▼「0910工程」のテストベッド車輌と思われる車輌。新型シャーシに98/99式戦車の砲塔を搭載している。
▼2007年に公開された試作車両の写真。上の車輌よりも砲塔が大型化しており、新型の爆発反応装甲を砲塔上面まで装着しているのが分かる。
▼トランスポーターで輸送中の写真。車体後部の形状が確認できる。
▼新型戦車の射撃試験の写真。99式に比べて大型化した砲塔の様子が伺える。
▼99式戦車の車体に「0910工程」の砲塔を搭載した車輌。砲塔システムのテストベッド車輌か?
「0910工程」の開発名称が付与されている現在開発中の中国最新の戦車。その存在が明らかにされたのは、2007年7月に開催された人民解放軍建軍80周年記念展示会で展示された一枚の写真であった。西側の一部のメディアでは、この新型戦車を99式の改良型として、「99A2式」の名称で呼んでいる所もあるが、現時点ではこの車両の生産代号及び制式名称は不明。以下の文章では「新型戦車」の名称を使用する。
【開発経緯】
99/99G式戦車は、攻・防・速の各項目において良好なスペックを得ることに成功したが、インフラの限界に近い54tの重量、動力区画のコンパクト化の必要性、超信地旋回の出来ない従来型の機械式変速装置など多くの解決すべき課題も指摘されていた[3]。
開発陣が注目したのは、1990年代にパキスタンと共同開発した90-II式戦車(MBT-2000/アル・ハーリド)であった。90-II式/アル・ハーリドは、極めてコンパクトなウクライナ製の6TD-IIディーゼルエンジンを搭載した事で、動力部の容積を最小限に抑える事に成功しており、車体長は6.487mと99式(7.3m)より1m近く短くする事に成功していた。また、全自動変速装置を搭載しており、中国製戦車としては唯一超信地旋回が可能であった。新型戦車の開発陣は、この90-II式/アル・ハーリドの車体に99式戦車の砲塔を搭載する事で、99式の攻撃・防御能力を維持しつつ全備重量を50t以内に抑えた新型戦車のベースとする事が出来ると考えた[3]。この実証車輌として製作されたと思われる90-II式系列のシャーシに98/99式戦車の砲塔を搭載した戦車の写真が何枚か確認されている。
2007年に初公開された写真では、90-II式系列の車体に爆発反応装甲を装着した大形砲塔を搭載した戦車としてその姿を明らかにした。その後、各地での実施試験の写真も次第に公開されているが、こちらの車両では2007年の写真では見られなかった装備が追加されており、実用化に向けた改良が進んでいることを推測させる。
【性能について】
新型戦車に関する情報は現時点では少なく、その実態については不明な点が多い。以下の記述は現時点で判明した点のみを記載する。
前述した通り、新型戦車は、90-II式戦車系列のシャーシを採用しているため、車体長は99式戦車に比べてかなり短縮されている。ただし、90-II式とまったく同じシャーシではなく動力部を中心として変更も見られる。新型戦車に搭載されるエンジンに関しては、詳細は不明であるが出力1,500hpの新型エンジンであるとの情報がある。車体後部にはエンジングリルが配置されており、動力部の構造は99/99G式とは大きく変更されていることを窺わせる。エンジンは車体長短縮のため横置きとされ、変速機などとあわせてパワーパック化が行われている。変速装置は全自動式で、超信地旋回も可能。
砲塔には新型の爆発反応装甲が搭載されたため、その外観は99G式とはかなり異なっている。装着された分厚い爆発反応装甲はHEAT弾だけでなく運動エネルギー弾に対する防御能力も兼ね備えており、特に爆発反応装甲に対する貫通能力の高いタンデム式成形炸薬弾に対する抗堪性を強化したのが特徴である。運動エネルギー弾に対する防御要求は、韓国のXK-2戦車の55口径120mm滑腔砲から発射されるAPFSDS弾に対する防御能力の獲得が目標とされたとのこと[4]。車体下部の装甲も強化され、対戦車地雷に対する防御能力を向上させている。99G式ではアクティブ防御システムが搭載されていたが、新型戦車でも中国製の新たなアクティブ/パッシブ防御システムが採用される予定。
戦車砲については試製車両では125mm滑腔砲を搭載しているとされる。99G式戦車の戦車砲と口径は同じだが、砲身中部に位置する同軸排煙装置の位置が変化しており、砲身長が変更されている可能性もある。(将来的にはより強力な砲に換装される見方もあるが現時点では確証は得られていない。)砲塔上の対空機関銃は、99式の85式12.7mm重機関銃に替わってより大口径の02式14.5mm重機関銃(QJG-02)に換装されている。
新型戦車の開発で軽量化と共に特に重視されたのが電子装備に関する改良項目である。射撃統制システムは99G式のものをベースに改良を加えて、反応速度の向上とシステムの自動化を進めている。航法装置や夜間暗視装置も改良が行われると共に、本格的な車輌間情報システム(IVIS:Inter-Vehicular Information System)を搭載し、各車両間で車両の位置や目標情報などを共有し、車輌間情報システムを装備する別部隊とのデータリンクも可能となった。ただし、このシステムは単体ではあまり意味が無く、部隊全体での情報化が前提となるため、その能力を十全に発揮するには軍内における情報インフラ整備が不可欠になる。1990年代以降、中国軍では軍の機械化と情報化を近代化の二本柱としているが、西側先進国の軍隊と比べると軍の情報化は道半ばといった状態にある。新型戦車が車両間情報システムを採用したことは、今後の中国軍の情報化の進展と合わせて今後注視する必要のあるポイントではないかと思われる。
新型戦車は、既に試作車両が製作され各種試験が実施されているのが確認されている。2009年10月1日の中華人民共和国建国60周年記念軍事パレードで一般に公開されるのではないかとの憶測もあったが、当日の式典ではその姿は確認されなかった[5]。2011年には、複数の新型戦車が鉄道輸送されているのが撮影されており[6]、既に部隊配備に向けた量産段階に入っているのではないかとの推測も成されている[3]。
新型戦車に関する情報はまだ乏しく、この車両の詳しい性能や開発経緯、さらには今後どの程度配備されるのかといった点について現状では判断するのは難しい。
【参考資料】
[1]Jane's Defence News「China trials enhanced Type 99 MBT」(Jonathan Weng/2007年8月24日)
[2]StrategyPage.com「Chinese Type 99A2 Arrives」(2007年8月27日)
[3]MDC軍武狂人夢「99式/99式改/0910主力戦車」
[4]中華網「外刊:中国99A2坦克可洞穿所有三代坦克」(原載「兵工科技」誌2007年12月号/2007年12月6日)
[5]YouTube「China's 60th National Day parade 中華人民共和国60周年国慶閲兵 PT2」(2009年10月1日)
[6]新浪网「太猛了:解放军的99大改主战坦克也批量生产」(2011年7月11日)
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