052型は1980年代末に建造された、中国海軍初の近代的ミサイル駆逐艦。NATOコードはLUFU type(ルフ型)。1996年までに2隻が建造された。
052型の建造計画は1984~1985年に中国船舶設計公司で始まった。中国海軍はこれまで運用してきた旧式の051型駆逐艦(ルダ型/旅大型)とは一線を画す近代的駆逐艦を建造するため、対空ミサイルやレーダーなどはフランス製、主機のガスタービン・エンジンはアメリカ製という具合に、西側技術を大幅に導入する計画だった。しかし1989年に起きた天安門事件後の武器輸出規制やコストの高騰のために建造は遅れ、結果1番艦の就役は1994年と計画開始から10年経ってしまい、また2番艦の主機はウクライナ製を導入せざるを得なかった。中国海軍はそれまで極めて限定的な防空能力と対潜戦能力しか持っていなかったが、052型の登場により初めて近代的且つ実戦的な個艦防空能力と立体的な対潜戦能力を獲得した。
052型は仏トムソン社(現タレス社)製のクロタール・ナヴァル艦対空ミサイルシステムを採用した。これは無線指令誘導方式の短距離対空ミサイル・システムで、052型は8連装発射機を艦前部に1基、レーダー/赤外線射撃管制システムを艦橋上に1基装備している。クロタールの有効射程は10~50km、有効高度は4,000~15,000m、発射後2~3秒でマッハ2.3まで加速される。クロタール対空ミサイルは後に、これをコピーし国産したHQ-7(紅旗7)に換装された(1番艦は2003年に換装、2番艦は就役時よりHQ-7を装備)。HQ-7は高空の航空機から低空の対艦ミサイルまで迎撃する事が出来るが、対艦ミサイルの迎撃率は高くない。052型はミサイル発射機の後ろに機力式再装填キャニスターを装備しており、8発の予備弾を有している。
対潜戦装備として1番艦は米レイセオン社製DE-1164統合ソナー・システムを搭載した。DE-1164は米海軍のオリバー・ハザード・ペリー級フリゲイトが装備したAN/SQS-56の輸出版で、艦底部のDE-1160B中周波ソナーと艦尾のDE-1163可変深度ソナー(VDS:Variable Depth Sonar)から成り、小型軽量ながら平均的な潜水艦探知距離は約10,000mと推測されている。DE-1164は後にコピーし国産化したSJD-7に換装された。2番艦は国産のSJD-8中周波ソナーと仏トムソン社製DEBU-43可変深度ソナーを装備した。1番艦と2番艦で搭載ソナーが異なるのは、比較研究する為だとも天安門事件による武器輸出規制による為だとも言われる。対潜攻撃兵装は艦首の75式240mm12連装対潜ロケット発射機(FQF-2500)(最大射程約5,000m)2基と、両舷のB515 324mm3連装魚雷発射管2基(参照[2]。なお参考資料[4]だと87式12連装対潜ロケット発射機となっている)。052型はZ-9C対潜ヘリコプターを2機搭載しており、西側から導入した近代的な個艦ソナー・システムと共に立体的な潜水艦探知・攻撃を行う事ができる中国初の実用的駆逐艦となった。
対艦ミサイルは当初YJ-81(C-801)の連装発射筒を4基装備していたが、後にYJ-83(C-803)の4連装発射機4基に換装され、搭載対艦ミサイル数は倍増した。艦載砲としては竣工時には79A式100mm連装砲1門搭載していたが、これも近代化改装時にステルスシールド型の99式100mm連装砲に換装されている。近接対空防御として76A式37m連装機関砲を艦橋前に2基、ヘリコプター格納庫上に2基の計4基を装備していたが、同じく近代化改装時に艦橋前の2基は撤去され、後部の2基のみ730型30mmCIWSに換装された。
戦闘情報処理システムは当初小型艦艇用の仏トムソン社製TAVITAC(Traitement Automatique et VIsualisation TACtique)を装備していたが、後に国産のZKJ-4に換装された。ZKJ-4はTAVITACをコピーし国産化したシステムで、対空、対潜、対艦、電子戦の各兵装と長距離対空レーダー、対水上レーダー、火器管制レーダー、ソナーを連接しており、対潜ヘリコプターの管制、対潜戦闘の調整、対空ミサイルの射撃管制、経空脅威の自動選別・攻撃を行う事ができる。対空戦闘で言えば探知した30目標のうち12目標を追尾し、うち4目標に対して同時にミサイル攻撃を行う事が可能である。
052型は中国初の近代的駆逐艦として外洋海軍戦力の向上に小さくない役割を果たした。バランスの取れた対空、対潜、対艦装備と統合された戦闘情報処理システムによる能力は、海上自衛隊のはつゆき型護衛艦(1979年建造開始)に匹敵すると思われる。だがそれと引き換えに建造コストは高くならざるを得ず、計6隻の建造計画があったものの実際には2隻の建造に留まった。052型の2隻は前述の通り2009年頃から大規模な近代化改装を行っており[3]、各兵装、レーダー等の電子装備がほとんど換装され2011年に再就役している。
■性能緒元(就役時~2010年)
基準排水量 | 4,200t |
満載排水量 | 4,800t |
全長 | 148m |
全幅 | 16m |
喫水 | 5.1m |
主機 | CODOG 2軸 |
