2021年12月22日水曜日

IL-76MD輸送機(キャンディッド)(中国)

 ▼2013年1月10日、モスクワのジュコーフスキー空港で撮影された中国空軍のIL-76MD。新型のロービジ塗装が施されている



旧ソ連の4発ジェット輸送機。An-12(NATOコード:Cub/カブ)の後継機として40~50t級のペイロードを持ち5000km級の航続距離を持つ要求仕様が提出され、1960年代後期から開発作業が始められた。原型機IL-76は1971年3月25日に初飛行した。1975年から量産が開始され、軍用型IL-76Mがソ連空軍で運用開始、次いで1977年から民間型IL-76Tがアエロフロートに就航した。IL-76シリーズは旧ソ連・ロシア空軍の輸送機戦力において主力機の1つとして運用され、現在に至るまで改良型の開発が続けられている。

主翼は300㎡と大面積で25゜のゆるい後退角を持ち、全翼幅にわたる前縁フラットと後縁の3段フラップからなる強力な高揚力装置を装備し、良好な離着陸性能により不整地や短い滑走路でも運用できる。エンジンはD-30KPを4基、ソ連の実用機としては初めてパイロン方式で装備した。ランプ部分を含めて長さ24.54mの貨物室と後方貨物扉を持ち、下側の扉はランプ兼用で車輌の自走乗降や、貨物や車輌を積載したパレットの空中投下が可能である。全天候運用を可能にするため気象レーダーを機首に、航法レーダーを機首下面に装備し、自動操縦装置や自動着陸装置なども備える。その一方で機首には窓付きの航法士席も設けられている。主脚は4本の脚柱に各4個の車輪を持ち、90゜ひねってバルジ内に引き込まれる。胴体尾部には23mm連装機関砲銃座を自衛用に装備する事が可能。

【中国におけるIL-76】
1980年代末にソ連との関係を改善した中国は1990年に2機のIL-76MDをソ連に発注した[3]。IL-76MDはIL-76TDの軍用型で、最大ペイロードと燃料容量が増加している。IL-76MDも自衛用の23mm機関砲の搭載が可能だが、中国が購入したIL-76MDは尾部銃座のないタイプだった[3]。この後、1992年と1998年にIL-76MDの追加発注が行われ、合計14機のIL-76MDが調達された。この内4機はKJ-2000早期警戒管制機(空警2000)のベース機体として使用された。これら14機とは別に尾部座席付きIL-76にロートドームを装備した機体が、上海の中国第1飛機設計研究院で組み立て、展示されているのが撮影されているが詳細は不明である。IL-76MDは中国空軍にとって初の大型軍用輸送機であり、これまで十分とは言えなかった遠隔地への空中輸送能力を大幅に向上させるものであった[3]。これらの機体は湖北省に基地を置く中国空軍第13師団(13師)に配属され、輸送任務に従事している[3]。

中国は戦略輸送能力強化のため、2005年にロシアとの間でIL-76MD輸送機とIL-78給油機を合わせて38機を10~15億ドルで購入する契約に調印した[4]。契約では2007年からの納付の予定であったが、IL-76/78を生産していたウズベキスタンとロシアとの関係悪化に伴い、中国向けIL-76/78の生産が出来ない事態が発生した。イリューシンはロシア本国のウリヤノフスク市に生産工場を移転することを計画しているが、その場合納付は2010年にずれ込むこと、生産コストもここ数年のインフレ要素もあってさらに4~5億ドル増加することが避けられないとした[5]。IL-76/78の納入トラブルは数年間に渡り中露間の懸案として解決が模索されたが、結局中国はこの契約をキャンセルすることになった[6]。しかし中国空軍にとって戦略輸送能力の強化は重要な問題であることに変わりなく、2011年になってロシアから中古のIL-76を3機調達したことが明らかになった[6][7]。このうち1機のIL-76TDが2012年8月に中国空軍の塗装を施した状態で撮影されている[6]。さらに2012年にはロシアなど旧ソ連諸国から合計10機のIL-76MD/TDを調達したとの情報も出たが[6][8]、こちらについては同年11月29日に中国国防部が公式に否定声明を発表している[9]。

現在、中国はY-20大型輸送機の独自開発を行っているがその実用化にはまだ時間を要するため、当面の間空軍の戦略輸送任務はIL-76が担う状況が継続することになる。


性能緒元
重量89,000kg
全長46.59m
全幅50.50m
全高14.76m
エンジンアビアドビガーティリD-30KP 12,000kg ×4
最大速度850km/h
巡航速度780km/h
航続距離7,300km
上昇限度 m
武装23mm連装機関砲(中国空軍のIL-76MDは未搭載)
乗員7名

【参考資料】
[1]別冊航空情報 世界航空機年鑑2005(酣燈社)
[2]Jane's Defence Weekly
[3]Chinese Defece Today「IL-76MD Transport Aircraft」
[4]Kojii.net
[5]プラウダ電子版(英語)「Russia does not mind refusing from a billion dollars contract」2007年5月24日
[6]Chinese Military Aviation「IL-76MD/TD Candid」
[7]SIPRI Arms Transfers Database
[8]bmpd「Новые Ил-76 ВВС НОАК」(2012年11月17日)
[9]中国国防部公式サイト「2012年11月国防部例行记者会」(2012年11月30日発布)

KJ-2000早期警戒管制機(空警2000)

 


IL-76輸送機をベースにした空中早期警戒管制機。旧ソ連・ロシアのベリエフA-50AWACSに似ている。2003年に2機のKJ-2000が南京でテストされ、1機はCFTEのマークを付けた機体(No.762)で、もう1機は中國聨航と書かれた機体(B-4040)であった。その後、さらにB-4041、B-4043の機体番号を記載した機体が確認されている。

中国は1992年にロシアとの間でA-50をベースにしたAWACS機の購入に関して交渉を行っていた。その後AWACSシステムはイスラエルのIAI製Phalconフェーズドアレイ・レーダーを搭載する事になり、1994年に10億ドルで4機のAWACS機を導入する事に合意した。1999年にはレーダー搭載のためにイスラエルにA-50の機体が送られ、2000年5月にはほとんどの開発が終了。しかし当時のアメリカ・クリントン政権の圧力により、イスラエルは中国とのAWACS開発契約を取り消さざるを得なかった。その後イスラエルに送られていたA-50からPhalconレーダーとその他のAWACSシステムは下ろされたが、機体自体は2002年にロシア経由で中国に届けられ中国国内で保存されている。その後、ロシアからA-50U空中早期警戒管制機のリース、もしくは購入の提案が行われたが交渉は纏まらず、中国は自力でAWACSシステムを開発することを決定した。

KJ-2000は機体の外形はA-50AWACSを参考にしたと思われるが、搭載されているAWACSシステムは中国の南京電子技術研究所(第14研究所)で開発されたものである。そのフェーズドアレイ・レーダーはイスラエルのPhalconレーダー(EL2075)に若干劣っている程度の性能といわれ、初期型A-50が搭載するシュメーリ・システムよりは高性能らしい。KJ-2000のレドームはシュメーリ・システムとは異なり回転せず、その内部にアクティブ電子走査アレイ(active electronically steered array:AESA)レーダーのアンテナ・モジュール三基が360゜をカバーするために三角形に配置されている。No.762機は機首に受油プローブがあり、空中給油を受けることで活動時間を大幅に延長する事が出来る。

KJ-2000は、2006年7月から中国軍での運用が開始され、南京軍区所属の空軍第26師に配属されている。配備場所は無錫市の碩放空軍基地[1]。2008年5月12日に発生した四川大地震では、KJ-2000が災害地域上空に派遣されて救助用航空機の管制と無線中継局としての役割を果たしたことが報道された[2]。この時には、一度のフライトで10時間以上滞空し、同時に数百機の航空機に対して指揮管制を実施したとされる。また、2008年8月に開催された北京オリンピックでも空域警戒のため3機のKJ-2000が北京に派遣されたとのこと[3]。

