2014年11月3日月曜日

85式/89式装甲兵員輸送車（YW-531H/YW-534）

▼85式装甲輸送車（YW-531H）

▼89式装甲兵員輸送車(YW-534/WZ-534/ZDS-89)



■YW-531H性能緒元
重量13.6トン
全長6.125m
全幅3.06m
全高2.86m
エンジンBF8L413F 空冷ディーゼル 320hp
最高速度65km/h
浮航速度6km/h
航続距離500km
武装54式12.7mm重機関銃×1
装甲溶接鋼板（装甲厚24mm）
乗員2+13名

■YW-534性能緒元
重量14.5トン
全長6.634m
全幅3.148m
全高1.88m（車体高）、2.556m（機関銃塔頂部までの高さを含む）
エンジンBF8L413F 空冷ディーゼル 320hp
最高速度65km/h
浮航速度6km/h
航続距離500km
武装54式12.7mm重機関銃×1
装甲溶接鋼板
乗員2+13名
63式装甲兵員輸送車の拡大改良型。転輪が4個から5個に増えたのが外見上の相違点。63式の最初の車体延長型は70式122mm自走榴弾砲のシャーシとして開発された63-I式装甲兵員輸送車(B-521)である。1984年に、上記の63-I式や63式の輸出型YW-531Cをベースにして、新型輸出用APCを開発することが決定された。この車両にはYW-531Hの製品番号が与えられた。その後、中国軍でもYW-531Hを採用する事になり1988年3月に「85式装甲輸送車」として制式採用された。

85式装甲兵員輸送車は、ベースとなった63式と比べると車体が延長されて転輪が4個から5個に増え車体形状も一部変更されたが、車体前部左側に操縦手席と車長席、前部右側に機関室、後部に兵員室という車内配置は変わっていない。車体は防弾鋼板の溶接構造で、浮航能力を有する事も63式APCと同じだ。車体が延長された分、側面の搭乗兵員用射撃ポートとペリスコープが増やされている。操縦手用のペリスコープは3つ装備され、そのうち中央のペリスコープは夜間視察用の熱映像式に換える事ができる。また車長用のハッチにもペリスコープが設けられている。

中国軍では、YW-531Hを85式装甲兵員輸送車として採用したが、85式の開発と並行して自国で運用していた63式装甲兵員輸送車の後継車輌の開発を進めていた[4]。この車輌にはYW-534の製造代号が付与された。1982年から1983年の開発の第一段階では次世代兵員輸送車のコンセプトを纏める作業が行われ、従来型の装甲兵員輸送車型と1970年代末から各国で開発が進められていた歩兵戦闘車型の二種類の試作車輌を製造することが決定された[4]。1987年1月には三輌の試作車が完成して、各種性能評価試験が実施された。その成果を踏まえて試作車の改良が行われ、1887年12月から1989年11月にかけて制式化を前提とした実証試験が重ねられ、1990年3月に設計が最終承認され、同年7月に生産が許可され「89式履帯装甲輸送車（ZSD-89）」の制式名称とWZ-534の車両生産番号が付与される事も決定された。89式は、車体の基本構成や兵装、エンジンなど85式と共通する部分が多い。相違点としてはシャーシがやや大型化されており、それに伴って全長が50.9cm延長され、重量が900kg増加している[9][11]。

85/89式APCは約2000輌が生産され、中国軍や人民武装警察で運用されるほか、ミャンマーやタイに輸出されている。また本車をベースにして多くの派生型も開発されている。
【85式の各種派生型】
63-I式装甲兵員輸送車B-53170式122mm自走榴弾砲のシャーシとして開発された63式の車体を延長して転輪を5つにした車両。車体形状は63式に類似している。63式と85式双方の特徴を併せ持つ車両。85式装甲兵員輸送車の原型になったと思われる
85式装甲兵員輸送車YW-531H85式系列車輌の基本型
85式装甲指揮車YW-703H85式APCベースの装甲指揮車型（コマンドポスト）
85式歩兵戦闘車YW-30985式APCベースの歩兵戦闘車型。86式歩兵戦闘車（WZ-501/BMP-1）と同じ砲塔を搭載。
　YW-38285式APCベースの120mm自走迫撃砲
　YW-38385式APCベースの82mm自走迫撃砲
　HJ-62C85式APCベースの装甲レーダー偵察車[9]。搭載するレーダーで最大25kmまでの車輌、10kmまでの兵員の探知が可能。
85式装甲回収車　85式APCベースの装甲回収車[9][10]。車体後部に吊り上げ重量1tのクレーンを設置、車内に整備用機材を搭載している[10]。
85式130mm30連装自走ロケット砲YW-30685式APCベースの130mm 30連装自走ロケット砲
85式122mm自走榴弾砲YW-32385式APCベースの122mm自走榴弾砲
　WZ-75185式APCベースの装甲救急車
　NVH-1イギリスと共同開発した歩兵戦闘車。試作のみ
　YD-80485式APCベースの森林消防車
YW-531Hタイ輸出型タイに輸出されたYW-531H[9]。12.7mm重機関銃をアメリカ製のM2に変更。APC型のほかにYW-306 130mm自走ロケット砲も輸出された。APC型の中には、車体側面に防弾装甲を追加装備して防御力を強化した車輌も存在する。

