2014年11月3日月曜日

05式水陸両用戦車(05式両棲突撃車/ZTD-05)



【開発経緯】
05式水陸両用戦車(中国語では05式両棲突撃車、制式名称はZTD-05)は05式水陸両用歩兵戦闘車(ZBD-05/ZBD-2000) の派生型の1つとして開発された火力支援車両。開発は湖南江麓機械集団によって行われた[1]。設計主任は陸鵬飛技師[2]。63A式水陸両用戦車(WZ-213/ZTS-63A)に換わって、陸軍水陸両用機械化部隊と海軍陸戦隊への配備が進められている。

中国軍は台湾への着上陸作戦を前提として、1997年頃から63A式水陸両用戦車の配備を行っていた。63A式は10km以上沖合の揚陸艦艇から発進可能で、時速14km/h程度の速度で海岸まで到達できた。上陸部隊の歩兵を支援し防御側の火砲や陣地を制圧、歩兵や主力戦車等と上陸地点に橋頭堡を構築し、敵の装甲部隊等による反撃を食い止めて揚陸部隊第2陣の到着まで上陸地点を確保するという任務が想定されていた[3]。しかし63A式は火力こそ西側第二世代戦車に相当する105mmライフル砲を装備していたものの、その装甲は脆弱で重装備の敵と交戦した場合大きな損害を喫する可能性が高かった。また車体に比して大型の砲を搭載したため重量バランスに問題が生じた様で、2005年に行われた中露合同演習では上陸作戦の演習中に2両の63A式が水没して8名の死者を出している[4]。海軍陸戦隊向けの次世代水陸両用装甲車ファミリーは着上陸までの時間を短縮するために、既存の車輌よりも水上航行速度を画期的に速める事が求められた[2]。開発に際しては1つのベース車体から各種派生型を開発するというファミリー化の概念が取り入れられ、05式水陸両用歩兵戦闘車(ZBD-05/ZBD-2000) を中心として揚陸作戦に必要な車輌を開発する方針が採用された。そのファミリーの1つが本稿で取り上げる05式水陸両用戦車である。

【性能】
05式水陸両用戦車の車体構造は05式水陸両用歩兵戦闘車(ZBD-05/ZBD-2000) のそれを踏襲している。車体はアルミ合金製の溶接構造が採用され[1]、洋上航行に必要な浮力を確保するために車体サイズはかなり大形化しており、全長、全幅、全高の何れも99式戦車(98G式戦車/WZ-123B/ZTZ-99)より大きくなっている。車内配置は車体前方右に機関室を配置し、左側に操縦席、砲塔は車体の中心部よりもやや後方に搭載されている。05式水陸両用戦車は水上航行時の車体の重量バランスに注意した設計が行われており、車体前方の浮力を高める必要から車体先端部が大きく前に突き出した独特の形状を採用している[3]。砲塔が車体中央部よりも後ろに搭載されているのも重量バランスへの配慮である。05式の乗員は、車長、砲手、装填手、操縦手の4名。操縦手以外は砲塔に配置されている。車体後部両脇には大形のウォータージェット推進装置が設置されており、その上に座席が置かれていて歩兵数名を搭乗させることも可能[5]。車体後面には横開き式ハッチが設けられており、搭乗員の乗降や補給物資の搬入に使用される。

05式水陸両用歩兵戦闘車の動力部には、陸上走行時に使用する水冷式ラジエーターと、海水を利用したラジエーターの2系統が用意されている。水上航行時には開口部からの進水を防ぐため、車体上面のラジエーター部を閉鎖して海水冷却式の冷却系統に切り替えるという仕組みを採用している[3]。搭載エンジンについては、ウォータージェット推進装置による強力な推進力を発揮させるため99式戦車(98G式戦車/WZ-123B/ZTZ-99)と同じ150HBターボチャージド液冷ディーゼル(1,500hp)をベースとしたものが搭載されている[2][6]。ベースとなった05式水陸両用歩兵戦闘車の場合は、陸上走行時に最高591馬力、水上航行時には最高1,577馬力を発揮するように設定されている[2]。05式水陸両用戦車の車体の前後には大形のボウ・フラップとトランサム・フラップが設けられており、水上航行時には両フラップを展開して車体後面にある2基のウォータージェットにより航行を行う。水上航行速力は10~16ノット(20~30km/h)と、従来の中国軍の水陸両用車輌の2~3倍程度に向上しているとされる[1]。ボウ・フラップとトランサム・フラップは水上航行しない時には車体前後に密着するように折り畳まれ、増加装甲としての効果が期待されている[2]。なお試作車輌のテスト中、105mmライフル砲の発射で車体前面に折り畳まれたボウ・フラップが砲口衝撃波により歪んでしまったため、重量増を招かないようにしてボウ・フラップの構造が強化されている[2]。