LM2500ガスタービン 2基(55,000馬力) | |
MTUディーゼル 2基(8,840馬力) | |
速力 | 31kts |
航続距離 | 4,000nm/15kts |
乗員 | 230名 |
【兵装】
対空ミサイル | クロタール艦対空ミサイル/8連装発射機 | 1基(#112) |
HQ-7艦対空ミサイル(紅旗7/海紅旗7/HHQ-7/) / 8連装発射機 | 1基(#113) | |
対艦ミサイル | YJ-81A(鷹撃81A/C-801A)/連装発射筒 | 4基 |
対潜ロケット | 75式240mm12連装対潜ロケット発射機(FQF-2500) | 2基 |
魚雷 | YU-7 324mm短魚雷/B515 324mm3連装魚雷発射管 | 2基 |
砲 | 79A式56口径100mm連装砲(H/PJ-33A) | 1基 |
近接防御 | 76A式37mm連装機関砲 | 4基 |
搭載機 | Z-9C対潜ヘリコプター | 2機 |
【電子兵装】
3次元対空レーダー | 518型(REL-1/2) | 1基 | |
対空対水上レーダー | 363S型(TSR-3004 SEA-TIGER) | 1基 | |
対水上レーダー | 362型(ESR-1) | 1基 | |
火器管制レーダー | CASTORIIレーダー(DCNS CTMシステム) | SAM用 | 1基(#112) |
345型(MR-35) | SAM用 | 1基(#113) | |
344型(MR-34) | SSM/砲用 | 1基 | |
347G型(EFR-1/Rice Lamp/RTN-20S) | 機関砲用 | 2基 | |
光学照準システム | 630型 | 砲用 | |
航海レーダー | RM-1290(Racal Decca) | 1基 | |
戦闘システム | TAVITAC | (#112) | |
戦闘システム | ZJK-4B/6 | (#113) | |
データリンクシステム | SNTI-240 SATCOM | (2002年以降搭載) | |
ECMシステム | 862C型(BM-8610) | ||
チャフ/フレア発射機 | 946型15連装発射機 | ||
バウ・ソナー | DE-1160B | (#112) | |
SJD-8 | (#113) | ||
可変深度ソナー | DE-1164B | (#112) | |
可変深度ソナー | DUBV-43(ESS-1) | (#113) | |
衛星通信アンテナ | (2002年以降搭載) | ||
衛星位置測定用アンテナ | (2002年以降搭載) |
■性能緒元(2011年近代化改装後)
【兵装】
対空ミサイル | HQ-7艦対空ミサイル(紅旗7/海紅旗7/HHQ-7/) / 8連装発射機 | 1基 |
対艦ミサイル | YJ-83(鷹撃83/C-803)/ 4連装発射筒 | 4基 |
対潜ロケット | 87式250mm6連装対潜ロケット発射機(FQF-3200) | 2基 |
魚雷 | YU-7 324mm短魚雷/B515 324mm3連装魚雷発射管 | 2基 |
砲 | 99式56口径100mm連装砲(H/PJ-33B) | 1基 |
近接防御 | 730型30mmCIWS | 2基 |
搭載機 | Z-9C対潜ヘリコプター | 2機 |
【電子兵装】
対空レーダー | 517HA型 | 1基 | |
対空対水上レーダー | 364型(SR-64) | 1基 | |
対空対水上レーダー | 363S型(TSR-3004 SEA-TIGER) | 1基 | |
対水上レーダー | 362型(ESR-1) | 1基 | |
火器管制レーダー | 345型(MR-35) | SAM用 | 1基(#113) |
344型(MR-34) | SSM/砲用 | 1基 | |
光学照準システム | 630型 | 砲用 | |
航海レーダー | RM-1290(Racal Decca) | 1基 | |
ECMシステム | 862C型(BM-8610) | ||
チャフ/フレア発射機 | 726-4型18連装発射機 | 2基 |
■同型艦
1番艦 | 哈爾浜 | Harbin | 112 | 1994年7月就役 | 北海艦隊所属 |
2番艦 | 青島 | Qingdao | 113 | 1996年3月就役 | 東海艦隊所属 |
▼近代化改修前の#113「青島」
▼近代化改修後の#113「青島」。レーダーやCIWSなどが変更されている事がわかる
▼2013年2月上旬に太平洋で行われた演習の動画。#113「青島」の消火訓練やヘリコプターの運用など
【参考資料】
[1]世界の艦船(海人社)
[2]Chinese Defence Today「Type 052 (Luhu Class) Missile Destroyer」
[3]China Defense Blog「DDG112 undergoes a major refit in Shanghai.」(2009年12月21日)
[4]MDC軍武狂人夢「旅滬級驅逐艦」
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