2015年1月6日火曜日

052C型駆逐艦(ルヤンII型/旅洋II型)



2004年に1番艦が就役した中国最新鋭のミサイル駆逐艦で、中国初の本格的長距離エリア防空艦である。本級には052C型防空駆逐艦のタイプ名が付与された。NATOコードはLuyangII class(ルヤンII型/旅洋II型)である。建造されたのは052B型駆逐艦(ルヤンI型/旅洋I型)と同じく上海の江南造船廠で、主設計者は第701研究所の朱英富。

052C型最大の特徴は艦橋構造物の四周に中国国産のH/LJG-346型と呼ばれるアクティブ・フェーズド・アレイ方式の多機能レーダーを装備している事で、その外観から「中国版イージス艦」と呼ばれる事もある。このレーダーの開発に当たってはウクライナの企業が協力したと言われており、第14研究所で開発され970型試験艦でテストが実施された。探知距離は最大約450kmで、最高解像度は0.5m(アーレイ・バーク級イージス駆逐艦が装備するAN/SPY-1Dレーダーの探知距離は約500km)。H/LJG-346型はウクライナから技術提供を受けた空冷式の冷却システムが能力不足で、高出力での動作に問題があると言われている(探知距離が短くなる)。艦後部にはH/LJG-346型アクティブ・フェースド・アレイ・レーダーを補完するために、八木アンテナ状の517H1型2次元対空レーダー(NATOコード:Knife Rest/ナイフレスト)が装備されている。517H1型は旧ソ連製のP-8長距離対空レーダー(A-band)のコピーで、探知距離は約300km。

米海軍のイージス・システムの肝は対空戦、対潜戦、対艦戦などあらゆる戦闘において、自動的に脅威度を判定し自艦のみならずデータ・リンクを通じて僚艦を含めた最適の攻撃方法を下す統合戦闘システムの存在。052C型の戦闘システムも、イージス・システムの能力に匹敵するか否かは不明だが、統合的戦闘システムを採用している。

052C型の戦闘システムは051B型駆逐艦(ルハイ型/旅海型)のZKJ-7の発展型である「海上編隊戦役/戦術型自動化指揮系統一型(H/ZBJ-1)」で、設計には分散システム、モジュール概念が導入されている[6]。各装置は光ファイバー回線で接続されており、データパスはアメリカのMIL-STD-1553Bに準拠した中国の国家標準GJB289A規格で、イーサネット構成のデータ転送速度は100Mbps[6][10]。光ファイバー回線の採用により、ケーブル重量は従来艦の7tから1.5tにまで減少しているとされる[9]。H/ZBJ-1は、対水上/対空レーダー、対潜用ソナーや電子戦機器、敵味方識別装置などと連接し、各種センサーから得られた情報を収集・統合して所定のディスプレイに表示[6]。必要に応じてデータリンク機能を利用して、僚艦や僚機、地上基地などと情報交換を実施[6]。CIC担当士官は、これらの情報を元にして、各兵器システムを指揮・管制する。H/ZBJ-1はその高い処理能力を利用して、自艦のみならず、艦隊の戦術的管制を実施することも目されている[6]。H/ZBJ-1には、西側のリンク16に準拠した中国第二世代のデータリンクであるJYG10Gが採用されている[9]。JYG10Gはリンク16と同様に各軍共通のリンクであり、個艦・艦対艦だけではなく、艦対空、対潜、対基地のデータ交換、共有なども出来るようになる[9]。

HQ-9A長距離対空ミサイルは中国独自開発の長距離SAM(surface‐to-air missile:対空ミサイル)システムで、中国海軍初のVLS(Vertical Launching System:垂直発射システム)型SAMである。中国は湾岸戦争(1991年)での米軍による激しい空爆などの戦闘状況から自国の防空システムの限界を認識し、新しい防空ミサイルシステムの開発に着手した。この結果生まれたHQ-9はロシアから購入したS-300P対空ミサイル(NATOコード:SA-N-6 Grumble/グランブル)及びアメリカのパトリオット対空ミサイルの技術を参考にしたと言われている。HQ-9AはHQ-9をベースに対艦ミサイル迎撃能力の向上などの改良を加えたミサイルである。全長6.8m、ミサイル重量1,300kg、弾頭重量180kg、射程6~120km、射高25(50mとの説もある)~30,000m、最大速度マッハ6.0。HQ-9A用のVLSは発射セル6基を円形に配置して組み合わせた形になっており、052C型は前甲板に6基、後部のヘリコプター格納庫の艦首側に2基装備している。このミサイルは発射機(セル)下部から高圧ガスで打ち出され、高度18~20mに達した後にロケット・モーターを点火するというコールドガス発射方式を採用している。コールドガス発射方式はロシアやフランスで採用されており、利点としてロケット・モーターの点火が発射機外で行われるため船体側が安全であるほか、発射機内でのブラストの処理を行う必要がないためVLSの構造の簡略化・軽量化が可能となる。