【参考資料】
漢和防務評論2008年3月号「空26師強化預警能力」(漢和防務センター)[1]
別冊航空情報 世界航空機年鑑2005(酣燈社)
Chinese Defence Today
Chinese Military Aviation
大旗網
鉄血社区「実拍進京保衛奥運的"空警2000"大預:竟有三架之多!」[3]
中華網「官曝:中国新型指揮機引導抗震救済」(2008年6月12日)[2]

J-20(殲撃20/J-XX/718工程)

 ▼「J-20 Chinese Stealth Fighter Demo Flight 歼-20 Airshow China 2016 第十一届 中国国际航空航天博览会」。珠海航空ショー2016で展示飛行を行うJ-20



J-20性能緒元 [1]
重量17,000kg(空虚重量)/36,300kg(最大離陸重量)
全長22.0m/20.7m(試作機のみ機首にピトー管付/後期試作機~量産型。ピトー管撤去)
全幅13.0m
全高4.7m
エンジン (試作型/初期量産型。J-20A?)AL-31F-M1/M2(135kN/137kN級)×2
(J-20B?)WS-10G(A/B 145kN級)×2
(開発中)WS-15(A/B 169kN~178kN )×2
最大速度マッハ1.8~2.0+(諸説あり)
戦闘行動半径1,080km
最大航続距離2,970km(増槽や空中給油により延伸可能)
上昇限度20,000m
ハードポイント機内8箇所(胴体中央ウエポンベイに6か所、胴体側面ウエポンベイに2ケ所)、この他、外部パイロン4基
武装30mm単装機関砲×1?(搭載箇所は未確認)
 PL-15アクティブ・レーダー誘導空対空ミサイル×4~6(諸説あり)
 PL-10赤外線誘導空対空ミサイル×2
 各種誘導兵器/ミサイルなど
乗員1名
(注)J-20のスペックは諸説あり、上の数値も完全なものではない

J-20(殲-20/殲撃-20)は四川省にある成都飛機工業集団公司の第611研究所が開発中の中国第4世代戦闘機(西側の第5世代戦闘機に相当)で、「718工程」の開発名称が付与されている[2] 。設計主任は楊偉技師 [3]。

【開発の経緯】
中国では1980年代末からステルス性を有する次世代戦闘機に関する検討に着手(詳細はJ-XX(中国次期戦闘機計画)を参照のこと)。中国航空工業第1集団公司(AVIC-I)傘下の成都航空機工業(CAC)第611研究所と瀋陽航空機工業(SAC)第601研究所の両社の間での競争となり、最終的に成都案が採用されて本格的開発へと進む事になった。

成都が次世代戦闘機の研究に着手したのは1990年代初め頃とみられている [4]。しかし、この時期の成都は西側第4世代戦闘機に相当するJ-10A戦闘機の開発を行っている段階で、次世代戦闘機に割く開発リソースはなく、もとより西側第5世代機に相当する戦闘機を開発する技術的基盤も十分とは言えなかった。そのため、初期段階ではF-22(米)やミグ1.44(露)といった航空先進国の次世代戦闘機の情報収集と次世代戦闘機に必要な要素の確定、技術的基盤の構築に費やされたとみられている[5] 。

J-20の開発が、初期の調査分析・要素研究段階から開発段階に移るのはJ-10の初飛行が成功した1990年代末になる[6]。J-20の開発経緯はまだ明らかになっていない部分が多いが、初期の設計案はJ-10の開発経験を反映したカナードデルタ翼、下部インテークの機体で、エンジンを双発化、主翼付け根と胴体の間にテイルブームを設けてその上に垂直尾翼を機体外側に傾斜させてV字型に配置したデザインが採用された模様[7]。このデザインは、ロシアのミグ1.44やアメリカのJSF計画の各社プランの情報を参考に、J-10を基礎として第5世代戦闘機の技術を反映させ、双発のステルス戦闘機として仕上げるというものであった。このデザインは中国のインターネットでは「双発大10(双発大型化したJ-10)」と呼称された[8]。

初期のデザインである「双発大10」は、次世代戦闘機としての問題も多かったとされる。J-10の影響が各所に見られステルス性追求が十分でない外観に加えて、インテークを胴体下部に置いたことで、胴体下部にウエポンベイを配置する空間的余裕がなくなった点も問題になったとみられる。

これらの問題により、「双発大10」は詳細設計に進むことなく放棄され、成都では新しいデザインの検討に入った。新たなデザインでは、ウエポンベイを胴体中央部に配置するため、インテークを胴体側面に移動して空間を確保[9]。この配置変更により、胴体中央部の盛り上がりが少なくなり、正面投影面積が減少しステルス性と空気抵抗減少の点でメリットが生じた。この段階では二次元可変インテークが採用されていたが、米F-35でDSI(DSI:Diverterless Supersonic Inlet、ダイバータレス超音速インレット)技術が採用されたとの情報が得られたことで、成都でもJ-10をテストベッド機としてDSI技術の実証試験を行い、有効性が確認されたので次世代戦闘機に採用することが決定された[10]。

インテークやウエポンベイの設計確定と並行して、一般に主翼+水平尾翼の配置に比べてステルス性には不利と言われるカナードとステルス性をどのように両立させるのかも問題になったと思われる。これについては機体説明のところで触れる。搭載エンジンについては推力169kN~178kN級のWS-15(渦扇15)ターボファンエンジンが開発中であったが、J-20試作機には到底間に合わないので、当面はロシアのAL-31F系ターボファンエンジンを搭載してテストを行うことになった。ステルス戦闘機に必要な各種要素の開発方針が確定し、全規模開発に移行したのは2007年前後とみられている[11]。この時期、成都が総力を挙げていたJ-10の開発が完了し戦力化が行われ、ようやく開発リソースをJ-20に集中できる条件が整ったのである[12]。

2009年11月8日に放送されたCCTVの報道番組において、中国空軍の何為栄副司令員は中国空軍建軍60周年を記念するインタビューの中で、中国が開発中の「第四世代戦闘機」は現在開発が進行中であり、まもなく初飛行が実施されるであろうと述べた[13]。中国空軍の高官が公に次世代戦闘機の開発を認めたのはこれが初。このインタビューでは「第四世代戦闘機」は8~10年後(2017~2019年頃)の実用化が可能であろうとの見通しも示された。その後、2009年末には次期戦闘機の原寸大模型を製造し、2010年5月までには試作機2機の製造に着手した事が報道された[14]。

最初の試作機(機体ナンバー2001)が初飛行に成功したのは2010年12月22日だった[15]。初期の試作機(原型機)は3機が確認されている(2001号機、2002号機、ナンバー未記載機)[16]。飛行試験を行ったのは2001、2002号機で、ナンバー不明機は地上試験に用いられた可能性がある[17]。

2014年3月1日には、実用化に向けた設計変更を各所に施した新しい試作機(2011号機)の初飛行が確認された。2001、2002号機が飛行性能、飛行特性、ステルス性など機体の性能・機能を中心とした飛行試験機であったのに対して、2011号機は搭載電子機器の飛行試験用に製造されたと考えられている[18]。機体ナンバー2010番台(2011~2017号機)の試作機は合計7機が製造されている。これら増加試作機は、J-20の実用化に向けた改修と実証に供され、細部を見ると機体ごとにかなりの変更箇所が存在する[19]。

原型機と増加試作機に続いて、2015年12月27日には成都飛機工業集団公司の飛行場で2100番台(2101号機)のJ-20が発見され、翌2016年1月には2102号機、2103号機も確認された。2100番台のJ-20は実用化に向けた初期量産型と見られ、2016年10月には低視認迷彩塗装を施したJ-20が撮影され、開発段階から部隊での試験運用段階に移行したことが明確になった[20]。部隊配備されたJ-20は新しい5桁のナンバーが塗装されており、これまで6機(78271~78276号機)が確認されている[21]。同年11月1日には、広東省珠海で開催された国際航空ショーで2機のJ-20による展示飛行が行われ、J-20の初の公式展示飛行が実現した[22]。2017年9月29日には、中国軍の呉謙報道官によりJ-20の部隊配備が発表され[23]、J-20が戦力化に向けて部隊での運用経験を積んでいることが公式に認められた。

