▼車体前方のボウ・フラップを展開中の05式
▼HJ-73D対戦車ミサイルを発射した瞬間の05式
▼2009年の建国60周年軍事パレードに参加した05式
▼水上航行中の05式。操縦手用ハッチには密閉式カバーが内蔵されており、水上航行の際には競り上がって操縦手の視野を確保する構造になっている事が見て取れる。
■性能緒元
重量 | |
全長 | |
全幅 | |
全高 | |
エンジン | ターボチャージド水冷ディーゼル 陸上591馬力/水上1577馬力 |
最高速度 | |
浮航速度 | 20~30km/h |
航続距離 | |
武装 | 30mm機関砲2A72×1 |
7.62mm機関砲×1 | |
HJ-73対戦車ミサイル発射機×2 | |
4連装発煙弾発射機×2 | |
装甲 | アルミ合金製(車体)/均質圧延鋼板(砲塔)+セラミック付加装甲 |
乗員 | 3+歩兵9名[10] |
05式水陸両用歩兵戦闘車(ZBD-05。当初はZBD-2000の名称が伝えられた。)は、中国が新規に開発した水陸両用歩兵戦闘車である。開発は湖南江麓機械集団によって行われた[1]。設計主任は陸鵬飛技師[2]。
海軍陸戦隊と陸軍両用機械化部隊(中国語では陸軍両棲機械化部隊)戦部隊への配備が進んでいる。
【開発経緯】
中国海軍陸戦隊では、77式水陸両用装甲兵員輸送車(WZ-511)、63式装甲兵員輸送車、86式歩兵戦闘車(WZ-501/BMP-1)を兵員輸送車輌として使用していた。しかし、後者の2つはもともと陸上部隊向けの装甲戦闘車両であり、渡河用に浮航能力は備えていたが、海上からの着上陸作戦に使用するには不十分な物であった。ソ連のBTR-50をベースに開発された77式水陸両用APCはそれなりの航行性を備えていたが、その最高速度は12km/hであり、こちらも上陸まである程度の時間を必要とした。装甲も薄い事から、防衛側からの反撃を受けた際には大きな損害が出るのは免れないと見られていた。
1995年に中国海軍陸戦隊では、63式装甲兵員輸送車、86式歩兵戦闘車の洋上航行性を改善した改良型を開発する事で当座の対策とすることを決定した[1]。これによって開発されたのが66式水陸両用装甲兵員輸送車(WZ-511)と86B式歩兵戦闘車(ZBD-86B)である。しかし、改造後の水上航行速度は11.2km/h(66式)/12.8km/h(86B式)と、77式水陸両用装甲兵員輸送車の12km/hとほぼ変わらない程度でしかなかった[3]。
これらの車輌を代替する次世代水陸両用装甲車の研究開発が開始されたのは2000年のことであった[2]。開発のためのスタディを経て、2003年12月には軍事工業関連各部門に対して正式に開発着手することが通知された[2]。この通知では、次世代水陸両用歩兵戦闘車は、主に陸軍両用機械化歩兵部隊と海軍陸戦隊に配備され、島嶼部への進行や揚陸作戦の段階において揚陸作戦を遂行するための装備となることが明言された[2]。
当初から、共通シャーシを基に各種派生型を開発するとファミリー化が追及され、歩兵戦闘車、火力支援型、コマンドポスト、装甲回収車など一連の派生型が開発されることになった。これにより、水陸両用部隊の各種装甲戦闘車輌全体が性能の揃った次世代水陸両用装甲車シリーズで更新され、部隊の運用や整備面などで多くの利点が発生する措置であった。
海軍陸戦隊向けの次世代水陸両用装甲車ファミリーは、着上陸までの時間を短縮するために既存の車輌よりも水上航行速度を画期的に速める事が求められた[2]。また、防衛側からの攻撃に対して反撃を行う事が可能な一定の火力を有する事も必要とされた。05式水陸両用歩兵戦闘車の開発では、上記の問題を解決する事が重要な命題となった[2]。
しかし、研究チームの試算では、水陸両用装甲車の水上航行速度を倍にするにはエンジン出力を8倍にする必要があり、通常の方法では実現は困難であるとの結論に至った[2]。この問題を解決するためには、これまでの水陸両用装甲車とは異なるアプローチが必要とされたのである。