05式水陸両用戦車の砲塔は63A式の砲塔よりも大型化しており、砲塔左側に車長と砲手、右側に装填手が配置されている[6]。砲塔周囲の前半部にはセラミック付加装甲が装着されており、砲塔後部にはHEAT弾対策を兼ねた籠型ラックが取り付けられている。主兵装である105mmライフル砲は63A式の搭載砲の改良型であり、砲身先端に多孔式マズルブレーキを装着すると共に、駐退複座機を改良し後座長を延ばす事で砲の反動を抑えている。反動低減により水上航行中でも105mm砲の発射が可能になっているのは63A式を踏襲しているが、05式水陸両戦車は63A式よりも能力の高い射撃統制システムを搭載したことにより、あらゆる状況下で高い命中精度を実現出来る様になったとのこと[6]。105mmライフル砲の使用弾種は、APFSDS(Armor Piercing Fin Stabilized Discarding Sabot:装弾筒付徹甲弾)、HE(High Explosive:高性能榴弾)、HEAT(High Explosive Anti Tank:対戦車榴弾)、GP-2砲発射式対戦車ミサイルがあり[7]、APFSDS弾は距離2000mの射距離で460~500mmの均質圧延鋼板(Rolled Homogeneous Armor:RHA)、1m~1.5mの厚さを持つ鉄筋コンクリート陣地を貫通可能。榴弾の場合は4,000mの有効射程を有する。GP-2砲発射式対戦車ミサイルは5,000mの射程を有しており、戦車だけでなく低空を飛行するヘリコプターへの攻撃能力も持っているとされる。装甲貫通力は550mm~600mm。砲弾は手動装填式で、搭載砲弾は砲塔後部の砲弾バスルと砲塔バスケット直前の砲弾ラックに収納されている。副武装として主砲同軸に7.62mm機関銃1挺が装備されている。砲塔上部の装填手用ハッチには対空・対地攻撃用に12.7mm重機関銃の搭載が可能。砲塔前部左右には合計8基の発煙弾発射機が装備されている。

砲塔上面後部には衛星通信用のアンテナが搭載されており「北斗衛星位置測定システム」を利用して車両の現在位置を確認する事が可能。05式は近年の流行であるネットワーク化を重視した設計が施されているのも特徴であり、部隊間で情報を共有するデータリンクシステムを標準装備している[8]。

【配備状況と今後の展開】
現在、05式水陸両用戦車は05式水陸両用歩兵戦闘車 と共に海軍陸戦隊と陸軍水陸両用機械化部隊への配備が進められている。前述した通り、05式水陸両用戦車の開発母体となった05式水陸両用歩兵戦闘車 は開発当初からファミリー化を前提にされており、歩兵戦闘車や水陸両用戦車以外にも水陸両用装甲回収車、水陸両用装甲指揮車といった各種派生型の存在が確認されている。05式シリーズによって海軍陸戦隊の主要車輌が更新される事になれば、中国軍の着上陸作戦能力は大きく改善されるものと思われる。


05式水陸両用戦車(ZTD-05)には「VN-16」、ファミリー車輌である05式水陸両用歩兵戦闘車(ZBD-05)には「VN-18」の輸出用名称が付与されており、2014年にはベネズエラ海兵隊がVN-16/18を採用する事が報じられた[9]。

性能緒元
重量
全長
全幅
全高
エンジンターボチャージド水冷ディーゼル 陸上591馬力/水上1577馬力(ベースとなった05式水陸両用歩兵戦闘車のスペック)
最高速度
浮航速度20~30km/h
航続距離
武装105mmライフル砲×1
 12.7mm重機関銃×1
 7.62mm機関砲×1
 4連装発煙弾発射機×2
装甲アルミ合金製(車体)
乗員4名

▼試作車両の1つと思われる。砲塔は現用とは異なり87式105mm装輪自走対戦車砲のものと類似している。車体前後のトリムベーンを展開している。

▼同じく試作車両の1つと思われる。搭載された砲塔は現状のもの。

▼海軍陸戦隊で運用中の05式


▼水上走行試験の様子。車体前方の折畳み式ボウ・フラップを展開しているのが分かる

▼細部写真。3枚目の車体後部の映像では、トリムベーンが展開されており、乗降用ハッチが確認できる。




【参考資料】
[1]MDC軍武狂人夢「05式両棲装甲車」
[2]袁風「為了最先進的渡海攻堅戦車-05式両棲装甲車族総設計師陸鵬飛采訪記」(『兵器』総156期・2012.5/《兵器》雑誌社)10-14頁
[3]bigblue「蹈海軽騎 踏浪而行-漫話"国産AAAV"與高速両棲戦車技術的発展」『現代兵器』2008年12月号/総第360期(中国兵器工業集団公司)10-19頁。
[4]軍事研究2005年12月号「中露合同軍事演習に見る中国の軍事力」(稲坂硬一/株ジャパン・ミリタリー・レビュー)202頁。
[5]「AAAV-2000 CHINESE PLA MARINE CORPS」(ZTD-05透視図)
[6]新浪網「両棲突撃方隊出発準備接授受閲」(2009年10月01日)
[7]ChineseDefenceToday「ZBD2000 Amphibious Fighting Vehicle」
[8]中華網「海軍副司令員:05式両棲歩戦車将首次亮相」(2009年10月1日)
[9]FAV-Club「EXCLUSIVA: El nuevo vehículo anfibio VN-18 para la Infantería de Marina venezolana」(2014年7月18日)

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