2017年9月には新しいJ-20試作機2021号機が確認された[24]。この機体はエンジンノズルの形状がこれまでのJ-20とは異なっており、搭載エンジンを中国製のWS-10Gに換装した機体と見られている。

【機体形状について】
J-20は双発エンジンの大型戦闘機で、機体前方に全遊動式カナードを持つ無尾翼デルタ翼機として機体設計が纏められている[25]。試作機の発見直後は、米F-22や露Su-57よりも大型で米F-111に匹敵する40t級戦闘機との推測もあったが、その後の分析で機体サイズは全長20.7m、最大離陸重量36tと、米F-22や露Su-57と大差ない規模にまで修正されている[26]。

ステルス戦闘機として開発されたことから、胴体側面のチャイン、DSIインテークやウエポンベイの採用、アクセスパネルや脚部ドアに鋸歯状のセレーションを設けるなど、基本的なステルス・ルールに則った設計が採用されている[27]。機体塗装は、原型機から「200×」台の試作機は黒色塗装が施されていたがが、2011号試作機以降は濃い灰色の塗装に変更され、初期量産型では空中戦を意識した迷彩を施した機体も確認されるようになった。初期の黒色塗装が変更された要因としては、①黒色では空中戦で目立ちやすい[28]、②電波吸収率の高い塗装への変更[29]などと推測されている。

主翼は大面積のデルタ翼で翼端部は切り落とされており、前縁は直線だが付根部分では小さな延長部が前方に伸びている。前縁延長部の手前には同じく翼端を切り落とした全遊動式のカナードデルタ翼が配置されている[30]。主翼とカナードは同一線上に配置されているが、カナードには5~6度の下反角が、主翼には2~3度の下反角が付けられている[31]。カナードと主翼は、J-10などのカナードデルタ機よりも離れて配置されており、カナード自体も一定程度の揚力を負担する。

J-20のカナードは主翼と同一線上に配置されている。成都が以前開発したJ-10では、カナードと主翼が上下に配置されているが、これはカナードが発生させる気流の渦により高速飛行中に機体を安定させ、さらに気流を分離させることで、主翼気流での揚力損失を抑えるなどの効果がある[32]。それに対して、J-20のカナードは主翼と同一線上に配置されている。この配置だと、J-10のようにカナード後流を主翼上面に誘導することによる揚力向上の効果は得られない。これを補っているのが、J-20のカナードに付けられた上反角である。これによりカナードと主翼を上下段に配置するのと似た効果が発生する。さらに、J-20のカナード翼配置のもう一つの特徴は、カナードと主翼の間に主翼前縁延長部を設けている点にある。主翼前縁延長部もカナードと同様の気流効果を持つので、カナードを補って揚力増加の効果がある[33]。J-20が主翼同一線上カナード翼を採用した理由としては、①主翼と同一線上配置にすることで高速水平巡航飛行時の空気抵抗を低減、②大迎え角での運動性能向上(この配置だとJ-10よりも高い迎え角が可能になるとされる。)の二つの理由が考えられている[34]。

【コラム:カナード翼とステルス性について】
J-20の設計で最も論議を呼んだものの一つが、同機が採用したカナード翼である。カナードは、超音速飛行時の制御性を改善し、急上昇時の良好な上昇性能や大迎え角時の俊敏性と旋回性を確保するなどのメリットがある反面で、カナードがレーダー波を反射してレーダー反射断面積を増大させる問題が存在する[35]。さらに空中機動のためカナードを動作させると電波反射方向を局限するというステルス機の設計では大きな不利益が生じる[36]。通常の水平尾翼であれば、前方の主翼に覆われて正面からは見えなくなるが、主翼の前方に配置されているカナードではこの効果も期待できない[37]。実用化されたステルス戦闘機F-22、F-35、Su-57がいずれもカナードを採用していないのもこの見方を裏打ちするものとされる(Su-57は「主翼前縁渦流制御LEVCON」と呼ばれる主翼前縁延長部先端と一体化したカナードというべき機構を採用し、カナードの不都合に対処している[38]。)

一方で、アメリカでもATF計画(先進戦術戦闘機計画)やJSF計画(統合攻撃戦闘機計画)の構想のなかではカナード機も検討されたほか全無尾翼カナードデルタ研究機X-36が試作され[39]、スウェーデンのサーブでもカナードデルタのステルス機構想[40] が存在するなど、カナードを有するステルス機が完全に存在しないわけではない。ステルス機にカナードを採用するには、通常配置翼の航空機とは異なる設計上の配慮が必要になるのは中国でも認識されており、形状や塗装の工夫によりカナードのレーダー反射断面積を下げるための研究論文も公開されている[41]。J-20のカナードに電波反射方向を限定するセレーション加工が施されているのは、これらの研究を反映したものと見られる[42]。また、機体正面のステルス性に影響を与えるのは、カナード翼のみではなく、レーダーアンテナやキャノピー、インテークなどの方が大きな要素であるとの研究も公開されている[43]。それによると、最も影響が大きいのが①レーダーアンテナと基部(40%)と②インテーク(40%)、③翼や機体表面のアンテナや突出部・接合部やリベットなどが15%、④キャノピーとコクピット内部が5%という結果が出ている。カナードは③の要素に含まれる。ステルス性向上のためには、これらの諸要素に対して総合的な対処を行うことが求められる。J-20ではカナードの電波反射率抑制策として、①カナードを電波吸収塗料で覆う、②翼端を切断するなど電波反射率を低減する形状を追及、③カナード縁部に電波反射方向を限定するセレーションを設けるなどの対策が採られている[44]。

J-20のレーダー反射断面積については台湾の中山科学院が縮尺模型を使用して分析を行っている。『亞大防務』112期の記事によると、J-20のレーダー反射断面積はほとんどの部分で1㎡以下であり、最も抑制されているのは機体正面。大部分は0.1㎡以下に収まっていたが、機体後部のみ1~10㎡と大きな値を記録しており、エンジンノズル部分は10㎡を超えていたとの結論が出ている[45]。機体正面が最も抑制されているとの結果は、J-20がカナードの存在にもかかわらず正面ステルス向上の効果を発揮できているものと推測される。実際のレーダー反射断面積は、機体形状以外にも細部構造や電波吸収塗料などの要素も加味されるので、上記の推測が実機と一致するとは限らないが、一定の傾向を知るには有効と思われる。

なお、カナードの角度変更時のレーダー反射断面積増大に対しては、巡航時や中距離戦闘の際にはカナードを一定角度で固定して作動させないことにより対応し、近距離での空中戦の際にのみ可動させるという運用面での対策が行われているとの情報もある[46]。

J-20の風防は原型機(2001号機、2002号機)では、F-22と同様の一体型キャノピーを採用していたが、2011号機以降は、ウインドシールドと緊急脱出用の風防爆破コードを内蔵した二分割キャノピーに変更された[47]。キャノピーからの視界は良好で設計において視界の確保を優先していることが伺える。

J-20のインテークにはダイバータレス超音速インレット(DSI:Diverterless Supersonic Inlet)が採用されている。これはアメリカのF-35で始めて実用化された技術で、ステルス性に優れると同時に(二次元可変インテークなどと異なり)可動部分が無い分、軽量かつ安価であるメリットを有する[48]。ただし、DSIは固定式なので低速域から高速域まですべての速度に対応した設計で無ければならないところに設計の難しさがある[49]。特にマッハ2以上の高速を発揮する点では可変インテークのほうが有利なため、J-20の最高速度はマッハ1.8~2.0程度になるのではないかとの推測も出ている [50][51]。(DSIでも設計次第ではマッハ2の発揮は可能であり、JSF開発のテストベッド機としてインテークをDSIに変更したF-16がマッハ2での飛行に成功している[52]。)