その開発に大きな影響を与えたとされるのが、アメリカが開発中だった次世代水陸両用強襲戦闘車EFV(Expeditionary Fighting Vehicle:遠征戦闘車。後に開発中止)であった。アメリカでは将来の揚陸作戦において、揚陸艦艇は防衛側に直接探知され難い水平線外の沖合に停泊させたままで、水上速力と航続距離を飛躍的に向上させた新型揚陸兵器によって海兵隊を一気に海岸まで揚陸させるという構想を立案した[2]。その構想を実現させるために開発された装備の1つがEFV遠征戦闘車である。EFVは、17名の武装兵を搭乗させ、少なくとも25海里(46km)の海上発進地点から25ノットの速度で海岸まで進出、防衛側の抵抗を排除してそのまま内陸部にまで侵攻する能力を有している[4]。25ノットという速力は、従来の水陸両用戦闘車両では不可能な速度であり、それを実現するには画期的な技術革新が求められた。EFVでは、強力な推進力と車体の造波抵抗を大幅に低減させるという2つのアプローチを採用している。水上航行時には、履帯を油気圧サスペンションを車体底まで引き上げて車体側面のシャイン・フラップで側面を覆い、車体の前部に設置されたボウ・フラップ、車体後部に設置されたトランサム・フラップを展開して水上航行時の造波抵抗を軽減させて滑走航行を可能とした上で、搭載された2700馬力の高出力を有するディーゼルエンジンによりウォータージェット推進装置を駆動させる事で得られる強力な推進力によってこの問題に対処した[4]。
開発陣がEFVから具体的にどのような影響を受けたかは不明であるが、高出力エンジンと滑走航行による造波抵抗の低減という2つのアプローチは次世代水陸両用装甲車開発に取り入れられることになり、設計案が纏められることになった[2]。初期の設計案では、水上での高速航行に必要とされる大出力を確保するために、戦車用エンジンと歩兵戦闘車用エンジンの2つのエンジンを搭載して、陸上では歩兵戦闘車用エンジンのみで走行し、水上航行と着上陸段階では2つのエンジンを作動して必要とされる出力を確保することが検討された[2]。ただし、この方法は動力系統が複雑化するデメリットがあり、最終的には戦車用エンジンの改良型1基の搭載に落ち着いた[2]。
05式水陸両用歩兵戦闘車は、04式歩兵戦闘車(ZBD-97/ZBD-04/WZ-502)のシャーシをベースにして開発が行われている[5]。当初は、97式と同じく均質圧延鋼板装甲を使用することになっていたが、洋上航行に必要な浮力を確保するため車体が大型化した事で圧延鋼板装甲では重量が重くなって浮力の確保が難しくなってしまう事態に直面した[2]。この問題に対処するため、開発陣は装甲板をアルミ合金装甲に変更する決定を行った[2]。アルミ合金は鋼に比べて密度が低く、強度は1/3程度なので、同質量の構造において構造材が厚く体積が大きくなる。構造材が厚いということは、その構造の剛性を高く出来ることであり、軽量の装甲車両でも、剛性の高い構造が作れることを意味しており、非常に大きなメリットとなっている[6]。ただし、開発陣では溶接鋼板の経験は豊富であったが、アルミ合金装甲については十分な経験を有していなかった[2]。そのため、アルミ合金装甲の溶接方法の確立、車体強度の確保、対腐食性の問題など、様々な課題を一つ一つ解決していかなければならなかった[2]。
短い開発期間と高い要求性能は、開発陣にとって大きな圧力となったが、製造された試製車輌は、水上航行テストにおいて要求性能を上回る速度を達成することに成功した。しかし、試製車輌のテストでは転覆事故が発生していた[2]。水上航行テストの最中、操縦手ハッチを開閉した状態で航行を行っていた際に波浪に会って水が車内に侵入、車体のバランスが崩れて数十秒後に傾斜転覆してしまった。幸い、操縦手は転覆前に脱出に成功し、命を失うことは無かった[2]。事故を受けて、設計陣では対応策を検討。操縦手用ハッチからの水の侵入を防ぎつつ、操縦手の司会を確保するという課題に対して、窓付きの密閉式カバーを操縦手ハッチに組み込むという解決策が採用された[2]。密閉式カバーは通常の状態では砲塔旋回の邪魔にならないように車内に引き込まれているが、水上航行の際には密閉式カバーが迫り上がって操縦手の視野を確保するようになっている。なお、密閉式カバーは通常のハッチと同じように開閉が可能であり、操縦手の出入りに支障は無いとされる。
次世代水陸両用装甲車ファミリーの開発は2005年には完了し、それぞれ「05式水陸両用歩兵戦闘車(中国語では05式両棲歩兵戦車)」、「05式水陸両用火力支援車(05式両棲突撃車)」、「05式水陸両用装甲指揮車(05式両棲指揮車)」などの制式名称が付与され、海軍陸戦隊と陸軍水陸両用機械化部隊への配備が開始された[2]。
【性能】
05式水陸両用歩兵戦闘車は、車体前方右に機関室を配置、左側に操縦席と搭乗歩兵1名用座席、その直後に2名用砲塔を搭載し、車体後部は搭乗歩兵用の兵員室としている。
