■性能緒元
重量 | 約20t |
全長 | 約7.2m |
全幅 | 約3.2m |
全高 | 約2.5m |
エンジン | 150型6気筒水冷式ターボチャージド・ディーゼル・エンジン(陸上550hp/水上600hp) |
最高速度 | 70km/h |
浮航速度 | 20km/h以上 |
航続距離 | 600km |
武装 | 100mm低初速砲×1(30発) |
30mm機関砲×1(500発) | |
7.62mm機関砲×1(2,000発以上) | |
砲発射式対戦車ミサイル(8発) | |
装甲 | 均質圧延鋼板(車体)/アルミニウム合金+付加装甲(砲塔) |
乗員 | 3名(車長、砲手、操縦手)+7名 |
04式歩兵戦闘車(ZBD-04。生産ナンバーはWZ-502)は、99式戦車や96式戦車のような新世代の主力戦車と共に運用する事を目的に開発された装軌式歩兵戦闘車[1]。
同車の制式名称については、ZBD-97として制式化され、その改良型としてZBD-04が開発されたとする説と、最初からZBD-04が制式名であったという2つの説がある。この件について、ZBD-04の設計主任であった王志民技師はインタビュー記事において、1997年に全規模開発に着手して2003年12月に総装備部による国家承認を経て「ZBD-04式履帯式歩兵戦車(歩兵戦車は歩兵戦闘車の中国語表現)」として制式化されたと述べており、ZBD-97については全く触れていない[3]。開発着手時に既に制式名称が付与されているというのは考えられないため、WZ-502の制式名称としてはZBD-04が正解であり、初期に伝えられたZBD-97は開発開始年次の情報を基にした外部からの仮称という可能性が高いと考えられる。
【開発経緯】
1960年代、ソ連が開発したBMP-1は、従来の装甲兵員輸送車よりも大幅に火力が強化され、歩兵による乗車戦闘が可能になり、歩兵戦闘車という新しいジャンルの装甲戦闘車両の先駆けとなった。BMP-1に影響された西側諸国でも1970年代末から80年代にかけて歩兵戦闘車の開発・配備が進む事になり、M2ブラッドレー(米)やマルダー(西独)といった車輌が開発された。
中国軍では、1979年の中越紛争において歩兵を戦車に跨乗させるタンクデサントを多用したが、なんら防御手段の無い歩兵はヴェトナム軍の砲火により大きな犠牲を出していた[4]。中越紛争の戦訓や、各国での歩兵戦闘車開発の動きを受けて、中国軍でも歩兵に火力支援を与え、戦車と共に行動可能な機動力を有する歩兵戦闘車の必要性を認識する事となった。1980年代以降、既存の装甲兵員輸送車の武装を強化して歩兵戦闘車化した車輌を何種類か開発したが、これらの車輌は中国軍の要求を満たせず限定生産・輸出向け装備に留まった[4]。特に問題になったのが、中国軍が重視する水上浮航性能が十分ではなかったという点であった[4]。
最終的に採用されたのは、ソ連のBMP-1歩兵戦闘車をコピーした86式歩兵戦闘車で1992年から部隊配備が開始された[1]。ただし、ベースとなったBMP-1は1960年代末に実用化された第一世代の歩兵戦闘車であり、BMP-1が投入された第四次中東戦争やソ連のアフガニスタン介入において、火力や装甲が十分では無い事や車内空間の狭さによる居住性の悪さなどが指摘されていた[4][5]。これを受けて、ソ連では改良型のBMP-2を実用化し、さらに新型のBMP-3の開発に着手していた。中国軍ではBMP-1の旧式化については認識していたが、曲がりなりにも歩兵戦闘車であり既存の中国製装甲兵員輸送車よりは高性能で、国産の新型歩兵戦闘車の実用化には一定の時間を要するのは明らかだったため、それまでの繋ぎとして86式の配備が進められ、中国軍が歩兵戦闘車の運用経験を積む上で一定の役割を果たす事になった[6]。
中国の新型歩兵戦闘車開発にとって大きな契機となったのが、1989年以降関係を改善したロシアからの技術導入であった。ソ連崩壊後、中国は多数のソ連/ロシア製兵器を輸入するが、特に着目した兵器の1つがロシアの新型歩兵戦闘車BMP-3で、その性能は中国技術者の間で高く評価されていた[4]。ただし、BMP-3は歩兵戦闘車としては珍しく車体後部にエンジンを配置しており、中国側ではこれが歩兵の迅速な乗降に不利に働く事を懸念する向きもあった。