052C型は新開発のYJ-62対艦ミサイル(C-602)4連装発射機を2基をヘリコプター格納庫直前に搭載している。YJ-62は全長6.1m(ブースター付7.0m)、重量1,140kg(ブースター付1,350kg)、弾頭重量300kg(HE)。推進装置はターボファンもしくはターボジェット。最大速度はマッハ0.9、最大射程280kmと言われている(300km以上という説も)。巡航飛行時の飛行高度は30mで、攻撃時には探知を避けるため高度7mの低空飛行を行う。誘導方式はGPS+慣性誘導方式で、終末誘導にはアクティブ・レーダー誘導方式が採用されている。YJ-62はこれまでの中国の対艦ミサイルが角型発射機(ランチャー)を採用していたのとは異なり、円筒形の巨大な発射機に搭載されている。ミサイルの誘導は艦橋のレドームに収納されたMR-331「ミネラル-ME1/2」(NATOコード:Band Stand/バンドスタンド)によって行われる。艦載砲としては艦首部に87式55口径100mm単装砲(H/PJ-87)1門を搭載。同砲は、自動装填装置により発射速度は毎分最大90発、最大有効射程は対水上で17,000m、対空で6,000m。砲の管制は344型レーダー(MR-34)により行う。この砲は地上攻撃用のレーザー誘導砲弾を発射できるとの説もある。

近接防空火器は国産のCIWS(Close in Weapon System:近接防御火器システム)である730型30mmCIWSが艦橋直前とヘリコプター格納庫上に搭載された。730型CIWSは7つの銃身を持つ30mmガトリング機関砲と、レーダー/光学センサーから構成される。730型の発射速度は毎分4,600~5,800発で最大射程3,000mとなっている。この他の対艦ミサイル防御としては、艦載ヘリ格納庫の直前に726-4型18連装デコイ発射機を片舷2基づつ装備している(対魚雷防御用ランチャーの可能性もある)。恐らくこのデコイ発射機は戦闘システムと連接されており、脅威に合わせて最適なタイミングで自動的にチャフ、フレア、デコイ、擲弾などを発射し自艦を防御するものと思われる。NRJ-6電子戦システムは中国国産だが、イスラエルからの技術供与を受けたとされている。搭載ヘリコプターはZ-9C対潜ヘリコプター1機。YJ-62対艦ミサイル装備位置の下、両舷に324mm短3連装魚雷発射管を装備しているが、ステルス性を考慮して開口部はハッチで閉じられており、魚雷発射時のみハッチが開かれる構造になっている。

寸法と写真から判断すると、主船体と機関部は052B型駆逐艦と同一で、051B型駆逐艦の船体に052型駆逐艦の機関部を組み合わせた設計と考えられる。アメリカのアーレイ・バーク級イージス駆逐艦は、SPY-1Dフェイズド・アレイ・レーダーの射界確保を設計の最優先事項として、艦の全般的な配置から細部の艤装までをその制約下で決定したが[2]、052C型は052B型と共通の船体にフェイズド・アレイ・レーダーを後付で組み込んだ形になっており、レーダー・アンテナ配置の自由度はアーレイ・バーク級よりも低いものになっている[1]。052C型はフェーズド・アレイ・レーダーのアンテナを装備するために052B型よりも艦橋構造が1層高くなっているが、それでもアンテナの装備位置が低く平面捜索範囲が少なくなるデメリットを有している[6]。特に後部アンテナは船体後部の各種構造物による干渉でレーダーの射界に問題があると思われる(艦後部にヘリ搭載格納庫を増設したアーレイ・バーク級フライトIIA型は、後部構造物との干渉を避けるため後部SPY-1Dアンテナの搭載位置を上げて対応している)。

▼アーレイ・バーク級、同級フライトIIA、052C型のレーダー配置比較
アーレイ・バーク級自体の配置位置がそれほど高いものではなく、捜索範囲がタイコンデロガ級巡洋艦よりも減少している事が指摘された事があるが、052C型の搭載位置はさらに低い事が見て取れる。


また052C型は艦橋に正横方向と後方に向かった窓が全く無く、視界が取れない。このため艦橋上にペリスコープが取り付けられている。052B型の船体と共通化したことは、艦隊行動をとる上で性能を同じに出来ること、設計や建造の手間の節約等のメリットもあるが、052B型に比べて大型の防空システムを搭載した052C型にとってはいささか手狭であり、フェーズド・アレイ・レーダーの位置等に苦労することになり、対艦ミサイルの搭載数も052B型の半数になっている。

