2014年11月3日月曜日

99式戦車(98G式戦車/WZ-123B/ZTZ-99)

▼部隊で運用される99式戦車。後の99G式とは異なり車体や砲塔部への増加装甲は未装着。


▼99G式の試作車の1つ。砲塔前面の増加装甲が一体式になっているのが量産型と異なる。


▼99G式戦車(最初に確認されたタイプ)



▼99G式のバリエーションの1つ。砲塔の増加装甲は下のタイプと類似、車体前面の増加装甲は上のタイプに類似している


▼最近確認された、増加装甲の形状が異なるタイプ


▼砲塔前面の複合装甲ブロック(左:初期タイプ/右:最近確認されたタイプ)。装着された増加装甲の形状の変化が見て取れる。


▼複合装甲ブロックを取り外した状態の砲塔


性能緒元(99G式)
重量54トン
全長11m
車体長7.3m
全幅3.372m
全高2.4m
エンジン150HBターボチャージド液冷ディーゼル 1,500hp
最高速度80km/h(路上)、60km/h(不整地)
航続距離600km(予備燃料タンク使用時)
渡渉深度5m(シュノーケル使用時)
武装ZPT-98式 50口径125mm滑腔砲×1(41発)
 砲発射式対戦車ミサイルシステム
 85式12.7mm(W-85)重機関銃×1(300発)
 86式7.62mm機関銃×1(2,000発)
 84式76mm発煙弾発射機×10
装甲溶接鋼板+複合装甲+爆発反応装甲
乗員3名(車長、砲手、操縦手)

【開発経緯】
1998年の建国50周年記念パレードに登場して、その存在を内外に示した98式戦車(1999年に99式戦車/ZTZ-99と改称)であったが、その時点で製造された車両は増加試作車というべき状態であり、実用化には尚一層の試験と改良が不可欠であった。

99式戦車の開発では砲塔正面装甲の防御力としてRHA(圧延均質鋼板)値で700mmの防御性能が求められていたが、実際には480mm(対APFSDS弾)/550mm(対HEAT弾)に留まった。中国軍では将来の対戦車兵器の能力向上を踏まえて、より一層の防御力強化を開発陣に要求した。試作車の運用試験では、51tという車体重量は中国の道路インフラでの運用で支障を来たす事が少なくない点や、射撃統制装置や暗視装置の信頼性の改善なども解決すべき目標として指摘された。

上記の問題点を解消するため、99式戦車の低率生産を続けながら、爆発反応装甲(ERA)の装備による防御能力の強化や、機関出力の増加、改良型の赤外線暗視装置の搭載などを行った99式戦車の能力向上型の開発が行われる事となった。この改良型は2000年に開発を終了し、99式改(99G式)戦車として制式化、2001年にNORINCOがその存在を公表した。99G式戦車の制式名称についてはZTZ-99のままであるが、外国では当初98G式戦車と呼ばれ、ZTZ-99の改良型として「99A式/ZTZ-99A」という名称で呼ばれる事もある。

【改良点】
99G式は防御能力向上のため、砲塔前部にドイツのレオパルド2A6のような楔型の増加装甲が取り付けられており、外見上の顕著な特徴となっている。試作車両では砲塔前方の付加装甲が一体型になった車両も存在するが、量産型では<字型の取り付けラックに複数の爆発反応装甲をボルト止めした構造を採用している。この他、車体前面と砲塔側面の籠状ラックにも爆発反応装甲が装着されHEAT弾への防御能力を向上させている。車体や砲塔各部に装着された増加装甲は、山西省の中北大学で開発されたFY-4/FY-5発反応装甲(FYは反応FanYingの略称)と見られている。FY-4/FY-5は中国第二世代の爆発反応装甲で、HEAT弾と運動エネルギー弾双方に対する防御効果を有しており、対HEAT弾ではRHA換算で400mm以上の防御力を有しているとされる。爆発反応装甲の搭載によって重量が約700kg増加したとのこと。各種の改良を加えた事により、99G式の重量は原型よりも3t増しの54tに達した。車体重量の増加に対応して、搭載エンジンである150HBエンジンもターボチャージによる出力強化(1,200hp→1,500hp)を施した改良型に変更され、重量増加にも拘らず最高速度は80km/にアップしている。

暗視装置に関しては、武漢高徳紅外線技術集団開発がフランスの技術支援の元で開発した第二世代の赤外線暗視装置に換装された。砲手用サイトには、フランス由来のペリスコープ型昼夜兼用システムSAGEM-HL60が採用されており、暗視システムは熱線映像式で目標の有効識別距離は125mm滑空砲の最大有効射程を上回る3,100m、最大探知距離は7,000~9,000mに達し、有視界が100mを切る劣悪な気象条件下でも4,100mの探知距離を確保している。装置の反応性や解析度も99式の暗視装置に比べて大幅に改善されシステム容積は小型化、逆に製造コストは低下している。装置の平均故障間隔は4,000時間。