最終的に決定されたのは、BMP-3の砲塔システムをロシアから購入、中国側で開発したシャーシと組み合わせた新型歩兵戦闘車を実用化するという方針であった。1997年、中国はロシアとの間で軍事技術協力に関する協定に署名し、BMP-3の射撃管制システムと9M117「バスチオン」レーザー誘導対戦車ミサイル(AT-12)の技術供与を受けた[6]。中国はロシアからの技術導入により、この分野における世界との技術格差を大きく縮める事が可能となった。この情報と中国の新型歩兵戦闘車に関する情報を最初に伝えたのは、1999年11月10日に出版された英JDW誌であった。
新型歩兵戦闘車に関する要素研究は1990年代に着手されていたが、全規模開発が命じられたのはロシアからの技術導入決定と同じ年である1997年[3]。1998年には、開発案が国家承認を受け正式なプロジェクトとして認定された[6]。1999年には試作車両の製造に着手、2001年12月から性能試験を開始した。2003年には、路上テスト中の姿がインターネットに流された事により新型歩兵戦闘車の姿が初めて公になった。写真の車輌はBMP-3の砲塔を搭載しているが、シャーシは全く異なるものを使用しており、中国の新型歩兵戦闘車が単なるBMP-3のコピーでは無い事が外部にも知られるきっかけとなった。
ZBD-04の設計主任である王天民技師によると、ZBD-04の開発では以下の4点が重視されたとしている[3]。
良好な水上航行性能の付与 | 台湾海峡の緊張などを受けて、揚陸作戦への投入を前提として洋上での良好な水上航行性能が求められた |
ファミリー化を前提とした設計 | 最初から各種派生型を開発する事を想定して、それに見合った設計を施す |
攻撃能力の向上 | 揚陸作戦において、単独でも戦車、AFV、陣地などの打撃を可能とする高い火力を実現 |
高機動性 | 陸上と水上での高い機動性の実現 |
中国各地での性能試験を経て、2003年12月には中国軍の装備調達関係を司る総装備部の承認を受けて前述の通り「ZBD-04式履帯式歩兵戦車」として制式化[3]。2006年に広州軍区で行われた演習の報道で、ZBD-04が部隊運用されている事が明らかになった[7]。
【性能】
ZBD-04はBMP-3が車体後部に動力系統を配置しているのに対して、車体後部に昇降用ハッチを置くためにパワーパックの位置を車体前右部にした新設計のシャーシを採用している。中国は、BMP-3は車体後部にエンジンを搭載しているため搭乗歩兵の迅速な下車には問題があると見なしており、これがシャーシの独自開発へとつながった[4]。BMP-3ではシャーシはアルミニウム合金製であるが、ZBD-04では均質圧延鋼板装甲を溶接して製造されているのも相違点[1]。
車内配置は、車体前部右側がパワーパック。車体前部左側は操縦手席と歩兵一名の座席がタンデムに配置されている。車体中央部は車長と砲手が搭乗する2名用砲塔を搭載。その後方が兵員室で対面式に6名の歩兵が搭乗する。後部兵員室の上部には2枚のハッチがあり、車体後部には乗降用の大きな横開き式ハッチ1基が備えられている。車体側面には外部視認用窓が右側1箇所、左側2箇所設置されている(左側に3箇所配置されたタイプも確認されている)[1]。搭乗歩兵による乗車戦闘を行うため、ガンポートが後部ハッチと車体両側面に1箇所ずつ設けられており、ここから小銃や軽機関銃による射撃が可能[1]。車内にはNBC防護システムと自動消化装置が備えられている[1]。
ZBD-04では(特に洋上での)水上航行性能を重視したのが設計上の特徴であるが、これを実現するため車体後部には水上浮航用のウォータージェットを2基配置し、車体前部には折りたたみ式の大型トリムベーンを装着して、水上航行時に展開する様になっている[4]。ZBD-04はシーステート2~3の状況でも洋上航行が可能であり20km/h以上の最高速度を発揮するが、これは以前の86式歩兵戦闘車では不可能な能力であった[4](そのような性能要求をされていないので仕方ないのだが)。
ZBD-04の主機は150型6気筒水冷式ディーゼル・エンジンを搭載している[1]。150型はドイツのMTU社製MB-871 Ka501の中国生産型を元にしているが、水上航行を前提として可変出力システムが採用されている[1][3]。陸上走行時の最高出力は550hpであるが、水上航行時には最高出力が600hpとなる[3]。変速機は中国製CH400油圧機械式トランスミッションを採用しており[1]、エンジンと一体化したパワーパックとしている。