成都ではJ-10をテストベッド機としてDSI技術の研究を行い、パキスタンとの共同開発戦闘機FC-1/JF-17やJ-10の改良型であるJ-10Bで実際にDSIを採用しており、この技術に関するノウハウを蓄積した上でJ-20へ採用したものと考えられる。尾翼は、水平安定版の無い双垂直安定板形式で垂直安定板は大きく外側に傾斜している[53]。垂直安定板は付根付近で分割されてほぼ全体が稼動する全遊動式。左右垂直安定板の下方には、それぞれ外側に傾斜をつけた固定式ベントラルフィンが配置されている。垂直安定板後方に突き出たテイルブームはノズルの排気方向と並行になり、ベントラルフィンと合わせてエンジンノズルを遮蔽するように配置されている[54]。ベントラルフィンは電波反射の面では不利に働く要素であるが、排気に対する赤外線ステルスの考慮や、比較的小型の垂直安定版を補完して高迎角での方向安定性を改善するために配置されたと考えられている[55]。

J-20の設計では正面ステルスの確保が重視されたと見られており、その反面でステルス性への配慮がされていない従来型のエンジンノズルやベントラルフィンの存在など後方ステルスの追求は十分とは言えない。先述した台湾の分析[56]でも「機体後部のみ1~10㎡と大きなRCS値を記録しており、エンジンノズル部分は10㎡を越えた」との結果が出ているのも後方ステルスの軽視を裏付けている。この点については、1980年代の米ATF計画(先進戦術戦闘機計画)の哲学「高速かつ高度を機敏に飛行する航空機は、後方からの攻撃に比較的強い」を反映したものではないかとの推測がなされている[57]。

J-20が、ステルス性の上では不利な要素であるカナードやベントラルフィンを採用したのは、運動性確保のためであると考えられている。「カナード+主翼前縁延長部+デルタ翼」と全遊動式垂直安定版とベントラルフィンの組み合わせは、格闘戦を意識し、高迎角での安定した飛行特性の追及を意図した設計であるのは、中国の内外を問わず共通して指摘されている[58]。高迎角での機動性追及は米AFT計画でも求められた要素であり、F-22ではこれを実現するために新型機体制御システムの開発に加えて、高推力のF119ターボファンエンジンと速度や迎え角に関係なくピッチ制御を可能とする推力偏向システムの組み合わせなどで対応した[59]。しかし、F-22と同等の高出力エンジンと推力偏向装置はJ-20開発時には存在しない要素であり(現在でも開発が続いている)、成都の開発陣は既存のエンジンの推力をベースとして機体形状と翼配置の工夫によって高迎角での機動性追及を行うことを余儀なくされた[60]。J-20の設計では、デルタ翼を採用し超音速抗力を低減するために機体は長くなり垂直安定版も小型化(通常の設計より40%程小さいと言われる)され、大型で高偏向カナードによって機動性を実現している[61]。ステルス性での妥協は、機動性獲得とのトレードであったと評価し得る。

もう一つの観点は、F-22やF-35の後追いで開発されたステルス戦闘機であるJ-20は、いやおう無くステルス戦闘機同士の戦いを想定せざるを得ないという点である。中距離戦での決着がつかない場合は、格闘戦になだれ込むことも予想し運動性を重視しているというものである。J-20の脚ドアやパネルに見られるセレーションの寸法が戦闘機搭載用レーダー周波数であるSバンドに対応していることも、対戦闘機戦闘重視の表れであると考えられている[62]。

【エンジン】
搭載エンジンについては推力169kN~178kN級のWS-15(渦扇15)ターボファンエンジンが開発中であったが、J-20試作機には到底間に合わないので、当面はロシアのAL-31F系や国産のWS-10系ターボファンエンジンを搭載してテストを行うことになった。

原型機および「200×」台の試作機は、ロシア製AL-31F-M1ターボファンエンジン(推力135kN)を搭載した。一部の試作機ではエンジンノズルにレーダー波抑制/赤外線ステルス対策と思われる白銀色で鋸歯状の加工が施されたノズルが採用されていたが、以降の試作機では廃止され(特にステルス性への配慮のない)通常形式のエンジンノズルに変更された[63]。「201×」台の後期試作機および初期量産機は最大推力を137kNに向上させたAL-31F-M2を搭載したと見られている[64]。

J-20のインテークにはダイバータレス超音速インレット(DSI:Diverterless Supersonic Inlet)が採用され、インテークの中心線とエンジンの中心線をずらして電波が直接エンジン前面から反射しないようにするスネークインテークと合わせた電波発生抑制策が講じられている[65]。DSIの形状は原型機から試作機、初期量産型に渡って細かな手直しが行われているようで、空気流量の調整やステルス性改善を意図した設計変更ではないかと推測されている[66]。

現状搭載しているAL-31F-M1/M2の推力では、アフターバーナーを作動させずに超音速巡航を行うスーパークルーズ能力は得られないと考えられている[67]。スーパークルーズ能力を獲得するには開発中のWS-15の実用化か、ロシアからSu-35戦闘機に搭載されている117Sターボファンエンジン(ドライ86.3kN、最大142.2kN)を調達する必要があると考えられていたが、2017年9月には新しいJ-20試作機2021号機では、WS-10改良型と見られる新型エンジンを搭載しているのが確認された[68]。WS-10GもしくはWS-10IPEと仮称されるこのエンジンは鋸歯状のエンジンノズルを有しているが、これはレーダー波反射率の低減に効果があり、J-20の問題である後方ステルスの弱さを軽減してくれる可能性があると見られている[69]。また、WG-10Gが14~15トン級の推力を達成している場合、マッハ1~1.2程度の速度での超音速巡航が実現することも考えられており[70]、今後の展開が注目される。

【各種センサーや情報戦システムについて】
現在の戦闘機の総合能力を決めるのは、速度や機動性以上にアビオニクスや兵器システム、近年急速な発達を見せる情報化システムとの統合化などの総合力で判断する必要があるとされる[71]。

まずレーダーについては、1475型(KLJ-5)アクティブ・フェイズド・アレイ(AESA)レーダーが装備される[72]。ASEAレーダーは、電子式に走査する多数の送受信モジュールでアンテナが構成されており、各モジュールが独立して送受信により走査するためアンテナを機械的に動かす必要が無い[73]。具体的な性能は不明だが、現代の戦闘機に求められる空対空、空対地など多モードレーダーであり、複数目標との交戦を可能とする同時多目標迎撃能力や複数目標追尾能力を備えているものと推測される。

2011号機からは機首下部にカヌー型フェアリングが設置されるようになり、これはレーダーを補完する電子/光学目標補足システム(EOTS)が内蔵されると考えられている[74]。J-20への搭載対応が謳われているEOTS-86は、メーカーによるとB-2爆撃機を150kmで、F-22を110kmで探知可能としている[75]。戦闘機は存在の秘匿が最も重要であり、その点で自ら電波を発信せずに目標の探知が可能なEOSTの役割は重要である[76]。レーダーを使わず、EOSTやESM、FDL(Flght Date Link)だけで目標を探知追尾する「サイレント・オペレーション」は自らの位置を秘匿して目標情報を入手して攻撃を可能とするステルス戦闘機の理想の攻撃法となる。これに必要なデータリンクも既に構築されており、各レベルの部隊、早期警戒機、地上レーダー施設、各軍用機を結ぶネットワーク網が実用段階に達している[77]。AESA レーダー、 EOST、データリンクなど多種多様なセンサーの特徴を最大限に引き出して、互いの弱点を補完するデータ融合が重要となり、J-20の開発でもこの点が重視されていると考えられている[78]。

このほかに、側面観測レーダー、機体全周の脅威警戒探知を行う電子光学分配開口システム(EO-DAS)など各種センサーの搭載が行われる。J-20のセンサー開発のためロシア製旅客機ツポレフTu-204-102Cがテストベッド機として使用されており、J-20を模した機首とカナードを搭載して、各種センサーの搭載・実地試験に供されている[79]。