【89式の各種派生型】
89式装甲兵員輸送車YW-534/WZ-534/ZDS-8985式APCの車体拡張型。
　YW-307/WZ-534-II/ZSD-89-II85/89式ベースの歩兵戦闘車型[8]。初期の試作車輌は85式をベースにして製造された。89式ベースの車輌はWZ-534-II、もしくはZSD-89-IIの名称が知られている。92式装輪装甲車と同じタイプの25mm機関砲搭載一人用砲塔を装備。車内容積が減ったため登場歩兵は7名に減少。
　ZDF-189式ベースの戦車駆逐型。HJ-8対戦車ミサイル搭載
　GCL-4589式ベースの砲兵観測車。PLZ-45自走砲大隊装備
　ZCY-4589式ベースの砲兵指揮車。PLZ-45自走砲大隊装備
試製105mm突撃砲型89式の車体後部に105mmライフル砲を装備した砲塔を搭載した火力支援車輌。開発経緯は不明であるが、砲塔は63A式水陸両用戦車（WZ-213/ZTS-63A）のものと酷似しており、63A式開発のテストベッド車輌として製造された可能性がある。
　ZJX-9389式ベースの装甲回収車。
94式装甲補給車ZHB-9489式ベースの装甲補給車。戦場での燃料弾薬補給用に開発された。車体を延長し転輪は6つになっている。車体後部は物資搭載のため容積が拡張され、車体上部には物資搭載作業に用いるクレーンを備えている。
輸出向け装甲補給車　ZHB-94をベースにして開発されたと見られる装甲補給車。輸出市場向けに開発が行われ2006年に実用化された[12]。
93式装甲レーダー偵察車ZZC-02伸縮式の地上偵察用レーダーを搭載した装甲偵察車。
99式装甲指揮車　85式APCをベースの装甲指揮車型。車体を延長し転輪は6つになっている。
　GBL-13089式ベースの装甲地雷散布車。シャーシは転輪6つの車体延長型。
水陸両用装甲燃料補給車　ZHB-94をベースにした水陸両用型装甲燃料輸送車。上陸部隊への燃料補給を任務とする
水陸両用地雷原処理車揚陸作戦時の地雷原処理用に開発された。水陸両用装甲燃料輸送車のシャーシをベースにしており、地雷原処理用ロケットやマインプラウなど各種地雷処理機材を搭載している。マインプラウ装備型と未装備型の二種類のタイプが確認されている。
　　89式をベースにした治安任務型。車体前面の形状が89式とは異なり車内容積が拡張されていると見られる。バリケード撤去用のドーザーブレードが車体前面に装着され、武装は89式の12.7mm重機関銃から催涙弾発射機に変更。人民武装警察等に配備されている。これ以外に複数のタイプが存在する。
　89式ベースのUAV搭載型。
VN-9歩兵戦闘車2010年のユーロサトリでNORINCOが出展した89式ベースの輸出向け歩兵戦闘車[7]。30mm機関砲とHJ-73対戦車ミサイルを搭載したGCTWM砲塔を搭載している。
【参考資料】
[1]戦車名鑑-現用編-（後藤仁、伊吹竜太郎、真出好一/株式会社コーエー）
[2]坦克装甲車両 2006年6月号「鉄甲戦神在怒吼(上）」（坦克装甲車両雑誌社）
[3]兵器知識 2005年12月号
[4]Chinese Defence Today「ZSD89 Armoured Personnel Carrier」
[5]Global Security
[6]戦車研究室
[7]China Defense Blog「Hawking Plastics」（2010年6月21日）
[8]Military-Today.com「YW 307 Infantry Fighting Vehicle」
[9]「NORINCO TYpe 85 armoured personnel carrier」（『Jane”s Armour and Artillery 2006-2007』）304～306頁
[10]坦克 与 装甲车辆「85履带式人员输送车（85装甲车族）」
[11]「NORINCO TYpe YW 534 (Type 859) armoured personnel carrier」（『Jane”s Armour and Artillery 2006-2007』）302～304頁
[12]龙源期刊网「外贸新品中国０６款装甲补给车」（来源：廖敏健・朱保华/《兵器知识》2007年第3期）
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