基本的な配置は設計の手本となった04式歩兵戦闘車(ZBD-97/ZBD-04/WZ-502)とそれほど変わらないが、必要とされる浮力が多いため車体サイズは04式よりもかなり大型化している。05式水陸両用歩兵戦闘車は水上航行時の車体の重量バランスに配慮する必要性が04式歩兵戦闘車よりも高く、車体前方の浮力を高める必要から車体先端部が大きく前に突き出した独特の形状を採用している。砲塔が車体中央部よりも後ろに搭載されているのも重量バランスへの配慮である。05式は、車長、砲手、操縦手の3名の乗員のほかに、9名の歩兵を搭乗させる[1][7]。車体後部の両脇には大形のウォータージェット推進装置が設置されており、搭乗歩兵はその上に置かれた座席に着座する形になる。水密性の問題からか、97/04式歩兵戦闘車では設置されていた車体側/後面のガンポートは廃止されているが、兵員室上部に備えられた二基のハッチを開放して小銃等の射撃を実施することは出来る。車体後部中央には右開き式ハッチ1基が設置されており、搭乗歩兵の乗降に使用される。
05式の車体の前後にはEEVに範を取ったと思われる大形のボウ・フラップとトランサム・フラップが設けられており、水上航行時には両フラップを展開して車体後面にある2基のウォータージェットにより航行を行う。しかし、05式の造波抵抗軽減策はEFVほど徹底しておらず、履帯収納機構や車体側面を覆うシャイン・フラップは採用されていない[5]。もとより09式はEFVの3分の2程度の車体容積で[5](注:それでも浮力を得るため車体はかなり大形化しており、全長、全幅、全高の何れも99式戦車(98G式戦車/WZ-123B/ZTZ-99)より大きい。)、エンジン出力もEFVの三分の二程度の出力のため、最高速力はEFVの25ノット(46.3km/h)には及ばない10~16ノット(20~30km/h)に留まっている[1]。
これは開発における技術的な難易度や費用対効果を考えた上で、EFV程の性能は要求しないとした措置と思われる。なお、ボウ・フラップは、未使用時には車体前面に空間を開けて設置するようになっており、増加装甲として車体前面の防御力を向上させる効果が見込まれている[2]。
05式のエンジンは、 99式戦車(98G式戦車/WZ-123B/ZTZ-99)の150HBターボチャージド液冷ディーゼル(1,500hp)をベースとしたものが搭載されている[2][8]。このエンジンは陸上走行時に最高591馬力、水上航行時には最高1577馬力を発揮するように設定されている[1]。05式の動力部には、陸上走行時に使用する水冷式ラジエーターと、海水を利用したラジエーターの二系統が用意されており、水上航行時には開口部からの進水を防ぐため車体上面のラジエーター部を閉鎖して海水冷却式の冷却系統に切り替えるという仕組みを採用している。これは範となったEFVにも採用されたシステムである[5]。トランスミッションはCH400液体式自動変速機が採用されており、陸上走行も水上航行もパワーステアリング式のハンドルにより操縦を行う[1]。
水上航行には浮力の確保が不可欠であり、05式には様々な工夫が施されている。大型の車体は垂直面で形成されており、車内容積を最大化するようになっている。さらにボウ・フラップの裏側、転輪、車体底部など車輌各部には発泡プラスチック素材が塗布されており、少しでも浮力を増やすようになっている[2]。これらの工夫により、05式は既存の水陸両用装甲車輌よりもはるかに大きな浮力を確保することに成功した。浮力の確保は、水上での安定性を改善するだけでなく、喫水線を高くすること水線下に位置する車体面積を減らして、造波抵抗を減少させる効果が存在する[2]。
05式は、車体中央部に30mm機関砲を装備した二人用砲塔を搭載している。これと同じ形状の砲塔は09式装輪歩兵戦闘車「雪豹」(ZBL-09)にも使用されている。砲塔はアルミ合金製の車体とは異なり均質圧延鋼装甲製で、砲塔周囲にはセラミック付加装甲が装着されている。砲塔正面は距離100mから発射された12.7mm徹甲焼夷弾に抗堪する[9]。砲塔右部には車長席が、左部には砲手席が用意されている。車長用ペリスコープには夜間暗視装置が内蔵されている。砲手用ペリスコープには、暗視装置に加えて光学/レーザー測遠装置が組み込まれており、搭載された簡易式射撃統制装置を利用することで命中精度の高い射撃が実現できる[7]。その主武装は2種併用給弾型の30mm機関砲で、同軸で7.62mm機関銃が装備されている。30mm徹甲弾を発射した場合の砲口初速は1000m/秒、発射速度は毎分300発。