J-20のコクピットは二基の大型液晶パネルを中核として完全にグラスコクピット化されているとされる。コクピット正面上部には広角式のヘッドアップディスプレイ(HUD)が有り、飛行データや重要な戦術情報が表示されると見られている[80]。J-20のヘルメットは、諸元投影機能や目標照準機能を備えているが、F-35のようなEO-DASの映像表示モードは現状では備えていないと思われている[81]。この点から、J-20のEO-DASはF-35のような360度全周の画像情報確認機能を有していない可能性が指摘されている[82]。

【兵装とペイロードについて】
ステルス戦闘機であるJ-20の兵装は基本的に機内搭載を前提としている。J-20は胴体下部に一箇所、胴体両側面に各一箇所の合計3箇所のウエポンベイを備えている。ウエポンベイは胴体下部が全長4.5m、胴体側面のものが3.3m[83]。胴体下部ウエポンベイは、胴体中央下部に二つ並べて配置されている。これまで確認されたのはPL-15 中距離空対空ミサイル(射程100km超)4発を搭載した写真のみであるが、ウエポンベイのサイズから、パイロンを上下にずらせば合計6発の搭載が可能なようにも見える。直径の太いPL-15は搭載数4発、胴体の細いPL-12は安定/制御翼を小型化すれば6発の搭載が可能という推測もあり[84]、空対空ミサイルの搭載数については続報を待ちたい所。空対地兵装としてはGPS/北斗衛星位置測定システムを利用した精密遊動爆弾の運用能力が付与されるものと推測されている[85]。

胴体側面ウエポンベイはPL-10赤外線空対空ミサイル(射程20km)の専用スペースとなっている。J-20独自の工夫として、ウエポンベイの扉を開いてランチャーが展開されると扉を閉じる構造を採用している[86]。同様の配置を行っているF-22の場合、ウエポンベイをあけてミサイル発射レールを外側斜めに突き出して、シーカーが目標を補足したら発射する方式をとっている[87]。J-20の方式は、機外に露出しているのはミサイルとランチャーのみなので、ウエポンベイを開けているF-22に比べて空気抵抗とレーダー反射断面積を減らすことが出来るメリットがある[88]。

J-20はウエポンベイのほかに、主翼下に合計4箇所のハードポイントが設けられている。4基のハードポイントの合計ペイロードは約8トンで、2016年12月には、4基の2400L増槽を搭載したJ-20が試験飛行を行っているのが確認されている[89]。外部兵装の搭載も可能と思われるが、レーダー反射断面積増大を招くためステルス性を必要としない任務でのみ限定的に使用されるものと考えられる。

固定武装である機関砲については試作機では搭載が確認されていない[90]。搭載された場合でも、ステルス性に配慮して機銃口は蓋で覆われ発射時のみ展開する方法が採用されるだろう。

【今後の展開】
J-20の登場後、この戦闘機がどのような任務を想定して開発されたのか、そしてその実力の如何について内外で活発な論議が行われた。時間の経過と共に情報が増えていったが、開発経緯の詳細についてはまだ未公開な部分が多く、限定的な部隊運用が始まった現在でもいまだ解決していない疑問も多い。不明なことも多いが、現段階で判明した情報を基にして、J-20がどのような性格の戦闘機なのかについて考えてみたい。

中国がJ-20の開発を決定した1990年代、西側諸国に第4世代戦闘機が普及し、アメリカでは第5世代戦闘機の開発が進む中、中国は漸く第4世代戦闘機の導入が始まったばかりであった。そして21世紀には第5世代戦闘機がアメリカのみならず、中国周辺諸国にも普及し始める可能性が高く、戦闘機開発での立ち遅れは致命的な結果を招きかねなかった。

上記のような状況に対して、自国の限られた技術の中で如何にして第5世代戦闘機を開発するかが、技術陣に求められた大きな課題であった。既存のエンジンで第5世代戦闘機を実用化するという選択は性能やステルス性への妥協を余儀なくされたが、技術的熟成を待っていてはJ-20の実用化は2020年代以降にずれ込んで、中国周辺への第5世代戦闘機の普及に伴い中国が大量に配備したばかりの第4世代戦闘機の価値は大きく下落し、ひいては中国空軍の抑止効果は大幅に減退したであろう。J-20は、大柄な機体で能力向上の余地のある機体なので、部隊配備後に段階的に改良を加えて能力向上が図られるものと思われる。

アメリカの介入を、軍事衝突によって生じる脅威レベルを大きくすることで、介入の意志を忌避するまでに高める中国の戦略は、アメリカによってA2/AD(接近拒否/領域拒否)戦略と呼ばれた[91]。最初は弾道ミサイルや潜水艦といった非対称兵器が抑止力の中心であったが、次第に質的・量的パリティを目指す対称戦へと戦略を転換するようになった。対称戦で戦える能力は、目に見える形で有効な抑止力となり、介入リスクをより低減してくれる存在であり、軍の近代化が完成するまで安定した安全保障環境を必要とする中国にとっては合理的な判断であると評価されている[92]。

J-20の想定される任務として、開戦劈頭に米軍の航空基地や、艦艇、ミサイル基地、指揮管制システムへの攻撃や、敵の戦闘空中哨戒線を突破してネットワーク戦の中核であるAWACSなどのISR機や空中給油機を脅かし、敵戦闘機部隊をJ-20の行動半径外に留めると目されている[93]のも、介入阻止に重点を置いた中国軍の戦略を前提としたものといえる。AWACSなどのISR機や空中給油機は、米空軍の優位の根底を支えるフォースマルチプライヤー(force multiplier)であり、それへの攻撃は直接戦闘機を狙う以上の打撃を与えることが可能となるため、優先的に追及されるものと考えられている。

さらに、先述した通り、後発ステルス機であるJ-20は、先行する第5世代戦闘機との交戦も想定せざるを得ないので、フォースマルチプライヤーへの攻撃のみならず、戦闘機としての性能を追求する必要に迫られる。この点で、J-20の登場当初に一部で想定されたような「戦闘機ではなく攻撃機」という機体にはなり得なかった。

第5世代戦闘機の能力を十全に発揮させるには運用・戦術の確立、複雑で高度な指揮管制システムの構築、要員の教育・訓練といった各段階でのインフラを構築する必要がある[94]。対称戦を想定した戦力構築に舵を切った中国も、この時間と手間の掛かる道を選択せざるを得ない。近年、中国空軍が進めている各レベルの部隊、早期警戒機、地上レーダー施設、各軍用機を結ぶネットワーク網の建設[95]は、これを裏打ちするものであり、時間はかかるにせよ段階的に第5世代戦闘機を有効活用する体制を整えていくものと想定される。

