2014年11月3日月曜日

96式戦車(88C式戦車/WZ-122H/ZTZ-88C)


▼射撃直後の96式戦車 戦車砲に仰角が掛かっているのは自動装填装置の排莢動作のため。


▼96式戦車の生産工程。車体側面の黒い穴は排気口


▼暗視装置を換装し、砲塔と車体前面に付加装甲を装着したアップグレード型。96G式と96A式の二つの名称が伝えられている。3枚目の写真の車両はアクティブ防御装置らしきものを搭載。





▼96G式とは異なるタイプの増加装甲を装着した車両。2、3枚目の写真ではアクティブ防御システムらしきものを装備している。




性能緒元(96式戦車)
重量41.5トン(96G/96A式は42.8トン[6])
全長10.65m
全幅3.3m
全高2.3m
エンジン12150ZLBW 水冷ディーゼル 730hp
 (改良型)8気筒165型もしくは12気筒150型 水冷ディーゼルエンジン 1000hp
最高速度57km/h (1000hpの場合は65km/h)
航続距離400km(外部燃料なし)
潜水深度5m(OPVT潜水渡渉装置使用時)
 2.5m(OPVT無し、短時間)
武装2A46 125mm滑腔砲×1(41-42発)
 砲発射式対戦車ミサイルシステム
 85式12.7mm(W-85)重機関銃×1(500発)
 86式7.62mm機関銃×1(2,250発)
 84式76mm発煙弾発射機×12
装甲車体前面及び砲塔前面が複合装甲
乗員3名(車長、砲手、操縦手)

96式戦車(88C式戦車/WZ-122H/ZTZ-96/ZTZ-88C)は80式戦車に始まる中国第二世代戦車であるWZ-122系戦車シリーズの最後に位置づけられる戦車である。開発元は中国北方工業総公司(NORINCO)。

1980年代末、中国軍は新規開発中の中国第三世代戦車(後の98式戦車)の実用化までにはなお時間を要すること、膨大な量の59式中戦車を次世代戦車で装備改変するにはコスト面から困難が多いことを踏まえ、既に実用化している88式戦車をベースとした比較的安価な新型戦車を開発し、第三世代戦車を補完する戦車として大量生産することを決定した。

96式主戦坦克(ZTZ-96)の名称は、1996年の制式採用の際に与えられた。それまでは88式戦車の発展型として、88C式主戦坦克(ZTZ-88C)と呼称されていた。ただし制式採用後もZTZ-96とZTZ-88Cの名称は双方とも使用され続け、改良型の96A式戦車はZTZ-96AとZTZ-88Dの2つの名称で呼ばれている。軍内部で両方の呼称がどのように処理されているのかは現状では不明である。なお製品番号はWZ-122Hとされ、96式がWZ-122シリーズの戦車であることを表している。

96式の開発は1988年から開始されたと推測される。ただし開発過程に関してはまだ公開された情報は少ない。そのため具体的な開発過程については不明な点が多い。96式の開発で重要な要素となったのが、1980年代末から96式と同じく88式戦車をベースにしてパキスタンと共同開発されていた85-II式戦車(風暴II型/WZ-1227F2)85-IIM式戦車/85-IIAP式戦車(WZ-1228)であった。125mm滑腔砲や自動装填装置、複合装甲の実用化、溶接砲塔など85-IIM式の開発で得られた各種ノウハウは、発展的に96式の開発に取り入れられた。そのため、85-IIM式と96式の外見は極めて類似したものとなった。ただし、85式という先行実証型があったものの各種システムの開発と信頼性の獲得にはかなりの時間を要し、96式として制式化されるのは開発開始から8年後の1996年であった。

