■YW-531C性能緒元
重量 | 12.6トン |
全長 | 5.476m |
全幅 | 2.978m |
全高 | 2.85m |
エンジン | KHD BF8L413F 空冷ディーゼル 320hp |
最高速度 | 66km/h |
浮航速度 | 6km/h |
航続距離 | 500km |
武装 | 54式12.7mm重機関銃×1(1,120発) |
装甲 | |
乗員 | 2+13名 |
中国初の国産装甲兵員輸送車。1967~80年代後半まで生産され、中国軍で約2000輌が使用されているほか、ヴェトナム、北朝鮮、スーダン、タンザニア、ザイール(現コンゴ民主共和国)、北朝鮮、旧イラク等で用いられヴェトナム戦争や湾岸戦争などで実戦参加している。西側からはK-36、M1967、M1970等のコードネームが与えられた。
【開発経緯】
60式の原型となったのは、1958年8月から開発が開始された58-72式装甲兵員輸送車であった。59式中戦車に追随可能な装甲兵員輸送車を中国国内で調達可能な技術・コンポーネントで短期間で開発するというのが58-72式の開発コンセプトであった。
翌59年3月18日に試製一号車が完成し各種試験が実施されたが、浮力不足により水上浮航能力に問題が生じる、車体の重心バランスが悪く走行に支障を来す、エンジンのオーバーヒートや騒音等々、各種のトラブルが頻発することになった。これを受けて59-72式の開発は中断されると共に、59-72式をベースにして各種欠陥を是正した新型装甲兵員輸送車の開発が決定された。
新型APCの設計案は1959年7月5日に批准を受け、11月には最初の試作車両が完成した。この車両は中国各地で試験運用を行ったが、59-72式で発生したエンジンのオーバーヒートや騒音、車内の通気不良、車体中央に配置されたエンジンの熱により車内が高温に曝される等の問題は解消されていないことが明らかになった。試験結果を受けて1961年2月から6月にかけて「三高=(エンジンの)高熱、(車内温度の)高温、(エンジンの)高騒音)」問題解決のため大幅な設計変更が施された。これとは別に当時開発中の新型軽戦車と水陸両用戦車(後の62式軽戦車と63式水陸両用戦車)とのコンポーネント共通化の要求が提出され、61年7月には63式水陸両用戦車の足回りを転用するための改修が行われた。1962年2月、上記の改良点を施した2両の試作車両が完成し3000kmの走行試験において好成績を収めることに成功。この成功を受けて各種改修を施した上で、1963年1月には最初の生産型がロールアウト、同年3月18日には「1963式履帯式装甲輸送車」(製品番号WZ-531)として制式採用に漕ぎ着けた。
【性能】
63式は典型的な60年代の装甲兵員輸送車で、車体前部左側に操縦手席とその後方に1名分の乗員席、右側に車長席とその後方に機関室があり、後部の兵員室には銃手を含めて10名の兵員が搭乗する。兵員の乗降は車体後部の乗降ハッチで行う。車体は圧延防弾鋼板の溶接構造だが12.7mmクラスの銃弾には全く効果が無く、場合によっては7.62mm弾でも貫通する事がある。車体は完全水密構造で水上浮航能力を備えている。原型の58-72式では浮力不足が問題になったが、63式では浮力を24%増加しており、渡河に際して充分な浮力を得ることに成功した。
車体中央にはT-34/85戦車のV-2-34 V型12気筒液冷ディーゼルエンジンを6気筒に減筒した6150式L型液冷ディーゼル(260馬力)を搭載。変速装置は機械式トランスミッションで前進5段/後進1段。初期の試作車では騒音や高熱に悩まされたが、防音対策としてエンジン室をを30mmの鋼板で覆ったり車体前面に通風孔を設置する等の対策を施して問題を解決。前述の通り、履帯や転輪等の足回りは63式水陸両用戦車と共通化されている。
武装は銃手用ハッチに装備された防盾付き53式7.62mm機関銃で、その他に車体側面には乗車中の歩兵が使用する射撃ポート(両側面各1箇所、車体後部1箇所)が設けてあり乗車戦闘が可能。