【注】
[1]青木謙知『戦闘機年鑑2016-2017』(イカロス出版/2016年)196頁
[2]「Chengdu J-20」 Andreas Rupprecht『DRAGON’S WINGS – CHINESE FIGHTER and BOMBER AIRCRAFT DEVEROPMENT』(Classic/2013年)211-215頁
[3]「Chengdu Concepts」 Andreas Rupprecht『DRAGON’S WINGS – CHINESE FIGHTER and BOMBER AIRCRAFT DEVEROPMENT』(Classic/2013年)208-211頁
[4]「歼-20技术发展沿革分析」『全球防务 歼-20专题』第十七卷(内部蒙古人民出版社/2010年5月)40-41頁
[5]「歼-20技术发展沿革分析」『全球防务 歼-20专题』第十七卷(内部蒙古人民出版社/2010年5月)40-41頁
[6]「歼-20技术发展沿革分析」『全球防务 歼-20专题』第十七卷(内部蒙古人民出版社/2010年5月)40-41頁
[7]「歼-20技术发展沿革分析」『全球防务 歼-20专题』第十七卷(内部蒙古人民出版社/2010年5月)40-41頁
[8]「歼-20技术发展沿革分析」『全球防务 歼-20专题』第十七卷(内部蒙古人民出版社/2010年5月)40-41頁
[9]「歼-20技术发展沿革分析」『全球防务 歼-20专题』第十七卷(内部蒙古人民出版社/2010年5月)40-41頁
[10]「歼-20技术发展沿革分析」『全球防务 歼-20专题』第十七卷(内部蒙古人民出版社/2010年5月)40-41頁
[11]「歼-20技术发展沿革分析」『全球防务 歼-20专题』第十七卷(内部蒙古人民出版社/2010年5月)40-41頁
[12]「歼-20技术发展沿革分析」『全球防务 歼-20专题』第十七卷(内部蒙古人民出版社/2010年5月)40-41頁
[13]新華網「《面対面》対話何為栄:中国正在研制第四代戦機」(2009年11月9日)
[14]Andreas Rupprecht『DRAGON’S WINGS – CHINESE FIGHTER and BOMBER AIRCRAFT DEVEROPMENT』(Classic/2013年)208-211頁
[15]Andreas Rupprecht『DRAGON’S WINGS – CHINESE FIGHTER and BOMBER AIRCRAFT DEVEROPMENT』(Classic/2013年)208-211頁
[16]「歼-20大事记」『兵工科技增刊 2016珠海航展专辑』(兵工科技杂志社)15頁
[17]「歼-20大事记」『兵工科技增刊 2016珠海航展专辑』(兵工科技杂志社)15頁
[18]林富士夫「戦闘機開発から分析!中国空軍の近代化構想」『軍事研究』2015年2月号(ジャパン・ミリタリー・レビュー社、28-39頁)31頁
[19]「歼-20大事记」『兵工科技增刊 2016珠海航展专辑』(兵工科技杂志社)15頁
[20]「歼-20大事记」『兵工科技增刊 2016珠海航展专辑』(兵工科技杂志社)15頁
[21]Chinese Military Aviation-Gallery II(2017年10月25日閲覧)
[22]「歼-20大事记」『兵工科技增刊 2016珠海航展专辑』(兵工科技杂志社)15頁
[23]中国網日本語版(チャイナネット)「J-20戦闘機が部隊に配備 総合的国力を具体化」(2017年9月29日)
[24]中国網日本語版(チャイナネット)「黄色のJ-20「2021号」の写真が公開」(2017年9月20日)
[25]大塚好古「隠形战斗机「J-20&J-31」最新ルポ」『丸』2013年1月号(潮書房、84-91頁)85頁、青木謙知『戦闘機年鑑2016-2017』(イカロス出版/2016年)196頁
[26]大塚好古「隠形战斗机「J-20&J-31」最新ルポ」『丸』2013年1月号(潮書房、84-91頁)85頁
[27]林富士夫「一問一答:中国ステルス機の実力と日本の採るべき対応 J-20は脅威となりうるか」『軍事研究』2011年5月号(ジャパン・ミリタリー・レビュー社、38-47頁)39-40頁
[28]张亦驰「2011号 歼-20原型机的新变化」『兵器』2014年6月号/总181期(中国兵器工业集团公司/兵器杂志社、6-10頁)6-7頁
[29]林富士夫「戦闘機開発から分析!中国空軍の近代化構想」『軍事研究』2015年2月号(ジャパン・ミリタリー・レビュー社、28-39頁)29-30頁
[30]青木謙知『戦闘機年鑑2016-2017』(イカロス出版/2016年)196頁
[31]雪巴「中国的飞机围城」『舰载武器』2011.02/No.138(中国船舶重工业集团公司、18-26頁)21頁
[32]新浪网-新浪军事「揭开歼20鸭翼不同于歼10的秘密 助其机动性逼近F22」(2017年05月18日)(2017年11月4日閲覧)
[33]新浪网-新浪军事「揭开歼20鸭翼不同于歼10的秘密 助其机动性逼近F22」(2017年05月18日)(2017年11月4日閲覧)
[34]新浪网-新浪军事「揭开歼20鸭翼不同于歼10的秘密 助其机动性逼近F22」(2017年05月18日)(2017年11月4日閲覧)
[35]新浪网-新浪军事「中国从歼10到歼20都如此偏爱鸭翼布局 是否另有隐情」(2017年6月2日)(2017年11月4日閲覧)
[36]大塚好古「隠形战斗机「J-20&J-31」最新ルポ」『丸』2013年1月号(潮書房、84-91頁)85頁
[37]雪巴「中国的飞机围城」『舰载武器』2011.02/No.138(中国船舶重工业集团公司、18-26頁)25頁
[38]青木謙知『戦闘機年鑑2016-2017』(イカロス出版/2016年)168頁
[39]高子鱼「歼-20战斗机的技术分析」『舰载武器』2011.02/No.138(中国船舶重工业集团公司、27-37頁)33-35頁
[40]ROBOTPIG.NET「SAAB new stealth fighter program」(2010年4月25日)
[41]李启鹏, 王和平, 孙珍, 付伟「鸭翼电磁散射特性分析与RCS减缩方法研究」『航空计算技术』第40卷第3期(2010年5月、48-51頁)50-51頁
[42]新浪网-新浪军事「歼20鸭翼布局是否破坏隐身 其隐身优势或超美军F22」(2017年10月18日)(2017年11月4日閲覧)
[43]李天「战斗机的发展对隐身与气动技术的需求」『流体力学实验与测量』2002年01期(1-7+26頁)5-6頁
[44]新浪网-新浪军事「歼20鸭翼布局是否破坏隐身 其隐身优势或超美军F22」(2017年10月18日)(2017年11月4日閲覧)
[45]高智陽「快速發展的中科院雷達技術-淺析中科院新研發敵先進雷達」『亞太防務』(電子版)112期(2017年8月、34-41頁)40-41頁
[46]「空中作战群 歼击机梯队- 歼-20、歼-16和歼-11B战斗机」『兵工科技(2017年第16期)纪念中国人民解放军建军90周年沙场大阅兵』(兵工科技杂志社、83-87頁)83頁
[47]林富士夫「戦闘機開発から分析!中国空軍の近代化構想」『軍事研究』2015年2月号(ジャパン・ミリタリー・レビュー社、28-39頁)29頁
[48]林富士夫「一問一答:中国ステルス機の実力と日本の採るべき対応 J-20は脅威となりうるか」『軍事研究』2011年5月号(ジャパン・ミリタリー・レビュー社、38-47頁)40頁
[49]CODE ONE「JSF Diverterless Supersonic Inlet」(Eric Hehs/2000年7月15日)(2017年11月5日閲覧)
[50]青木謙知『戦闘機年鑑2016-2017』(イカロス出版/2016年)196頁
[51]大塚好古「隠形战斗机「J-20&J-31」最新ルポ」『丸』2013年1月号(潮書房、84-91頁)86-87頁
[52]CODE ONE「JSF Diverterless Supersonic Inlet」(Eric Hehs/2000年7月15日)(2017年11月5日閲覧)
[53]青木謙知『戦闘機年鑑2016-2017』(イカロス出版/2016年)196頁
[54]林富士夫「戦闘機開発から分析!中国空軍の近代化構想」『軍事研究』2015年2月号(ジャパン・ミリタリー・レビュー社、28-39頁)29-30頁
[55]林富士夫「戦闘機開発から分析!中国空軍の近代化構想」『軍事研究』2015年2月号(ジャパン・ミリタリー・レビュー社、28-39頁)30頁
[56]高智陽「快速發展的中科院雷達技術-淺析中科院新研發敵先進雷達」『亞太防務』(電子版)112期(2017年8月、34-41頁)40-41頁
[57]海国防衛ジャーナル「中国のステルス機「J-20(殲-20)」に関する専門家の見解」(2012年2月4日)(2017年11月4日閲覧)
[58]林富士夫「一問一答:中国ステルス機の実力と日本の採るべき対応 J-20は脅威となりうるか」『軍事研究』2011年5月号(ジャパン・ミリタリー・レビュー社、38-47頁)40頁。伊呜「千呼万唤始出来 – 歼-20隐身战斗机亮相航展」『兵工科技增刊 2016珠海航展专辑』(兵工科技杂志社、10-14頁)12頁。海国防衛ジャーナル「中国のステルス機「J-20(殲-20)」に関する専門家の見解」(2012年2月4日)(2017年11月4日閲覧)
[59]青木謙知『戦闘機年鑑2016-2017』(イカロス出版/2016年)25頁(F-22の稿)
[60]伊呜「千呼万唤始出来 – 歼-20隐身战斗机亮相航展」『兵工科技增刊 2016珠海航展专辑』(兵工科技杂志社、10-14頁)12頁
[61]海国防衛ジャーナル「中国のステルス機「J-20(殲-20)」に関する専門家の見解」(2012年2月4日)(2017年11月4日閲覧)
[62]林富士夫「一問一答:中国ステルス機の実力と日本の採るべき対応 J-20は脅威となりうるか」『軍事研究』2011年5月号(ジャパン・ミリタリー・レビュー社、38-47頁)40-41頁。
[63]Chinese Military Aviation-Fighters-J-20 Mighty Dragon/Firefang(2017年11月4日閲覧)
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[65]林富士夫「一問一答:中国ステルス機の実力と日本の採るべき対応 J-20は脅威となりうるか」『軍事研究』2011年5月号(ジャパン・ミリタリー・レビュー社、38-47頁)40頁。
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[68]中国網日本語版(チャイナネット)「黄色のJ-20「2021号」の写真が公開」(2017年9月20日)
[69]POPULAR SCIENCE「China's stealth fighter may be getting a new engine」(Jeffrey Lin and P.W. Singer/2017年9月9日)
[70]POPULAR SCIENCE「China's stealth fighter may be getting a new engine」(Jeffrey Lin and P.W. Singer/2017年9月9日)
[71]林富士夫「一問一答:中国ステルス機の実力と日本の採るべき対応 J-20は脅威となりうるか」『軍事研究』2011年5月号(ジャパン・ミリタリー・レビュー社、38-47頁)41頁。
[72]Chinese Military Aviation-Fighters-J-20 Mighty Dragon/Firefang(2017年11月4日閲覧)
[73]青木謙知『戦闘機年鑑2016-2017』(イカロス出版/2016年)24頁(F-22の稿)
[74]Chinese Military Aviation-Fighters-J-20 Mighty Dragon/Firefang(2017年11月4日閲覧)
[75]新浪網-新浪軍事「这款新装备助歼20不开雷达就能在110公里外定位F22」(2017年04月26日)(2017年11月5日閲覧)
[76]林富士夫「一問一答:中国ステルス機の実力と日本の採るべき対応 J-20は脅威となりうるか」『軍事研究』2011年5月号(ジャパン・ミリタリー・レビュー社、38-47頁)41頁。
[77]「中國空軍快速裝備換裝」『漢和防務評論』2016年10月号(加拿大漢和信息中心、24-26頁)25頁
[78]林富士夫「一問一答:中国ステルス機の実力と日本の採るべき対応 J-20は脅威となりうるか」『軍事研究』2011年5月号(ジャパン・ミリタリー・レビュー社、38-47頁)41-42頁。
[79]East Pendulum「Les essais systèmes avioniques du J-20 évoluent」(HENRI KENHMANN/2017年2月6日)
[80]大塚好古「隠形战斗机「J-20&J-31」最新ルポ」『丸』2013年1月号(潮書房、84-91頁)88頁
[81]刘昱「歼-20战斗机的新型头盔究竟有何厉害之处?」『现代舰船』2017年18期(现代舰船杂志社、20-22頁)22頁
[82]刘昱「歼-20战斗机的新型头盔究竟有何厉害之处?」『现代舰船』2017年18期(现代舰船杂志社、20-22頁)22頁
[83]青木謙知『戦闘機年鑑2016-2017』(イカロス出版/2016年)196頁
[84]江雨「威龙凌空舞-中国第四代战斗机初析」『全球防务』第十七卷神武号(内蒙古人民出版社、2010年5月、28-39頁)32頁
[85]大塚好古「隠形战斗机「J-20&J-31」最新ルポ」『丸』2013年1月号(潮書房、84-91頁)89頁
[86]林富士夫「戦闘機開発から分析!中国空軍の近代化構想」『軍事研究』2015年2月号(ジャパン・ミリタリー・レビュー社、28-39頁)30頁
[87]井上孝司「システムが支える「F-22」最強の座」『丸』2013年1月号(潮書房、70-77頁)74頁
[88]360doc个人图书馆「歼-20-(4)隐身性能 (下)」(aiaiweiwei/2017年10月28日)
[89]East Pendulum「Pourquoi le J-20 vole avec quatre réservoirs externes ?」(HENRI KENHMANN/2017年2月27日)
[90]Chinese Military Aviation-Fighters-J-20 Mighty Dragon/Firefang(2017年11月4日閲覧)
[91]河津幸英『図説 米中軍事対決』(アリアドネ企画、2014)26頁
[92]林富士夫「戦闘機開発から分析!中国空軍の近代化構想」『軍事研究』2015年2月号(ジャパン・ミリタリー・レビュー社、28-39頁)28-29頁
[93]林富士夫「戦闘機開発から分析!中国空軍の近代化構想」『軍事研究』2015年2月号(ジャパン・ミリタリー・レビュー社、28-39頁)35頁
[94]林富士夫「戦闘機開発から分析!中国空軍の近代化構想」『軍事研究』2015年2月号(ジャパン・ミリタリー・レビュー社、28-39頁)38頁
[95]「中國空軍快速裝備換裝」『漢和防務評論』2016年10月号(加拿大漢和信息中心、24-26頁)25頁