96式の戦車砲システムは、次世代戦車の戦車砲に選定されていた125mm滑腔砲とカセトカ自動装填装置を採用することが決定された。ただし125mm滑腔砲については次世代戦車用に開発中のZPT-98式 50口径125mm滑腔砲ではなく、量産体制の整っている2A46 48口径125mm滑腔砲を搭載することとされた。125mm砲弾は分離装薬型で、中国製のAPFSDS弾、HEAT弾、HE-FRAG弾、そして各国で使用されているソ連/ロシア製の各種125mm砲弾の発射が可能。中国製の第一世代APFSDS-T弾は弾芯のL/D比が20:1、砲口初速1,730m/秒、最大射程2,500-3,000m(夜間有効射程は850-1,300m)、射距離2,000mで460mm厚の均質圧延鋼板(RHA)を貫通可能。1990年代後半からはレーザー誘導式の砲発射ミサイルの運用能力を獲得とした。ただし、「漢和防務評論」誌の取材によると、ロシアやウクライナは中国への125mm砲用砲発射式ATM技術の供給は行っていない(100mm砲用のATMシステムは売却している。)としている。「漢和」では、ウクライナから125mm砲用の砲発射式ATMシステムを購入したパキスタン経由で中国にもたらされた可能性を示唆している[1]。125mm砲弾の搭載弾数は42発(41発説もある)で、そのうち22発が車体中央底部のカセトカ自動装填装置に搭載されている。砲弾の発射速度は1分間に6-8発(手動の場合は2発/分)。副武装は新型の85式12.7mm(W-85)重機関銃と86式7.62mm機関銃が採用された。

96式の射撃統制システムは85-IIM式戦車と同じISFCS-212射撃統制システムを引き続き採用。この射撃統制システムは、レーザーレンジファインダーと弾道コンピュータ、環境センサー(気温、風向きなど)、2軸砲安定装置、暗視装置、コントロールパネルなどをリンクさせたものである。ISFCS-212のTLR-2型レーザーレンジファインダーは、200mから3990m(5000mという説もある)の範囲での目標の射程計算が可能であり、測定数値は環境センサーの情報とともに自動的に弾道コンピュータに入力される。目標発見から射撃までの所要時間は、停止状態で静目標に対しては5秒、停車状態で動目標に対しては7秒、走行状態で動目標に対しては10秒を要する[5]。システムの自動化が進んだことで低速での行進間射撃(時速25km/h以内)も可能となった。射撃統制システムは車長用照準機にも連動しており、車長によるオーバーライドが可能。中国ではISFCS-212は西側第三世代戦車の射撃統制システムには遜色があるが、現代戦に対応可能な水準は達成していると見なしているとのこと。夜間暗視装置は中国製の第二世代微光増幅式パッシブ式暗視装置を採用しているが、98式戦車の熱線映像式暗視装置に比べると能力的には劣る。最近存在が確認された改良型の96G式戦車では、暗視装置を微光増幅式から第二世代の熱線映像式に換装し、96式に比べて夜間における探知距離を大幅に延伸することに成功した。

96式の車体・砲塔は溶接鋼板で製作され、車体前面と砲塔前部に複合装甲ブロックを装着。複合装甲ブロックはモジュール化され容易に換装が可能。防御力は車体正面がRHA値で350mm/500mm(対APFSDS/対HEAT)、砲塔正面で380mm/600mm(対APFSDS/対HEAT)とされ、各国の第3世代戦車に比べると遜色がある[5]。砲塔後半部分の籠型ラック、砲塔両側面の84式76mm発煙弾発射機(12基)、車体側面へのゴム製波型サイドスカートの装着なども85-IIM式を踏襲している。必要に応じて車体前面や砲塔各部へのFY系列双防反応装甲(ERA)の装着が可能。被弾時の二次爆発防止用には自動消火装置が設置されている。間接防御として、車体の迷彩塗料には、対赤外線、ミリ波レーダー対策が施されている。また車体右部後方の2つの排気口には燃料吹き付け式の煙幕発生装置が装備されており、84式76mm発煙弾発射機と共に煙幕を発生させて敵の照準を妨害する役割を果たす。

エンジンは85-IIM式と同じ12150ZLBW 水冷ディーゼル(730hp)が採用された。出力/重量比は17.8hp/t、路上最高速度は57km/h、停止状態から32kmへの加速には14秒を要する。改良型では8気筒165型もしくは12気筒150型水冷ディーゼル(1000hp)に換装され、出力/重量比が23.5hp/tに改善され路上最高速度は65km/hに向上している。変速機は油圧/機械式クラッチ(前進5段/後進1段)が採用。操縦方式は85-IIM式のハンドル式から油圧式パワーステアリング付きレバー方式に変更された。85-IIM式との大きな違いは動力部のパワーパック化である。これによって整備性は大幅に向上し、約40分で動力部の換装が可能となった。動力部にはエンジンのほかに発電用のAPU(13hp)が装備されている。車体後部には200L入りの補助燃料タンク×2を搭載し、行動距離を延伸することが出来る。