052C型は同時に建造された052B型と共に南洋艦隊に所属している。052C型の射程100km級のHQ-9長距離対空ミサイルと052B型の射程50km級の9M38M2中距離対空ミサイル「シュチーリ1」は、艦隊に重層式エリアディフェンス網を提供することを可能としている。2番艦「海口」が進水した2003年以降、052C型の建造は確認されなかったため2隻で調達終了となるかと思われていた。しかし2010年に3番艦の進水が行われ(第2次建造艦)、現在6番艦までの建造が確認されている。3番艦以降は2番艦の建造から5年以上経っているため、運用データを元にしたアップデートが行われているものと思われる。052C型の建造は6隻で終了し、以降は改良型とみられる052D型駆逐艦の建造に移行した。

性能緒元
満載排水量7,500t
全長155.5m
全幅17.2m
吃水6.1m
主機CODOG 2軸
 第1次建造艦:DA-80(GAT-25000)ガスタービン 2基(48,600馬力)
 第2次建造艦:QC-280ガスタービン 2基(48,600馬力)
 全艦共通:MTU-20 V956 TB92ディーゼル 2基(8,840馬力)
速力29kts
航続距離4,500nm/15kts
乗員280名

【兵装】
対空ミサイルHQ-9A長距離対空ミサイル(海紅旗9A) / VLS(6セル)8基
対艦ミサイルYJ-62対艦ミサイル(C-602) / 4連装発射筒2基
魚雷YU-7 324mm短魚雷 / B515 324mm3連装魚雷発射管2基
87式55口径100mm単装砲(H/PJ-87)1基
近接防御730型30mmCIWS2基
搭載機Z-9C対潜ヘリコプター1機

【電子兵装】
3次元対空レーダーH/LJG-346型4基
対空レーダーSR-64型1基
2次元対空レーダー517H1型(Knife Rest)1基
火器管制レーダーMR-331「Mineral-ME1/2」(Band Stand)アクティブ/パッシブレーダーSSM/砲用1基
 344型(MR-34)SSM/砲用1基
 327G型(EFR-1/Rice Lamp)CIWS用2基
戦闘システムH/ZBJ-11基
ECMシステムNRJ-61基
チャフ/フレア発射装置726-4型18連装デコイ発射機4基
ソナーMGK-335MS-EもしくはSJD-8/9型ハル・ソナー1基
 曳航式ソナー1基
データリンクJY10G
 Mineral-ME3SSM用

同型艦
1番艦蘭州Lanzhou170上海江南造船廠で建造、2003年4月29日進水、2005年10月18日就役南海艦隊所属
2番艦海口Haikou171上海江南造船廠で建造、2003年10月29日進水、2005年就役南海艦隊所属
3番艦長春Chengchun150上海長興造船廠で建造、2010年11月28日進水、2013年1月就役東海艦隊所属
4番艦鄭州Zhengzhou151上海長興造船廠で建造中、2011年7月進水東海艦隊所属
5番艦済南Jinan152上海長興造船廠で建造中、2011年進水 
6番艦西安Xi'an153上海長興造船廠で建造中、2012年進水 

▼HQ-9対空ミサイル用VLSは前甲板に4基、後部構造物上に2基配置されている。

▼HQ-9対空ミサイルを発射する#170「蘭州」

▼陣形運動中の#170「蘭州」を先頭とする艦隊

▼H/LJG 346型多機能フェーズド・アレイ・レーダー(かまぼこ状の部分は只のカバーで、中のレーダーアンテナは板状)

▼YJ-62対艦ミサイルの4連装ランチャー。開口しているハッチ内部には魚雷発射管が見える。

▼両舷に2基ずつ配置されている多連装ランチャーは726-4型18連装デコイ発射機。YJ-62対艦ミサイルのランチャーは未搭載状態。

▼HQ-9対空ミサイル用VLSのアップ。

▼HQ-9対空ミサイル用ランチャーの搭載作業


▼#170「蘭州」女性乗組員の艦内生活特集。後部甲板での縄跳び、ランニングなど

▼習近平総書記が#171「海口」を視察した時の動画。ブリッヂ、CIC、船員室など(7:00くらいまで)


【参考資料】
[1]世界の艦船2005年9月号「注目の中国新型艦艇3 052C型駆逐艦」(海人社編集部/海人社)
[2]世界の艦船2006年12月号「世界のイージス艦とミニ・イージス艦」(海人社編集部/海人社)
[3]軍事研究(株ジャパン・ミリタリー・レビュー)
[4]戦場文集2006年6月号(第2巻) 「碧海争鋒-中日両国駆護衛艦艇50年的発展対比與反思」(新民月報社)
[5]Chinese Defence Today
[6]MDC軍武狂人夢「旅洋-II級飛彈驅逐艦」
[7]新浪網「江南新驱近况,注意球型声呐已经安装」(2010年11月1日)
[8]新浪網「中国新型152号驱逐舰被命名济南舰 明年服役中国152号驱逐舰济南舰」(2012年5月8日)
[9]陸易「特集・現代軍艦のコンバット・システム④ 中国軍艦のコンバット・システム その水準は?」(『世界の艦船』2011年10月号/海人社)94~97ページ
[10]平可夫『中国製造航空母艦』(漢和出版社/2010年)163ページ

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