072型戦車揚陸艦(ユカン型/玉坎型)

 072型戦車揚陸艦は1978年に一番艦が就役した中国国産のLST型揚陸艦で、072-II型は072型に所定の設計変更を施した改良型。中国ではそれぞれ「072型」、「072-II型」と異なる型式名が付与されているが、西側では変更箇所が少ないため同型艦と判断され両級ともに「Yukan class」の識別名が付与されている[5][8]。本稿では、これを踏まえた上で、同じ頁で両級の紹介を行う。なお、072型は、072-II型の就役後は「072-I型」と表記される場合もある。


【開発経緯】
中国海軍は1975年「072型大型坦克登陸艦」と命名した大型戦車揚陸艦の設計要求を策定した。この要求では、新型揚陸艦はビーチング時の搭載能力450トン、最高速度20ktsという性能が求められた。中国海軍は中華民国海軍から捕獲、移籍した二次大戦型のLSTを多数保有していたが、これらのLSTは海岸に直接ビーチングしてバウ・ドアを開きランプ(道板)を下ろして車輌を上陸させる揚陸方式である事から、抵抗の大きい肥えた艦首形状にならざるを得ず、最高速度は10~12ktsに留まっていた。新型揚陸艦の要求では特に速度性能の改善が強く求められていた[7]。当時の中国ではこの種の大型揚陸艦の設計経験は無く、設計に際してはアメリカ製の二次大戦型LSTを参考にしつつ、試行錯誤しながら作業を進めざるを得なかった。設計期間は4年間に及び、さまざまな方向からの検討が行われた。最終的に速度発揮に有利なように船体長/幅比の大きな船体として、波切り性の良い鋭く傾斜した艦首部を採用することで20ktsの速力を発揮する目処が立った[7]。

一番艦「雲台山」は1976年11月に上海の中華造船廠で起工し、1977年10月19日に進水、1978年1月19日に竣工、11月に就役した。公試では設計速度を上回る最高速度20.8Ktsを記録している。就役後の評価としては良好な速力性能、操縦性、耐波性を有し、揚陸機能も効率の良い艦であるとの好評を得ている[7]。072型は海軍から高い評価を得ることに成功し、その後の中国海軍のLSTは本級をベースにして発展していくことになった。当初072/072-II型は合計14隻を建造する予定であったが、程なくして072型の改良型(後の072-III型戦車揚陸艦)の建造を行う方針が採用されたため、072/072-II型の調達は7隻で終了する事になった[8]。