制式採用された63式であったが、1964年の桂林における合同演習において各種トラブルが発生したため、1965年2月から63式の改良型の開発が開始された。翌66年には最初の試作車が完成、WZA-531と命名された。原型のWZ-531に41項目に渡る改修を加えたこの車両は、4月には改良案が承認され10月には生産が開始された。しかし文革の混乱によって工場での生産は継続したものの制式化に関する作業は中断を余儀なくされ、この改良型が正式に承認されるのは1985年2月になってから。なおWZA-531は63A式装甲兵員輸送車と呼ばれることが多いが、制式名称は63式装甲兵員輸送車のままである。
WZA-531の主な改修点は以下の通り。
武装の強化 | 7.62mm機関銃を12.7mm機関砲に換装。防盾は未装着 |
車長用ハッチにペリスコープ設置 | 分隊長が着座した状態で外部の全周視認を行うことが可能になった |
エンジンのラジエーター改良 | 冷却能力を向上させ、冬季における起動不良の問題を解消 |
排泥装置の装備 | 履帯に付着する泥の排除用。整備性の向上に貢献 |
フロート装着を可能に | 水上走行時の浮力向上用 |
WZA-531はWZ-531に替わって部隊配備が行われたが、運用側からはサスペンションの脆弱性、搭載能力の少なさ、履帯が容易に外れる等の問題点が指摘された。また、この時期WZ-531に54式/54-I式122mm榴弾砲を搭載した自走榴弾砲の開発が行われていたが、122mm砲の3トンの重量はWZ-531の搭載能力を超えており運用側を満足させる試験結果を出せなかった。これらの点を踏まえて、搭載能力と機動性の向上を目的としたWZA-531の足回りに大幅な改修を加えた車両の開発が行われることが決定され、この車両はWZB-531と命名された。1975年5月には最初のWZB-531が製作され、早速122mm榴弾砲を搭載して2,200kmに及ぶ走行試験が行われた。自走砲は1981年に70式122mm自走榴弾砲として制式採用され、WZB-531自体も1981年9月に「63-I式装甲輸送車」として制式化された。
WZB-531は原型に比べて、車体底板が154mm、車体長は平均225mm延長され車内容積が拡大されている。搭載量の増大に対応して、足回りの転輪は5個に増加しており、転輪の幅も原型の40mmから100mmに拡大され接地圧の拡散に務めている。1、3、5番目の転輪には油気圧式サスペンションに変更され走行時の振動が5割減少した。履帯はそれまでのダブルピン型からゴムパッドの装着が可能な型に変更。車体延長にあわせて、射撃ポートとペリスコープの増設も行われた。車体左部には射撃ポート×1、視察窓×2、車体右部には射撃ポート×1、視察窓×1、車体後部には射撃ポート×2が増設され、射撃ポートは合計6箇所になった。なお、車体後部上面のハッチは2箇所に増設されている。銃手用ハッチは厚さ8mmの防弾カバーで囲われ射撃時の安全性向上が図られている。
63式を生産しているNORINCOでは、海外市場向けにWZA-531の改良型「63式外貿(輸出)型」の開発を行うことを1981年7月に決定。この車両はYW-531Cの名称が与えられた。主な改良点は、エンジンをドイツ製BF8L413F V型8気筒空冷ディーゼルに換装、新型無線装置の搭載、射撃ポートの増設、乗降用ハッチの改良、エンジン余熱を車内に送る車内暖房装置の設置等である。YW-531Cは1981年10月に最初の試作車が完成し、1982年4月には生産と輸出が開始された。この車両の名称としては80式装甲兵員輸送車と63式外貿(輸出)型装甲兵員輸送車の2種類が確認されている。