ZBD-04の装甲は全周からの12.7mm重機関銃、前面からの20mm機関砲弾の命中に抗堪する能力を有しているが、これは近年の歩兵戦闘車としては比較的軽い部類に属する[1]。車体重量との兼ね合いのためか、最近の中国AFVでは良く見られる付加装甲の装着も行われていない。これは設計時に水上航行性能をまず優先して、防御力に対して高い要求が行われなかった事によるもの。なお、主任設計士の王天民技師は、必要があればスラットアーマーや爆発反応装甲による防御力強化が可能であり、将来的にはアクティブ防御システムの搭載も視野に入れていると述べている[3]。防御面の問題としては、車体中央部の砲塔ターレット基部に100mm砲弾を多数搭載しているため被弾時の二次爆発についても懸念されている[8]。
【武装】
97/04式の武装は非常に強力で、BMP-3の砲塔(正確には改良型のBMP-3Mに搭載されたモジュール砲塔「БАХЧА(ローマ字表記だとBakhcha)」[5][9])に100mm低圧砲と30mm機関砲と7.62mm機関銃を同軸で装備している。
バフーチャ砲塔システムは、同軸装備された100mm低初速砲、30mm機関砲、7.62mm機関銃と射撃統制システム、砲安定装置、自動装填装置を含む給弾機構等を搭載した砲塔で構成される[5]。システムの総重量は3.6~3.98トンで、AFV(13トン以上の重量が必要)、水上艦艇、固定式陣地など多用なプラットフォームへの搭載を想定している[9]。砲塔の基本構造はアルミニウム合金製だが、前面部には防弾鋼板がスペースド・アーマー式に装着する[5]。砲塔正面のRHA換算装甲厚は26mm程度とされる[5]。付加装甲の上部には発煙弾発射装置が合計6基装着されており、砲塔上面のレーザー波照射警告装置などの情報を基にして煙幕弾を発射する。
中国では、バフーチャの採用に当たって、砲塔の材質や形状の変更、自動装填装置の砲弾配置の変更、30mm機関砲弾の給弾系統の設計変更など、元の設計にかなり手を加えている。これらの改良を加えられたバフーチャ砲塔は中国でライセンス生産が行われており[2]、ZBD-04だけでなく、さらなる改良を加えた上で08式歩兵戦闘車の砲塔としても使用されている[1][10]。
100mm低初速砲2A70はライフルリングを腔内に切った火砲であるが、発射装薬の少ない小型カードリッジを持つ低初速砲弾、もしくは一体型の砲発射式誘導ミサイルを発射する[5]。砲弾搭載数は100mm砲弾30発と対戦車ミサイル8発[2]。自動装填装置により毎分10発の発射速度を維持する[2]。
2A70の破片効果榴弾(HE-FRAG)は有効射程7,000mで、直接/間接照準射撃により兵員、各種機材、陣地などの攻撃に使用する[3][4]。砲発射式対戦車ミサイルはロシアから技術導入した9K116バスチオン対戦車ミサイル・システムをベースに開発された。RHA値で660mmの装甲貫通力を有しており、最小射程は100m、最大射程は4,000~5,000m[1][3]。戦車や装甲車両だけでなく、トーチカなどの防御拠点や低空飛行を行うヘリコプターへの攻撃が可能[1]。誘導方式はレーザー・セミアクティブ誘導で、砲塔上の照準器から発せられるレーザービームに誘導されて目標に向かって飛行する。ミサイルの命中精度は80%以上[2]。
100mm砲の右側に同軸装備されている30mm機関砲2A72は徹甲弾(AP)と破片効果榴弾(HE-FRAG)を毎分300発の速度で射撃可能[2]。機関砲の有効射程は15,00~2,000m[2]。徹甲弾については中国で開発が行われたものが搭載されているとの事[3]。7.62mm機関銃は100mm砲の左側に同軸装備されており、搭載段数は2,000発[2]。
上記の三種類の火砲は-5~+60度の俯仰角度で指向させることが出来、30mm機関砲での対空射撃に十分対応できるものとなっている[3]。各種火砲の能力を万全に発揮するために、主力戦車なみの高度な射撃統制システムを搭載しているのもバフーチャの特徴。弾道計算コンピュータ、電子制御式スタビライザー、レーザーレンジファインダー、ミサイル誘導装置等から構成され高度に自動化されている[1][2][5]。射程1,000mの目標に対して3秒以内に90%以上の命中精度をもって火器を発射、射程2,000mの目標に対しても14秒以内に火器発射が可能[3]。ZBD-04の開発では、射撃統制システムについて原型であるBMP-3よりも高度なシステムとする事が求められ、水上航行時の射撃命中精度の向上、暗視装置の能力向上による夜間戦闘能力の改善、対空射撃能力の向上などの設計変更が盛り込まれた[3]。
【情報化への対応】
ZBD-04は、近年各国で重視される様になった戦闘における情報化への対応も重視されており、C4I機器端末の搭載が行われ、戦場情報の取得、情報の共有により、その戦闘能力をさらに有効に発揮する事が可能となっている[3]。