【性能】
072型のスペックは以下の通り。基準排水量3,172t、満載排水量4,170t。全長120m、全幅15.3m。主機は12E390ディーゼル(9,600馬力)2基、推進軸は2軸、最高速力20kts、航続距離は14ktsで3,000nm。乗員は133名。
艦の前後にランプが設置されており、艦内の車両甲板は全通式[4]。バウ・ドア、艦首と艦尾の揚陸用ランプの操作には油気圧式を採用しており、良好な操作性を発揮している。上陸に際しては海岸にビーチングしバウ・ドアを開いて17mの折畳み式ランプ(最大荷重50t)を展開、車輌を上陸させる。また海上でバウ・ドアを開き水陸両用戦車や装甲兵員輸送車を発進させることも可能。艦後部のランプは耐荷重制限は前部ランプの半分以下の20tであり、水陸両用戦車などの展開に使用する[3]。機関出力も従来の艦よりも強化されているため、ビーチングや海岸からの離脱に際しても有利である[7]。揚陸作戦での搭載量は500t。1個戦車中隊(59式戦車11両、指揮車+装甲回収車各1両、乗員60名)、もしくは小型揚陸艇2隻と完全武装の歩兵1個中隊(150名)、あるいは歩兵1個大隊(800名)と105mm無反動砲搭四輪駆動車11~12両の搭載が可能。072型の貨物面積は750平方メートルあり、ビーチングの際の積載量は500トンに制限されているが、物資輸送任務に使用する際には最大2,000tの積載能力がある[7]。

072型と072-II型の最大の相違点は、その兵装である[5][9]。072型は66式57mm連装機関砲4基、61式25mm連装機関砲4~6基という比較的強力な近接火器を搭載している。これに対して、072-II型では、66式57mm連装機関砲を艦首部の1基に減らし25mm機関砲は全廃、新たに61式37mm連装機関砲3基(艦橋直前に2基、煙突後方に1基を配置)を搭載している。対空戦闘においてはこれらの艦載火器のほかに、乗員が携行式SAMを使用することも想定されている。

【比較】
▼57mm機関砲4基(艦首部に1基、艦橋直前に2基、煙突直後に1基)と25mm機関砲4基(車輌甲板両舷に各1基、艦橋直後のマストを挟んで各1基)を装備した072型2番艦の#928「五峰山」


▼57mm機関砲1基(艦首)、37mm機関砲3基(艦橋前後に3基)を装備した072-II型4番艦の#933「六盤山」


072/072-II型は、その物資搭載能力やビーチング可能な特性を生かして、南シナ海の島嶼部、環礁への補給活動や、環礁を埋め立てて基地を造成する工事の支援任務に当たっている[10]。1988年3月14日にヴェトナム海軍との間で行われた戦闘の際には、その充実した火砲を生かして「火力支援艦」として運用された[10]。

2010年代に入ると、南シナ海での領海をめぐる緊張の高まりを受けて領海警備活動に当たる海警の増強策として、072-II型2隻が海軍から海警に移管され、「拖25」、「警医01」と改称して運用が行われている[10]。平時は、島嶼部基地への補給や人員輸送、環礁の埋め立て造成工事の支援、医療任務などに従事するが、両船とも兵装は維持されており、領海警備任務に当たることも可能[10]。海軍では就役から30年以上が経って旧式化が進んでいた072型の退役を検討していたが、艦内のスペースが豊富で、遠浅の海域への輸送任務に適している特性を見込んで、運用継続を決定。2014年3月には、南沙/スプラトリー諸島で進行中の環礁埋め立て工事の支援を行うため、南海艦隊所属の072型3隻が25日間で改修を受けた上で支援任務に投入されている[11]。

072型の1番艦 #927「雲台山」と3番艦 #929「紫金山」は、専用輸送艦に類別変更され、25mm連装機関砲以外の兵装を撤去、艦橋直前に大型クレーン2基を搭載するなどの改修を受けて、主に南シナ海での基地造成の支援任務に当たっている。大型クレーンを搭載したことから、重量のある鉄骨やコンクリートブロックなど建設資材の輸送に用いられていると推測されている[10]。

性能緒元
基準排水量3,172t
満載排水量4,170t
全長120.0m
全幅15.3m
主機12E390ディーゼル(9,600馬力)2基、2軸
速力20kts
航続距離3,000nm/14kts
乗員133名

【搭載部隊】
揚陸艇724型エアクッション揚陸艇2隻
 小型揚陸艇2隻
搭載量500t(揚陸作戦)、2,000t(物資輸送)
戦車59式戦車63A式水陸両用戦車など10輌
揚陸兵員1個中隊150名(揚陸艇2隻)
 1個大隊800名+105mm無反動砲搭四輪駆動車11~12両

【兵装】
近接防御66式57mm連装機関砲4基(#927~929)
近接防御66式57mm連装機関砲1基(#930~933)
近接防御61式37mm連装機関砲3基(#930~933)
近接防御61式25mm連装機関砲4~6基(#927~929)

【電子装備】
航海レーダー753型2基

同型艦
【072型】
1番艦927雲台山Wufengshan上海中華造船廠で建造。1978年就役。専用輸送艦に任務変更。2020年7月7日退役[12]。東海艦隊所属
2番艦928五峰山Wufengshan上海中華造船廠で建造。1980年就役東海艦隊所属
3番艦929紫金山Zijinshan上海中華造船廠で建造。1982年就役。専用輸送艦に任務変更。2020年7月7日退役[12]。東海艦隊所属
【072-II型】
1番艦930霊岩山Lingyanshan上海中華造船廠で建造。東海艦隊所属
2番艦931洞庭山Dongtingshan上海中華造船廠で建造。東海艦隊所属
3番艦932賀蘭山Helanshan上海中華造船廠で建造。東海艦隊所属
4番艦933六盤山Liupanshan上海中華造船廠で建造。1995年就役東海艦隊所属
注1 072-II型の内、2隻は海警に移管され「拖25」、「警医01」と改称している。
注2 072/072-II型の複数艦が南海艦隊に移籍した可能性あり

▼艦後部のランプから突撃ボートを発進させた#930「霊岩山」

▼072型の車輌搭載甲板。左は77式水陸両用装甲兵員輸送車(WZ-511)を搭載、右は突撃ボートを搭載

▼専用輸送艦に改装された #927「雲台山」


【参考資料】
[1]世界の艦船1月号増刊 アメリカ揚陸艦史(2007.NO.669)(2007年1月/海人社)
[2]世界の艦船別冊 中国/台湾海軍ハンドブック 改定第2版(2003年4月/海人社)
[3]世界の艦船1月号増刊 世界の揚陸艦(2009.1/NO.701)(2009年1月/海人社)94頁
[4]Chinese Defence Today「Type 072 (Yukan Class) Large Landing Ship」
[5]中国武器大全「玉康級(072)坦克登陸艦」
[6]中国武器大全「攻撃地平線:中国海軍的大型両栖戦艦(一)」
[7]中国武器大全「詳解中国海軍072型両棲登陸艦」
[8]軍武狂人夢「玉坎級大型戰車登陸艦」
[9]東方網-軍事「072基本型“玉康”級登陸艦」
[10]何勁松「”老当新用”試析拖25船・警医01船・929号運輸艦的改装意義」(『現代艦船』2014-11A号/《現代艦船》雑誌社)46~52ページ
[11]观察者「中国海警装备新拖船“拖25号” 由坦克登陆舰改装」(2014年5月27日)
[12]澎湃新闻「海军鄱阳湖舰、云台山舰、紫金山舰退役」(2020年7月8日)https://www.thepaper.cn/newsDetail_forward_8177363(2020年7月10日閲覧)