射筒(7226型)2基(就役時)
 YJ-83(鷹撃83/C-803)/ 4連装発射筒2基(近代化改装艦)
対潜ロケット87式250mm6連装対潜ロケット発射機(FQF-3200)2基
79式56口径100mm連装砲(H/PJ-33)2基(就役時)
99式56口径100mm連装砲(H/PJ-33B)2基(近代化改装艦)
近接防御76A式37mm連装機関砲4基
爆雷64式爆雷投射機(BMB-24)4基(未搭載の艦もある。)
 爆雷落射機2基(未搭載の艦もある。)
機雷機雷用軌条2基(24発搭載可能)

【電子兵装】
対空対水上レーダー363型1基
長距離対空レーダー517A-2DA型(Knife Rest )1基(近代化改装艦では撤去)
火器管制レーダー352型(Square Tie)SSM用1基
 343型(Wasp Head)SSM&砲用1基
 347G型(EFR-1/Rice Lamp)機関砲用1基
航海レーダー751/752/Decca RM-1290(Racal Decca)1基
光学電子追尾/照準装置NAJIA光学電子射撃統制システム(砲用) 
JPT-4/4G型砲側光学照準機 
ECMシステムRWD-8/929(Jug Pair) 
ECMジャマー1基(近代化改装艦)
チャフ/フレア発射装置945型26連装発射機2基(近代化改装艦)
敵味方識別装置651A 
中深度捜索ソナーSJD-5ハル・ソナー1基
捜索用ソナーSJC-1B1基
高周波アクティブソナーSJX-41基
作戦システムCTC-62/ZJ-3A簡易作戦情報中心 

同型艦
1番艦自貢Zigong5581993年5月就役南海艦隊所属
2番艦康定(「仏山Foshan」「北海Beihai」との説もある)Kangding5591994年就役南海艦隊所属
3番艦東莞Dongguan5601993年就役南海艦隊所属
4番艦汕頭Shantou5611996年就役南海艦隊所属
5番艦江門Jiangmen562 南海艦隊所属
6番艦仏山(「肇慶Zhaoqing」との説もある)Foshan5631995年就役南海艦隊所属

▼SY-2対艦ミサイルを搭載した近代化改修前の#562「江門」


【参考資料】
[1]「碧海争鋒-中日両国駆護艦艇50年的発展対比與反思」『戦場文集』第2巻 2006年6月専刊 (新民月報社)
[2]「中国053系列護衛艦外形識別」『兵工科技』2006年1月号 (周録陽/兵工科技雑誌社)
[3]「江湖級護衛艦的発展及現代化改装前景分析」『艦載武器』2007年2月号 (銀河/中国船舶重工業集団公司)
[4]世界の艦船No.647(海人社)
[5]Chinese Defence Today「Type 053H1G (Jianghu-V Class) Missile Frigate」
[6]Global Security
[7]The Naval Data Base.近代世界艦船事典
[8]軍武狂人夢「江湖級護衛艦」
[9]China Defense Blog「JiangHu V Class FFG, Two-Point-O.」(2011年2月6日)

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