【配備状況】
ZND-04は制式化以降、2009年9月まで合計310輌が生産され、以下の部隊に配備された[1][11]。
軍区 | 所属部隊 | 保有台数 |
南京軍区 | 第31集団軍 第86摩托化歩兵師 装甲団 装甲歩兵営 | 31輌 |
広州軍区 | 第41集団軍 第121摩托化歩兵師 装甲団 装甲歩兵営 | 31輌 |
第41集団軍 第123摩托化歩兵師 装甲団 装甲歩兵営 | 31輌 | |
第41集団軍 第××摩托化歩兵師 2個装甲歩兵団 | 186輌 | |
第42集団軍 第163摩托化歩兵師 装甲団 装甲歩兵営 | 31輌 |
配備された地域を見ると、どの部隊も中国南部に駐屯しており、この事はZBD-04が台湾有事の際の着上陸作戦を念頭において開発された車両であることを伺わせるものであるといえる。
2009年以降、南部での配備が一段落したのちには、北京軍区の第38集団軍所属の第112重機械化歩兵師や瀋陽軍区の第39集団軍所属の第3装甲師、内陸の蘭州軍区でもZBD-04の配備が開始されたことが伝えられている[12][13][14]。
【派生型】
ZBD-04の派生型としては、装甲回収車型の存在が確認されており、07式122mm自走榴弾砲(PLZ-07)もZBD-04の足回りを流用してシャーシを再設計した車体を採用している。ZBD-04と同時期に研究に着手され、2011年に配備が開始された08式歩兵戦闘車もZBD-04のコンポーネントを多用している事から、ZBD-04の発展型と位置づけることが出来る。
この他、海軍陸戦隊向けの05式水陸両用歩兵戦闘車(ZBD-05/ZBD-2000)の開発においてもZBD-04の設計が参照されたとされる[15]。
中国北方工業公司(NORINCO)ではZBD-04の輸出を目指しており[16]、「VN-11」の輸出用名称を付与して兵器見本市で宣伝を行っているが、2013年10月段階では輸出成功の報は得られていない。
▼2007年に開催された中国人民解放軍建軍80周年記念展示会で、北京の中国人民革命軍事博物館に展示されたZBD-04
▼トリムベーンを展開し渡河するZBD-04
▼ZBD-04の砲塔製造工程。
【参考資料】
[1]軍武狂人夢「04式/WZ-502改裝甲步兵戰鬥車」
[2]Militart-Today「Type 97 Infantry fighting vehicle」
[3]「精忠報国逢其時、訪ZBD-4式歩兵戦車総設計師」(『坦克装甲車輌』2010年3月号/《坦克装甲車輌》雑誌社)
[4]网易新闻中心「战场生存力不足—中国陆军ZBD97式履带步兵战车」
[5]古是三春「ソ連が生んだニューカテゴリーAFV 歩兵戦闘車BMP(2)」(『月刊グランドパワー』2006年11月号/No.150/ガリレオ出版)42~97ページ
[6]「解放军坦克最新“伴侣”:ZBD04式履带式步兵战车」(『坦克装甲車輌』2010年3月号/《坦克装甲車輌》雑誌社)
[7]新浪網「揭秘解放军新型97式战车 首先装备南京广州战区」(2007年11月23日)
[8]Global Security「Type 04 Tracked Amphibious Infantry Fighting Vehicle Type ZBD 04 Light Amphibious Tank」
[9]KPB精密機械工業設計局公式サイト「"BAKHCHA" FIGHTING COMPARTMENT」
[10]Military-Today.com「ZBD-08 Infantry Fighting Vehicle」
[11]China Defense Blog「Number of ZBD-97 IFV In PLA Service As Estimated」(2009年9月28日/Andrew KC.)
[12]大旗網「迟到的爱——“万岁军”终于换装ZBD-04步战!」(2010年04月11日)
[13]CTN軍事「沈阳军区39集团军换装04式新型步战车」(2010年7月29日)
[14]新浪網「兰州军区配新武器」
[15]bigblue「蹈海軽騎 踏浪而行-漫話"国産AAAV"與高速両棲戦車技術的発展」『現代兵器』2008年12月号/総第360期(中国兵器工業集団公司)10-19頁。
[16]『漢和防務評論』2012年5月号 16ページ
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