96式は、中国では「準第三世代戦車」と見なされており、功防速のスペックではT-72に相当する能力を有しているとされる。ただし西側第三世代戦車に対してはスペック面で劣るだけでなく、通信装置や射撃統制システム、動力部などの技術的水準、信頼性、工作水準、整備の容易さにおいて、なお差が有ると評価されている。車両自体の性能とは別に、既存の技術で手堅くまとめた96式は中国軍にとっては高価で配備の進まない98/99式戦車を数的に補完するための貴重な存在になった。また、98/99式戦車の50トンを超える重量は、中国のインフラで運用できる限界に近い規模であり通行困難な箇所も多々存在する。しかし41.5トンの96式であれば、59式戦車用の輸送車両で輸送可能であり、中国のほぼ全ての地域、既存のインフラ上での行動が可能である点も高く評価されている。

96式は1997年から中国陸軍への配備が開始され、2005年以降は改良型の96G式(もしくは96A式)に生産が移行。西側の推計では2007年までに約1,500から1,800両が生産されたと見られている[3](生産数は諸説あり、Military Balance2007では1300輌[2]、Jane's Armour and Artillery 2006-2007では600輌という数字が提示されている[4]。 )。

【2008年5月18日追記】
「漢和防務評論」2008年3月号の記事によると、中国はタイに96式を「T-96T型」の名称で売り込んでいたが、契約は不成立に終わったとのこと。タイ陸軍は、1980年代中国から69IIS式85式装甲兵員輸送車を輸入したが、部品価格が高く、しかも供給も円滑に行われなかった経験を有しており、これが契約不成立の大きな要因となった。

 制式名称製品番号 
96式ZTZ-96/ZTZ-88CWZ-122H最初の生産型
96A式ZTZ-96A/ZTZ-88D 96式の改良型。詳細は不明
96式T  タイに提案された輸出型。砲弾搭載数は40発、12150ZLBWディーゼル(730hp)搭載。採用されず。
96G/96A式ZTZ-96G/ZTZ-96A 96式の改良型。Gは改の略。96A式の名称も使用される。砲塔と車体前面に99G式戦車と類似した爆発反応装甲を装着。砲塔後部の装具ラックにも爆発反応装甲が装備されている。暗視装置は中国第2世代の熱線映像式に換装され、それによって砲手用サイトも大型化している
VT-2  96A式をベースとした輸出向け戦車[7]。85-IIM式戦車に96A式の技術をフィードバックした戦車との説も有る[3]。ユーザーの要望を考慮して4種類のバリエーションが存在する[3](具体的な性能については85-IIM式戦車の項を参照されたし)。
新型戦車橋  96式の車体に戦車橋を搭載した車両。詳細は不明

【参考資料】
漢和防務評論2008年3月号「泰国陸軍不需要中国制坦克」
漢和防務評論2009年1月号「中国烏克蘭巨大的武器維修市場」(平可夫/漢和防務評論)[1]
漢和防務評論2009年6月号「中国出口96型主戦坦克」[5]
Jane's Armour and Artillery 2006-2007 (Jane's Information Group)[4]
Military Balance2007(Christopher Langton著/Routledge出版/2007年1月25日)[2]
月刊グランドパワー 2004年8月号「中国戦車開発史(3)」(古是三春/ガリレオ出版)

Jane's Defence Weekly
Global Security「Type 96 / Type 88C Main Battle Tank ZTZ-96」
Chinese Defence Today「ZTZ96 (Type 96) Main Battle Tank」
China Military Power Mashup「42.8 tonnes! It is the precise weight of Type 96A Main Battle Tank.」(2009年9月8日)[6]
戦車研究所「85-II式戦車/88C式戦車」
軍武狂人夢「85/96式主力戦車」[3]
坦克與装甲車両「88C式中型坦克」
中国武器大全「中国坦克族譜」
環球展望「中国坦克専家談”外貿”坦克発展」「中国96式主戦坦克」
中華網軍事「図庫資料 武器装備庫」
TOM論壇「陸軍新鋭:中国96式主戦坦克」
兵器装備区「中国88C式主戦坦克」
Army Recognition「The Chinese Defence Company NORINCO unveils new main battle tank VT2 at DSA 2012」(2012年4月18日)[7]

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