砲手は単射、3~5発連射、5~7発連射を選択できる。地上目標に対する最大有効射程は4,000m、空中目標に対する最大有効射程は2,500mである[10]。この30mm機関砲はロシアのBMP-3歩兵戦闘車に採用されている30mm機関砲2A72を元にして開発された物で、新型空挺戦闘車(WZ-506/ZLC-2000)、86式歩兵戦闘車(WZ-501/BMP-1)や90式/92式装輪装甲車(WZ-551/WZ-551A)の改良型などでも採用されている。05式水陸両用歩兵戦闘車や09式装輪歩兵戦闘車の30mm機関砲は銃身を支える枠が付いているが、これは射撃時の銃身の動揺を抑えて命中精度を向上させるための装置と推測されている[5]。
砲塔の両側面にはHJ-73対戦車ミサイル搭載用のランチャーが各1基ずつ用意されている。HJ-73対戦車ミサイルはソ連の9M14Mマリュートカ(NATOコード:AT-3 サガー/Sagger)のコピーであるが、05式水陸両用歩兵戦闘車に搭載されているのはその発展型で、誘導方式が手動式指令照準線式から半自動指令照準線式に変更されている。HJ-73の販売を担当している中国北方工業公司(NORINCO)の発表したスペックによると最大射程3,000m、命中率90%を達成しているとのこと。NORINCOでは、最新のHJ-73はタンデム式HEAT弾頭を装着しているので、ERA(Explosive Reactive Armor:爆発反応装甲)をつけた800mm厚の装甲を撃ち抜く事が出来ると主張している[10]。
砲塔上面には衛星通信用のアンテナが搭載されており、「北斗衛星位置測定システム」を利用して車両の現在位置を確認する事が可能。05式は、近年の流行であるネットワーク化を重視した設計が施されているのも特徴であり、部隊間で情報を共有するデータリンクシステムを標準装備している[11]。
【派生型】
前述の通り、05式の開発に際してはファミリー化が前提にされており、05式水陸両用戦車(05式両棲突撃車/ZTD-05)や水陸両用装甲回収車、水陸両用装甲指揮車、水陸両用装甲救急車型[12]といった派生型の存在が確認されている。
05式水陸両用歩兵戦闘車(ZBD-05)には「VN-18」、05式水陸両用戦車(ZTD-05)には「VN-16」の輸出用名称が付与されており、2014年にはベネズエラ海兵隊がVN-16/18を採用する事が報じられた[14]。
【参考資料】
[1]MDC軍武狂人夢「05式両棲装甲車」
[2]袁風「為了最先進的渡海攻堅戦車-05式両棲装甲車族総設計師陸鵬飛采訪記」(『兵器』総156期・2012.5/《兵器》雑誌社)10-14頁
[3]孔凡清・将言「我軍登陸作戦的"主力軍"」『坦克装甲車両』2008年12月号(《坦克装甲車両》雑誌社)5-10頁
[4]軍事情報研究会「連載:米海軍・海兵隊の改革『シー・パワー21』(10)水平線超え上陸!海兵隊EFV遠征戦闘車 LVTからEFVへの進化/水上を25ノットで走る35トンの次世代水陸両用強襲車」『軍事研究』2006年8月号(ジャパン・ミリタリー・レビュー)
[5]bigblue「蹈海軽騎 踏浪而行-漫話"国産AAAV"與高速両棲戦車技術的発展」『現代兵器』2008年12月号/総第360期(中国兵器工業集団公司)10-19頁
[6]大砲と装甲の研究「アルミニウム合金装甲」
[7]Chinese Defence Today「ZBD2000 Amphibious Fighting Vehicle」
[8]新浪網「両棲突撃方隊出発準備接授受閲」(2009年10月01日)
[9]「鉄甲飛騎踏燕来--我国新型8×8輪式歩兵戦車発展全記録」
[10]軍事研究2008年11月号別冊-新兵器最前線シリーズ7 陸戦の新主役 ハイパー装輪装甲車「各国陸軍現用の最新タイプ装輪装甲車-中国の大形8輪装甲車VN-1」(古是三春/ジャパン・ミリタリー・レビュー/2008年11月1日発行)
[11]中華網「海軍副司令員:05式両棲歩戦車将首次亮相」(2009年10月1日)
[12]中華網「05式两栖装甲救护车生产车间曝光」(2013年10月18日)
[13]FAV-Club「EXCLUSIVA: El nuevo vehículo anfibio VN-18 para la Infantería de Marina venezolana」(2014年7月18日)
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