1983年12月、63式が1984年の国慶節(建国記念日)の軍事パレードに登場することが決定された。軍事パレードでは中国の軍事技術の最新の成果を内外に見せることが求められる。これを受けて中国共産党軍事委員会装甲兵科は翌年の国慶節までにWZA-531をベースにした新型APC(WZ-531G)の開発を行うことを決定。開発作業は1984年1月に開始。開発では63-I式(WZB-531)と63式外貿型(YW-531C)の開発で得られた成果が盛り込まれ、63-I式からは12.7mm機関砲用の防弾板や増設した射撃ポートが、63式外貿型からはドイツ製エンジンや車内暖房装置が採用された。1984年8月には試作車が完成。「63-II式装甲輸送車」として制式化され国慶節の軍事パレードで一般に公開された。63-II式は部隊配備後に通信装置を新型に換装しており、この車両はWZ-531Kと命名されている。
63-II式の主な変更点は以下の通り
車内の換気向上 | 操縦手用の小型送風ファンを設置。兵員室には175Wの送風ファンを装備してガンポート射撃時の硝煙の迅速な除去をおこなう |
射撃ポートと視察窓の増設 | 射撃ポートは合計5箇所(左右各2、後部1)、視察窓は合計6箇所(左部3、右部2、後部1) |
ハッチの固定装置 | ハッチを開いた状態で固定できる装置。ハッチが振動で急に閉じる危険性を解消 |
通信用アンテナの改修 | アンテナがしなって兵員にあたる事故の防止 |
63式APCの車体は自走砲やコマンドポストなど様々な派生型に利用され、また改良型である85式装甲兵員輸送車のベースにもなっている。
63式装甲兵員輸送車 | WZ-531 | 1963年に制式化 |
63A式装甲兵員輸送車 | (WZA-531/WZ-531A) | WZ-531の改修型 |
WZ-701 | 63A式ベースの装甲指揮車(コマンドポスト) | |
WZ-721 | 63A式ベースの装甲通信車 | |
70式130mm自走ロケット砲 | WZ-303 | 63A式ベースの19連装ロケット車輌 |
YD-801 | 63A式ベースの森林消防車 | |
63-I/63B式装甲兵員輸送車 | (WZB-531/WZ-531B) | 搭載力・機動力向上型。車体を延長。転輪を5個に増加。85式装甲兵員輸送車の原型になる |
70式122mm自走榴弾砲試作型 | WZ-302 | 63B式ベースの自走砲。後期試作車からは63-I式APCベースに変更 |
70式122mm自走榴弾砲 | WZ-302 | 63-I式APCをベースにした自走榴弾砲 |
80式/63式外貿(輸出)型装甲兵員輸送車 | YW-531C | 63式の海外市場向け近代化型。独製エンジン、新型ギアボックス搭載。射撃ポート増設等を行う |
WZ-701A | 80式ベースの装甲指揮車(コマンドポスト) | |
WZ-750 | 80式ベースの装甲救急車 | |
YW-304 | 80式ベースの82mm自走迫撃砲 | |
YW-381 | 80式ベースの120mm自走迫撃砲 | |
63-II式装甲兵員輸送車 | WZ-531G | 1984年に登場した改良型。WZA-531をベースにYW-531CやWZB-531で施された改良点を付加した車両 |
63-II式装甲兵員輸送車 | WZ-531K | WZ-531Gの無線機を新型に換装した型 |
85式装甲兵員輸送車 | YW-531H | 63式系列の拡大改良型。 |
66式水陸両用装甲兵員輸送車 | WZ-511 | フロートを装備した海軍陸戦隊仕様の水陸両用型 |
【参考資料】
戦車名鑑-現用編-(後藤仁、伊吹竜太郎、真出好一/株式会社コーエー)
坦克装甲車両 2006年6月号「鉄甲戦神在怒吼(上)」(坦克装甲車両雑誌社)
坦克装甲車両 2006年10月号「我国第一代履帯式装甲輸送車(上)-国産63式履帯式装甲輸送車」(坦克装甲車両雑誌社)
坦克装甲車両 2006年11月号「我国第一代履帯式装甲輸送車(下)-幾款63式改進型履帯式装甲輸送車」(坦克装甲車両雑誌社)
Chinese Defence Today
戦車研究室
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