近年進展している戦場での情報化の流れを受けて、99G式でも戦場情報システムの導入が行われている。これは、衛星航法装置(GPS/GLONSS)、通信システム、観測装置、計算機などによる構成されており、データリンクによる部隊間での情報共有を可能とし、指揮官の戦場情報の掌握度を高め、作戦効率を大幅に改善する効果がある。

攻撃能力の強化に関しては、APFSDS弾の砲口初速の向上(1,720m/s以上)やHEAT弾の貫通性能改善などが実施されている。アクティブ防御システムについては、98式のものを踏襲しているが、最近ではロシアのShtora-1やウクライナのVartaに類似した対戦車ミサイルの誘導撹乱を目的としたJD-3アクティブ防御システムを搭載した車両も確認されている。

【派生型と配備状況】
99式には、増加装甲の装着方式の異なるいくつかのバリエーションが存在する。最近確認されたタイプでは、砲塔の増加装甲の装着形状が変更され、上から見ると砲塔前方に絞り込まれる様になっており、楔形装甲の傾斜角も強められている。砲塔側面の籠状ラックは砲塔後部まで延長され、ラック側面に装着された爆発反応装甲の数も増加。車体前面の爆発反応装甲の形状も若干違うようだ。このタイプの増加装甲の取付け方は、96式戦車の装甲強化型である96G式戦車の装着方法と類似しており、共通の増加装甲を採用したことが推測される。

99G式の生産は2000年から開始され、2001年中に約40輌が配備された。一輌約190万ドル(99式。各種改良が施された99G式はさらに高額であろう。)と高価なため生産数はそれほど多くはない。総生産数に関しては公式の発表はなされていないが、西側の推計だと年間20両前後のペースで量産が行われており[8]、2009年段階で200輌程度[9]、2012年段階では500輌(98/99式合計)[10]が配備されていると推測されている。

99式の生産は内蒙古自治区包頭の第1機械工廠(第617工場。現FIRMACO)で行われており、98式戦車と合わせて約200輌が北京軍区の第38集団軍と瀋陽軍区の第39集団軍に配備されている。配備部隊については以下の通り。
第38集団軍 装甲第6師 装甲第24団(注:連隊に相当)ZTZ-99
第38集団軍 機械化歩兵第112師 装甲団ZTZ-99A
第39集団軍 装甲第3師 装甲第9団ZTZ-99A
第39集団軍 機械化歩兵第116師 装甲団ZTZ-99A
参照:[2][5][9]。ZTZ-99/ZTZ-99Aの名称は[5]に寄る。
2013年4月には、蘭州軍区の部隊への99G式の配備が確認されている[11]。

【総括】
99/99G式戦車は、21世紀の中国戦車部隊の中核を担う車両として開発された。しかし、最大の仮想敵であったソ連の脅威が冷戦の終了により消滅した事で、配備のインセンティブは大幅に減少した。1990年代以降の中国軍の装備調達方針は海軍と空軍の装備に重点的に投資される傾向を強めていく事となり、99式戦車の開発も数年間の遅延をもたらす事となり、車両単価の高い99/99G式の配備が低調な要因にもなっている。

ただし、99/99G式の配備が低調な原因は99/99G式自体にも存在する。99G式は、中国軍の戦車としては最も先進的で高い戦闘力を有する戦車であるが、その54tという車体重量は中国の道路インフラにおける運用限界に近い重量であり、山岳部の多い東南、西南地域では運用に大きな支障を来たす可能性がある。そのため、99/99G式が配備されているのは、平地が多く道路インフラの充実している北京軍区と瀋陽軍区の一部の部隊に限定されている。

99式をベースとする限り、この重量問題の解決は困難なため、現在中国では99G式の懸案である過大な車体重量の軽減を図った新しい次世代戦車の開発を行っている。この次世代戦車では、99G式が達成した攻・防・速の各項目での一層の性能向上を目指すと共に、シャーシを小型化して軽量化を目指しているとの事[8]。

▼99式戦車の操縦シミュレーター訓練と冬季射撃訓練動画


【参考資料】
[1]月刊グランドパワー2004年9月号「中国戦車開発史(4)」(古是三春/ガリレオ出版)
[2]「Military Power of the People’s Republic of China 2008」(アメリカ国防総省/2008年3月3日)
[3]中国尖端武器-新科技 2006年第8期(新疆現代科技研究会)
[4]中華網「央視曝99坦克火控系統射程惊人」
[5]中華網「壮観!瀋陽軍区99式主戦坦克団成軍了」
[6]紅狐狸軍事天地
[7]Chinese Defence Today
[8]MDC軍武狂人夢「99式/99式改/0910主力戦車」
[9]「Military Power of the People’s Republic of China 2009」(アメリカ国防総省/2009年) 50頁
[10]Anthony H. Cordesman and Nicholas S. Yarosh「CHINESE MILITARY MODERNIZATION AND FORCE DEVELOPMENT」(2012年7月13日)86頁
[11]新浪網「兰州军区配新武器:99式主战坦克新型步战车均大量服役」

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